1-4.姫と姫騎士
唐突だが、皆さんはユッセ城というフランスの城を見たことあるだろうか?
かの有名な、「眠れる森の美女」のモデルとされる城である。
川の畔に立ち、その雄大な姿から現代でも人気の観光名所である。
そして、同じくフランスのシュノンソー城という城をご存知だろうか?
かの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」が余生を過ごした城として有名な城だ。
川に架かるアーチ上の橋、そして水面に移る城の美しさで有名な観光名所である。
その城を縮尺変更して合体させたような城が今、目の前にある。
湖に架かるアーチ。天を突かんばかりの尖塔。湖はその城を映えさせるかのごとく水を蓄え、城がある小島には針葉樹林の林がある。
背後には山脈がそびえ、雲は天高く蒼を白に染めている。
絶句。まさに絶句。
絶景百選なんて目じゃない光景がそこにはあった。
「すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
思わず目をむいてしまった。
今日、何度目かの絶叫。
もう喉がカラカラだよ。
いや、もう何だよこれ。
予想よりすごかった。
外壁には外敵への備えだろうか、いくつかの塔が備えられている。
円柱の塔や角柱の塔があり、その上には四角い部屋が備えられており、地面に面する方向に穴が開いていることから、防衛用の塔であることがうかがえる。
「ただいま戻りました」
姫さんの声とともに、跳ね橋が下りる。
ん?跳ね橋を操作するような人はいなかったようだが。もしかして魔法だろうか。音声認証みたいな。
現代に暮らしていると、音声認証や写真なんてものはありふれていたので、ちょっと残念。魔法ってこんなもんなのか。特殊な機器無しで出来るのはすごいと思うけど。
そういえば発展した科学は魔法と見分けがつかないっていってる作品があったような気がする。
まぁいいや。それより今は城だ城。さぁ、中身はどうなってんのかなぁ~。
跳ね橋を進んでいく馬車。
徐々に城の扉に近づいていき、またも自動で扉が開く。
馬車が扉に到達するころには扉は開ききり、馬車は止まることなく扉を通過していく。
扉を通過すると、中庭…たぶんインナーベリーにあたるところだろうか…、があり、そこからさらに幾度かの扉…、いや門を潜り抜けていく。
そして城の前で馬車が止まる。
うん。やっぱりでかい。
すっげぇ城だ。とんでもないお姫様だったんだなこの子。
色仕掛けとかいってごめんなさい。
「お帰りなさいませ。シャルロッテ様」
ずらっと並んだ執事服やメイド服たち。
「ご苦労様。皆さん」
抱きかかえた俺をメイドたちに突き出す姫さん。
「こちらは、今日から家族になるアレクシスさんです。皆さん仲良くしてあげてください!」
「あ、よろしくお願いします」
まぁ、挨拶したところで俺の声はニャーとしか聞こえないんだろ?うん、わかってた。
どうせ飼うなら、きちんと飼ってね。途中で放り出したりしないように。
おや、またなんか力が抜ける感覚が…。
あれ?執事さん達やメイドさん達がボーっとしてる。
またこれか。
「あの?皆さん?」
「…失礼いたしました。お部屋のご準備をいたします。イリア、頼むよ」
「かしこまりました」
執事服の指示を受けたメイドが恭しく礼をして下がる。
なに?部屋用意してくれるの?
あ、自分4畳半でも十分生活できるのでお構いなく。
借りてた部屋も6畳の1Kだったし、ましてや今は猫の姿。
仮に荷物があったとしても2畳くらいで十分だろう。
「…ところで、マリアはどこに?」
「はい。マリアゲルテ様でしたら、おそらく訓練場のほうにいらっしゃるとおもいます」
「またですか…」
げんなりする姫さん。
「いいかげん、マリアにも勉学というものを考えてほしいのですが…」
「マリアゲルテ様ですから」
「そうですね…」
マリアゲルテさん、もしかして脳筋か?訓練場っていってたし、マリアゲルテ様ですから、で通じるって相当なんだろう。
姫さんは執事達に礼を言うと、俺を抱え中庭を抜ける。
少し進むと石造りの建物があった。
建物の向こう側からどっかんどっかん音が聞こえる。
それに混じって剣戟のような音もしている。
するといきなり、訓練場の建物の向こう側で爆発があった。
「はぁ…」
ため息をつく姫さん。
そしてそのまま訓練場に入っていく。
え、いや、そこに入るの?あぶないよ?
扉を開けた瞬間、何かが俺と姫さんの横を通過し、壁に激突した。
「ぐはぁぁぁ!」
あ、これ人間だ。
飛んできた人はぐったりとしている。
なぜ安全なはずの城内でなぜ人が飛んでくるのか。
その理由はすぐにわかった。
訓練場の中央、危なくないようにか天井がない。そこに一人の少女がいた。
白銀の甲冑、右手に剣を持ち、左手にはまるで魔法を使いましたよといわんばかりにエフェクトが走っていた。
「姉様!」
あ、向こうもこっちに気づいた。
でも姫さんこめかみピクピクしてる。
これはかみなりが落ちるな。
「マリア……あなた……」
姫さんが俺を降ろす。
「いい加減にしなさい!!!」
「ヒィ!?」
ほらね。かみなりが落ちた。
「マリア。あなたの立場上、危険なことをするなとを言いませんが、もう少し慎みというものを…」
「ごめんなさい」
マリアと呼ばれた少女が姫さんに説教されている。かれこれ体感で10分ほどになるだろうか?
この世界にも正座ってあるんだな。
それよりも、そろそろその辺にしてあげたらどうだろう。
さすがにかわいそうになってきた。
「姫さん、姫さん。そろそろ開放してあげてはどうですか?」
姫さんの足に擦り寄る。さっきみたいにペチペチしても良いんだけど、腕を肩より上に上げなければならず、猫の体ではやりにくい。
どうせしゃべってもニャーとしか聞こえないだろうし、説教に夢中になってる姫さんに音だけで気づいてもらうのは難しいだろう。
人間、集中してると周りの変化に気づかなくなるからね。
俺もよく仕事中に声が聞こえないほど集中してた。こうなると物理的手段に頼るのが一番手っ取り早い。
そして、いま俺は猫!ペチペチも効果的だがペチペチよりも擦り寄ったほうが確実だろう。
……あっ、これマーキングだわ。
もういいか。とりあえず、俺がついしてしまう、猫的行動は気にしないことにした。こうなったらとりあえずは猫であることに徹しよう。
「とりあえず、のど乾いたんで水もらって良いですか」
今の欲望を素直に言ってみた。
どうせニャーとしか聞こえないからね。
しかし、上を見ると姫さんのスカートの中が見えてしまうため、俺はなんとなく正座させられている少女のほうを見てしまっていた。
すると、またしても力が抜けていくような感覚。
今度は正座少女がボーっとしている。
おいおい。またですか。
この国、大丈夫かよ。ちょっとボーっとする人多すぎない?
仕方ないので正座少女に顎を乗せる。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
正座少女が大きな声を上げる。
手をワキワキするな。触りたいなら触らせてあげるから。
ゴロン。ほら、モフりたいんだろ。かまわんぞ。
あー、そうそう。そこそこ。
もうちょっと弱めに。そうそう。
「か、かわいすぎる…、姉様!この子は?」
「まったく、まだお話は終わってませんよ?この子は今日から家族となるアレクシスさんです」
「…アレクシス…、アレクシスですね!」
マリアゲルテと呼ばれた少女が俺を抱きこむ。
痛い!金属製の胸当てと篭手が痛い!
ちょっと、ストップ!ストップ!
まじめに痛い!
俺は逃れようとじたばた動く。
幸いにして、少しして姫さん…シャルロッテと呼ばれた少女がマリアゲルテを止めてくれた。
「マリア!」
「あ、失礼しました。姉様」
やっと下ろしてくれた。
「…おっほん。では改めまして。私の名はマリアゲルテ。親しいものはマリアと呼びます。このドリス皇国第二皇女で白薔薇騎士団の副団長をしています。よろしくお願いします!」
お、おぅ。
猫に自己紹介してどうするんだこの子。ちょっと…いや、だいぶ頭が弱いのかもしれない。そういえば、さっきいい加減に~みたいな事いってたな。もしかしていつも怒られているのか?
そんなことを考えていると、兵士の一人が水を薄めの皿にいれて持ってきてくれた。おっ、ありがとう。
しかしよく考えたらどうやって飲めばいいんだろうと思っていたら、なんとなく自然に飲むことが出来た。便利だな異世界転移。
そういえば、水を持ってきてくれたのは先ほど吹っ飛ばされていた男だ。
説教中はマリアゲルテの後ろに整列してたな。
後、ひとつ思い出したが彼女はシャルロッテと呼ばれた少女を姉様と呼んだ。
つまりおそらくこの姫様はドリス皇国とやらの第一皇女なのだろう。
「そうでした。アレク。私も自己紹介しておきますね。私の名前はシャルロッテ。ドリス皇国第一皇女をしております。以後、よろしくお願いしますね」
この姉にしてこの妹あり。
二人ともやっぱりどこか抜けていると思う。
「さて、マリア。私はお父様のところにいってきますね。きちんとお勉強もするように!」
「う…ハイ、オネエサマ…」
勉強苦手なんだな。マリアさん。
そしてシャルロッテさんには逆らえないんだな。
ご愁傷様だ。だが勉強は大事なのでがんばってほしい。
「シャルロッテ様、お勉強のお時間です」
「はぁ…」
シャルロッテさん、やはりマリアさんの姉妹であった。
8/26 23:00頃追記
次話書き終えて誤解を起こしそうなところを追記します。
シャルロッテは「お父様のところ~」と言っていますが、会えていません。
多夢和を見つけて構っていたせいで時間切れになっています。
9/1 改稿
一段下げの機能を教えていただいたので、全文改稿いたしました。ありがとうございます。