3-10EX_冒険者ヴィゴーレ・ドミニオ
冒険者ヴィゴーレ・ドミニオの視点です。
俺の名はヴィゴーレ。ヴィゴーレ・ドミニオ。
ドリス皇国で冒険者をやっている。
あまり口数は多い方ではないからか、大人にも子供にもやたらめったら怖がられる。
少しだけ、顔が怖い自覚はあるが、別段怒っているわけではないのだが。
せめて、自分の子供には好かれてみたいものだ。
父はドミニオ公爵領を治めているルディオ・ドミニオ。
その長男として生を受けた。
公爵の長男ではあるが、家の方針で冒険者になった。
まぁ、そのままズルズルと冒険者という沼に沈んでしまった。
正直、公爵を継がなければいけない立場だが、公爵の地位を継ぐくらいなら、このまま冒険者として死んでしまいたいと思ってすらいる。
俺は俺の立ち上げた『黒鉄の騎士』のリーダーとして天災級まで登り詰めた。
天災級とは、所謂、勇者や英雄と呼ばれる人間と肩を並べられたということだ。
あぁ、断っておくが、天災級になったからと言って単独で天災級を討伐できるような力はないからな。はっきり言ってあれは1000人規模の軍ともいえる数の人間が必要だ。そのうちのほとんどは死んでしまう覚悟でな。
実際のところ俺たちのパーティーは名誉にはあまり興味はないんだがな。
ガルアーノ公爵のところの長男のように名誉だ、権力だばかりこだわるような人間にはなりたくないものだ。
初めは俺の親友と二人で始めたパーティーだったが、今では12人という人数になってしまった。全員が最低でも戦争級の資格を持っている。
その中でも個人で天災級に達している人間は5人。
まずは俺、ヴィゴーレ。
自分でいうのもおかしな話だが、両手剣を使ったパワーファイターだ。
ギルドからは『黒剣』とかいう二つ名をもらったが、二つ名なんてなんでもいい。
次が『黒槍』のフィリオ。
俺の親友で、もうかれこれ30年の付き合いになる。うちのパーティーの頭脳で、こいつがいなけりゃうちのパーティーは経営できない。
次は『黒狩』のロティ。
弓を使う、俺たちの感知担当。
俺のパーティーでは最も古参の人間だ。
元は俺の監視役に送られてきたメイドで、確か出身はフォロー男爵の三女だった気がする。
まぁ、監視役として送られてそのまま夜を伴にするようになった女だ。
次が『黒炎』のテルミス。
俺たちが戦争級に上がったときに仲間になった女魔族だ。
魔族の中でもハルマー族という魔法を得意とする種族で、独特の魔術方式と高い魔術特性で、大火力の火魔法を得意としている。
敵の牢に捕らえられていた時は今にも死にそうだったくせにな。
最近はフィリオとやたら仲がいい。
最後は『黒蹄』のバルクス。
なんだが、正直こいつは自由奔放でな。今はどこにいるのかわからん。
だが、大きな依頼では必ず駆けつけてくれる。
頼もしいフィルボルだ。
フィルボルなんだが、フィルボルにしては珍しくそれなりに身長があり、格闘術を使う。
ほかの種族に比べて身長も低く、筋肉も付きにくいフィルボルでは少し不利かとも思うが、本人は全く意に介していない。その力は皇国の森に住むオウガ族やもしかしたらラグナール族の戦士にも匹敵するかもしれない。
ちなみに偽名だ。本名はヤヤ・ガガ。偽名の理由は……忘れた。
この国では、俺たちより強い人間なんて片手で足りるほどしかいない。
いや、世界にも数えられるほどしかいないだろう。
これは驕りではなく事実だ。
皇族付き公爵のセ・バスティアン・オーランド。
同じく皇族付き幹部執事のドラディオ・ガーベラ。
死んでしまったらしいが東の覇王、ノブナガという男。
北の帝国の皇帝、オクタビアヌス・ドルエス・オーグマ・ユリティス一世。
南の蛮勇、『戦場の主人』の誉れ高い名も知らぬ武人。
俺が出会った中で俺より確実に強いと思っている人間はこのくらいだ。
もちろん隠れた雄がいる可能性もある。油断はせず、己を高めていきたいものだ。
そんな俺たちが、どういうわけか皇都で行う依頼を受けることとなった。
なんでも、皇都で西アレイシア地方冒険者相互協力組合、長いから西アレイシア地方ギルドとか、西地方ギルドとか言われているギルドだが、ここに不正を働いている職員がいるそうだ。その証拠集めの依頼が俺たちに回ってきた。
公都で世話になったギルド職員からの依頼だったので仕方がない。
ついでにゲオルのじぃさんに俺の剣を研いでもらっておこう。
7つ離れた弟が皇都で冒険者をやっていたな。あいつの顔も見ておくか。
協力させてもいいな。
「仔細は任せる」
そう言うと、フィリオから槍の柄で小突かれた。
足の小指を思いっきり。
痛い。
俺のステータスでも痛いものは痛い。
フィリオとロティは俺に容赦はない。
この間なんて顎鬚を槍で剃られた。
お前の槍、魔槍じゃなかったか?
確か魔力を通すことで錆びず、刃こぼれせず、切れば切るほど切れ味が上がっていく代物だった気がするが。
まぁいいか。
公都から皇都へは、馬車でおよそ2週間の旅だった。
まぁ、俺たちは魔獣を蹴散らしながら行けるし、俺の愛馬でもあるこいつは、強行軍には慣れている。三日三晩走りぬいても少し休めばすぐ走れるようになる。さすがに今回の依頼ではそこまでのことはしないが。
普通にいけばどのくらいかかるかなんて知らん。
俺はこの馬車で結構な地域を回ってきたから、もうこの速度に慣れてしまった。
商人たちが恨めしそうにこっちを見ているが、別段気にかけてやる必要もない。
皇都についてすぐ弟に会った。
いっちょ前に冒険者をやれているようだ。
もうすぐ災害級だと言っていた。
流石はドミニオ公爵家の人間だ。
こいつにも、公爵家の血が流れていたようだ。
稽古代わりに一戦するかと聞いたら、そんな自殺行為はしないと断られた。
人をドラゴンか何かみたいに言うな。
だが、断らせた代わりに、協力を取り付けることができた。
ギルドで近々、ひと悶着起こしてくれるそうだ。
なんでも、最近はシャトワの町やを中心に依頼を受けていたそうで、ここに戻ってくるのも久しぶりだそうだ。
ここへ戻ってきたのは人材補強のため、さすがにメンバーが二人では限界が近いようだ。
後輩を鍛えてものにするつもりなのだろう。
まぁ、上への目指し方は人それぞれだ。
応援だけはしてやる。好きにするといい。
「支援してあげないの?」
ロティがそう問いかけてきたが、必要ないだろう。
あいつらは自分のことは自分で責任を持てる大人だ。
俺がどうこう口を出すことじゃない。
「あら、優しいのね」
ロティが妙に腕を絡めてくる。
今日の夜は楽しめそうだ。
ゲオルのじぃさんのところに寄って剣を研いでもらった後で、ギルドに向かう。
途中で国民に囲まれてしまった。適当にあしらってギルドに行くとすでに弟は依頼を受けて出立してしまったようだ。
まぁいい。どうせここにも俺の求める依頼はない。
数日待たせてもらおう。
「どういうことだよ!」
昔手に入れた愛用の重石代わりの鉄の塊を持ち上げ筋力トレーニングをしていると弟の怒鳴る声が聞こえた。
どうやらうまくやったようだ。
西地方ギルドの受付、ナーデ・ヤーネンとか言ったか。こいつをうまく焚きつけられたようだ。
ここからは俺の仕事だ。
ナーデ・ヤーネンとかいう小物の襟をつかんで投げ飛ばしてやる。
「西アレイシア地方冒険者相互協力組合所属、一等受付職ナーデ・ヤーネン。冒険者相互協力組合の依頼により、貴様の調査を行うこととなっている。調査内容は横領および搾取。貴様を拘束し、数日後に公都にある冒険者相互協力組合に引き渡すこととなっている。今日から自宅待機、監禁になる。身辺整理をしておけ」
長いセリフは疲れる。あらかじめ考えておいてよかった。
そのうえで罪状を述べてやると、奴は顔を青くして、逃げ出した。
面倒な。
「ちっ。おい、ロティ」
「わかってる」
俺の意図を組んでロティが弓を番えた。
足の一本でも射貫けば逃げられまい。
そう思った瞬間、ナーデからとてつもない気配がして、俺は身震いした。
なんだ?今のは?
まるで災害級やドラゴンたちと対峙したような感覚だった。
気づけばナーデは倒れ、痙攣を始めている。
何人ものギルド職員が動く中、俺はその感覚で、……いや正直に言おう、恐怖で動けなくなっていた。
まぁ、一瞬だけだったけどな。
気づくと、ナーデの近くのテーブルには一匹の魔獣がいた。
奴がやったのか?
まだ呆けている弟に一声かける。
そういえば、あれが近かった。
俺たちの親父や、ほかの公爵たちは、皇国に反旗を翻すことを決定事項としていた。
俺にも参陣の要請が来ていたが……。
武人として生き、武人として死ぬ。
実に父らしい生き方ではあるが、傾いた皇国の将来より俺は俺の身近な人間……フィリオやロティのほうが重要だ。
公爵たちの反乱は失敗したらしい。
今頃、親父たちは戦々恐々としていることだろう。
俺のもとに来た兵士には素直に従っておく。
俺はパーティーメンバーに手を振って、宿に待機させ、王城へと歩みを進めた。
あっさりと、返してもらえた。
容疑とはいっても、親の起こしたものは俺達にまで言及されないらしい。
我らの皇女は甘いことだ。
しかし、謹慎は言い渡された。
まぁ、数日の辛抱だがな。
面白いことになった。
謹慎中だが、パーティーメンバーと面会することはできた。
軽く事情を説明して必要があれば解散するように伝えた。
だが、だれも皇都を離れる気はないようだ。
まったく、物好きなことだ。
謹慎中に暇だったので皇女が主催するという、流浪のエルフと皇女のペットの魔物の決闘を見学することにした。
これは驚いた。あれはナーデの時にギルドにいた魔物によく似ている。
あれは皇女のペットだったのか。
弟が向こうの席で困惑している様子がうかがえる。
お前もアレを知っていたのか。
どうでもいいが皇女が醜態をさらしているが、謁見したときの支配者然とした姿はどこへ行ったんだ?まだまだ、彼女も若いということか。
エルフの方はなかなかの強さだ。
もしも冒険者をしていてパーティーを探しているなら俺か弟のパーティーに勧誘してもいいかもしれない。
あいつらも連れて来てやればよかったか。
ん?あの魔物、エルフの魔法を無効化している?
同属性の魔法をぶつけて魔力の支配権を自分の物にしているのか。
なかなかできることではない。
圧倒的な魔力量の違いと適正があって初めてできることだ。
他人の魔法の魔力を奪い取る魔物……。
戦ってみたい。あの魔物に、俺の力はどこまで通用するのだろうか。
唐突に降ってわいた強者の登場に俺は武者震いが止まらなかった。
アレクシスといったか。
皇都での生活もなかなか、退屈せずに済みそうだ。
別視点を挟みたくなったのでサクッと書いてみました。
矛盾はない……はず。