3-9_続vsエルフの侍
「うぅ……、まさか、魔物にゲームで負けるなんて……」
まだへこんでるよ。エルフの妹。
体感でざっと一時間ぐらいへこんでる気がする。
まぁ、ショックよなぁ。
猫にチェス?で負けたんだからなぁ。あ、この世界じゃ魔物だったか。
なんて考えていたら、まぁ予想通り、後ろからいきなりガバッと抱え上げられた。
「すごいです!アレクシスさん!まさか完勝してしまうなんて!」
「ふむ、まさかここまでとは。アレクシス様。感服いたしました」
まぁ、分析スキルのおかげなんだけどね。
にしたってこのスキルレベルEX、強力すぎる。
ちょっとスキルの理解も深めるべきだろう。
今度、分析スキルや鑑定の魔眼でほかのスキルを調べてみよう。
「ちょ、ちょっとお待ちください」
俺の勝利にキャッキャッと喜ぶシャルロッテさんにリヴィアーデさんが声をかける。
「む、なんでしょうか?」
喜びの舞を邪魔されて若干不機嫌なシャルロッテさんが答えた。
「もう一戦、もう一戦お願いします!」
「いいでしょう!何戦でもお相手しましょう!」
ちょっと!?何勝手に答えてるんですかね!?
「ですが何度も同じ勝負というのも味気ないです。なので次はこちらの提示した勝負をしましょう」
「……わかりました。それで、なにで勝負するのでしょう?」
「次の勝負は……実践です!」
は?
俺たちは庭に出た。そこには簡単な試合を行えるようにか観客席のような施設と白線が敷かれていた。
どうやらこの白線の中で試合を行う形式のようだ。
意外と文化的だ。ファンタジー世界だと闘技場と訓練場以外は地面だけの施設かと思っていた。
試合にもルールがあることだろう。
いつの間にかメイドさん達やマリアゲルテさん、果ては公爵の息子の冒険者まで観客席にいるし。
「勝負は武器・魔法・スキルありの一本勝負!相手を場外に出すか、敗けを認めた際、または両ひざを地面につけた時点で勝負ありとみなします!相手を殺してしまうと反則負けの決闘形式で行います!」
シャルロッテさんが高らかに宣言し、勝手に試合が決まってしまった。
どうしよう。すこぶるめんどくさい。
世の中の巻き込まれ型主人公の気持ちがちょっとだけわかった気がする。
彼らはこれを生涯やってのけるのか。ある意味すごい胆力だと思う。
「ですが、試合の前に、アレクシスさんの実力を見てもらうことにしましょう」
ん?シャルロッテさんがなにか言い始めた。俺の実力?そんなもの披露した覚えが……。あ、もしかして反乱軍の時のあれか?あれ?ガッツリ記憶にあったとか?なにも聞いてこないからてっきり記憶に無いのかと思っていた。
「その魔物の実力……ですか?」
「はい!」
シャルロッテさんが笑顔で答えた。
「アレクシスさんは見るもの全てを魅了する必殺技をお持ちなのです!」
ん?ないぞ、そんなもの?
あれ?なんだか嫌な予感がしてきた。
「さぁ!アレクシスさん!」
シャルロッテさんが俺に手を伸ばし、ゴロリと横に倒した。え?マジでなにするの?
そういうとシャルロッテさんの手は俺のアゴへ伸び……。そのまま指で掻き始めた。
ゴーロゴロ。
ちょ、くすぐったい。
思わず、ゴロゴロ声が出てしまった。手足も思わずもぞもぞと動いてしまう。あぁ、これヤバイ。もっと。などとやっていると……
「グハッ!」
シャルロッテさんがいきなりのけぞった。
ビクッゥ!!
ビビった。マジでビビった。
何せ大量の鼻血を流しながら、のけぞったせいでシャルロッテさんは鼻血の噴水とかしているのだ。
そして、唐突にグリンとリヴィアーデさんの方を向くと、
「どうです!!」
と言ってのけた。
なにが?って感じなんだが。ほら、リヴィアーデさんも若干引いてるじゃないか。
さらに驚いたことに、シャルロッテさんはそのまま後ろに倒れてしまった。
あーぁ。血を流した後に急に動いたから……。
シャルロッテさんはそのまま部屋に運ばれてしまった。
「失礼いたしました。シャルロッテ様に代わりここからは私が代理として審判を勤めます」
さすがの冷静さで、そうじぃやさんが言ったが、俺は見逃さなかった。
あんたも鼻血出してたよな。しれっとハンカチで拭いたのみたからな。
「はじめ!」
審判役のじぃやさんが振り上げた腕を振り下ろした。
しまった。まごまごしている間に始まってしまった。
リヴィアーデさんが刀を抜き、目の前に構える。いわゆる正眼ってやつだ。
いや詳しくないから知らんけど。
正直なところ、勝負なんてめんどくさいからしたくないと言うのが本音なんだが。
けど、まぁ、今の実力を見ておくのも悪くないかもしれない。
とりあえず、ヴォルガモアに姿を変えておく。
じぃやさんは知ってるはずだし、この際メイドさんたちにも見せておいた方がいいかもしれないと思った。
彼女の実力がどれ程かはわからないが、ポーションイーター、フライングキャットを除けば、俺が唯一見たことことある姿だからだ。
印象としてはでっかい山猫なんだ。まぁ、サイズはかなり違うけど。
彼女は俺の姿を見た直後、正眼に構えたまま、俺に向かって駆け出した!
それに対応するため、俺は前を見据えたまま、彼女から振り下ろされるであろう刀を迎撃するために前足に力を込めた。
彼女の刀が俺に振り下ろされた瞬間、俺は刀の柄の部分を狙って前足を振り上げる。
正直、刀なんて素手で真っ正面から立ち向かうものではない。
彼女はかなりの速度で攻撃してきたが、俺にとってはなんてことない早さだった。このからだ、普段はあまり人の頃と変わらない位で時間が流れるのだが、集中すると周りの景色がコマ送りのように感じるレベルで遅くなる。
思考速度が速くなってそれに身体がついてきているといった方がいいのか。お陰で手加減もする余裕さえある。
跳ね上げた刀をさっと手放し、リヴィアーデは後ろに跳躍して俺から距離を取り、右手を前に付き出した。
「水よ!奔流となれ!水流激突!」
リヴィアーデの右手から出現した水の渦が一直線に俺へと向かってくる。
おぉ!これが本来の魔法か!
シャルロッテさんのはなんか魔法って言うより音声認識って感じだったからな。
だが、俺もいたいのは嫌だから抵抗させてもらおう。
俺は集中して「水魔法」を発動させる。
イメージとしては水を霧のように霧散させること。水の支配権をこっちに奪ってしまえれば尚良い。
ん~、できた。他人の魔法だからか少し抵抗があったが、無事魔法が発動したようだ。視界が一瞬にして霧でおおわれた。霧というか水蒸気か?
しかし、安心したのもつかの間、リヴィアーデはどうやったのか霧になった直後に俺へと肉薄してきた。
俺は横に跳んで彼女の腕から逃れる。
すると、リヴィアーデは俺の近くに落ちていた自分の刀をとり、再び後ろに跳んで距離を取った。
これが、本物の戦闘か!!
「強いわね。あのエルフ」
「はい、それに冷静に状況を判断しています」
「武器を捨てた時はビックリしたけど、戦いかたに固執せずに柔軟に対応しているわ。参考になる」
「はい。我らに欲しい人材ですな」
「さっきの魔法もすごかったわね。一つの水魔法で攻撃と目眩ましを同時にして更に攻撃のための道まで作るなんて」
「水魔法自体も強力なものでしたが、その後の風魔法で水流を辿って武器を取り戻したのも素晴らしい戦術でした」
「ドラディオ、2つじゃないわ。魔法は3つ使っていた。火魔法で身体強化もしてたわ。ひとつめの詠唱の後に風魔法を詠唱しながら印を切ってた。詠唱自体も短く改変された短縮詠唱だったし、実践で磨いた技じゃないかしら」
「なんと……気づきませんでした。流石のご慧眼ですマリアゲルテ様」
「ありがとう。私も戦ってみたいわ。今の実力がどこまでのものか試してみたい。アレクシスの後に一戦お願いできないかしら?」
「しかし、アレクシス様もお強い。まだ、戦い慣れしていないように見受けられますが、まさかこれほどとは……」
「そうね、あれだけの魔法を全て無力化してまだ、余裕があるみたい。すごいわ。姉様の許可をもらって私とも試合してくれないかしら?」
「……あまり、無茶をされないでください。ご自愛くださいますよう」
「わかってるわ」
外野がうるさいなぁ。
この声はマリアゲルテさんとドラディオか。
わるいが、こっちは相手の魔法をいなすので忙しいんだ。あまり長いこと突っ込みをいれたくない。
にしても、エルフ侍の妹、すっごい強い。
離れれば魔法を放たれ、近づけば刀で切りつけられる。侍の格好をしているが、まるで魔法剣士だ。
今も俺は打ち出される数々の魔法を無力化したり、避けたりしているが、的確にその隙をついてくる。
すごい。
だが、勝負をし始めた以上、俺も負けてやる気はない。
なにかで反撃したいのだが、この前の影魔法と幻影魔法の複合技は被害が大きすぎる。かといって、威圧や恐怖攻撃では周りにも被害が出てしまうかもしれない。どうしたものか。
あれこれ悩んでいると、リヴィアーデが動きを止めた。だが、その目は一部の隙もなく、こちらを観察している。
すると突然、彼女のからだから莫大な魔力を感じた。
ちょ、おい。なんだそれ。勝負を仕掛けようとしているのか?
「いきます!」
彼女がそう叫び、深く腰を落とした。
来る!
「水よ!我が声に答え、力を示せ!激流となり、荒れ狂え!水流乱舞!!」
そういうと、俺の周りに水の竜巻のようなものが発生する。
でかい!?
さっきの渦に比べて一つ一つがめちゃくちゃでかい。
なんだこれ!?
ここは迎撃を……。ってリヴィアーデさんはどこに行ったんだ?げっ!?
竜巻の隙間をぬう様にリヴィアーデさんは俺に突撃してくる。
魔法と武器の同時攻撃か。
「水華流獄陣!!」
所謂必殺技ってやつか。
四方八方から殺気を感じる。
これは……。とんでもないな。
短いけど主人公が戦闘らしい戦闘をしている……。
シャルロッテさんはさらにポンコツに……。
どうしてこうなった。
3/13 ツッコミを頂いたので補足。
シャルロッテには多夢和が助けた時の記憶があります。
それを周りの人間にも話しているため、多夢和がヴォルガモアになっても、特に反応がありませんでした。
魅了および魅了の魔眼の効果もあり、彼の姿を受け入れています。
バロンは骸骨なので別の人が見たら大変なことになるのでこの場にはいません。