3-3.遺物
ゴーロゴロ。
芝生の上で寝転がり、背中を地面に擦り付ける。
あー。気持ちいい。
芝生といっても奇麗に芝生だけがひかれているわけではなく、若干の石とか土がある。
それがいい感じのアクセントになって背中を刺激してくれる。
ゴーロゴロ。
あー、極楽。
え?お前、像を見に行ったんじゃないのかって?
いやぁ、だって行くまで一週間かかるっていうんだもん。
冒険についていってみたい気はするけど、ついていったら確実に怒られる。
そこで俺はある秘策を思いついた。
ドラディオ達が旅立った3日前。
そのドラディオの影に俺の影魔法を潜り込ませた。
全部ではなく、ちょっとだけ。
この影、反乱が起こった後の訓練で確認してみたが、どうやら影がどこにいるか本体側……つまり俺側からは割とはっきりとわかる仕様ようだ。
なので、その影を頼りに、見つけた後にでも拝ませてもらおうというわけだ。
さて肝心の行き方だが、これにもあてはあった。
場所さえわかってしまえば飛んでいこうとも考えたのだが、せっかくなので別の能力を試してみることにした。
候補としては2つ。
一つはワープキャットの「次元移動」
もう一つはディメンジョンデビルというもっともらしい名前の未取得の種族。
取得してみるとディメンジョンデビルの能力は
「転移魔法」
「転送魔法」
「収納魔法」
と、俺の思った通りの能力だった。
なのでこの3日間で魔法が使用できるように訓練した。
まだ、どこまで遠くに行けるかというのは試してないのだが、まぁ仮にそこまで一度で行けなくても空を飛んで真上に転送されるまで繰り返せばいいだろう。
帰りは特に待つ必要もないのでさっさと見るだけ見て帰れば良い。
事前の訓練でこのあたりの魔法は意外と魔力の消費が少ないことも確認した。
……検証時間が足りなかったから、このあたりまでが限界だった。
まぁ、おいおい理解していけばいいだろう。
「なにしてるの?アレクシス?」
寝転がっている俺のもとにマリアゲルテさんが来た。
しゃべっても何も伝わらないのでとりあえず、にゃー、と一鳴きしておいた。
「気持ち良さそうね。私も一緒に休もうかしら」
良いよ。好きにするといい。
マリアゲルテさんと昼寝を楽しんだ。
なお、昼寝の最中、ドラディオに潜ませた影から緊急を伝える思念が送られてきた。
ん?まさかこれって…戦闘中なのか?
そうだ、少し思い立ったことをしてみよう。
俺は影にドラディオから出るように思念を送り、「威圧」を発動した。
問題なく発動したようだ。
便利だな。本当。
これで夜襲とかにも対応出来そうだ。
俺はマリアゲルテさんと再び昼寝を楽しんだ。
なお、マリアゲルテさんは勉強をサボってここに来ていたらしく、その後めちゃくちゃ怒られていたことを補足しておく。
それからさらに3日後、定期連絡のあった日だった。
定期連絡では当たり障りの無いことを話した。
どうやらエルフの方は俺の妹と出会ったらしい。出会ったというか、俺の部屋を訪ねてきたらしい。
どうもひと悶着あったらしいが両親の承諾のもと、今はなんと同棲しているとか。人の妹に手を出したら許さんぞ!
そしてそのすぐあと、ドラディオに潜ませた影から連絡があった。どうやらドラディオ達が目的地付近に着いたようだ。今日はオーガの里に泊まり、明日例の像付近に行くそうだ。にしても会話まで聞けるとか、便利すぎないか?まぁ、俺には都合が良いのだが。
なので明日のために今日は訓練もそこそこに早めに寝ようと思う。
寝過ぎだろ。とか思わないことにした。
念のため、今日はシャルロッテさんとマリアゲルテさんに影を忍ばせておこうと思う。明日向こうにいったときのための対策だ。
そしてその夜。実に悩ましい声を影が送って来たのだが、彼女の名誉の為に詳細は省かせてもらう。
まぁ、うん。年頃だし、仕方ない。
おかげで寝不足になったけどな。
次の日、若干の寝不足を抱えながら、俺は身体を起こした。
大きく口を開けて身体を後ろに伸ばす様にあくびをすると、一気に目が冴えてくる。
ちょっと爪がシーツに引っ掛かったけど、そこはご愛嬌。
メイドさんごめんなさい。
それからいつものように朝食をいただいた。
なんと今日は焼き魚だった!肉は品切かな?
まぁ、味に飢えていた俺としては願ってもないことだった。出来ればローテーションで出してほしいくらいなのでが。
食事を終えると、リリアーノさんが皿を下げてくれる。いつもありがとうございます。言葉では言えないので、目を見て心のなかで呟くと、彼女はにこりと微笑んでくれた。
心の中が伝わったわけではないだろうけど、ちょっと嬉しい。
にしても、朝食を終えた時間になっても影から連絡が来ない。どうしたんだろうか?
とりあえず、外に出て待つことにしたのだが、今度はカテーナさんが来た。
「アレクシス様?どうされたのですか?」
いや、ゴロゴロしてるだけです。
彼女が俺の首のしたに手を伸ばしたので素直にされるがままにしておいた。ゴロゴロって声、この身体なら普通に出るんだ。ちょっとびっくり。
彼女はそれに気をよくしたのかどうかはわからないが、夢中になって俺を撫でまくった。抵抗する気もないのでされるがままにしていたら、カテーナさんの後ろに鬼が見えた。
いや、比喩表現なのだが、シャルロッテさん、マリアゲルテさん、リリアーノさんの三人が凄い笑顔で立っていた。
「カテーナ、貴女……、人には散々言っておきながら…」
「仕事をサボってお遊びとは……、一度鍛え直しましょうか?」
「あんなこと!あんなこと、私だってしたことないのに……!」
……一つ、私欲まみれがあった気がするが、気にしない。
だんだんシャルロッテさんがポンコツ具合が上がってきた気がする。
カテーナさんが涙を流しながら三人につれていかれた後で、ようやく影から連絡があった。
ドラディオさん達が像にたどり着いたようだ。
念のために空にとんで、転移魔法を発動する。
すると魔法陣のようなものが足元から発動した。
そのまま、魔法陣が俺の方にせりあがってくる。
おぉ、これが魔法陣か!!
なんか感動する。
そして一瞬目の前が暗くなったかと思うと、次の瞬間には俺の眼下には、広大な森が広がっていた。
少しビビッて若干後ずさりしてしまったが、その瞬間、俺の背後にあった岩山にぶつかってしまった。
あぶねぇ!!
ちょっとずれたら某ネタみたいになってしまうところだった。
いや、俺のステータスなら金髪超人みたいにできるか?
はぁ!!とかいって吹き飛ばすのは男の子ならだれでも一度は夢見るシチュエーションだろう。
おっと、こんなことしている場合じゃなかった。
はてさて、ドラディオさんたちはどこだろう?
ん?あ、真下か。
ドラディオさんたちが一本の茶色と黒の木のようなものの周りに集まっている。
もしかして、あれが例の像かなぁ。
とりあえず、ドラディオさんのそばに降りよう。
俺はドラディオさんの背後に降り立ち、気配寸断をつかう。
するとドラディオさんが呆然と像を見上げてつぶやいた。
「これは……。どのようにして運びましょうか?」
まぁ、これだけでかいとなぁ。
にしても気になることは……。
この像、俺の感覚が間違ってなければ、現代でも大騒ぎになるものなんだが。
「我々の村ではこの像のことを「神の宿る木の像」として崇めておりました」
なるほど?まぁ、これだけでかいと『それ』とは思わないわな。
俺は現代でアニメや漫画で見ているから、『それ』だと認識できるのだろう。
そう、『それ』は巨大な、とても巨大で錆びてしまっている、『腕』であった。
遅くなって申し訳ありません。
3/13 補足です。
『「神の宿る木」の像』です。
『「神の宿る」木の像』ではありません。