17-5EX.転移者、大賀浪漫 浪漫グループ創設
「と、いう事でそこに書かれた子達とレオーネには独立した組織を任せようと思う。用地の買収に関してはこっちの伝手で何とかする。……最悪、多少の借金はこっちで持つ覚悟はしておいてくれ」
「わかりました。まぁ、このメンバーでしたら問題ないでしょう。とりあえず、第一弾はこの四人ですね」
俺の発言にラティアが補足を入れてくれる。
流石、仕事の事は説明せずともわかってくれる。
まぁ、もっとも、多少の借金とは言ったが物価を見る限り、今の蓄えで何とかなるとは思う。
思ったより金を稼いでいたみたいだ。
「了解したぜ。大将、女将。それで?俺はここに書かれたメンバーを護衛して来ればいいのか?」
レオーネが机に脚を上げて椅子を傾け器用にバランスを取る。
まったく、足癖の悪い。
「そうだな、だが連れてくるのは3人だ」
「あぁ?三人?」
「あぁ。ガロン、メルキュール、ルッカ。連れてくるのはこの3人でいい」
「じゃぁ、このグレーテルってのは?」
レオーネが木札を指さしながらもっともな質問をしてくる。
そいういや、レオーネはトラシオスには行っただろうけど、あんまり詳しいことは知らないか。
「その子にはトラシオスで養鶏部門を任せようと思っててな。まぁ、雇われ社長みたいなもんだな」
「雇われ社長?」
あぁ、企業って概念が薄いからそりゃわからんか。
これは俺のミスだな。
「すまん何でもない。で、ラティア。食堂部門の方はどうだ?」
「はい。一応、報告通りならトラシオス本店の食堂はこのままジールに引き継いで問題ないと思います。後は経験を積むためにもミミにはジールの下ではなく、皇都で今度出す食堂の方で働いてほしいですね」
なるほど。
向こうじゃなくてこっちで経営を学ばせるのか。
「じゃぁ、一人追加だな。レオーネ、その木版にミミってフィルボルの女の子追加だ」
「あいよ」
レオーネがスラスラと木版に書き込む。
レオーネは貴族に仕えていたからか、文字がであったころからそれなりに扱える。
ザザ、リネアはちゃんとした教育は受けてなかったようだからまだまだ扱える文字は少なかった。計算もそれなりしかできていなかったな。
まぁ、彼らもこれから一部門を任せていくつもりだからちょっと頑張ってもらわないといけないがな。
そうだ、レオーネが暇なときは教育係でもさせるか?
フローラリアをギルドに出向員にしてもらってからしばらくたったから余裕があるからな……。
今日は本人は商業ギルドの方で本職をしているからな。
もし彼女がギルド職員から転向してくれれば教育部門を任せてもいいんだが。
まぁ、今ザザ達の面倒を見てくれているだけで結構助かっているが。
「了解。女将、そのグレーテルってのに何か伝えたりしなくていいのか?独立させるんだろ?」
「えぇ。ですので、私も一度トラシオスに赴こうと思います。良いですよね?旦那様?」
「あぁ、問題ない。俺はその間、新都市計画の方に食い込んでおくよ。新しい商会の設立の件に関しても情報を集めておこう」
新都市計画。
元々国家事業で新しい交易の中心地を立てようという動きはあったらしい。
しかし、用地は森の中にあり、開拓が必要だった。
そのため、計画は200年は要する、との結果になりとん挫していたらしい。
それが神獣様の登場で一気に進展した。
その強さもさることながら、この開拓の一件で皇国の将来は安泰だ、と貴族からの声も聞こえる。
まぁ、わずか3日で200年かかると言われた用地の確保に加えて別の土地の確保もあらかた終わらせてしまっていたからな。そりゃそういわれるのもわかる。
あとはこの国の人たちに任せるとか本人……本猫?は言っていたが。
まぁ、国家事業となれば貴族や有力者に利権も配ってやらねばならないだろうからな。全部自分でやるわけにはいかないだろう。
先日ちらっと人を調達できないか頼んでみたが、いやはや。ああ見えてあの神獣様は結構考えている。こっちの懸念をそのものずばり、良い当てられてしまった。
そうなると、やはり自分たちで調達しなきゃならない。
正直、子供達にはまだ早いかもしれないが今回の独立話につながったわけだ。
って、あぁ。そういや資金面の工面もしておかねぇとな。
……金貸しか。神獣様、貸してくれねぇかな。
「そういえば旦那様。それぞれ独立させるとして、各商会の名称ってもう決めているのですか?」
「名称?」
あぁ、そうかそういえば何も考えてなかった。
「ラティアは何がいいと思う?」
「そうですね……素直に任せるものの名前を商会名にするか、旦那様の名前を使うのがいいと思うのですが」
俺の名前、俺の名前か。
浪漫商会何とか支部、みたいな感じだろうか?
それとも浪漫グループ、何とか部門か?
……いや、違うな。
なんだかピンと来ない。
浪漫、浪漫か……。
そうだ、俺はロマンを求めるために金を稼いでいるんだったな。
最近はすっかり忘れていた。
浪漫。一番初めにロマンを感じたのは何だったか。
幼い頃、両親に連れられて行ったキャンプで見た星空だったか。
あの時は幼いながらにその壮大さに心を奪われたことを覚えている。
……そうか、星か。
だったら、星座から取るか。
と、なると……。
俺はラティアに新しい商会の名前を伝える。
レオーネ警備商会。
代表者レオーネ。レオーネの名前から連想し、獅子座から名前を取った。
うちのグループの人間を移動させるときや、商隊の護衛を任せるつもりだ。
ヴェルゴ食堂。
代表者ラティア。安直だとは思うがラティアからの連想で乙女座から取った。
トラシオスの本店と今度皇都に出す予定の支店を合わせて経営してもらう予定だ。
ジェミニ養鶏場。
代表者グレーテル。双子ではないがグレーテルとヘンゼルの兄妹から双子座を連想して取った。トラシオスで養鶏部門を彼らに任せる。
少し早いが最終的にはあの買い取った土地を買い戻せるくらいの収入が入るはずだ。
アリエス工房。
代表者オスカー。特に意味はないが牡羊座から取った。
浪漫工房のトラシオスの本店やこっちで作る支店の下請けや部品製造を全面的に任せるつもりだ。オスカーはこういうのが得意だったからな。
アクエリアス工房。
代表者メルキュール。ここは主に水を取り扱う商売をしてもらうため水瓶座から取った。おっと、もちろん夜職という意味での水商売じゃない。本当に水を扱ってもらう。最初の頃は直接の水売りもしてもらうが、ゆくゆくはポンプ系の開発ができるといいが。
後は醤油や酢なんかの調味料製作にも手を出してもらおうと思っている。
カプリコーン牧場。
代表者ガロン。動物を扱うという事で山羊座から取った。
新都市に既に牧場系の企業をいくつも作りたいと言っていたので一口噛ませてもらうことに
ガロンは預かったときから動物の扱いがうまかったからな。
せっかくなのでここで起業してもらうことにした。
以上が新生浪漫工房……改め、もはや浪漫グループといってもいい。
「これはまた……すごい数になりましたね」
「あぁ、せっかくだ。がっつり稼がせてもらおう」
「ちょっ!大将、俺も独立すんのか?」
俺の提案にレオーネが驚愕の声を上げる。
「まだまだ、あと6は独立した商会を作るつもりだからな。そのグループ全部の護衛をしてもらうから覚悟して経営学べよ?」
「うへぇ。マジかよ、大将……」
レオーネが頭を抱えているが俺の使える人材の中ではこいつは一番年上だ。
しっかり頑張ってもらわなければならない。
「それで、旦那様。各々の独立の話はこれで良いとして、浪漫工房の皇都の支店の店舗はどうされますか?」
あぁ、そういえばそっちもどうすっかなぁ。
初めの方はある程度仕方ないけど、俺が常駐するわけにもいかんしな。
任せる人がパッと出てくるわけでもなし。
いや、まぁ。順当に行けば経験のあるラティアやフローラリアに任せるべきなんだろうが彼女達には彼女達でやってもらいたいこともある。
そうだな、しばらくはメルキュールに兼業してもらうか?
その代わり、メルキュールに任せる工房には優先的に人を配置しよう。
あぁ、考えることが多い。
少し外の空気を吸って来よう。考えをまとめるのはその後でも遅くはないだろう。
……最悪、あの猫に丸投げすりゃいいだろ。




