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17-5EX.公爵ロウフィス ワインの行方と婚約者

すみません。グレイの話の前に出しておきたい名前があったので先にいくつか番外を挟みます。

「あの、アマンダ?」

「はい。なんでしょう?お兄様」

私は奇妙な格好を続けている妹に声をかける。

妹は何か問題が?と言わんばかりの反応だ。

「いつまでその格好をしているのです?聖上やシャルロッテ様からは衣装を戻していいと言われたのでは?」

「お兄様、これは禊です。我が父が皇家に牙を剥いたその事実を、このような屈辱的な衣装で奉仕することによって禊としているのです。お兄様も皇家に逆らわない誓いを立て、公爵を継ぐことによりその禊としているはずです」


えぇ。それはそうですが。

しかし、ですね……。

私はアマンダの太ももを見る。

もちろん、妹です。邪な気持ちはないのですが。

スカートの端に目をやると生足が見える。

少々、スカートが短い気がするのですが。

まぁ、本人がそれでいいなら良いのですが。

ただ最近、我がグレイスノース公爵領の使用人からは私の趣味だとか、聖上の趣味だとか噂されてるのが少し気になりますが。

この前、皇都の館の使用人から「私達もああいう格好をした方が良いですか?」とか聞かれたんですが。

「ただ、正直なところを申しますと、シャルからは元に戻してもよいとは言われてるのですが、なんというかこのまま戻すと負けた気が……」

負けた気がって……。

一体何と勝負しているのですか?我が妹は。

そして、それはどうすれば勝ちになるんですか?

私は頭が痛くなったので目頭を押さえて

「ともかく。アマンダ、陛下もご懐妊ですから、あまり陛下に心労がかかることはしない様に」

「はい。もちろんです。お兄様」

私はアマンダに軽く注意をして、退室させました。


アマンダが退室すると、私の背後で蠢く気配がします。

はぁ。またですか。

まったく……。

ここ最近、彼の好みの登場の仕方らしいです。

「……ふぅ、アスティマ。いつも言っているでしょう?普通に扉から入ってきてください」

そういうと、私の背後で蠢いていた気配が立ち上がりました。

「ふぅ~む?なんだぁか、初めの頃の驚きがありませんなぁ?倦怠期でぃえ~すか?」

相変わらずの喋り方で聞いているとなんだか疲れるのですが。

まぁ、若干アドマ様を彷彿とする喋り方自体は嫌いではありません。

彼は喋り方や趣味嗜好こそ独特でしたが、セ・バスティアン・ローランド公爵の重鎮として皇家に忠誠を誓い、よく働いていました。

バスティアン殿は我が父の弟君。私にとっては叔父にあたる人物です。

ローランド公爵家は他の三公爵家とは違い、領地を持っていません。

代わりに皇国内では皇家の側近として大きな名声を得ることができます。

バスティアン殿はそんな地位に実力と信頼で勝ちあがったのです。

これは実際、かなりすごい事でした。

なぜなら四称号から構成される我が皇国の公爵の称号は同じ家から出ることはほぼなかったからです。

公爵の称号は四つしかありませんから、同じ家から二つ出るとその家が力を持ちすぎますからね。

それを実力と信頼で打ち崩し、自ら皇家に信頼される、言い方を変えれば皇家に自分たちに最も利益になる人物と認めさせたのです。

アドマ殿はそんなバスティアン殿の右腕として、働いていた魔法仕官です。

喋り方のせいで多少誤解はされていますが、結構すごい方なのです。

そう昔に思いをはせていると、アスティマがまた話しかけてきます。

「ふぅん?なにやぁら、懐旧の情をぉ、含んだ視線が」

「いえ、貴方に対してではないので安心してください」

「おぅや。そうでぃぇすか。それはぁ残念」

はぁ。本当に頭が痛くなりますね。

「それで?何か用事ですか?できればこの書類は先に住ませてしまいたいのですが」

「ふぅむ?いったいなんの書類でぃえすか?」

「ドリス公爵領への賠償の書類ですよ。まぁ、とはいえ我が領は高地にあるため、そこまで裕福ではありませんからね。三公爵で決めた賠償額に到達できるかどうかはまだわかりませんが」

そう、これは三公爵間で決めた条項だ。

我々だけ反故にするわけにはいかないのだ。

ドミニオ公爵からは現在新たに温泉街建設が計画されている土地に隣接したカーディナ伯爵位を、ガルアーノ公爵からはビビ侯爵領やウェルマ侯爵領に隣接したミワーク伯爵位を、そして我がグレイスノース公爵からはカラカース川の向こう側にある土地カラカス伯爵位を譲渡することまでは決まっています。

幸いこの三領地は伯爵位が公爵直轄となって久しい土地でしたので自由に使いことはできたのです。

しかし、正直、カーディナ伯爵領とミワーク伯爵領に比べてカラカス伯爵領は魅力的な土地とは言い難い。

土地の広さもそれほど広くなく、近隣の街に行くにしても川を越えるか森を抜けなければ町に辿りつくのは難しい。

特産といっても、思いつくものはない。せいぜい森が近くて川が近いので狩りの心配がないくらいでしょうか?

我々だけ見劣りすることは否めないのですが。

「ふぅむ?しかし、それ程きにすることでぃえすかねぇ?あの、創世の大天使が主と認めた生物がそりぇほど狭量とはおもえむぁせんが」

「そういう問題ではないとは思いますが」

確かに聖上のことですからそういった事はあまり気にしないかもしれません。しかし、こういった事はけじめが重要なのです。我々だけが その恩恵を受けることなど。

「あたむぁが硬いでぃえすねぇ……(ボソッ)これは大天使が力を与えるはずですね」

「えっ?」

悪魔がなにか小さな声で囁きましたが、私にはよく聞こえませんでした。

まぁ、聞こえない様に喋ったという事は何か聞かれたくないことなのでしょう。

気にせず仕事を続けることにします。


「…………」

「…………」


「……」

「……」


「……あの?アスティマ?」

「はぁい?なんでしょう?」

「無言で見られていると仕事がしにくいのですが?」

「おきになさらぁず、続けてください」


いや、だから気になるのですよ。無言でじっと見つめられてるのは。

そう思っていた私にワインを収納している棚が目についた。

そういえば公爵に就任した時に公爵領の伯爵や男爵たちから高級な瓶入りワインを送られましたね。

グレイスノース公爵領は公爵就任時にワインを贈る習慣がある。

これは歴代の公爵がワイン好きが多かったからだ。


私は、嗜む程度で実はあまり酒は得意ではありません。

夜間嗜む程度にしか飲みませんから。

もちろん社交の場では多く出てくるのでそこまで弱いわけでもありませんが。

私はどちらかというと、最近フレズベルグという行商が売りだし始めたお茶の方が好みですね。


「アスティマ、どうでしょう。そこにそれなりの質のワインがありますから、しばらく調査で留守にするガブリエル殿と飲み交わしては?」

「くふ、くふふ。あなぁた、面白いことをおっしゃる。ぬぁぜ悪魔の私が天使の彼女と飲み交わすので?」

何をいまさら。ちょくちょく飲んでるのはわかってるんですけどね。

「私が、ガブリエル殿にもワインを送りたいのですよ」

「ぬぁるほど。まぁ、そういう事にしておきましょう」

そういうとアスティマは部屋の棚から適当なワインの瓶を持って行ってしまう。

ふぅ。何とか追い出すことができましたね。


……そういえば、前ドミニオ公爵、ヴィゴーレ殿とガラハド殿の父君、ルディオ・ドミニオ殿は大のワイン好きでしたね。

ドミニオ公爵家にワインを送るのもいいかもしれません。

父の品々も屋敷で腐らせるよりは飲んでもらいたいはずですしね。


……すこし、休憩しましょうか。

アスティマに渡したからではありませんが、たまにはワインを飲むのもいいかもしれません。

私は部屋の隅に置いていたグラスの方へと歩みを進める。

このグラスも、偶然手に入れたものではありますが。

私はグラスを持ち上げ横にあったワインの瓶に手をつけた。








「……ちょっと!困ります!お待ちください!」

……何やら外が騒がしいですね。

何かあったのでしょうか。

私はワインの瓶を置いて扉の方に向かい、そのまま扉を開く。

「何かあったのですか?」

警備の男性に確認を取ろうとしたその時。


「閣下!お下がりください!」

「ロウ!もう、こいつら下がらせてよ!何度言っても聞かないんだけど!?」


そこには、警備の男性と二人のメイドに抑えられている女性の姿があった。

私はその姿を見て驚く。

なんせこうして会うのは数年ぶりだ。


「この!大人しくしろ!」

「いたっ!?ちょっ!?こいつ腕掴んだわよ!?ありえないんだけど!?」


あぁ、厄介ごとがまた一つ……。

頭が痛くなってきました。

……とはいえ、とりあえずはこの場を治めなければ。


「ヒース。構いません。下がってください。メイドの二人も下がって構いません」

「閣下っ!……しかし」

「大丈夫です。知り合いですから」

彼らが知らないのも無理はありません。

まぁ、本来なら知っておいた方が良いのですが。









「久しぶりですね。シャディ」

「ロウ!」





シャディが警備の間から飛び出し、私の首に手を回し抱き着いてくる。

よほどうれしかったのだろう。私はそれを抱きとめた。


「あの?閣下。こちらの方はお知り合いですか?」









「あぁ、彼女はシャルロッテ・スルス。八年間行方不明だった……私の婚約者ですよ」







「「「……え、えぇ!?」」」



警備達の驚いた声が屋敷に響き渡ったのだった。

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