17-1.グレイの抗議
すみません。遅くなってしまいました。
今後の展開の事を考えていたらずいぶん時間がかかってしまいました。
あぁ、もう。
なんだか疲れたなぁ。
昨日は仕事も頑張ったし、ミツヒデのおかげで中途半端に起きて目が冴えてしまったし、グウィネットちゃんの言葉が気になって眠れなかった。
そのおかげでずいぶん疲れた。
ミツヒデの陰謀も聞いちゃったしなぁ。
ってあれ?
ちょっとまて。
なんでミツヒデは俺と会話出来たんだ?
俺、猫の姿だよな?
俺の言葉は『テレパシー』でもない限り、にゃーとしか聞こえないはずなんだが。
ミツヒデってそんなスキル持ってたっけ?
もちろん、俺は持ってない。
改めて自分のスキル一覧を見てみるが、やっぱりそれっぽいスキルはない。
まぁ、考えても仕方ないか。
きっとミツヒデがスキルを持ってたんだろう。
喋れるなら今までも喋ってくれてよかったんだが。
ま、別にいいんだけども。
なんだか少し前に比べて眠ったらすっきりするようになったな。
なにかあってもよく覚えてるし。
正直、今までが覚えてなさすぎなんだよな。
なんでだろ?
俺、夢って結構覚えてる方なんだけど。昔は日記もつけてたし。
猫って夢を見ないとかだっけ?
いやそんなことないよな。
猫どころか魚とか蜘蛛とかも夢は見るって聞くし。
まぁ、きっとあれだ。今までバタバタしてたから覚えてなかっただけだ。
そうに違いない。
「聖上。こちら、追加の計画書です」
「うぃ……」
ドラディオが追加の書類を持ってくる。
書類といっても、紙じゃなくて羊皮紙や木版がほとんどなので、机の上で嵩張る嵩張る。
「……ん?あれ?追加の計画書って?各所の整地は昨日までに終わってるし、アルトランドに関してはミツヒデに一任するから必要分用意してくれって話したよな?」
「こちらは移設後の学院に関する計画書でございます」
学院?あぁ、アレか。
この国には3つの学園がある。
ゴルドラン騎士学園、クレモナ魔法士学園、シルヴェスト貴族学院の3つだ。
この3つの学園は下に町を作った際には移設されることが決定しており、現在移設準備が進んでいる。
その一方で一般人の移動は制限されている。
こういった町の移動では先に公共施設を移さなければ生活に支障が出る場合もあるからな。
まぁ、これは学園に限った話ではない。他の公共事業もほとんどが整理対象になっている。
なので移動と事業整理を最優先して一般人は現状立ち入り禁止になっているわけだ。
普通ならこんな風に元々あった都市の政策や構造を変えるなんてできないんだけど、そこは前大臣たちとシャルロッテさんの成果だ。
シャルロッテさんはゲオル老やフェランド、他の様々な職人に協力を仰ぐ傍ら、皇都の構造改革を進めていたらしい。
とはいえ、結構な広さがある皇都だ。
少女1人でできることには限界があった。
大臣や城で働く人たちはあくまで前皇王であるイドバルドやシナーデさんの配下なので、実はシャルロッテさんが一存で自由に使えた配下はリリアーノさんだけらしい。
じぃやさんがずっと近くにいたから結構意外な気がする。
ともかくそんな感じで今までコツコツとシャルロッテさんは人脈づくりを進めて来たらしい。
そして、今その成果が出た。
コツコツと人脈を作っていたおかげで、都市を移動する際にいろんな人が協力してくれた。
シャルロッテさんが改革したかった事のうちの1つがこの学校改革だ。
シャルロッテさんや公爵の子達は学校に行っていない。
代わりに、家庭教師が居るわけだが、学校に行けない、行かない子たちは他にもいる。
それは庶民の子達だ。
侯爵から騎士の子供、そして庶民でも裕福な子供たちは皇都の学校に通うことができる。
その構図に異を唱えた。
そして、以前シャルロッテさんが作った人脈の人たちはそれに協力してくれて今に至るというわけだ。
なんというか、シャルロッテさんの頑張りが成果に結びついたようで超うれしい。
俺は出された書類に次々とサインを書いていく。
実際には俺の承認はいらなそうな気がするけど。
そうしているうちに一つの書類に目が留まった。
その書類にはシャルロッテさんの字でシャトワの町で交易されている南国の果物の輸入量増加願いと書かれていた。
……いや、まぁ。うん。
シャルロッテさんも楽しみくらい必要だろう。
俺はその書類に少しだけ追加の指示を出して承認のサインを書いた。
ふぃ。とりあえず、これで今持ってきた書類は全部か?
そう思って俺は体を伸ばしてほぐす。
すると、ドラディオが俺のサインが書かれた書類をもっていってしまう。
その時だ。
バタンと、いつものように扉が乱暴に開かれた。
「ちょっと!?神獣様!?」
中に入ってきた人物は意外なことにグレイ。
てっきり、マリアゲルテさんかと思ったからちょっと虚を突かれた。
「え?グレイ?どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもありませんよ!?」
そういってグレイは俺の机に手紙をたたきつけてきた。
その手紙には皇家の紋章が入っている。
ただし、皇家の直系の本人が出すものではなく、その配下や代筆者が出すものの紋章だが。
ちなみにこれだって偽装すると立派な犯罪になるので注意だ。
俺は中身を取り出して確認する。
そこには、皇都の兵の名前一覧と数人の貴族や騎士・従士の名前の一覧があった。
当然、グレイやセレーノ伯爵配下である元夜烏隊のメンバーの名前やグレイが士官させた冒険者の名前もあった。
っていうかこいつら苗字作ったんだ?
なんか、ファンなんとかって書いてあるけど、オランダの前置詞っぽい名前だなぁ。
そういえば前置詞がない名前とか、逆にドイツみたいにフォンとか入っている人がいるけど、国の違いじゃないならこの前置詞の違いは何だろうか?
まぁ、別に知らなくても問題ないんだけど。
あれって○○出身のって意味だしな。
そういう意味じゃこいつらの出身地名じゃないし……。
もしかしたらこっちの世界は苗字をもらった時は勝手に決めれるのかもしれないし。
「どうしたんだ?これ」
「今朝、家に帰ったらミツヒデさんに渡されました。皇家の命令で総大将として国境を越えろって書いてあるんですけど!?」
「うん。ミツヒデがなんか企んだみたい面倒だから二つ返事でオッケーしといた」
「いや、だからってなんで僕!?」
グレイが頭を抱えて天井を仰ぐ。
「そりゃお前、サーヴィク男爵とつながりがあるのはお前だろ?結局サーヴィク男爵の次男もお前のところの配下になるって報告を受けてるし、長女もお前の家で働くって聞いてるけど」
「いや、繋がりって言うか完全に押し掛けに巻き込まれただけなんですけど!?」
うん。まぁ、気の毒とは思うけどさ。
「仕方ないだろ?俺が出るわけにもいかんし。まぁ、ミツヒデが守ってくれるだろうから命の危険は少ないはずだからさ。頼むよ。代わりに現地までは送るからさ」
「う、うぐぅ……」
上司に頼まれたら断れまい。
少々、ブラック企業みたいで申し訳ないが。
実際問題、援軍は念のための話だろうし、すぐに戦争になるとも限らない。
伯爵として箔をつけるなら一度くらいは総大将として出陣を経験しておかないといかんだろう。
俺や氷室さんと違ってグレイとリアリーゼは元の身体がないから、この世界にとどまる可能性が高いしな。
「はぁ、分かりました。すぐ支度します」
そういうとグレイは肩を落としてとぼとぼと部屋を出て行った。
うん。ごめんて。
そして、数分後。俺の部屋の扉が再び乱暴に放たれたのだった。