3-1.その男、執事につき
一気に飛びます。
11/25 ビンタの最後にシャルロッテの心情(?)を追加しました。
あの反乱から1週間の時間が流れた。
俺はその間、昼はシャルロッテさんやマリアゲルテさんのそばでゴロゴロし、夜は自室で人型になる練習をしていた。
練習の結果、何とか1分ほど人型を維持できるようになった。
しかし、人型を維持している最中はとんでもない魔力を消費してしまう。
これは今後の課題だな。
また、転移者と思われる兵士だが、今はまだ接触していない。
猫の姿だと喋れないからなぁ……。
反乱のほうは各地から、宣戦布告……、というか独立宣言のようなものが宣言された。
どうも話を聞くと各領地は別の国の支援を受けて今回の宣言をしたそうだ。
公爵たちの嫡子や親族の一部は公爵領へと戻ったが、残りは皇都に来たようだ。
俺が上半身を吹き飛ばしてしまった隊長っぽい人は公爵の一人、ガルアーノ公爵の長男だったらしく、それも問題になった。
まぁ、自分たちから夜襲をかけてきておいて、殺されただのなんだのが通じるはずもなく、皇国側からは適当にあしらわれているのだが。
あと、この反乱に関して、皇王(この国における国王の名称)……つまりはシャルロッテさんやマリアゲルテさんの父親だが……には会えていない。
シャルロッテさんやマリアゲルテさんは反乱のあと、報告のため皇王の部屋に入っていったが、暗い顔のままで出てきた。
その後の話を聞いていると皇王や皇妃(この国における国王の妻、王妃または女王の名称)は結局、反乱中も部屋から出てきてはいなかったようだ。
部屋から出てきた後、シャルロッテさんが俺を抱えながら語りかけてくれていた。
その情報を整理すると、皇王は所謂婿養子で元冒険者であった。
皇妃が彼に護衛を依頼し、見初めて結婚。
彼に王位継承権はなく、本来であれば皇王を名乗る資格はないため、正確には王ではないのだが、皇妃と結婚したことで皇妃が皇妃と呼ばれることを望んだため、必死で貴族としてのふるまいを学び、建前上の王となった。
実権は皇妃にあるが、基本的には皇王が皇妃の意向を伝える形で皇国は運営されているようだ。
そして、皇王が病気になってしまった今、皇妃はそれをシャルロッテさんやじぃやさんを通じて家臣や国民に伝えているらしい。
本人たちは、寝所の奥にある生活空間(台所や風呂、トイレが整えられ日光浴に城の屋上に作ったスペースに出る為と、食事の材料を運んでくる程度)で生活が完結してしまうようだ。
何という引きこもり。
そうそう、一週間のうちに、各公爵の息子や娘が拘束されたのだが……。
意外とあっさり片が付いた。
まず、真っ先に拘束されたのは『黒鉄の騎士』のリーダー、ヴィゴーレ。
ついで冒険者『紫煙の剣』のリーダー、ガラハド。
彼らはドミニオ公爵という反乱した公爵の一人の息子で、家の方針で冒険者をしていたらしい。
ギルドへ向かった兵士たちが同行を求めたところ、あっさりとついてきてくれたそうだ。
本人たちが協力的だったのもあり、取り調べは1時間程度ですぐに終わり解放された。
何もなくてよかった。
知り合って間もないけど、彼らには冒険者ギルドで世話になったからな。
次に拘束……というか出頭?してきたのはグレスノース公爵の息子と娘。
ロウフィス・グレスノースとアマンダ・グレスノース。
彼らの取り調べは城の塔の一室で行われたため、俺もこっそりと見に行くことができた。
ロウフィスは……なんというか、物語の主役格の騎士って感じの好青年だ。
金髪碧眼に、後ろで結んだ髪、緑と白を基調とした服、ハルバードと剣を装備していた。
アマンダは、色の薄い金髪で、白と青を基調とした服と剣を身に着けていた。シャルロッテさんとは同い年の幼馴染で、主に彼女の護衛や話し相手をしているそうだ。
反乱の日、彼らは父であるオーグマから呼び出しを受け、皇都から北にある村に手紙と品物を取りに行っていたそうだ。そして戻ってきて反乱がおきたことを知ったそうだ。
それが彼らが受け取ったものは彼らの持つお揃いの短剣。
父がどういうつもりでこれを渡したのかはわからないそうだ。
まぁ、彼ら自身は、シャルロッテさんやマリアゲルテさんからの信頼も厚いこともあり、今回の反乱には関係なしとして早めに解放されたのだが、これを良しとしない人物がいた。
当の本人であるアマンダだ。
「親の起こした反乱だが、私にも責任はある」
そういって彼女は自ら武器を外し、この世界でいう囚人服……袖のある灰身がかったIラインのワンピース……を身に着け、侍女に手錠をかけさせ、その塔にあった地下牢に入ってしまった。
潔い……とは思うが、親のしたことに対して子供には責任ないんじゃないかな?
ましてやまだ15歳だそうだ。さすがに不憫だ。
ちなみに、その間兄であるロウフィスは何をやっていたかというと、ただただオロオロしていた。
意志の強さでは妹のほうに軍配が上がるのかな?
兄の方も牢に入ろうとしていたが、さすがに二人とも牢に入ると色々まずいということで、断固拒否されていたが。
ちなみにその後、約5時間ほどでアマンダさんはシャルロッテさんにより地下牢から強制的に出され拘束を解除されたが、本人が幽閉を希望したためシャルロッテさんの部屋に近い塔(部屋をでてすぐの渡り廊下を歩けば塔の2階に行ける)の幽閉部屋……というか待機部屋に幽閉されているそうだ。
その時の大まかな流れはこうだ。
「貴女には私のそばにいてもらわなければ困ります」
シャルロッテさん、ビンタ一喝。
「いや、しかし今回の反乱は…」
「問答無用です」
シャルロッテさん、ビンタ一発。
「しかし…」
「まだ言いますか」
シャルロッテさん、怒涛のビンタラッシュ。
ひとしきりビンタを終えたシャルロッテさんが一言。
「ハァハァ、なんだか少し気分が高揚してきました」
この娘を怒らせるのはやめておこう……。
まぁ、本人が望んでいたとは言え、結果的に刑罰が軽くなったようで何より。
最後にガルアーノ公爵の末の息子、ヘンリー・ガルアーノ。彼は反乱の際、なんと皇国の魔法部隊として参戦していたそうだ。
任務は怪我人を治療する後方支援部隊。
しかし、バロンにより行われた戦闘による死者の数を見て気分が悪くなり、気絶。そのまま医務室で一週間寝込み、起きてみたら事件は終わっていたとのことだった。
わかる。その気持ちはすごくわかるぞ。
しかし、バロンいわく、
(あの程度で気絶するなど修行が足らん)
だそうだが、なぜかこのバロン、彼には微妙に冷たい印象を受ける。
なぜだろうと思っていると、エフィーリアさんが彼には目をかけているそうで、魔法を直接教えてもらっているそうだ。
あぁ、なるほど嫉妬してるのか。
(ば、ばか野郎!そんなわけねぇし!別にあいつのことなんてなんとも思ってねぇし!)
その間に公爵関係者は皆取り調べを受けていたのだが、行方不明者が何人か出た。
まず、レベルアップポーションを運んできた冒険者。荷物運びの依頼履歴から彼らの関与が疑われた。
ギルドに問い合わせをしたところ彼らはまだ皇都で依頼は受けていないらしく、近隣に居るかもしれないということで現在捜索がされている。
まぁ、ギルドからの情報では彼らはただの運び屋だったようだ。商売の拠点を探すために冒険者として各地を回り、依頼を受けて路銀を稼いで居るらしい。
そうそう、意外と驚いたのはこのギルドの対応。
ゲームや漫画だと「ギルドは国家権力の通じない中立組織」というイメージが強かったんだけどそんなことはないらしい。実際、貴族と繋がりの深いギルド支部も多数あるし、寄付を受けて運営されている場所もあるそうだ。犯罪が起きれば各支部の判断で照会にも応じるそうだ。冒険者やギルドにとっては信用が第一らしく、あくまでも仕事の紹介をする仲介業者の意味合いが強いらしい。実際、魔獣の討伐から狩り、畑仕事や建築、果ては介護業務や清掃までありとあらゆる依頼がのって居るそうだ。
このため冒険者への登録は戦闘技術に特化したものから、一般市民まで様々な人が利用しているそうだ。身分証としてギルドカードが発行されるのだが、別に全ての都市に入れるとかそんな特権はないらしい。
ただし、依頼を受けて各地には居る際は別。少々怪しかったり、敵国であっても、ギルドの仲介人と衛兵の同行のもと街の入場が許可されるらしい。スパイとか出そうだけど大丈夫なんだろうか。
他には輸送に関わっていたであろう貴族数名とギルド職員、商人数名が行方不明になった。
そのうち、二名は見つかったのだが、すでに遺体となっていたらしい。残りは目下捜索中だ。
そんな感じで反乱の後始末が進むなか、俺は抱えられ、揺られていた。
え?なんで回想状態で説明してるかって?
現実逃避だよ!!
今、俺を抱えているのは筋肉。
隆々とした筋肉にモヒカンをなびかせ、ピッチリとしたスーツを着込み、俺を抱える男、その名をドラディオ。
この人、俺の専属執事になるらしい。
嘘だといってよ、シャルロッテさーーーーーーん!!!!
遅くなって申し訳ございません。
普通に一週間分を体験形式で書くととても長くなったので回想形式に変更しました。