16-12.ミツヒデの帰還
んあ?
あれ?寝てた?
今何時?
って、時計なかったなぁ。そういえば。
俺が周りを見渡すとどうやらあのあとシャルロッテさんは俺を枕元に置いて寝てしまったようだ。
俺はボケっと窓の外を眺めた。
まぁ、ここからじゃ明り取りであろう中庭が見えるだけなんだが。
お?この部屋からでも少しだけ夜空が見えるのか。
俺は窓辺まで行って空を見上げてみる。
ちょうど3つの月のうち、一番大きい青い月だけが見える角度になっていた。
なんというか、やっぱり月が3つもあるのは違和感しかないな。
青い大きな月と赤い小さな月、それに小さい月と同じくらいの大きさでわっかを備えた月。俺が見ている限り、俺たちの世界と同じように満ち欠けをし、動いている。
そういえば太陽も2つあるけど熱いって感じはしないよな。
どこの世界でも太陽と月ってのは変わらないのかもな。
「失礼いたします。聖上。ただいま戻りました」
うぉ!?びっくりした。
突如、背後からかけられた声に俺の毛が逆立つ。
ってなんだ。ミツヒデか。
ビックリしたなぁ。
「あ、おつかれさん。ミツヒデ、結構かかったな?」
「いえ、実はまだ王都には入場しておりません」
え?じゃぁ、なんでここに居るの?
アルトランドの国王に和平の使者として向かったんだろ?
「おや、申し上げたことはございませんでしたか?私、特異体質でして」
特異体質?
「分霊を作り出せるのです。自らの魂と魔力を半分に分けて」
へぇ。そんなことできるのか。
そういえばノブナガに呼び出されたときにまだ半身は生きてるとかなんとか言ってた気がしないでもない。
「そして、この身体になってからさらに進化したようでして」
進化?
「生前は半分づつにしかできなかったのですが、どうも百の分割をできるようになったようで。今ここにいる私は八十五ほど、一をアルトランドの王都へと向かわせております」
へぇ。
あれ?
じゃぁ、残りの14は?
いや、それ以前に分割した身体ってどうなるんだ?
「アルトランド西部の各地へと向かわせております」
「アルトランドの西部?あ、サーヴィク男爵領とかパルム伯爵とかか?」
「えぇ。パルム伯は無事こちらに?」
「来たよ。なんか変なのもついてきてめんどくさそうだったから、持ってきた金とサーヴィク男爵と一緒に返したけど、よかったよな?」
「えぇ。大丈夫です。こちらも手は打ってありますので。その時間の調整でこれほど時間がかかってしまいました」
え?手は打ってるって、何を?
どういうこと?
「パルム伯やエレミア伯は国王とはそりが合わなかったようでしたから。それに反乱がおきたタイミングもよかったですね。おかげで焚きつける策を使わずに済みました」
焚きつけるってお前……。
「……もしかして、何か謀った?」
俺の言葉にミツヒデがにっこりと表情だけで答える。
……そっかぁ。
謀っちゃったか。この男は。
「聖上、しばらくすればサーヴィク男爵から援軍要請が来るでしょうからその際には、いつかの竜騎兵をお借りしたいのですが」
竜騎兵とは。
ラプトルと騎士団や兵士の選抜メンバーによって構成された騎兵団の事だ。
オロス谷の実績から正式に皇国の兵科の1つとして研究されている、まぁ、試験的な兵団のことだ。
重装の騎兵がある皇国だが、重装騎兵はあくまでドミニオ公爵領所有の兵士だ。
前回のような反乱などが起きた際に対抗できる手段をドリス公爵……つまり、皇家で所有しようと考えたわけだ。
ドミニオ公爵領の重装騎兵、『黒鉄騎兵』は速度と重装備による硬さが売りだったわけだが。
それをそのままそっくりノウハウを借りて真似してもよかったんだが、「この子達にはもっと違った可能性がある!」と飼育担当に御利おされた結果なんだが。
ちなみに『黒鉄騎兵』が使っている馬はただの馬ではない。
魔物である。
スレイドウォーホース。
その名前に軍馬とついているほど軍馬利用がメジャーな馬の魔物だ。
騎士を背負って自らも馬鎧を着こんでそれなりの速度が出せるのだとか。
その馬と住み分けをしつつ、有用な兵科として開発しているらしい。
「あぁ、もういいよ。好きにしてくれ。誰かつけるか?」
「ありがとうございます。ではカツイエ殿、カズマス殿を。それにセレーノ伯爵と側近の者たちをお貸しただけますか?兵数は……そうですね、騎兵になれているものを百、竜騎兵団を百、歩兵を三百、弓兵と魔法兵を五十づつ混成部隊で百。それと後方支援等で四百人ほど志願者で構成していただきたいです」
「セレーノってグレイたちか?まぁいいけど?なんでまた?」
「彼らは、サーヴィク男爵とつながりが他の貴族より大きいですから」
さいですか。
まぁ、賢い人間が言うならそれに間違いないだろう。
「わかった。じゃぁグレイたちにお願いしておくよ。あんまり無茶させるなよ?あいつは多分戦闘とかそういうのは苦手だと思うし」
「はい。心得ております。それに、彼に求めているものは戦闘ではありませんから」
そういうとミツヒデの気配はスッと消えた。
忍者ってスキル入ってないのに忍者みたいなやつだ。
まぁ、いいや。多分うまくやってくれるだろうし。
……あれ?
分霊って死んだ後とかってどうなるんだろう?
確かミツヒデって召喚されたときに半身が生きてるんだよな?
って事はミツヒデって人間は今、力を半分にして2人いるわけで。
よくある設定だと、死んでも大丈夫な代わりに力を同じだけ失うとか、死んだ分は残った分霊に吸収されるとかか?
いや、それなら生きてる方に吸収されるよな?
じゃぁ、やっぱり失うパターンかな?
まぁ、考えてもしょうがないんだけど。
ちょっと気になったから今度聞いてみよう。
俺は窓の方に向けていた視線を部屋の中へと巡らせる。
部屋の中には当然、シャルロッテさんとグウィネットちゃんが寝ている。
「んぅ……」
不意にグウィネットちゃんが寝ぼけ眼で上体を起こした。
にゃー(あぁ、ごめん。起こしちゃったか)
くそ、相変わらずこの姿だと喋れないんだな。
いや、まぁわかってたんだけど。
「……ぱぱ?」
パパって……。まぁ、たしかにいずれ養子になるわけだし、パパで間違いはないが。
などと考えているとグウィネットちゃんがコクリと首を倒した。
いきなりの事で少し驚いたが、寝起き、それも途中で目が覚めちゃったパターンだからな。
やっぱりまだ眠いのね。
「我が名はハイータ。かつて、幸運と情熱を運んだもの」
ん?
「運命という、強大な怪物と闘うものよ。心せよ」
これはグウィネットちゃんの声?
そう思うと、グウィネットちゃんがガバッと頭を上げた。
その目は見開かれ、何か不思議な黄色い光に包まれている。
「心せよ。その過程で自らの心が怪物となり果てぬよう」
何だろう、このセリフ。どこかで聞いた気がする。
「心せよ。汝が永く、より深く、深淵を覗く時、深淵もまた汝を覗いていることを」
アレは確か、いつかの夢の中で……。
いや、セリフが違ったな。
あの時はもっと邪悪な……。
「我が名はハイータ。汝の行く末に、幸多からんことを。幸福と春風のあらんことを」
そこまで言うと、グウィネットちゃんはまた目をつむり、ベッドへと倒れ込んだ。
えっ?いったいなにが?
っていうか、グウィネットちゃんに一体何が……。
その疑問に答えてくれる奴はいない。
いや、いるにはいるが、最近連絡こないしなぁ。
ほんと、何やってんだか。あの女神は。