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16-10EX.冒険者アッシュ 修行の日々

「ふっ!!」

 俺は現れた魔獣に対して最後の一撃を加える。

 最近はランクの高い魔獣や低ランクでも群れで出てくる奴が多くて困る。

 なんでだろ?


 やっぱりあれかな?

 各地に目撃されているって言う妖魔たちのせいだろうか。

 魔獣が彼らに狩られたりしてまだ発見の少ない場所に移動している、というのがギルドの見解らしいけど。

 まぁ、おかげで結構仕事もあるし、セレーノ伯爵様の指名依頼もある。

 数か月前に冒険者になった新人にしては結構恵まれた状況だと思う。


 バッ!

 目の前に小さな猪の魔獣が飛び込んでくる。

 あ、しまった。

 考え事をしていたせいで反応ができない。


「アッシュ!」

 目の前の魔獣目掛けて何かが降ってくる。

 ザクリ!


 GYAAAAAAAAA!!


 何かが魔獣に刺さったかと思うと頭の有った場所から血が噴き出した。

 上部から落ちて来たクラウゼンの槍が見事に魔獣の首を落としたのだ。


 おぉう……。

 結構えぐい。


「ふっ!危なかったな!相棒」

 クラウゼンがきれいな金髪の前髪をかき上げると汗がきれいに光に反射した。

 流石は貴族の五男。いちいち仕草が様になる奴だ。

「あぁ。助かったよ。相棒」

 俺は右手を開いて掲げる。

 クラウゼンがフッと口角を上げて俺の右手を叩いた。


 パチンと、手と手の打ち合う音が聞こえた。









「ずいぶん早かったじゃないか」

「あぁ。向こうはマウントカリブーが数体だったからな。数体仕留めたら大人しくなったからギルドに生きたまま引き渡してきた。もちろん死体も三体買い取ってもらったぞ。報酬もウハウハだ。アッシュの方はどうだ?」

「こっちも豊作だったよ。ほら、アイランドラビットが十体とランドボアが三体。あ、もちろんそのランドボアはお前の取り分だぞ」

 俺は先ほどクラウゼンの槍で首の落とされたランドボアを指さす。

「ん?あぁ。ならばありがたくもらっておこう」

 俺はその言葉を聞いて頭をぼりぼりと掻いて周りを見渡した。

「しっかしそれにしても、この辺でこれだけの魔獣を見るなんてな」

「確かにな。この量は食料にもなるが脅威だな」

 俺達は周りを見渡した。

 この辺りには俺達『双極の翼』と『緑の園』のメンバーが倒した魔獣がゴロゴロとしていた。

 あ、いや正確には『双極の翼』は俺だけの成果か。

 クラウゼンはギルドの人たちと一緒にいたわけだし。

 あぁ、ちなみに『緑の園』って言うのは俺達と一緒に新人研修をした女の子、ハミュさんが所属しているギルドだ。

 なんでも皇都の孤児院や養護施設出身者で作った組織らしい。

 なんでもハマー男爵家の出資を受けてるとか。

 戦闘訓練もしつつ、採取や食料調達を中心に請け負っているとか。

 安全第一なのだそうだ。

 まぁ、この一ヶ月アルトランドの策略で結構問題のある冒険者が送り込まれて絡まれて大変だったそうだけど。

 まぁ、そのせいで査定が厳しくなって彼女達みたいに魔獣の討伐歴が少なくても、身元の証明ができるパーティーは魔獣討伐に引っ張り出されているらしい。

 災難といえば災難だな。


「いやしかし、この数でもなかなか戦えるようになってきたじゃないか」

「はは、そうだな。まぁ、連日の特訓が役に立ったかな?」

 いや、ほんと。

 ここ数日はとんでもない激動だった。

 セレーノ伯爵のお誘いを受けたあの日から俺たちは伯爵様の期待に応えるべく、猛特訓を行った。

 ……といえば聞こえがいいけど、実際はちょっと違う。











 教官……俺たちが冒険者になった日に初心者教習を行ってくれた女性が実はセレーノ伯の奥さんだった。

 その奥さんが俺たちの為にベテランの冒険者を手配してくれた。

 戦争級冒険者パーティー『銀の盃』。

 皇都を中心に雑用から採取、討伐までありとあらゆる仕事を請け負うパーティーだ。

 彼らに色々教えてもらうはずだった。

 途中までは。


「ん?お前ら戦闘訓練するのか?」

 広場に向かう俺たちを引き留めたのは『紫煙の剣』のガラハドさん。

 災害級の冒険者だ。

「今から、こいつらの戦闘訓練するんだが、一緒にどうだ?」

 そう後ろの若い男女を指さしながら言う。

 あ、俺たちと同じくらいの年齢か。

 え?幼馴染なの?へぇ。

 ていうか、君らもしかして夫婦?あ、違う?

 なんか男の方はそんなことないって感じだけど、女の子の方はまんざらでもないって感じだな?

 え?宿は同じ部屋?……あ、そうですか。

 で、戦争級の『銀の盃』の面々も乗り気だったから何も気にせず二つ返事でついて行った。

 ……それが多分失敗だった。

 いや、失敗だって言うのは違うな。

 実際この訓練のおかげでこんなに短期間で強くなれたんだから。

 ガラハドさんに連れてこられた先にいたのは天災級のヴィゴーレさんだった。

「ん?お前らは……」

 以前一度だけあったことがある。

 初心者教習を受けていた時だ。

 そういえば最近、皇都に増えてきたフォレストキャットって魔物に似た魔物に初めて出会ったのもあの初心者教習の日だっけ。

 まぁ、そんなことより。

「あの?なぜこんなところに皆さんお揃いで?」

 パーティー『黒鉄の騎士』『紫煙の剣』の上位メンバーが全員そろってるとか嫌な予感しかしない。


 それから二週間の地獄の特訓が始まったのは言うまでもなかった。

 ていうかこの人たち、つい先日まで戦争してたはずなんだけど?

「普通な?戦争っつったら早くても数ヶ月、普通なら何年もかかるもんなんだよ。普通、そう思うだろ?」

 はい、そりゃもちろん。

「ところが、だ。俺が戦争に出たのは準備の数日とラーベルガー要塞に行った当日。しかもその移動さえも本来一週間かかるはずが気付いたらラーベルガーの目の前の森だ。どう思う?」

「どう思うか、って言われましても。まぁ、多分聖上の御力ってやつですよね」

「そうだ。あいつには距離や時間なんてものは通用しない。で、俺は傷も癒えて、結構やる気満々で出て行ったわけだ。強い奴と長期間やり合えるよなって感じで」

「は、はぁ……」

「ところが実際、やってみると強者と戦えたのはわずか一日。しかもそのそいつは全力を出していやがらなかったときたもんだ」

「え、えっと?つまり?」


 俺の問いに、にこりと笑ったヴィゴーレさんの顔がすごい印象的だった。

 俺の視界はその笑顔を最後に宙を舞った。










「……地獄だったな」

 特訓の二週間を思い出して思わず俺は呟く。

「思い出させるなよ……」

 いや、すまんかったって。

 そんなに落ち込むなよ。

 こっちまでまた気分が滅入ってくる。

 あぁ、思い出すんじゃなかったなぁ……。

 まじで。




 GHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!




 え?

 何だこの声?

 突然、聞こえてきた唸り声に、体が反応する。

 その声の主を探して空を見上げると、そこには……。

「おいおいおい!まじかよ!?」

 強靭な鰐のような顎と空を飛ぶ翼を持つ魔獣、ブリザードアリゲーターがそこにいた。

 災害級の魔獣だ。

 今の俺達ではどうしようもできない。

「ブリザードアリゲーター!?生息域はもっと北東のはずだろ!?なんだってこんなところに!?」

 きっとこれも、最近この辺りに強力な魔物が出るようになったせいなのだろう。

 それにしたって、運がない。

「どうする?アッシュ?」

「どうするったって……、逃げるしか手が……」

 実際それしかない。

 逃げてギルド職員に報告をする。

 それだけが今の俺たちに出来ることだろう。

 なんせ俺たちはまだまだ新人。

 あんな化け物に敵う訳が……。


 そう、思ったその瞬間。

 上空からいじょな衝撃と共に、ブリザードアリゲーターの首が吹き飛んだ。

 そして直後、吹き飛んだ首が盛大に燃え上がった。



「ちっ!手ごたえがねぇじゃねぇか!くそっ!」

「リーダー。いい加減落ち着きなよ。そうそう強い相手なんていないって」

「あぁ!くそっ!こうなったら東洋の覇王に……」

「やめなって!さすがに王宮に手を出すのは不味いって!また謹慎受けたいの!?」





「なぁ、クラウゼン」

「……なんだ?アッシュ」

「俺、強くなるよ」

「……あぁ。でもああはならないでくれ?アレでも皇国の貴族、それも公爵なんだぞ。彼は」





 化け物と化け物じみた人間の戦闘を目の当たりにして、空を仰いで呟いたのだった。





 今日も空は青い。

ヴィゴーレさんは若干フラストレーションがたまり気味

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