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16-5.クラァーミアの移民たち

「し、失礼しました。お客人。いつっ」

「あ、あぁ。えっと、その。大丈夫か?」

 レイワルドが耳を押さえながら起き上がる。

 まだ痛そうだ。

 鼓膜、破れてないといいけど。

 まぁ、血が流れてる風じゃないし、多分大丈夫だろう。

「はい。お恥ずかしいところをお見せしました」

 いや、ほんとにな。

 説教の衝撃でひっくり返るとか昭和のアニメじゃあるまいし。

「まったく、落ち着きのない奴め。いつまでたっても子供よな」

「す、すみません。村長」

 いや、それは流石に可哀そうでしょ。村長。

 まぁ、客の前で醜態をさらしたのはよくはないけども。


「それで、スカーレット。本題に移りたいのだが。なにか話があるのだろう?」

「あぁ、村長。実はね、しばらく帰って来れそうになくなっちまってね。挨拶だけでも、と思ってきたのさ」

 スカーレットのその言葉を聞いて、村長がゆっくりと頷いた。

「なるほどな。して、それだけではあるまい?」

「まいったね。なんでもお見通しかぃ?」

「まぁ、儂には星詠みがあるでな。儂に関係する大体の事はわかるようになっておる」

 星詠み?

 占いみたいなものだろうか?

 自分に関係する大体のことがわかるって結構な精度だと思うんだけど。

「じゃぁ、もったい付ける必要もないね」

 そういうとスカーレットさんがドンッと机にバッグを置いた。

 アレは……マジックバッグか?

 前に遠藤氏に見せてもらったことがあるけど。

 アレより少し小さいか?

 いや、まぁ中に大量に入るアレなら、外見と中身は関係ないんだろうけど。

「いつもよりは少ないけど、中身はドリス皇国金貨で千枚、アルトランド金貨で千五百枚、小国家群で使われているハーラル金貨で三千枚ってとこさね。全部やるよ」

「これはまた……とんでもない額じゃのぅ」

「これだけあれば、しばらくはもつだろ?」

 もつ?どういうことだ?

「いや、いつも助かるよ。あの時、お前を守ってやれなかった儂らに……」

「そのことは言いっこなしだろ?あの時は私も悪かったからね。それでもこうして受け入れてくれている。それだけで十分さ。それよりも……、実際どうなんだい?」

「ふむ。あまり芳しくはないのぅ。正直、人口が増えすぎた。周辺国からの食料の購入で何とかもってはいるが……。結界の中では敷地も限られる」

「やっぱり……。金だけ持ってきても対処療法にしかならない、か」

 あの……。

 完全に俺の事を居ないものとして扱ってるみたいなんだが……。

 せめて俺にもわかるように説明してほしいが……仕方ないか。


 俺は目を閉じて、スキルを意識する。

『分析』スキル。

 多分こういうことに使うスキルではないとは思うが。

 限られた情報から分析するという意味では使い物になると思うが、どうだろう?


 スキルを発動すると、今までの会話の中から、必要そうな情報を引き出してくれた。

 その辺りを総合して考えると。

 どうやらこの村は外界とは隔絶された結界の中にあること。

 そして、おそらくこの結界は広げることができない。

 人口が増えすぎた、というのがその証だろう。

 ざっと見た感じ、人口密度は皇都ほどとはいかないものの、結構高そうだ。

 敷地を増やせないなら他所から食料を買うしかない。

 そして、この状況は結構長いこと続いているのだろう。

 恐らく、スカーレットさんが冒険者や傭兵をやっているのもそのためだ。

 いつもより少ないという発言から見るに、前回来てからさほど時間が経っていないようだし、あまり稼げなかったのかな?


 こうして聞いてみると、氷室さんから聞いていたスカーレットさんの印象とはだいぶ違って聞こえる。

 多分、冒険者として成功したのはこの村の存在があったのだろう。

 世界に17人しかいない、天災級の冒険者、スカーレットとクリアント。

 彼女達の人となりが少し見えてきた気がする。


「あー、すまない。少し発言良いか?」

「ふむ、お客人。どうなされた?」

「いや、まぁ。たいしたことじゃないんだけど。そのスカーレットさんの預けた金で、どのくらいこの村は耐えられるんだ?」

「何も考えずに使って数ヶ月、節制をすれば一年は持つかと思いまする」

「なるほど、けどいずれにしても、根本的な解決にはならない。いや、むしろ時間が経てば悪化する可能性の方が高い。違うか?」

「い、いえ。まことその通りで。今回を凌げたとしても、長い歴史の中で見れば些細なもの。いずれはまた同じように食糧難に陥るでしょう。……正直な話、口減らしなども考えなければなりませぬ」

 そこにいる全員が、少し暗い顔になる。

 やっぱりそうか。

 まぁ、確かに限られた土地じゃあ、食料が急激に増えるわけじゃないしな。

 それはドリス皇国や皇都でも同じこと。

 だけど、ドリス皇国は今からその問題に着手できる。

 改善の兆しがある。

 と、なれば。

「じゃぁ、少し提案なんだけど」

「「「?」」」

 俺は少し間をおいて全員がこちらを向くのを待った。






「うちの国では今、開拓をしようとしているんだ。協力してくれないか?」




 その提案に、そこにいた者たちが目を丸くした。


















「えっと、その。協力、とは?」

 俺の発言に、レイワルドが疑問を口をあんぐりと開けながら俺に聞いてくる。

「え?そのままの意味だけど?ぶっちゃけ、国内でも住人は募ってるけど、まだまだ人数は足りないんだよね。希望があれば新しい皇都の方でもいいけど」

「……それは、奴隷として労働力を求める、と?」

 レイワルドの髪がブワッと逆立つ。

 怒りからか魔力を制御できていないようだ。

 緑色のオーラが目に見えるほどの魔力か。

 結構な実力者だな。

『鑑定の魔眼』で見る限り、レベル18か。

 って、18!?遠藤氏と同じレベルだって?

 いやいや、すごい実力者だったわ。

 しかし……、問答無用で殺気を向けてくるのは評価としてマイナスだな。

 俺は指を一つ鳴らす。

『魔素完全制御』で相手から魔力の制御を奪う。

「なっ!?」

「落ち着け。そもそも、ドリス皇国は攫ったり騙して奴隷にするとかは違法だから。犯罪奴隷ならまだしも、君たちを奴隷にする気はないよ」

「それを信じろというのか!?……って、ちょっと待て?ドリス皇国だと?」

 え、今かよ。

「おい、スカーレット。この客人はいったい何者だ?」

 レイワルドがスカーレットの方を振り向いて聞く。

「ドリス皇国の皇王陛下だよ」

「こ、皇王陛下!?噂の神獣様か!?」

 レイワルドがバッと伏せる。

 土下座のような恰好だ。

「た、大変失礼いたしました!失礼な物言い、平にご容赦を!」

「いや、別に大丈夫だよ。けど、レイワルドは少し冷静に他人の話を聞いた方が良いぞ」

 魔力を向けられたのが俺だからよかったものの他の人だったら大変だったことdろう。

 すぐにでも飛び掛かれる状態って感じだったしな。


「重ね重ね、失礼いたしましたな、お客人」

 村長がレイワルドの非礼を詫びてくる。

 まぁ、俺からしたら別に非礼とも思わなかったんだが。

 それに、この村長。俺の感だが今日俺が来ることを知っていた節がある。

 さっきも星詠みでどうたらって言っていたし。

「それで、移民の件ですが……移民と申しましてもすぐに選定する、という事はできません」

 うん?まぁ、そりゃそうだよな。

 いきなりな話だったし。

 そもそも俺が提案したのも思いつき……、いや『分析』スキルによる分析だ。

「つきましては、ひと月ほどお時間を頂きたい。その間にこの村の民をまとめてみせましょう」

「了解。じゃぁ、ひと月後スカーレットと迎えに来るよ」

「よろしくお願いいたします」






 よし、これでスカーレットの用事も完了だな。




 さーて、帰って昼寝でもしようかな!

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