15-8EX.皇王専属執事、シュバルトディーゲル 開拓
私は、皇都の皇王陛下……、正確には皇女殿下の王配であり、魔王を統べる神獣様であらせられるアレクシス様の専属執事を務めているシュバルトディーゲルと申します。
元々は皇女殿下の馬車馬を務めておりましたが、紆余曲折有り皇王陛下の膨大な魔力により人の姿を頂き、お仕えする立場となりました。
専属執事と申しましても、私の上にはまだハイドワーフのドラディオ殿という執事長が居ますので日々研鑽を積んでいる次第です。
「ふっ!」
私は大きな卵型の岩に対して掌底を放つ。
それなりの大きさを持つ岩は、粉々に砕ける。
「ふぅ。まぁまぁですね」
「おっしゃーー!野郎ども!あんちゃんがやってくれたぞ!つづけぇ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
私の後ろから、大勢の屈強な男たちが群がっていく。
私は今、皇都を少しだけ南に離れた街道沿いの広場に来ています。
ここは新しい街道を作るために新しい町を作る予定地です。
街道や町はまだ予定段階ですが、先だってこの辺りの整地を国家事業として発注し、ギルドの力自慢をそろえて障害となる岩や倒木を片づけに来ました。
私は故セ・バスティアン・ローランド老の世話になっていたこともあるので、その拳法も見続けてきました。
この身体は、馬の魔獣だったころの特性と人の特性を掛け合わせたような特性を持ち、私は彼の拳法を見よう任那で習得してみましたが、意外にもこれが良かったようです。
この拳法は私の性に合っていました。
そして、この拳法を見込まれ、私はドラディオ殿からこの仕事を承りました。
信頼されて任されたこの仕事、しっかりと努めなければ。
「いや、あんちゃん!助かったぜ!さすが、皇家の専属執事様だ!」
「いえ、まだ見習いで。このくらいどうという事はありませんので」
「はははっ!そう謙遜すんな!これだけの岩を壊せるなんて、そんじょそこらの冒険者でも出来ねぇぜ!」
はは……。
これだけ褒められると少し気恥しいというか、なんというか。
「おつかれさまです。シュバルトディーゲル様」
ギルドから派遣された男と談笑していた私の背後から声が掛けられました。
女性の声?
振り返るとそこには、ドリアードのミリア様がいらっしゃいました。
彼女は百合の花が植え付けられた植木鉢を抱えていました。
あの百合の花はああ見えて魔物なので要注意です。
はて?彼女は皇都で植物に関しての研究を任されていたと思いますが?
「えぇ。実はその一環で。少し気になることがありまして」
「気になること?」
ミリア様は懐から何かの切れ端を出してきました。
「これは皇都の蔵書室から見つかった地図の一部でして」
地図?
私はミリア殿から見せられた紙きれを確認します。
……たしかに、地図のようには見えます。
地図には大きな川、一応ドリス川という名前も見えます。
そして大きな丸印。
なるほど、確かに川と山脈の位置関係から見る限りでは此処に目をつけるのはいい判断かと思います。
……しかし、これなんともアバウトな地図というか。
丸印の大きさから考えたら、これ建設予定の倍くらいの広さがあるんですが。
「これは……、宝の地図でしょうか?しかし、妙に範囲が広いですね。これは見つけるだけでも骨が折れそうな」
「えぇ。それで私だけでは大変なのでついでに皆さんに手伝っていただこうかと」
あぁ、そういう事ですか。
確かに今ちょうど人手はありますからね。
せっかくですし、ちょっと私もお付き合いしましょう。
他からの内容も気になりますし。
「……しかし、なぜミリア様が宝探しを?というか精霊のミリア様に宝探しに興味がおありで?」
私は作業現場から少し離れてミリア様と歩いているときに聞いてみました。
一般的に、精霊は悪魔や天使と違い、そういった俗世的な物は興味がないと思われているはずですが。
「まぁ、宝探し自体には興味はないんですが……、これが挟まっていた書物が問題で」
ミリア様の説明によると、この書類が挟まっていた書物には古代からの食用植物などが書かれていたそうです。その中から、現代にもあり、かつ食用にできそうな植物を選定していたらしいのですが。
その書物の中に挟まっていたそうです。
「私が思うに、これはこの書物の著者が何かを隠したのではないかと」
「ふむ?」
なるほど、確かにその線はあるでしょう。
「で、このような本を書かれている方でしたので、もしかしたら植物の種か何かかな~、と」
なるほど。
私は切れ端を裏返してみる。
そこにはジョン・クリストファー・フィリップ・シェラードの文字。
はて?とんと聞かない名前ですが。
まぁ、私は生まれてこの方、十年程ですから知らないことの方が多いいはずですからね。
ひょっとしたらドラディオ殿なら何か知っているかもしれませんが。
「おい!あんちゃんたち!」
考え事をしていた私の方をがつっと掴む手がありました。
「えっと、どちら様でしょう?」
「この工事の開拓班のまとめ役、イシュー殿ですよ。ミリア殿。して、イシュー殿どうかされましたか?」
「いや、別に用事があったわけじゃねぇんだがよ。なんか辛気臭い顔してたらな。現場の奴らに移ったらイケねぇと思ってよ」
ははは。
口は悪いが、周りの事をよく見ていて、部下や他の人の事もよく見ている。
私は、彼をちらりと見る。
冒険者のランクを示す証は……戦争級。
それともう一つ、何やらタグのようなものが付いていますが。
『紫煙の剣』?
はて?それはガラハド殿のパーティーの名前だった気がしますが。
……まぁ、別に気にする事でもありませんが。
「あぁ、すみません。ちょっとこれを見ていたもので」
私は彼に向かって名前の書かれた裏面を見せました。
「んん?なんだこりゃ?」
あぁ、失礼。
識字率はそう高くなかったですね。
「これは……」
「ジョン・クリストファー・フィリップ・シェラード?なんだこりゃ?名前か?にしてもなんというかいろんな国の言葉が混ざってるな?」
……これは驚きました。
読めたんですね。
冒険者とはいえ、読める方も少ないでしょうに。
……いや、失礼。彼のタグにも『紫煙の剣』と銘が彫られていましたね。
分かってもおかしくはないでしょう。
「ジョンってのはこの辺にもある名前だが、クリストファーってのは帝国西部に多い名前だな。フィリップってのはどこにでもある名前だが……多いのは帝国南部だな。並びからするとシェラードは苗字だが、正直これじゃどこの国の人間かもわからん」
「……驚きました。文字が読める教養のほかにもそれほどの知識をお持ちとは」
「ん?あぁ、まぁこのくらいはな。師匠が良かったもんで」
なるほど、師匠。……よい言葉ですね。
しかし、結局名前であることくらいしかわからなかったですね。
おや?
私は手に持った切れ端の違和感に気づきました。
若干生地が透けているように見えます。
「……これは?」
あぁ、なるほど。
そういう事ですか。
「どういうことですか?シュバルトディーゲル様?」
「隠し文字ですよ。ミリア殿」
「隠し文字?」
古い手法です。
生地に特殊な透明な液体で文字を書くとその部分がほんの少しだけ溶けて薄くなります。
なのでそれを光にかざすとそこが若干光に透けて文字が浮かび上がってくる、という寸法です。
「あぁ、これは確かに」
「へぇ、こんな手法が」
私は二人に手に持った
さて、この切れ端には何が書いてあるのでしょうか?
『この記述を見つけたものに我が成果を託す』
『川に沿って二股の大きな木から西に百五十歩。卵型の岩の足元に宝を埋める』
『この宝はいずれ世界の民を救う宝となるだろう』
なるほど、やはり宝の地図でしたか。
「お、おい?あんちゃん?」
ん?
「その、言い辛いんだけどな?」
はて、なんでしょう?
凄く言い辛そうにしていますが。
「それっぽい岩、さっきぶっ壊さなかったか?もうどこにあったか分からなくなっちまってるんだが?」
あ。
あぁぁぁぁぁっ!?