15-8.ゴブリン侵略
さてっと。
あっちはリアに任せるとして。
「くそっ!なんなんだよ!」
俺は俺の相手に集中しないとな。
俺は盗賊の目の前に地面に降り立つ。
「な、なんだ!テメェは!」
「俺?一応、冒険者?」
「冒険者だと?くそっ!俺らを討伐に来たのかよ!」
討伐。
うーん。確かに討伐なんだが、盗賊目当てではないんだよなぁ。
来てみたら盗賊だったってだけで。
「えっと、一応聞いとくけど、降参の意思は」
「はっ!捕まりゃどうせ縛り首だろうが!」
うーん。
降参の意思はなし。
どうしたもんかなぁ。
っていうか、そもそも俺の森魔法で拘束されて動けないだろうに。
こいつを除いて……多分4人か。
ここから逆転も難しいと思うんだが、なんか逆転する秘策でもあるのか?
「おい!てめぇ!さっさとこの卑怯な魔法を解きやがれ!」
俺の目の前にいる盗賊以外の盗賊が何か焦ったように叫ぶ。
「はぁ?要求できる立ち場かよ?とりあえず、お前らはこのまま生きたままギルドに引き渡すつもりだけど」
「おい!そんなこと言ってる場合じゃねぇんだ!早く!早くっ……!」
そう叫んだ瞬間、叫んだ奴の首がきれいに宙を舞った。
しんっと静まり返った森の中でボトリ、と首が落ちる音だけが聞こえた。
え?
「あれ?何が……」
そう俺が呟くと、堰を切ったように残った盗賊達が叫び始めた。
「くそがっ!もう追いついて来やがったのか!」
「やべぇぞ!頭!あいつら弓を持ってやがる!このままじゃハチの巣だ!」
「おい!てめぇ!さっさとこの魔法を……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目の前にいた盗賊の足に矢が刺さった。
クソ!考えてる暇はない!
村の迷惑になる連中の生死なんてどうでもいいけど、助けられる命であれば助けたい。……ただでさえやり過ぎちゃうからな。
俺は再び飛んできた矢を火魔法で焼き払う。
咄嗟の事だったからか、とんでもなくでかい火柱が立ってしまった。
天まで届く火柱は轟々と熱と音を上げて燃え盛る。
……やっべ。
今言ったばかりなのにやり過ぎた……。
「ひ、ひぃ……」
おいおい。
良い大人が漏らすなよ。
まぁ、流石にこれ見たらビビるなって言うのが無理だろうけどさ。
さて、そんなことよりも。
流石にこれだけの魔法を食らったら撤退するか?
俺は手を振って魔法をかき消す。
やがて熱気は書き消えて視界がよくなってくる。
そして炎の先から現れたのは……。
GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!
笑い声が聞こえた。
薄ら暗い森の中にいくつもの顔が浮かんでくる。
その顔は緑色で小さい。
あの時、シラクサ辺境伯の腕からジェイムスが作ったゴブリンと同じものだ。
いや、こわっ!?
怖いわ!
もっとまともな登場の仕方してくれよ!?
いや登場がまともならいいってわけじゃないけど。
にしてもこれは……。
ざっと数えても数十……、いや十数体はいる。
そういえば、確認されたゴブリンの数は50以上ってギルドで言っていた気がするが。
GYAGYAGYAGYAGYAGYAGYA!!
そんなことを考えていると声が一際大きくなる。
次の瞬間、森の中からいくつもの顔が飛んできた。
いや、正確には顔だけじゃなくて本体が飛んできてるんだけど。
ってこんなこと考えてる場合じゃないな!
俺は正面まで迫って来た顔を殴る。
殴られたゴブリンは俺から見て正面方向に吹き飛んだ。
吹き飛んだゴブリンは周りのゴブリンを巻き込んで何かの液体の水溜まりを作った。
それを見届け間もなく、他のゴブリン達も殺到し始める。
速度は、それほどでもない。
けど数が多い。
俺はゴブリン達の突撃を体を捻り、屈み、後ろに飛んで避ける。
ゴブリン達はそれぞれ粗悪な剣や斧を持っていたり、持っていない奴は自身の爪を使って攻撃してきている。
俺はその突き出された腕をつかんで投げつけたり、時には蹴り飛ばしていなす。
とにかく数が多い。
どうしたものか。
魔法はまた加減を間違えそうだしな。
おっと。
俺は後ろの見えないところから突き出された剣を首を捻って避ける。
そのまま突き出された剣に手刀を叩きこむ。
すると剣はあっさりと折れた。
やっぱり、粗悪な武器だ。
……しかし、なんていうか装備もバラバラ。
流石にぱっと見じゃわからないけど、おそらく品質もバラバラなんだろう。
もしかしたらこの辺りの人間から奪ったものかもしれないな。
世界各国のギルドでは見知らぬ魔物……、ゴブリンやオークなんかの人型の魔物、妖魔の被害が増えていたというし。
これだけ数が多いと被害も結構大きかったんじゃないかな?
ん?
なんだかさっきまで突撃していただけのゴブリン達と動きが変わった?
俺は新しく突撃してきたゴブリンの足を払って首元に手刀を加えながら考える。
そう思って改めて観察すると、やっぱりさっきまでとは動きが違う。
なんというか、連携が取れているというか。
突撃してきたゴブリンを囮に、死角から別のゴブリン2体が俺に襲い掛かってくる。
俺は、死角から現れたゴブリンを裏拳で対処する。
これは……もしかして。
司令官か?
そう思って改めて風魔法で周りを観察する。
まぁ、よくファンタジーである奴をイメージしてみた結果なんだが。
俺は意識を集中する。
まぁ、集中といっても周りの警戒は忘れない。
俺は回し蹴りを背後に放つ。
俺の背後から現れたゴブリンは歯と唾液をボロボロとまき散らしながら吹き飛んだ。
うぇ……。気持ち悪……。
っと、意識を集中しないと。
俺の魔法は広範囲を探索する。
ちょっと頑張って半径100m。……いや、200mにしよう。
……敵の反応は、残り約30体。
先ほどまでの戦闘で既に20体以上のゴブリンを戦闘不能にしてるし……。
まぁ、計算上は合う。
攫われた人は……、あの3体くらい纏ってるゴブリン達の近くにある反応か?
問題はここから。
司令官っぽい動きをしているヤツ……、具体的には安全な後ろの方で突撃に加わらずにいるやつ。
……わからん。
いや、たぶんこの中のどれかなんだろうなぁ、というところまでは絞れたけど、ちょっとどれかって言うのは分からんなぁ。
物語の主人公みたいにはいかない、か。
まぁ、いいや。
こうなれば切り替えだ。
俺は水魔法で霧を発生させる。
この霧はゴブリン達の視界を奪うものだ。
GYA?GYAGYA?
流石にゴブリン達が混乱し始めた。
俺は再度魔法を行使する。
先ほど発生させた霧の水分を高速で移動させる。
小さな霧の粒子は1つづつが鋭い針のような状態になり、ゴブリン達に襲い掛かる。
少しして、ブシャッと、嫌な音がして霧の一部が赤く染まる。
……霧で視界を塞いでおいてよかった。
視界が晴れるとそこには倒れ伏した多数のゴブリン達がいた。
ふぃ~。
何とかなったな。
「おーい!神獣様!って、うわ!?ナニコレ!?」
村の有る方からリアが走ってくる。
……とりあえず、後片付けしないとなぁ。
……ピピッ。
強力な魔力を検知しました。
過去の情報と照合を開始します。
……この処理には時間がかかります。
ん?
なんか声が聞こえた気がするんだけど。
俺は森の中をよく見てみる。
たぶんあっちの方から聞こえたと思うんだが?
あれは……?
そこには、いつかのような錆びきった体の部位が刺さっていたのだった。
結構、削りました。理由は戦闘シーンが冗長になってきていたからです。