15-6.妖魔討伐依頼
「で、なんで僕が同行してるのさ」
「なんでって、暇だろ?仕事もないわけだし」
「暇って言うなよ!?求職中なだけだよ!!」
いや、要は仕事がないってことで暇なんじゃねぇか。
俺は、あの後、真悟……リアを拉致……もとい誘って妖魔たちが発見された地域へと飛んできた。
ちょうどギルドに来ていたみたいだったからな。
「しん……リア、冒険者登録はしたのか?」
「うん。一応ね。まぁ、まだ登録したてだからあれだけど」
「あぁ、大丈夫。俺もまだ1回しか受けてないから同じようなもんだ」
「うん?……うん?いや、それって大丈夫じゃないんじゃ……」
うん。
でもまぁ、今回は大丈夫だと思う。
今回は冒険ではなく、近くを探索して掃討するだけだ。
問題ないだろ。
懸念することがあるとしたら……、今回の相手は普通の魔獣じゃなくてジェイムスや黄衣の王と関係がありそうな妖魔……ゴブリンってことだが。
そういえば、ゴブリンって成人向けコンテンツだと女性を繁殖のために襲うんだよな。
……俺はリアを見た。
「な、なにさ」
……女性だな。
少なくとも身体は。
……ま、まぁ大丈夫だろう。
俺は目線をずらして前を向いた。
「え、ちょ。いったい何よ?ちゃんと言えよ」
後ろから聞こえるリアの声を無視しながら俺は進んでいったのだった。
「えっと。ギルドからの情報だと、この辺にフィルボルとエルフが中心の村があるらしいんだが」
俺はギルドから渡された簡易的な地図を見ながら開拓されていない簡易的な道を進んできた。
既に結構な距離を進んでいるが、分かってはいたがこの国は森が多い。
鬱蒼としたようなジャングルとか樹海とは違う感じの少し小綺麗な感じだが、下草や低木はそれなりに生えているのでやはり視界は悪い。
俺は行ったことはないが、ドミニオ公爵領の西の森はもっと鬱蒼とした、ジャングルのような森らしい。
獣も少ないのか獣道すら本数が少ないのだとか。
しっかし、歩きずらい。
こんなところに村があるのか?
結構広めの平地に開拓した村って聞いてたけど。
ペレッツォ商会はシャトワの町を中心に海沿いの村々を通ってローデン伯爵領の男爵領の村ミクス、そしてローデンの町、更にそこから北上してシュトレイバー伯爵領の領都タクラマクト、アラン伯爵領の領都アラン、ウェルシルヴィア侯爵領のスルトンを経由し、ドミニオ公爵領ドミニスク、グレイスノース公爵領フラース、ドリス山脈を突っ切って、ウェルマ侯爵領ウェルマンシア、ガルアーノ公爵領ガラスバンド、オルガン男爵領オルガン、最後にシャトワに帰ってくるというルートで各村々で取引を行いながら移動予定だったそうだ。
その際に寄ったのがシャトワ伯爵領のミーサの村。
ここが、通報の有った例の村らしい。
何故か移動もしくないような道を通っているのかというと、そういうところにこそ、需要があるらしい。
特にスルトンまでの道はほとんどが街道というには険しい道らしいからな。
交易に行き辛い村の人々にとっては重要な収入源だったのだろう。
ちなみにミーサの村は主な生産物は果実。
ベリーやブドウによく似た果実が取れるそうだ。
シャトワから出た商隊は各地から集まって来た商品やシャトワの海産物をもってミーサへ運び、そこから果物で作った加工品をもって海沿いの村であるミクスやローデンで商売、塩や海産物を再び仕入れ、今度は内陸であるアランの町まででそれらを商売。そこで岩塩などをもってさらに内陸へ行き、内陸産の鉱石などをもってシャトワまで帰ってくる、といった行商を行っていたそうだ。
以前貰った地図を頭に思い描きながら考えてみると相当な長距離を移動している商隊だったようだ。
改めてこの世界の人たちの屈強さには驚かされるな。
「あ、言ってた村、多分まっすぐ行った右手側に見えてくると思うよ」
「ん?」
言われて意識して匂いを探ると、確かにほんのりと薪の匂いがしてきた。
「よくわかったな?リア?まだ結構距離があるのに」
「まぁ、ね。真言魔法には遠方の匂いを分類ごとに嗅ぎ分けられるものもあるからさ」
へぇ。便利なもんだ真言魔法。
魔力の流れなんてほとんど感じなかったが。
「いや、結構きついのよ、これが。魔力の消費はほとんどないけど、常時発動するような魔法だからさ。結構意識を持っていかれるというか」
あー。なるほど。
無意識になっても、例えば耳鳴りみたいな感じだと、ふとした瞬間に意識し始めて、しばらく頭に残ってしまう。
所謂、イヤーワーム現象状態って言えばわかるだろうか。
あれを意識して止めるのはなかなかに骨だからな。
などと考えながら森を歩いていると、リアが話題を変えて話してきた。
「そういえば、フィルボルって言えば。知ってるかい?フィルボルの正式名称」
「正式名称?フィルボルじゃないのか?」
土の神もそういう感じで言ってたし。
「それがさ、古代エルフの書物に書いてあったんだけど、そもそも神に作られたときの彼らは、『フィル・ヴォルグ・ゲーリオン』って名前を与えられていたらしいんだよ」
「フィル・ヴォルグ・ゲーリオン?」
「うん。まぁ、今では呼びやすくフィルボルって呼ばれてるみたいだけど。それで、長い年月を越えて今のアグナワリア帝国のあたりに移住した人たちが繁栄して今のフィルボルって名称になったらしいよ」
「へぇ?」
「で、面白いことに、僕らの世界でもフィルボルグっていてさ。アイルランドの神話に出てくるんだけど、アイルランドから出て行った人のうち、ギリシャに向かった民族がフィルヴォルグ、北に向かった人たちがトゥハ・デ・ダナーンって呼ばれることになるんだけど、面白いことに、この世界でフィルボルの上位種と言われているエニグマってのも僕らの世界ではギリシャ由来の『謎』って意味の言葉なんだよ」
うん?どういうことだ?
「いや、この世界の名称って、なぜか僕らの世界と近い発音や意味ところもあるからさ。何かテンプレートっていうか、ベースみたいなものがあるのかなって」
テンプレート。
そうか、テンプレートか。
そういや、リアは知らないんだっけ。
ノブナガとか、セイメイがいるってこと。
もしかしたら、俺達やこいつらのそっくりさんもいたりして。
「あ、見えて来たみたいだね」
ん?
おっと。気づいたら結構な距離を歩いて来ていたみたいだ。
「あ、ほんとだな。煙が見えて来た」
……ん?煙?
「お、おい。アレってもしかして……」
「急ぐぞ!」
「え、ちょ。ちょっとまって!」
焦らせたせいかリアが躓いた。
えぇいクソ!
そんなドレスみたいな服で来るから!
「ちょっと失礼!」
俺は何度目かの女性を抱えての疾走をした。
間に合ってくれよ!
と、言う設定になりました。
次回、戦闘。