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15-1.北アルトランドの争乱

 浪漫にカメラ・オブスキュラ……所謂、ピンホールカメラによる投射機の存在を教えてから数日。

 結局、ピクチャーの魔法を求めて来た浪漫の要望に応えてやることはできなかったが、アレはアレで満足できたようだ。

 うんまぁ。

 満足したならいいんじゃないかな。

 ちなみに、なぜか着いて来ていたジョージだが、ギルドの用事を済ませたらさっさと帰ってしまった。

 今日は家に誰もいないので書物の整理をするそうだ。

 本の虫というのはああいう奴の事を言うんだろうか。



 うーん。

 しかし、ピクチャーか。

 そういえば世界の三大発明ってたしか火薬・羅針盤・活版印刷だっけ?

「なぁ、ドラディオ?ちょっと聞きたいんだけど、火薬ってもう発見されてるのか?」

「はい聖上。確か木を燃やしたものと、火山の土、それに秘薬を混ぜたものを使用するとか」

 あ、やっぱりあるのか。

 カズマスが銃を使っていたからあるんだろうな、とは思ってたが。

 しかし、それにしてはこの国とかで見たことない気がするが。

「秘薬は生産量が少なく。生産が非常に大変なので数を用意できず、魔法師団の方が成果が出せる為、廃れました」

 へぇ。それにしちゃぁカズマスはポンポン撃ってるみたいだけど。

「原理はよくわかりませんが、あの銃はカズマス殿の魔法の力で空気中の水分を利用して使用できるよう改良されているようです」

 凄いな。カズマス。

「ヴァンパイア族の方々は水魔法を得意としておりますので。カズマス殿はアンデッドとなった際にさらにそれを昇華したようです」

 おぉ……。

 なんだかすごい話だ。

 頭のいいミツヒデ、THE武人といった感じのカツイエ、万能に様々なことをテキパキとこなしていくナガヒデと目立つ人が多い中で結構地味な印象だったんだが。

 まぁ、そうだよな。ノブナガの四天王って感じなんだから、凄くないわけないか。

 ちなみに弓の勇士になった嵐山の分は考慮しない。

 アレ、スキルだしな。



 羅針盤は……、あるか分からないけど、前にノブナガがこの国に来ていたって言ってたから、近いものはあるのかも。



 後は活版印刷だが。

 これは要はハンコや版画の大きな奴だから思いついたらパッと作れなくはないはずだ。

 いや、多分どっかにもうあるんじゃなかろうか。

 俺はローラーってイメージが強いけど、多分技術的にはまだ無理なんだろうな。





「ところで聖上。サーヴィク男爵の件ですが」

 サーヴィク男爵?

 ってアルトランド貴族のか?

 兵士たちは一般の兵士は解放したが、中隊長以上の兵士や貴族たちはそのままにしている。

 今までの捕虜たちは数十人のグループだったり、精神崩壊してほとんど動きが無かったりだったが、流石に健常者を数千勾留するのは無理があったようだ。

 タダでさえ、飽和状態だったしな。

 今、ミツヒデがアルトランドに交渉に行っているから、下手に交渉とはできないだろうけど。

「そのミツヒデ殿からお手紙を預かっております。出立後、しばらくしてから開けるように、とのことでした」

 何だろう一体?

 俺は手紙を開けてみる。

 ふむふむ?

 ふーむ?

「聖上、ミツヒデ殿は何と?」

「手紙の内容を率直に言うなら、もしも自分が出た後に捕虜の解放の話が出たら、貴族当主以外の捕虜は無償で解放していいとさ。その際、北ルートは避けて東か南ルートで解放すること、だって。あと、しばらくしたらツェールとグレイのところに人質に来たサーヴィクの息子と娘が来ると思うからグレイの領地にでも放り込んで婚約させとけってさ」

「ま、まぁ平民である兵士たちはもとより身代金は望めませんし、介護が必要なガラハド公爵領の兵士や、直接交渉中の帝国の士官付き兵士たちとは重要度も違いますからしかし、北ルートを避けるというのは?」

「アルトランド王国北部で怪しい動き有、だってさ」

「な、なるほど?」

 まぁ、分からんでもない。

 このタイミングで手紙を開けろ、しかも予言したような内容。

 ゲームや漫画なら孔明か、とツッコミを入れられ……。

 ……孔明。そうか、孔明か。

「ドラディオこっちの話は手配してやっていてくれ。サーヴィク男爵とは今度俺が話そう。会見の手配をしておいてくれ。それと一つお願いがあるんだけど」

「はい。何なりと」

「人材募集のお触れを出したいんだけど」

「人材募集……?ですか?どのような人材をお求めで?」

「……軍師、それとミツヒデとナガヒデのサポートをできる人物、かな?」

「軍師、とは。たしか戦略に長けた、宰相と将軍を合わせた職でしたか?では、貴族の方々から広く募集を……」

「あぁ~、別に貴族にこだわる必要なはいよ」

 多分、民間にもそういう人って埋もれてるんだろうし。

 出来れば、戦争とかそんなことは俺より頭のいい奴に任せてしまいたい。

 ノブナガやセイメイがいるんだ。

 孔明とか司馬懿とかハンニバルとか。

 他にもそっくりさんがいてもおかしくはない。

 前回のように俺がやるより、専門家がやった方が絶対良いはずだ。

 そっくりさんじゃなくても、良い人物がいるかもしれない。


 まぁ、とんでもない野心家が来られても困るんだけど。



「それともう一つ、ピクチャーの魔法の使用者の件ですが……」

 ん?





 そうしてひそやかに、けれども急速に。

 この国を巻き込む環境は変わっていく。

 そのことを知るのは、もう少しだけ後の事である。










 ~アルトランド北部、スプレイト公爵領領都スプレイト~


「そうか。予想通り、敗戦したか」

「はっ。()()()の被害は甚大。一人の公爵と、六の伯爵に加え、多大なる人員を失いました」

「そうか」

 私は、我が主の下知を静かに待った。

 この会場にいるものは皆、同じだろう。

 スプレイト公爵、ウェスカー公爵、リモース公爵、ジブラス公爵、トゥルハス公爵の5人がいる中央のテーブルを見つめる。

 この秘密会談の間に届くように調整された報告。

 それに反対するものたちは事前に粛清されている用意周到さ。

 いやはやなんとも恐ろしい。

「では、今が好機、ということだな」

 公爵が机に手を置く。

「決を採る。私の判断に反対の者はいるか?」

 全員が無言を貫く。

 いるわけがない。

 そういった人物は事前に粛清されているのだから。

「ならばこれより、我らは()()ハーランド・リオスより独立しスプライト王国を名乗る!国境に兵を集めよ!」

「「「「「はっ!」」」」」

 その場にいた全員が立ち上がり、上位者へ礼を取る。



 時代が、動き出した瞬間であった。







 ~アルトランド北部、イーデン公爵領領都イーデン~


 私、イオス・イーデンは南に位置するスプレイト公爵からの書状を握りつぶす。

 確かに、現国王ハーランド・リオスは相当の愚か者だったようだ。

 先日の無謀な侵略戦争で国内は疲弊。

 さらに家臣である捕虜の貴族の身代金も出すつもりがないときたものだ。

 国内から批判や反発も大きい。

 私は建国時から王家に忠誠を誓っているイーデン公爵の統領であるが、正直領内の王への反発を抑えることでいっぱいいっぱいだ。

 まったく、馬鹿なことをしてくれた。

 確かにスプレイト公爵が書状にしたためているように、彼が王となったほうがまだ幾分かマシであろう。

 しかし、王も王だ。

 幾度となく反乱の兆し有、と書簡を送っていたにもかかわらず、それを無視し続けるなどと。

 大方、親族である彼が反乱を起こすわけはないと高をくくっていたのだろうが。

 己の欲と理念に忠実過ぎて、周りが見えていないとはこのことだろうな。


 だからこのような、反乱を招くのだ。


「失礼いたします。御屋形様。皆さま、御準備が整いました」

「よろしい」


 私は椅子から立ち上がり、扉をくぐる。

 そこには……。

「皆、よく来てくれた」

 私の影響下にある貴族や町の代表たちが顔をそろえている。

「この中には先のドリス皇国との戦で親族を失ったものもいるだろう。確かに、私も奴らは憎い。しかしながら、今はそれどころではない。国内が揺らぎを見せている。今こそ逆賊を打つべし、と!」

 私は手を振り上げた。

「ここにいる皆で民の為立ち上がろうぞ!目標は首都カラマンティ!狙うは王の首一つ!」

「「「おぉ!」」」

「私はここに!アルトランド王国からの独立と、イーデン王国の建国を宣言する!」

「「「おぉ!」」」



 幾度となく、繰り返されてきた新しい時代の幕が開いた瞬間である。

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