14-9EX.剣の勇士、ジョージ 新しい生活
俺の名前はジョージ・レッド・北島。
父が日本人、母がドイツ系アメリカ人の家系に生まれた。
アメリカ、ケンブリッジのケンブリッジ大学という大学で非常勤の講師をしていた。
ケンブリッジ大学はハーバード、ボストン両大学に囲まれた住宅地に移設された大学で元はセーレムの南西にあった。
そのさらに前身は知らないが……。
どっかの大学の別学科か何かが独立したとか聞いたが。
ま、大学の歴史なんてどうでもいい。
問題はこの大学色々とヤバい学科が揃っていることだ。
神学科や考古学はもとより探検科、野営科、神秘学科に黒魔術学科とよくわからないものもあった。
サークルではなく、学科だ。専門学校ではないんだから。
もちろん、必須な勉強や座学はあるが。
ま、そんなところで非常勤とはいえ講師をしていた俺も俺だが。
ちなみに俺は考古学科の非常勤講師だった。
と、ま。そんなことはどうでもいい。
今は一介の冒険者だ。
「おーい、ジョージ。これはどこに置くんだ?」
「それは台所にでも置いておけ。後で片づけておく」
「承知した」
声をかけてきたのはイーサン。
正式な名前は……Eなんとかかんとか号って名前らしい。
にわかには信じられないが、彼は半サイボーグで、彼の世界では火星移住が進んでいるらしい。
ちらっと聞いたが、酸素も体に埋め込んだ生成器で生成できるので、半分生身だけど真空状態でも多少の時間は耐えられるらしい。
いや、圧力とかいろいろほかの問題はあるらしいが。
「しっかし、ずいぶん買い込んだな?これは地図か?こっちは学術書か?」
「まあな。なにせ俺たちはこの世界では無知だからな」
知識は武器になる。
今のところ王宮……じゃなかった、皇族のサポートがあるとはいえ、しばらくは冒険者として生活していかなければならないとなると、やはり知識はあって損はないだろう。
「しかし、魔法だ何だと。この世界はすごいな」
「俺の世界にもあったぞ?ま、この世界のように自由に使えるものではないがな」
俺の世界の魔法といえば、化け物と交信したり、代償を払って心臓をつぶしたり。
いや、よく生きていたと自分でも思う。
「ジョージ殿、こちらはどちらに置けばよいでありましょう?」
「あぁ、それはリビングに置いておいてくれ」
「サー!了解いたしました」
こいつは嵐山緑新。
転移前は軍人だったらしく特尉という階級とサイクロンワンという御大層な二つ名まで持っていたらしい。
EGAとかいう国際組織らしいが。
まぁ、こういう奴だ。
火星で開発していた奴や、邪神とやり合っていた奴がいるんだ。宇宙人の侵略から地球を守っていた組織に所属していた奴がいても驚くことはない。
「しかしながら、革の鎧に鉄の剣。何とも不安でありますね。もっとこう、魔剣、みたいなものがあるかと思いましたが」
「そんな、日本のライトノベルや漫画じゃあるまいし」
いや、もうこの世界自体が既にライトノベルや漫画の世界なんだが。
ちなみに、私が少しながらでもそういう知識があるのは仲間の1人が日本出身だっからだ。
日本から留学してきたカラテが得意な少女だった。
まぁ、そんなことはどうでもいいな。
俺たちは今、共に召喚された3人で共同生活を送っている。
俺は調査と採取と後衛それに諸々面倒な交渉事、イーサンは力仕事とタンク役それに植物の種の採取、嵐山は後衛や探索とそれぞれ役割分担をして仕事をしてそれなりに堅実に成果を上げている。
採取や調査だけでも週に金貨数枚。流石に全員が宿にずっと泊まれるほどの収入はないので3人で家を借りた。
一軒家ではないが皇都のサポートで3部屋分の仕切りの有る家を借りれたので十分恵まれているだろう。
ちなみに、金貨数枚も稼げているのは採取や調査の量のおかげだ。
あの報酬内容では1人ではここまで稼げないだろう。
俺たちは複数人いることを良い事に結構な採取や調査の量をこなせていた。
初めのうちは皇室のサポートで部屋をうけて城の一室を借りていたが、流石にいつまでも甘えるわけにはいかない。
おかげで結構、俺たちはこの町のギルドで有名になってしまった。
採取や調査を中心に請け負い、毎回大量の成果を出していたらそうなるだろう。
……、国のお偉いさんからは違う意味で注目されているみたいだが。
俺達はそれぞれ、剣・槍・弓の勇士とやらになってしまったからな。
3人とも、剣もなければ槍もなく弓も持ってないがな。
ある程度の注目は仕方ない。
「さて、イーサン、緑新。俺はちょっとギルドへ野暮用を済ませてくるがお前たちはどうする?」
「俺はもう少し片づけをしたら市場を見てこよう。良い苗があるかもしれん」
「自分は城下に。少々武器店を見て回りたいであります」
「緑新、それなら俺と一緒に行こう。ついでに荷物を持ってくれ」
「了解いたしました」
ふむ。
2人は買い物か。
「では、私はギルドへ行ってくる」
「おう」
「サー、お気をつけて」
出ようと振り返った私は一瞬足を止める。
「なぁ、緑新。そのサー、ってのやめないか?」
何故か緑新は俺への返事にはサーをつける。
「癖のようなものですので。ジョージ殿はこのパーティーのリーダー。つまり上官であります。多少の癖はご勘弁願えればと」
「さいですか……」
俺はがっくりと肩を落とす。
サー、と呼ばれるのはちょっと慣れないな。
プロフェッサーとは呼ばれたことがあるが。
まぁ、いいか。
訂正することをあきらめた私は、ロングコートを手に持ち、玄関を出た。
俺は白衣とロングコートを愛用している。
ロングコートの下に白衣を着るスタイルだが、正直これは私なりのおしゃれなのだが、昔の仲間からは「変」と何度も否定されたが。
懐かしいな。
町に出た私は、ギルド方面へと歩き始めた。
この辺りは平民区だが行政区画に近く、地価の面から言うとギリギリ一番高い区画からは外れている。
おかげで屋台や商店もそれなりに多く、物資の調達がしやすいのはポイントが高い。
さて、ギルドはここから王城方面に行けばたどり着ける。
大通りをまっすぐ北に上がれば冒険者ギルドの建物だ。
そういえば小腹がすいたな……。
この国は1日2食とプラスアルファだから慣れないとお昼時にはすこし腹がすく。
あぁ。日本のコンビニが懐かしい。
あのパンやアイスは一度体験すると本当に恋しくなる。
香ばしい匂いが鼻腔をくすぐってくる。
あの屋台からか。
「すまない、店主。一つもらえるか?」
「あいよ。銅貨3枚ね」
俺は店主から串に刺さった焼いた鶏肉をもらう。
串は日本のヤキトリで使われているようなものではなく、枝を削って体裁を整えただけの武骨なものだ。
串に刺さっているとはいえ、それなりの大きさのものだ。
「こいつはうまそうだ」
とはいえ、調味料も少なくほぼ焼いただけのものだろう。
かりっ。ほくり。
口に入れた瞬間に皮目のパリパリ感と身のほくほく感が襲ってくる。
これは素晴らしい。
この世界の屋台でもこれほどのレベルのものを出せるのか。
うむ。意外な収穫だった。
今度はイーサンと緑新を連れて来よう。
「ん?あんた確か……」
その時、俺は後ろからかけられた声に振り向く。
「君は……」
そこに居たのは、確か浪漫という男だ。
可憐な少女と一緒に歩いているようだ。
お互いに直接の面識はないが、他の転移者を通じてお互い知っているという状態なのだが。
「いや、まぁ。そんな格好してるの、あんたくらいだろうからな」
それはお互い様だ。
……しかし、そんなに珍しいのだろうか。
ハンチング帽に丸眼鏡、白衣とロングコートはこの世界ではやはり目立つのだろうな。
お気に入りの格好だったんだが、この世界に合わせて眼鏡以外は変えた方が良いかもしれない。
しかし、君もそのウエスタンハットはずいぶん目立つと思うがな。
お互いに目立つ格好のおかげで今回はすぐに判別出来たと、前向きに考えておこう。
そんなことをお互いに話していると浪漫が話を切り上げようとする。
「まぁ、いいや。俺ら今から王城に行くんだが、暇なら来るか?」
そんなことを浪漫がいう。
王城。
王城か。そういえば久しく寄ってないな。
ふむ。たまには顔を出しておくか。
「よし、決定だ。ってあぁ、そうだ。その前にちょっとギルドに寄っていいか?すぐ終わるからよ」
「わかりました。私は外でお待ちしておきます」
「わかった。しかし俺も外で待つことにしよう。入ったら仕事を探してしまうだろうからな」
そう私達は会話を交わし、ギルドへの道を進んでいくのであった。
1/17 一人称訂正。
すみません。うっかりしてました。