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14-6.劇団

「劇団の創設、ですか?」

シャルロッテさんが不思議そうな顔をする。

真悟が就職活動に来た翌日、俺は早速シャルロッテさんに提案に来ていた。

今いるのは皇王用の公務室。

まぁ、俺がよく使う部屋より広い。

俺が使っている部屋はイドバルドが使っていた執務室で、シャルロッテさんが使っているのはシナーデさんが使っていた執務室だ。

俺の部屋もそこそこの広さなのだが、この部屋結構な広さだ。

まぁ、部屋の事はどうでもいいんだが。

「あぁ。昨日エミリーさんから新しいメイドを雇いたいって話があってさ。1人連れて来たんだけど、ちょっと個人的な事情でその娘は断ってな。ただ向こうも、就職活動に来たらしいからせめて就職の斡旋をと思ってさ。で話を聞いてるとどうも演劇とか歌唱とかそういうのに興味があるみたいなんだ」

「なるほど」

シャルロッテさんが顎に手を当てて考えるような仕草をする。

「って、お姉さま。この計画書に署名している人たちって」

その署名には次期セレーノ伯爵であるグレイ、そして浪漫と遠藤氏、ついでに騎士団両隊長、そしてイドバルドの署名を先ほどもらってきた。

なぜそのメンバーなのか。

それはこの劇団の『本来の目的』にある。

「アレク、このメンバー、何か娯楽以外の目的があるのですか?」


この世界の劇団というのは、主に2つのタイプがある。

1つは吟遊詩人が作ったタイプ。これは人気のある英雄譚や恋愛物語、芸人などを招待して演目を増やし各地を回りながら上演する旅芸人タイプ。

もう1つは商会や各領の騎士団、貴族が出資し、拠点が決まっており、そこを中心に公演を行う、劇場タイプ。

俺がやろうとしているのはこの内、劇場タイプの劇団だ。

出資者は皇族とセレーノ伯、つまりグレイの家であり、基本は公演を興業のメインとする。

しかしその実、本当の目的があった。

「実は新しく作る劇団には隠れた目的があるんだ。それは、皇都を影から護る守護者としての役割だ」

「「守護者?」」

そう、昔のゲームよろしく、普段は劇団、緊急時には隊員として働いてもらおうと思っていた。

「しかし、皇都の守護であれば白薔薇も赤百合も使用できますが……」

「警備兵も結構いるし、余剰な戦力じゃないかしら?そもそも、今の皇都に必要かしら?」

うん、まぁ。そうなのだ。単なる守護であれば確かにわざわざ劇団に偽装する必要なんてないし、俺の悪い方向に広まった噂があり、空中で逃げ場のない皇都を襲うような酔狂な輩がいるとも考えづらい。

しかし……、しかしだ。

「いや、実際に使うのは下に計画している町の方だよ。実際問題、下に町を作ると手が回らない可能性があるからな。官民合同で協力していく第一歩ってやつでどうか一つ」

「は、はぁ」

俺のお願いにシャルロッテさんがなんとなく生返事で答える。

まぁ、無理もないだろう。

あまりに突拍子もない考えだ。

なにせこの世界の公共事業といえばほぼ強制的に民間にさせる命令のようなものが主流なのだろう。

「皇都の守護者って何から守護してもらうつもりなの?アレク?」

そうマリアゲルテさんが俺に問うてくる。


そう、そこなのだ。

何から守るか、と言われたらすぐには答えられない。

なんせ、創設からして思いつきなのだ。

あえて言うなら、あの次元をさまようモノ、……空鬼のような怪物から皇都を守る要因として。

アイツは俺でも気配を察知できなかった。

そんな事態からいち早く人々を守るには……。

って、あれ?





俺は今、なんて言った?

なんで、俺は今、あいつを空鬼って呼んだんだ?

次元をさまようモノ、空鬼。




俺は、あいつを知っている?




いや、違う。



知っているんじゃない。


知識を得たんだ。


何処で?







俺は、何処でこんな知識を手に入れたんだ?












「アレク?」

マリアゲルテさんの言葉に俺は一気に現実に引き戻された。

「アレク、どうしたのですか?急にボーっとして?」

「あ、あぁ。すまない。まぁ、いずれにしても組織の再編や新設は必要だと思う。今までとは町の状況も大きく変わるだろうし」

「な、なるほど?」

「ふむ。そうなると軍と騎士団、民間から集める民で仕事を分散して……」

頭がハテナ状態のマリアゲルテさん、何かを考え始めるシャルロッテさん。

っていうか、シャルロッテさんに関しては妊婦だし、あまり考え込んだりしてほしくないんだけど。


ってそうだ。

そういえば、と俺はふと思ったことを2人に聞いてみた。

「そういやぁ、結婚式とかってしなくていいのか?俺、全然聞いてないんだけど?」

「「結婚式?」」

あれ?

ないのか?結婚式って。

「あの?アレク?結婚式とは?」

「結婚式って言うのはお互いを夫婦と認める儀式みたいな。ウエディングドレスと白いタキシードを着て神に夫婦になることを誓う、みたいな……」

「うーん。お披露目会的な物かな?けど、それならもうセレーノ次期伯爵と一緒にやってるじゃない?」

あ、あんなあっさり終わる感じなんだ。

ファンタジー作品でも結婚の時の式とかウエディングドレスとかはよくあるから、てっきりこの世界にもあると思ってたんだけど。

「確かに、より上位存在、例えば旧教会……神聖トリポリタニア公国でいえば2人で教会に赴き、司祭が光の神を代行し宣言したり、貴族間であれば両家の関係者と皇族の代行を宴席に招いたりというのはありますが」

「ねぇねぇ。せっかくなら、そのケッコンシキ?っていうの広めてみない?」

「広める?」

「私達でこの世界のケッコンシキ第一号になるのよ!」

えぇ!?

いや、そんな歴史的な結婚式になるのはちょっと……。

「マリア……、そんな簡単に……。大体、広めてどうするのよ?」

「え、新しい文化として儀礼化する……、とか?」

マリアゲルテさんの発言にシャルロッテさんがため息をしながら頭を抱える。

「いい?マリア、私達や貴族たちはともかく、平民はそうはいかないわ。ドレスを作るにも親戚を集めるにもお金がかかるのよ?この国はそこまで豊かではないのよ?そんな中で私達や貴族たちがそんな豪華なことして御覧なさい。平民は一気に反乱をおこしちゃうわよ」

「うーん。まぁ、確かに。文化として創出しちゃうと、みんなやりたくなるだろうし。やっぱり無理よねぇ」

「ま、まぁ。式自体は国が豊かになったら、ってことで」

「そうね。楽しみにしてるわ。アレク」

「楽しみにしておきましょう。よろしくね、アレク」

俺の答えに2人は満足げに応える。

え?なんかもう結婚式は広める流れなのか?

なんで楽しみにしてるなんて……?

「まぁ、アレクがするって言うならそうなるのでしょうし」

「アレクだしねぇ」

期待が重い……。

うん、まぁ。やれるだけはやるから。





「皇女殿下、皇妹殿下、聖上」

俺達の居る部屋にリリアーノさんが入室してきた。

ちなみにだが、皇妹殿下というのはマリアゲルテさんの敬称だ。

シャルロッテさんが皇女として国を継承した際に、彼女は皇妹と呼ばれることとなった。

もっと言えば、他国では『白薔薇の騎士姫』なんて呼ばれ方もあるみたいだ。

この前のアルトランドの貴族の捕虜から聞いた。

シャルロッテさんも『青き庭園の姫君』とか呼ばれていたな。

ちなみにこの世界において皇女とは子供のいない皇王の妃とその子供の女子に対して使われる言葉らしい。

つまり、シャルロッテさんもマリアゲルテさんも現状は皇女と呼ばれる。

子供が出来れば皇妃となる。

ではその時、マリアゲルテさんのように残りの姉妹はどういう呼称になるかというと、答えは皇女のままらしい。

ただしそれはその姉妹に子供ができるまで。

貴族に降嫁したならその場所で閣下だの殿下だの立場によっていろいろ呼ばれることになるだろう。

しかし、今回は嫁ぎ先が2人とも俺。

こんなことは前代未聞らしい。

まぁ、そりゃそうだ。

そうなってくると呼称をどうするかって悩んでる人たちもいるらしい。

第1皇女の妹で第1皇女(皇妃)の婿養子の第2夫人。

そんな人は今までいなかっただろう。

……いや、めちゃくちゃ複雑だな。そりゃ悩むわ。


「リリアーノ?どうかしたの?」

「はい。聖上にお申し付け頂きました通り、大天使ガブリエル様、戦乙女族ロタ様、エルルーン様、スルーズ様をお連れしました」

その言葉の後、部屋の中に件の4人が入って来た。

「神獣様、遅くなりました。我ら四名ただいま参上いたしました」

ガブリエルがそういうと、後ろの戦乙女族たちが敬礼の形をとる。

「アレク、これは一体?」

あぁ。そうだった。

「この娘らをさっき言ってた劇団の初期メンバーに加えようと思って」

「「え!?」」

「「「「え!?」」」」


「え?」

俺、そんなにおかしなこと言った?

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