14-4.転移者同士の自己紹介
「し、失礼いたしました!……しかし、あの、先程は人のような姿でしたが?」
少女、というか真悟がベッドの上で土下座する。
どうやら、先程の一件に対する謝罪らしい。
まぁ、あのくらいなら全然平気なんだけど。
「いや、まぁ。というより、エミリーさんから俺の紹介はなかったのか?というか眼の前で陛下とか聖上とか言ってたからわかってるものだと……」
「エミリー様からはさる高貴な御方としか……」
あぁ、うん。そりゃすまなかった。この城……というか国では多分、聖上って呼称は俺しか使われてないから、多分エミリーさんも分かってるものだと思ったんだろう。
「それで、久しぶりというのは?あと、なんで僕の名前を知っている?」
ようやく本題。
まぁ、そういう反応になるのはわかってる。
わかっててちょっとからかったところもあるし。
「うーん。まぁ、何から話していいか。とりあえず、真悟。お前、女神に転移されたんだよな?」
「え?あ、あぁ……」
よし。これで確定。
こいつは、女神側の転移者6人の内の最後の1人だ。
「いやもう。こっち側でよかった。それならまだ対処のしようがある」
「え、こっち側って言うのは?」
「あぁ、それはこっちの話。気にしないで」
そういいながら俺は尻尾を揺らした。
「とりあえず、自己紹介からだな」
俺はテーブルから飛び降りる。
「じゃ、まずは私からね。氷室彩音。2020年からの転移でこっちに来て1年くらいよ。向こうじゃ高校生。こっちじゃ一応、災害級の冒険者をやっているわ。はい次、グレイ」
「え、この状況で自己紹介普通に始めちゃった……。まぁ、いいや。えっと、グレイ・ハマー……もとい、グレイ・セレーノです。向こうでの名前は田中太郎。2035年からの転移です。こっちに来てから16年程です。向こうでは高校生でしたけど、こっちでは、そのこの間次期伯爵になりました。周りからは既に伯爵扱いされてるのが若干の不満です。次は、浪漫さんの方が良いかな?」
「おう。俺は大賀浪漫。向こうじゃ冒険家。こっちじゃトラシオスのロマン工房の工房主だ。まぁ、何でも屋だな。向こうからこっちに来たのは……多分、2024年だったな。こっちに来て3年くらいだ。ほぃ、自己紹介終了。次、遠藤君?」
「え、この流れで私もするんですか?えっと、遠藤飛鳥です。向こうでは引きこも……ではなくて、一応高校生でした。2030年からこっちに来て3年くらいです。こちらではフレズベルグという冒険者兼行商隊を率いて行商をしています。実をいうと私は皆さんとはちょっと境遇が違いまして。いろいろと複雑なのでそれはまたいずれ。では最後、神獣様」
「ん。おほん。俺はアレクシス、という名前をシャルロッテさんからはもらってはいるが本名は十和田多夢和。2020年から転移、こっちにきて数ヶ月だ。俺の事は、言わなくてもなんとなく想像つくだろ?」
そういうと、真悟が口を開けたまま固まる。
ん?
どうしたんだ?こいつ?
「って、お前!多夢和!?なんでまたそんな姿に!?」
「女に転生したお前に言われたないわい!!そんなことより、お前の番だぞ」
「え?」
「自己紹介」
「あ、あぁ。えっと、では」
こほん、と真悟が咳払いしてベッドから降りる。
「改めまして、皆様。今世での名はリアリーゼ・トゥルース・パートン。ハロワ侯爵旗下、パートン村の代官、ロイド・トゥルース・パートンが次女でございます」
真悟が見事な貴族の礼、所謂カテーシーというやつを披露する。
相変わらず、こういうことはうまいなぁ。
「前世、というか転生前は劇団に所属しておりました。皆様に倣えば、転移したのは2017年になります。転生前に数ヶ月、転生後に15年程、こちらの世界で生きております。皇都へは就職活動に来ました」
え、結構こっちにいる期間長いな?
っていうか真悟、もしかして行方不明の後すぐに転移しているのか?
「……と、まぁ今の身体は代官の娘ですので『私は』このような感じに教育されましたが、『僕の』中身は男です。上谷真悟と言います。そこにいる多夢和の友人です」
「「「「ぶっ!?」」」」
俺と真悟以外の全員が噴き出す。
まぁ、そうなるよな。
俺もステータスを見た時は思わず吹き出しそうになった。
我慢するのも大変なんだぞ。
しかもあの時は獣人の身体だったからな表情でばれてしまうし。
「あ、あぁ……。そうなのか。なんて言うか大変だったな」
浪漫が口元を押さえながら真悟の肩を叩く。
「え、うそでしょ?いや、いくら何でもこんな境遇ってあるんですか?」
グレイが遠藤氏に質問するが、それは遠藤氏には分からんだろうに。
「い、いえ。私は女神さまの転移の事はよく存じ上げていませんが、神獣様のお話を聞く限りは女神様関連であれば何が起きてもおかしくはないかと……」
ほら、遠藤氏も戸惑ってるじゃないか。
「……この場合って性別で分ける時どうしてるのかしら?お風呂場覗き放題?」
氷室さん、そこ突っ込まないであげて。
多分、本人もめちゃくちゃ苦労してるだろうから。
「うぅ……」
ほら、真悟泣いちゃったじゃん。
「えっと、すみません。ちょっと、こみ上げてくるものがあって」
真悟が泣き止むのを待ってから俺たちは会話を再開した。
「ごめんなさい。デリカシーの欠けた発言だったわ」
「い、いえ。こちらも急に泣き出してしまって」
「そういえば、女性になったってことは……、そういう教育されてるんですよね?大丈夫でした?」
謝罪し合った氷室さんの後ろでグレイがボソッと呟いた。
「そういう教育?」
それに慎吾が疑問文で答える。
「えっと、その。男性との行為というかなんというか」
ちょ、おま!?
なんつう事を聞いてるんだ!?
「……ちょっと、その手の話は今終わったばかりなのになんで蒸し返すのよ?」
「え?あ、いや。ティナさんがそういう風に言っていたので。それに友人が女になったらやってみたいことベスト3と言っていたので!ちょっと気になって!」
「殴っていいわよ。上谷さん。それともリアリーゼ、と呼んだ方が良いかしら?」
「……リアリーゼで大丈夫です。この身体は間違いなく彼女のものですから。よろしければ皆様、リアとお呼びください」
「リア、ね。分かったわ」
「あと、許可ありがとうございます。回転柱槍」
「ちょ、すみませんって!!」
「立場が上の貴族からの性的な言動。つまり、セクハラよ。ギルティ」
真悟が短い詠唱で空中にドリルのような物体を生成する。
っていやいやいやいや。ちょっとまって。
こんなところでそんなもん撃たれたら俺の部屋が壊れてしまう。
「ストップ!!真悟。今回はそのくらいで許してやってくれ。グレイには後で言っておくから」
思わずグレイの前に飛び出して守るように立ちふさがる。
「し、神獣様ぁ……」
「グレイも!ちょっとは反省しろ。なんでいっつもいっつもお前は一言多いんだよ!」
「す、すみません」
ん?なんだ?
遠藤氏がなんだかこちらを、というかグレイをじっと見ている。
何かあるのかな?
「……ふぅ。形成解除」
真悟もわかってくれたのか魔法を解除した。
……そういえば気になってたんだが。
こいつの魔法、ずいぶん詠唱が短いんだな?
氷室さんの魔法とはずいぶん違う。
「……なぁ、リア。その魔法、他の奴の魔法とずいぶん違うみたいだが、何か特別な、スキルか何かなのか?」
浪漫の発言に今度は氷室さんが発言する。
「そういえば、そうね?なんというか、普通の魔法じゃないわね。詠唱がほとんどないわ」
「魔法って……、あぁ。真言魔法の事ですか」
「「「「「真言魔法?」」」」」
ってなんだ?それ?