14-3.新しい商売
上谷真悟。
俺が高校生1年の頃に知り合った男。
運動、勉強、何をするにも平凡。(これは本人談だ)
特に目立つ人物ではなかった。
しかし、やたらと女性にはモテた。
こういっては申し訳ないが良く居る友人Aの立ち位置の男だった。
部活動は演劇部で高校卒業後は芸術系大学に進学。
大学卒業後、東京の劇団に就職。
3年後、劇団No1団員の未成年との交際のスキャンダルが発覚。
それ以降、劇団は活動を自粛。
確かその後、こいつも行方不明になっていた気がする。
そういえば、あの頃は忙しくて結構後になってから知ったんだっけ。
「と、言うのが俺が知っているこいつの情報なんだけど」
そこにいた全員がへぇ、と声を漏らす。
「ちなみに今はリアリーゼとか名乗っているらしい。代官の娘なんだと」
「へ、へぇ。そうですか」
俺はエミリーさんにお願いして氷室さん、グレイ、遠藤氏、浪漫を呼び出してもらっていた。
これで氷室さんの言っていた少年と事故の遠藤氏を除き、5人。俺、氷室さん、グレイ、浪漫、そして上谷真悟。俺の知りうる限り、6人の転移者全員が出揃ったわけだ。
あ、いや。遠藤氏やゴルディみたいな事故、それに3人の男の方の神の実験のようなケースはまだあるかもしれないが。
あとは氷室さんの言っていた少年がどこに居るのかだが。
まぁ、これだけの人数をそろえるまで結構な時間かかったし、最後の1人もいずれ見つかるだろう。
「それで、友人だろうと思ってちょっとくらい悪ふざけしても許されるだろうとちょっとふざけてみたと」
「そ、そうです」
反省しています。
「いやしかし。元は男なんだろ?なんでこんな姿になっているんだ?」
「あぁ多分、彼?彼女?は転生なんだと思います。僕もこちらに来る前に体験しましたから」
「なるほど、転生、ね。ファンタジーってのはなんともロマン溢れる世界だな」
「っていうか浪漫、一旦自分の工房に帰るとか言ってなかったか?」
「いや、そのつもりだったんだけどな。ちょっと遠藤君とグレイ君に協力することになってな」
「協力?」
「こいつら商会立ち上げててよ。今、諸々の手続きをな。というか、皇王陛下様よ。ちょっとお願いがあるんだけどよ」
お願い?なんだ?いったい?
「あの……、なんだ。城の庭に緑の髪のねぇちゃんがいるだろ?あのねぇちゃん作ってるトマトみたいな奴、アレの種を融通してくれねぇか?」
あぁ、アレか。
「トマトは俺たちの世界じゃ、17世紀末ごろに食われるようになった植物だ。残念ながら芋はもうあるみたいだから商品にならねぇが、こっちだったらそこそこ売れるものになると思うぜ。まぁ、実際に売れる必要はないんだが。商売やってるよって建前だな」
あぁ。そういう事ね。
売れる必要がないって言うのはどういう事だろう?
「えっと、それは私から。先日、閣下が暴漢に襲われたのはお耳に入っておりますか?」
「?そりゃ、もちろん」
たしか、その件でアルトランド戦直前に捕虜の貴族の息子と娘が投降してきたんだよな。グレイに押し付けたのは覚えている。
「それで、閣下の周囲から閣下の警備体制を強化する要請がありましてそれで商会を立ち上げることになりまして。その商会の代表を私が引き受けることになりました」
商会?
なんでまた?商会なんだ?
「まぁ、伝手があったってのもあるが、工房なんかよりは広く浅く手掛けられるからな。俺も一口噛ませてもらったってわけだ。資金も当人が貴族なら問題も少ない。それに、情報は武器だ。表も裏も手を伸ばせば届く場所にあるなら使わない手はないだろう?」
ふぅん。
まぁ、グレイたちにすることにいちいちこちらが口を出すのもあれだからな。好きにやらせておくか。
「それにしても、裏の情報っていうのは?」
「まぁ、情報屋を利用するってのもありなんだが、ぶっちゃけ酒場件娼館を運営するのが手取り早いだろうな」
その言葉に、今度はグレイ本人が驚く。
「は!?娼館!?ちょ、そんなの聞いてないですよ!?」
「言ってないからな」
本人の了承無しに進めるって……。それはどうなんだ?
「というか娼館ぐらいでいちいち騒がないでくれよ。もう大人なんだから」
「え、いや……その、すみません」
浪漫に言われて若干グレイのトーンがダウンする。
まぁ、俺らの年代にとってはいまさら娼館とかで騒がれてもなって感じだ。
というかグレイ。
お前転移前がいくら若かったからって言っても、この世界で十数年過ごしてたならもう精神的には大人じゃないか?
ってまぁ、この世界じゃ先輩に連れて行ってもらうとかもできなかったろうし、仕方ないかな。
「ま、娼館って言っても初めは性的な接待はなしだ。そういうのは従業員にもしもがあったときに面倒だし、初めはお酌させる程度だろうが。その代わり金額は安く提供する」
なるほど?つまりキャバクラかな?
「まぁ、ノウハウがたまればゆくゆくはそういう店でもいいけどな。とりあえずはうちの商品の卸売りと娼婦業、それに伯爵の坊主のギレフガルドの商人の息のかかった商会からの仲介業ってところじゃないかな。これである程度の情報は集まると思う」
「まぁ、娼館がどうとは言わないけど、情報を集めるにはいい手だと思うわ。雇用の創出にもなるし」
あー。まぁ確かに。
女性男性問わずそういう需要はあるし。
「ってわけで、許可とか申請とか諸々。めんどくさい事、全部頼むわ」
浪漫がそんな感じでおどける。
いや、丸投げかーい!?
……うん。まぁ、許可。というか、俺にそんな面倒なこと押し付けるなよ。
「う、うぅん?」
真悟を寝かせたベッドの上から、衣擦れの音と共に声が聞こえた。
「あら?起きたみたいね」
「あれ?ここは?」
起きた真悟の元に氷室さんと遠藤氏が近づく。
「大丈夫ですか?どこか痛いところはありませんか?」
「いえ、大丈夫です」
氷室さんに支えてもらって上半身を起す。
いや、見れば見るほど、違和感しかない。
身体は女性の、それも少女といっても差し支えない年齢なんだが、中身は真悟なのか。
「お?嬢ちゃん、じゃ、ねぇや。兄ぃちゃん。起きたか?」
「え?兄ぃちゃんって……?」
「おっと、そいつはこいつが説明するから」
そういって浪漫が俺を後ろ手で指さす。
良い感じで俺に振ってくれた。
おぅ。任せとけ。
「あー、おほん。久しぶりだな。真悟」
「えっ!?」
あれ?なんかめっちゃ驚いてるけど、なんだ?
「……ね、猫が喋った!?」
え?
あ、しまった。
俺の今の姿、ポーションイーターだったわ。
すっかり忘れてた。
いや、まぁ。
すまん。
正直ここの所、この部屋で人間の姿でいたこと無かったから、すっかり失念していた。
だって誰も突っ込まないんだもの。
俺が猫の姿でいることに。
慣れって怖いわ。
おっと。シャルロッテさんやマリアゲルテさんの部屋とか、所謂、致すときは人の姿だぞ?
流石に獣姿ではない。
ってしまった。今から獣人の姿になったら……。
裸の状態になってしまう。
流石に友人とはいえ、裸で久々のご対面は勘弁願いたいなぁ。