14-2.新メイド候補連れ込み失敗
「お、お初にお目にかかります。陛下。私はリアリーゼ・トゥルース・パートン。ハロワ侯爵旗下、パートン村の代官、ロイド・トゥルース・パートンが次女でございます」
エミリーさんに連れられてきた少女が恭しく礼をする。
緊張しているのか、体は若干震えているのがわかる。
緊張というよりは恐怖かもしれないが。
いずれにしても、あまり良い感情は持っていないのだろう。
そんな怖がられるようなことしたかな?
ちょっとショック。
「えっと……、エミリーさん新しいメイド候補って言うのは?」
「はい、陛下。実は先立って私共メイドの負担が大きくなっており、その解決策として、信頼できる人物からの紹介でメイドを増やそうという話になっており、彼女はその先駆けとして連れてまいりました」
「メイドの増員……?」
「はい。私も身重の身。この先何があるともわかりません。早めに手を打っておいて損はないかと」
なるほど?
「ちなみに、誰の紹介?」
「トメロ魔道具工房のフェランド氏でございます」
トメロ魔道具工房。
シャルロッテさんが俺が来る前から何度も訪れて協力を依頼していた工房の1つだ。
確か、俺の提案した転移門の件でも協力をお願いしていたよな?
ドワーフの鍛冶師ゲオル老師が型や枠などの物理的なところを担当して、エルフのフェランド導師が魔法的なところを担当。
もちろん他にも、フィルボルのロロ技師が素材の調達をしたり、ウィンディアのチリアン道士が様々な物を手配したり。皇都に店を構えるいろいろな人に協力してもらったのだが。
そうか、あの人の紹介か。
実は俺、あの人微妙に苦手なんだよな。
なんというか、何を考えているか分からない感じがミツヒデそっくりで。
別にミツヒデが苦手ってわけではないんだけど。
単純にあの心の底では別の何かを考えそうなところとかが苦手ってだけで。
まぁ、そんなことよりも。
一応、『鑑定の魔眼』使ってた方が良いかな?
信頼できる人物からの紹介とは言え、どんな人物か分からないからな。
俺はこっそりと、『鑑定の魔眼』を発動する。
その結果を見て、俺は驚愕することとなる。
ん?
んん?
んんん~~~~~~~~~~~!?
嘘だろ。オイ。
…………あの女神のクソやろぅ。
「というわけで、貴族平民を問わず、男女ともに年間10名程の増員を……」
そう、言葉を続けていたエミリーさんを俺は手で制した。
俺が考え事をしている間、ずっと喋っていたのだろう。
申し訳ない。
「?」
エミリーさんが不思議そうに首を捻る。
「エミリーさんとりあえず、増員の件はわかったから。……だけど、すまないけど彼女をメイドとして雇うことはちょっと待ってくれ」
「え?」
「えぇ!?そ、そんな!僕、……じゃなかった。私が何か粗相を?」
その場にいた2人の女性が慌てふためく。
……思わず、吹いてしまいそうになったが、ここは我慢。我慢の時だぞ。
「……聖上、理由をお伺いしても?」
「あーまぁ。ちょっと言い辛い複雑な事情で、ってことにしておいて。そんなことよりも、えっとリアリーゼさん、だっけ?」
「は、はい」
俺の問いかけに彼女は慌てたように答える。
少々涙目になっているのは申し訳ない。
「すまないけど、俺の部屋までついてきてくれない?」
「え、えぇ!?」
今度は驚き過ぎて変に声が裏返ってしまっている。
「せ、聖上。流石に彼女は……」
「エミリーさん」
「は、はい」
「悪いけどお使い、頼まれてくれない?」
俺の言葉に、エミリーさんが顔を伏せて答える。
「……かしこまりました」
その言葉に俺は執務室の椅子から立ち上がる。
「じゃぁ、リアリーゼさんこっちだ。ついてきてくれ」
俺は彼女たちの返事も聞かず、歩き出す。
彼女の脇を通り抜けた瞬間、ふわりと良い花の香りがした。
そのわきをすり抜け俺は廊下へと急いだ。
「さて」
廊下に出た俺たちはそのまま豪華な廊下を渡り、しばらく歩く。
ちょうど、良い感じに広い場所に出たので俺は立ち止まり、振り返って彼女を見た。
「?……あの?神獣様?いったいどちらへ?……即後宮入りとかは勘弁していただきたいんですが」
しねぇよ。
なんだよ、どいつもこいつも。
俺ってそんな女性に飢えているように見えるか?
「しないって。そんなこと。それよりも、いったいどういう訳でこうなったか、説明してもらおう。……上谷真悟」
「っ!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、彼女が後ろに飛びのく。
「……どうして、その名前を?」
「あーまぁ、いろいろと」
まさか俺は『鑑定の魔眼』でステータス辺りが筒抜けだよ。なんて言って信じてもらえるかどうか。
というより、なんで女性になっているんだか。
「溢れよ水流」
リアリーゼが短い詠唱、……詠唱?本当に短くてほぼ名称だ。
ともかくそれと同時に指をパチンと鳴らすと水球が発生する。
「ちょ、ちょちょちょ!?」
いくつかの水の球が俺に向かって飛んでくる。
これもしかして、さっきスキル一覧にあった古代魔術ってやつか?
ちょっとびっくりしたけど、分かってしまえば。
俺は相手の魔法から魔素完全制御と魔元素完全制御のスキルで魔力の制御を奪う。
俺に飛んできていた水球は俺の目前で制御を失い、落下する。
俺は完全に水が床に落ちる前に水を上空にまとめる。
床が濡れたら後始末が大変だからな。
わざわざ水系の魔法を使ってきているってことは、城への被害を気にしてだろう。
風を使うと調度品を切り裂く可能性が高いし、火や土は言わずもがな。
光や闇属性は知らんけど。
先ほどの『鑑定の魔眼』で確認したけど、こいつは全属性の魔法スキルを持っているみたいだし。
「げげっ、マジかよ……なら上昇旋風」
新しい呪文を唱え、室内に小さな竜巻のような上昇気流が発生する。恐らく、本来は屋外で使うものなんだろうな。
装飾や調度品があるから手加減しているのか、威力は見た目ほど強くはない。
俺を中心に据えているので攻撃というよりは酸欠を狙った魔法だろう。
俺はその魔法に合わせるように『解析』スキルで逆向き、逆回転の風魔法を発動する。
これで風魔法を相殺する。
「まじかよ……化け物だな」
その行動に彼女の目が驚愕に見開かれる。
とりあえず、大人しくしてもらわないと。
俺は高速で移動し、彼女の後ろに立つと羽交い絞めにして彼女の動きを止める。
ちょっと女性……、体は女性な相手には申し訳ないけど、これは仕方ない。
「きゃっ!?んくっ!」
うおぉぉい!?変な声出すなよ!?
「脅かして申し訳ないけど、俺の話を……」
その時だ。
「ちょっと!これは何のさわ……ぎ、よ?」
その場に現れたのは氷室さん。
助かった。これで2人で押さえられる。
「早かったな、氷室さん。ちょっと手伝……」
「た、助けてください!この方がが嫌がる私を無理矢理……!部屋に連れ込もうと!」
あ、てめ!こら!
「ギルティ」
次の瞬間、氷室さんの細い剣が俺の顔の側を掠める。
「あぶなっ!?」
思わず手を放してしまった。
「ちょ、氷室さん、ストップ!ストップ!」
放した少女が氷室さんの後ろに回る。
あ。
しまった。
逃がしてしまった。
氷室さんの後ろに逃げられたら手が出せない。
「と、まぁ。普通なら助けるところなんだけど……」
氷室さんが後ろの少女の方を振り向く。
妙にゆっくりと振り向くその姿は、傍から見ていても若干怖い。
「残念だけど私、身も心も彼の虜なの。覚悟した方が良いわよ?」
「ひっ!?」
少女が氷室さんの顔を見て逃げ出す。
いや、そりゃ怖いだろうさ。
顔を直接見てなくても怖いもの。
しかし……。
「おーい!神獣さ……ぶぎゃ!?」
たまたま、彼女たちの後ろに走って来たグレイとぶつかった。
グレイと彼女が派手にこける。
「いったたぁ~。え、いきなり何が?って、え?えぇ!?」
「きゅぅぅぅぅ……」
彼女はグレイの身体の上で気絶していた。
まぁ、思いっきりぶつかってたものな。
最近、レベルや能力の割にグレイの身体はずいぶんと強靭になっている気がする。
なんだろうか?何か秘密でもあるのかな?
「で?これ、結局誰よ?」
「あ、あぁ」
若干、氷室さんの目が怖い。
さっきのを見ているからだろうか。
「そういえばなんで氷室さん。さっきなんで俺に味方してくれたんだ?」
「そりゃ、貴方が争っているってことは何か事情があっただろうなってことくらいわかるわ」
そ、そうか。
なんだか信頼が厚いのが心が痛い。
「そんなことより、これは誰なの?」
「あ、あぁ。確かリアリーゼ・トゥルース・パートンって名乗ってたかな?えっと、ハロワ侯爵のパートン村の代官の次女って言ってた気がする。で、ここからが重要なんだけど……」
俺は、彼女の名前を見てからずっと心に思っていたことを話す。
「そいつ、俺たちと同じ転移者で……、しかも、名前を見る限り俺の知り合いっぽいんだよ」
「「え?」」
まぁ、そういう反応になるよな。