2-12.森の守護者
11/25 あとがきに補足追加
大惨事。
今の状態を一言で表すとこの一言に尽きるだろう。
周りを見渡せば腰を抜かして失禁してる男たち。
怯えた目でこちらを見ながら、後ろ手に這いずっている男たち。
絶望的な表情を隠そうともせず、叫びながら我先に扉に群がったり、頭を抱えている男たち。
ちょっと違う人もいるけど大体はそんな感じか。
いや、別にただでかいだけの猫にそこまでせんでも、とは思ってしまう。
まぁ、残念ながら容赦する気はさらさらないが。
それにしても……、ドアの先にはまだ兵士がいる。
じぃやさんが抜かれたのか?
いや、じぃやさんがこの人達に抜かれるとは思わないな。
ということは、やっぱり別の進入路があるのか?
にしてもなぁ……。とにかく多い。
ざっと30人くらいか。
さっき部屋の中にいた15人ほどを含めると、50人くらい。
配置的には多分5人一組で行動しているのかもしれない。
そうすると…、班別行動か。じゃぁ、リーダー格だけに的を絞ってしまってもいいのか?
「「「抜剣!!構え!!」」」
そう考えていると、後から来た男たちのうち、三人が剣を抜き班員と思われる人たちに指示を出す。
どうやら彼らはこちらを完全に敵と認識したようだ。
しかし、すぐ目の前で起きている惨状に指示を受けた男たちはかなりビビっているようだ。
そりゃそうか。俺なら絶対向かっていくなんて御免だな。
「何をしている!?早く抜剣しろ!!」
一人の男の叱咤に兵士たちが慌てたように剣を抜き放つ。
面倒だな。こっちも全員無力化しておいたほうがよさそうだ。
もう一回威圧を使おうとも思ったのだが、もっと別の手段も試してみたい。
何かいいものはないかな?
とりあえず、姫さんたちを守りながら安全な場所に避難できる時間を稼ぎたい。
うーん?
あ、影魔法や幻影魔法はどうだろう。
試してみるか。
俺は影魔法と幻影魔法に意識を集中する。
出来るだけ時間を稼げてかつ相手を無力化できますように!
そう心で思うと、男たちの影が伸びる。
一人に一つではない。
この部屋や廊下は両サイドに、たいまつやランプが掲げられている。
つまり、彼らの影は四方へと伸びている。一人につき4~6個ほど。
影魔法が発動すると、伸びた影から新たな人型の黒い物体が立ち上がった。
「な!?なんだこれは!?」
見た目は鎧を着た人間。
それぞれ武器を構え、一人一人、囲む。
そのうちの何体かの影は俺たちを守るように兵士の前に立ちふさがった。
こりゃすごい。
さらに、影が増殖し、俺たちと兵士たちの間には5列分の影の軍隊ができあがった。
どうやら後ろ4列は幻影魔法っぽい。
兵士を囲んでいる奴らは影魔法だな。
「う、うわぁぁぁぁぁ!くるな!来るなぁ!」
「くそ!こいつら!くらっ……。があぁぁぁぁ!!」
影の兵士たちが、兵士たちへ武器を振るっていく。
彼らも応戦するが、いかんせん多勢に無勢。
簡単に計算すると影魔法だけで5倍近い兵力差があるからそれはそうか。
とりあえず、これでしばらくは時間が稼げる。
そう思ったとき、廊下のほうから新たな兵士が殺到してきた。
その数、約30。その中にはひときわ分厚い鎧を身に着けたイケメンがいた。
その男が一振り、剣を横なぎに振ると、何体かの影が消滅してしまった。
「恐れるな!我が父と、貴様らの主の悲願は今日この日をもって達成されるのだ!各軍奮起せよ!」
「応ぉぉぉぉぉ!!」
彼の一言で、崩れかけていた兵士たちが士気を取り戻した。
どうも、隊長っぽいな。どうするか。
「新種の魔物とは驚いたが……、この程度の魔物ごとき、我が剣にて叩き伏せてくれる!!我が名はエルヴァンス・ガルアーノ!!破軍の名を継ぐものである!全軍!我に続けぇ!!!」
エルヴァンスとやらが演説とともに、突撃してくる。
影と幻影の兵士たちを次々となぎ倒し、俺の間近まで迫った来た。そして、手に持った剣を上段から振りぬいてきた。
ちょっ。早い!?
くそっ。仕方ない!!
俺は、思わず右手を振りぬいてしまっていた。
それだけだった。
感覚的には飛んでいる蚊を叩いたような感覚。
それだけで、彼の上半身は、手に持った剣と鎧ごと、消し飛んでしまっていた。
彼の勢いと俺の手がぶつかってしまった衝撃で彼の上半身は見るも無残に粉々になってしまったのだ。
やってしまった。さすがに殺してしまうとは思わなかった。
しかし、やらなければこちらに被害が出てしまっていたかもしれない。
これは仕方ないと思っておくしかない。
後で墓を作ることにしよう。
しかし、自分でも恐ろしいほど冷静に考えられてしまっている。
なんでだろうか。
現代なら卒倒していてもおかしくないのに。
そして、間を置いて兵士たちのほうへ、彼だったものが落ちていく。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!化け物だぁ!!」
「逃げろ!殺されるぞ!」
「そんな……!閣下が……一撃なんて……」
一人が悲鳴を上げると、あっという間だった。
せっかく取り戻した士気を喪失し、全員我先にと逃げ出していった。
しかし、逃げ出した先には……。
横凪にロングソードが振るわれた。
俺から見て左側から右側に振るわれたそれは、兵士たちの鎧をたやすく切り裂き、床に切り伏せてしまった。
(すまん、遅くなった……って、おぉぉぉぉ!?なんだこいつは!?)
バロンが慌てて剣を構えなおす。
「バロン!?」
(ん?まさか、アレクシスか!?ずいぶんでかくなったなぁ……)
俺も驚いたがバロンも随分驚かせてしまったようだ。
バロンが驚いて固まっている隙をついて、後続の兵士たちはバロンの脇を抜けて逃げ出そうとする。
バロンの脇を抜けた瞬間、兵士たちは棘のついたぶっとい蔦の塊に飲まれていった。ところどころバラのような人の顔ほどの大きさの花もついていて、ちょっとだけ奇麗だ。
まぁ、飲まれた兵士は悲惨だろうが。
「バロン、なにをしているの?」
声のしたほうを見るとエフィーリアだったか。バロンの主とかいう人がいた。
この人、さっきもあんまりしゃべらなかったし、ちょっと暗い雰囲気があって実は苦手。
「ところでバロン。何しにここへ?」
(いやなに、皇家には少しばかり恩があってな。まぁ、エフィーリアもお前を心配していたし、見に来てみたらこの有り様だ。で、何があったんだ?)
「よくはわからないけど、どうも姫さん達が攻められているっぽい。とりあえず、姫さん達を安全なところに逃がすから協力してくれるか?」
(承知した。では、北側の塔を目指すといい。そこにある魔法陣に魔力を流せば俺達の家に転送されるはずだ)
転送の魔法陣か。ファンタジーらしいギミックだ。
ならばとりあえずそこに逃げ込ませてもらおう。
俺は姫さんたちを体に乗せて貰ってから、再び飛ぶイメージをする。
試してみただけなんだけど、この姿でも飛ぶことができた。
塔のてっぺんにある窓から中へ入る……、って入れねぇ!?
体がでかすぎる。
しょうがない。とりあえず影魔法で中にある魔法陣のそばに姫さんたちをそっと降ろす。
魔法陣の中心に魔力を意識すると魔法陣が光を放つ。
そのすぐ後に二人の姿は消えてしまった。
とりあえず、これで二人はしばらく大丈夫だろう。
さて、これからどうしようか。
とりあえず、バロンたちとじぃやさんを引きあわせ……って、あれ?
そういえば、あの女の人のペットの熊、……ローゼシュヴァインだっけか。さっきいなかったような……。
もしかして、家にいる?
姫さんたち、餌とか認識されないよな?
……ひょっとして、結構まずい状況?
遅くなりまして申し訳ございません。
しばらく仕事が忙しいので次回もまた時間がかかってしまいそうです。
補足:バロンたちはじぃやさんと「街を騒がさない」かわりに「聖地である森の中でひっそりと暮らす」という契約をしています。多夢和が飛び立った後、じぃやさんが契約を解除する代わりに協力を要請し、バロンたちは城にやってきました。
「森の守護者」はエフィーリアのことです。上記の契約があり、森の守護者の称号を得ています。
説明不足で申し訳ございません。




