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14-0EX.転移者 上谷真悟 皇都

「さぁ!御覧なさい!これが我らが国の首都、ドリステリアの雄々しき姿……って!なんじゃあぁぁぁぁぁぁぁ、こりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!???」


パラスパーダさんが突然、ノリツッコミを飛ばす。



うん。気持ちはわかる。

いや、だってさ。普通さ、皇都って言っても地面に接した場所だと思うじゃん?

なんだよこれ。



そこには、空を飛ぶ巨大な都市があったのだ。








「なんだ、パラスパーダの旦那。皇都は久々か?最近、皇都は空に上がったんだ」

「だぁれが!旦那じゃ!?ごるぅぁぁあ!?って違う!違うわよ!パラスパーダ!落ち着きなさい!」

パラスパーダさんが怒ったり頭を抱えたり、ずいぶん忙しい。

……なんだか見ていて飽きない人だ。

いや、ほんと。


「まぁ、実際。どうやって飛んでるのかは知らないけどな。最近皇都は空を飛んでな。皇都への搬入は……まぁ、見てからのお楽しみだ。つっても、今からじゃ、夕方の1便しかねぇから少し待ってもらわないといけねぇけどな、あっはははは!」

お楽しみ?

一体なんだろう?












うん。

ふざけんなよ。ファンタジー。


僕は今、ドラゴンの背中に乗って空を飛んでいた。

多分、僕はとっても白い眼をしていると思う。

だって、隣のパラスパーダさんがすごい顔で風を受けているんだから。

流石のパラスパーダさんもドラゴンに乗るのは初めてなんだろうか。

まるで荷物のように……というか本当に荷物のように運ばれながら、僕はそんなどうでもいいことを考えていたのだった。










「はぁぁぁぁぁぁ……。ビビった。マジで」

僕は地面に崩れ落ちて息を整える。

傍から完全にorz状態。

僕の前の友人が見たらなんて思うだろうか。

「テラワロス、とか言われるんだろうなぁ」

いやいや、あいつならそう言った上で「って、誰がオタクだよ!?」ってノリツッコミしそうだな。

あー、でも今ならきっと疲れ果ててそんなツッコミも出せないか。

思えば大学を出てからは会う機会も少なくなっていたし、たまに会っても仕事の愚痴ばかりだったよな。

「テラワロス、ってなにかしら?」

「あぁ、すみません。独り言ですのでお気になさらず」

「そう?で、貴女これからどうするの?」

「あ、はい。トメロ魔道具工房のフェランド・ニヤァーベ様のところに。父さんの知り合いで。そこで働かせてもらう予定で」

「あら?私と同じ目的地なのね」

え?

同じ目的地?

「ってことは、パラスパーダさんもトメロ魔道具工房に御用が?」

「えぇ。ちょっとあるものを納品しにね。随分珍しいものだから。私自ら持ってきたってわけ」

そういうとパラスパーダさんの手元に魔力の光が宿る。

あれ?それってもしかして?

「もしかして、空間魔法ですか?」

「御明察。ちゃんと勉強もしているみたいね?まぁ、私が使えるのはこういう物を収納するタイプの魔法だけだけど。結構容量もあるのよ?」

へぇ。

凄いな。

確か空間魔法って風属性と闇属性の上位属性だっけ?


「なにやら、面白そうな話をしていますね?」

突如、後ろから誰かに声をかけられた。

振り向いた先にはローブを纏った一人の男性、エルフがいた。

あれ?この人ってもしかして……。

「あんらぁ。フェランド。お久しぶりね」

「お久しぶりです、『歩く武器庫』のパラスパーダ」

あ、歩く武器庫?

えらい物騒な二つ名だな。パラスパーダさん。

って、二つ名!?

ちょっとまって!パラスパーダさんってもしかして冒険者ギルドでも相当な実力者なんじゃ……。

あれ?パラスパーダさんって自分で自分の事、商人とかってなかったっけ?

「いやん。乙女にそんな物騒なこと言わないでよ。私の事は『強乙女(おとめ)』って呼んでって言ってるでしょ」

そういう風にパラスパーダさんが返した。

いや『強乙女(おとめ)』って。

ほら、フェランドさんも明らかに困ってるじゃないか。

「おや?そちらは?」

「あ、失礼いたしました。僕……、じゃなかった。私はリアリーゼ・トゥルース・パートン。ハロワ侯爵、パートン村の代官が次女でございます。父からお話があったかと思いますが、この度こちらでお世話になれると聞き、参りました」

僕はドリス皇国で上位者……、主に貴族に対する礼を取る。

僕の家はただの代官なので貴族ではなく名士にあたる。

貴族に対しては、それなりの礼が必要なのだ。

そういう教育を施されてきた。

まぁ、現世でも立場が上の人物……、例えば会社の部長や取引先でもこういった礼儀だけは必要だったから別に特別なことではない。

「あぁ、貴女が。ロイドの二番目の娘でしたか。いやはや大きくなられた。見違えましたね」

「ありがとうございます」


……いや、いいんだけどさ。

中身が男の僕にとって、女性である今の身体を褒められるって言うのは少々複雑な気分だ。

勿論、そんな意味ではないし僕の中身が男であることを知らないのは分かってはいるが、美形の男性に「君、可愛くなったね」って褒められてもなぁ。


「……しかし、ロイドには申し訳ないのですが実は少々事情が変わってしまいまして。実はあなたを雇うのが難しく、……というより、教える余裕がなくなってしまったのです」

「……えっ。じ、事情……ですか?それは……」

「すまないね。クライアントの情報を簡単に漏らすことはできないのですよ」


そ、そんなぁ……。

まさか、ここまで来て実家に逆戻りなんて……。

これじゃ、戻ったら確実に政略結婚の道具に……。

いや、精神が男のまま男に抱かれ……、そ、それは嫌だ!

僕が戦々恐々としているとフェランドさんが僕の肩に手を置いた。


「しかしまぁ、このまま放りだすのもかわいそうなので……」

「え?」

「少しだけ、私とお話しませんか?」







フェランドさんの話を要約するとこうだ。

今は新しい、それもかなり大口の依頼がある為、大規模に人員を募集して魔法の才能、制作技術の高い者たち、そしてそれを支えるお手伝いさんたちを採用してしまった後。

大がかりな仕事に掛かる必要がある為、僕の教育までは手が回らないこと。

しかも期間が長くなる可能性があるのですぐに僕の世話をできないこと。

「と、こちらの状況を説明した上で、貴女に提案があります。……私が就職先を斡旋する、というのはどうでしょう?あぁ、誤解なさらぬよう。斡旋するのは『確実に』信頼できる相手にしますので。友人であるロイドの娘、それも年頃の女性に下手な相手を紹介することはしませんよ」


……正直に言うと超怖い。

ニコニコの笑顔のウェランドさんがマフィアのボスか何かに見える。

流石に、父さんの友人だから大丈夫だと思うけど。

彼も男性だ。

紹介された先が娼館の主や悪い商人……、例えば女性専門の奴隷商とか従業員を自分の愛人のように扱う人間とか。そういう先に紹介されることもあるかもしれない。


「ちなみに、どのような場所を紹介していただけるのですか?」

「それは秘密……と、言いたいところですが、確かに相手も分からないまま紹介されるのは不安ですよね。……わかりました、紹介先をお伝えいたしましょう」


フェランドさんが立ち上がり、戸棚から何かを取り出す。

それをフェランドさんが僕に見せてくれた。

これは……、短刀?なんか竜と獅子が盾を抱えている紋章が入っているけど?

「ちょっ!?これって!?フェランド、嘘でしょ?」

「嘘ではないですよ。こんな嘘をついてしまうと首が飛んでしまいますから。こちらが、今の私のクライアントです」

なんだかパラスパーダさんが驚いている。

「パラスパーダさん、これが何か知っているんですか?」

僕は訳が分からず、素直にパラスパーダさんに聞いてみる。

「ちょっ、貴女!仮にも代官の娘でしょ!?これがなんだか知らないの!?正気!?」

え、えぇ、そこまで?

パラスパーダさんが僕の両肩をガシッと抱き顔を近づけてくる。

いや、痛い痛いっ!!

どんな握力してるの!?

ついでにその顔怖いよ!?

「いいこと?これはこの皇国の皇族の、それも今世に現れた、さるお方を示す紋章よ。……まだできて間もないけど。コレを持っているという事は、フェランドは皇族の、ひいては皇族を庇護する、そのお方の庇護を受けているという事。この国では最上級の庇護よ」

えええええぇぇぇぇぇぇ!?

それってもしかして、紹介先はこの国の王様って事!?


「でもちょっとまって、フェランド。貴方、皇族に彼女を紹介してどうしようというの?」

「……それは」

「……わかってると思うけど、私もかのお方のうわさは聞いたことあるわ」

パラスパーダさんが真剣な顔でフェランドさんに詰め寄る。

フェランドさんは……、若干引いているな。

「最強の魔物。魔王を制する魔王。曰く、山を消し飛ばした。曰く、巨大な魔物を消滅させた。曰く、万の人を一瞬で殺した」

え、何それ怖い。

……僕、もしかして生贄か何か?

「曰く、ドリス皇国の姫を虜にした。曰く、聖女や大天使をその力と肉体で屈服させた」


……ん?


「曰く、城に登壇している女性達を食い物にしている。曰く、無類の女性好き。曰く、彼に虜にされた女性は二度と城から戻ってこない」


え、えぇ。

それってヤバい人なんじゃ?

主に女性にとって。


「貴方、そんな相手を彼女に紹介するつもり?答えによっては……」

「ちょ、ちょっと待ってください」

パラスパーダさんが右手に力を籠める。

その姿を見たフェランドさんが、両手でパラスパーダさんを制す。

「少し誤解があるようです。神獣様は決してそのようなお方では……」


「フェランド様」

ひぇっ!?

突然、予想外の方向から声をかけられて心臓が飛び出しそうになる。

声のした方向に目を向ける。

そこには肩までの髪を丁寧に整えたメイドが立っていた。

「こ、これはエミリー様。よくお越しいただきました」



うわぁ。

なんだか、僕の意思とは全然関係なく。

話が進んでいく。

僕は一抹の不安を抱え事の成り行きを見守るのであった。




どうか神様。

僕をどうか男の心のままで。

無事に過ごせますように。



本当に、頼むよ。神様。いや女神様。

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