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13-22.氷雪を纏う毛皮の獣

遅くなって申し訳ありません。

今回も少し短いです。

「いあ、いあ、はすたぁ!」


 広がった触手がアンブローズを飲み込む直前、そんなアンブローズの声がした。



 広がった触手は蛸のような、烏賊のような。

 いや、よくよく見るとキモいな、あの触手。

 あんな触手、まともに触りたくないぞ。

 いやしかし、アンブローズは触手を受け入れているように見える。


 アンブローズが完全に取り込まれる寸前。

 ニヤリ。

 そうアンブローズが笑った気がした。

 アンブローズの目線は完全に俺を捉えている。

 触手がアンブローズをすべて覆い隠しても、その目線だけが俺を貫いているように見えた。



 ”……お前も、じきにこちらに来る”



 そう、アンブローズが目で訴えかけている気がした。

 勿論、そんなことを実際に言われたわけではない。

 いや、もしかしたら言われたのかもしれない。

 アンブローズの目を見てからなんだか現実なのか夢なのか分からない感覚に襲われている。

 ふわふわとしたような、してないような。

 なんとも不思議な感覚だ。

 心地がいい子守歌の中にいるような、不快な不協和音の中にいるような。


「聖上!」


 ロウフィスの声で我に返る。

 我に返った俺の目には少女の身体が、ふらりと傾き墜落していくところが見えた。

「ロウフィスッ!」

「は、はいっ!」

「彼女を確保!確保したら全力で戦場から離れろ!」

「か、かしこまりました!」

 ロウフィスが空を飛んで少女を確保したのを見届けると、俺は再びアンブローズに向き直る。

 いや、アンブローズだったものに向き直る。

 すでにアンブローズは触手の塊に飲み込まれて歪な球体に変貌していた。


「フェニクス!シュバルトディーゲル!」

「む?」

「はっ!」

「全軍を撤退させろ!ノブナガ達も無理にでも連れて行け!敵兵も可能な限り回収!」

「承知!」

「……貴様はどうする?」


 フェニクスが問いかけてくる。

 そんなこと、聞かれるまでもない。


 その瞬間。

 歪な触手でできた球体から無数の触手が飛び出してくる。


「アイツをちょっとでも止める!!」


 俺は土魔法を発動する。

 幾千もの触手の行く手を幾万の土魔法が阻む。

 いや、土じゃだめだ。

 土より硬いもの。岩。

 土魔法が触手に貫かれていく。

 岩でもダメ。

 じゃぁ、岩より硬い鉄。いや、もっと上の鋼!

 違う。ミスリル?

 違う。俺の知ってる一番堅そうな物質といえば……。

 ダイヤモンドだ!

 俺のイメージ通りダイヤモンドの壁が形成され……。


 パリンッ!!!


 簡単に割れてしまった。



 はぁ!?



 って、しまった!

 そうか。ダイヤモンドは硬いけど以外に衝撃には弱いって聞いたことがあった気がする。


 仕方ない!

 俺は今度は風魔法を発動する。

 ダイアモンドを巻き込んだ竜巻は伸びた触手たちを切り刻んでいく。

 それでも、触手は切り刻まれた端から伸びていき、やがて周りにある森や川に激突し飛沫や土埃を上げた。


 ちっ!

 浅い!


 触手をある程度切り刻めたのは良いけど、切り取るまではいかなかった。

 突き抜けた触手は杭のように地面や水面に突き刺さっている。

 うわぁ。

 なんていうか。

 隙間に出来たキノコ的な見た目をしている。

 なんだ?アレは?


 そして次の瞬間。

 一瞬、球体から黄色い光が放たれたかと思うと、突然黄色い球体が爆発した。




 爆発の煙が晴れた後、その中から黄色い光、いや。

 オーラとでも言うべきか。

 オーラを纏って出てきた者は。

 黄色い衣を纏った、長身の男。

 その男は腕を大仰に広げて、戦場に宣言するように言い放った。


「祝え、神の生誕である」






 ……神?

 いや、っていうか。

 なんだあれ。

 さっきまでの少女の身体とは明らかに違う。

 もしかして、アンブローズに憑りついたのか?

 俺は一通り周りを見渡してみる。

 3体いたアンブローズ。

 取り込まれたアンブローズを除く2体のアンブローズはいつの間にか船上から消えていた。

 うち1体はロウフィスたちが相手をしていた。

 ロウフィスたちがこちらに戻って来たことからも、おそらく倒したか消えたかだろう。

 うん。多分だけど、残る敵はアレ一体。

 だったら何とでもなるかも……。


「なぁ。神様とやら」

「……」

「声は届いてるんだろ?喋ってたってことは言葉も理解できるはずだろ?」

「……」

「お前はなんだ?どこからやって来た?」

「……我は」

 お?反応があったな?

「我は『黄衣の王』。かつて、幸運と情熱を運んだもの」

 ん?

 なんだ?

 なんか聞いたことのある気がするんだが。

 どこだったっけ?

 いや、それより。

「黄衣の王……、お前があの爺さんや仮面の奴らが言っていた主とかいう奴か?」

「是であり否。この身体は仮初であり現身である」

「仮初であり現身?」

「現身は未だ我が中で眠る。死して死せざる」

 意味わからん。

 つまり、どういうことだ?

「我は未だ、醜悪と贖罪の中で眠りにつく。これは仮初の肉体に精神を封じた姿である」

 すまん、よくわからん。

「我は空腹と睡魔の中にある」

 うん?

 お腹すいて眠いって事か?


「故に、此処の処理は我が獣に任せることとする」


 は?

 何を言って……?

 黄衣の王は手を前に出す。

 なんか黄色いローブが触手のように蠢いている。

 そこから、吹雪が吹き荒れた。

「我が獣よ。我が権能を」

 そういうと、一層吹雪が強くなった。


 GROOWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW!!


 叫び声が聞こえる。

 こいつは……。


 吹雪の中から、巨大な獣の白い毛に包まれた腕が俺に向かって伸びてくる。

 あぶなっ!?

 掴まれる直前。

 俺は後ろに避けて距離を取る。




 そして、吹雪の中から姿を現したのは。


 GROOWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW!!


 白い毛並みに黒い地肌を持つ、巨大な猿とも巨大な虎とも見て取れる……。

 巨大な6本脚の獣の姿であった。

1ヶ月に2回以上の出張はやめろぉ

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