13-17.セイメイの庭園
ずずずっ。
縁側でのんびりとお茶を啜る。
そういえばこっちの世界に来てちゃんとした緑茶って初めてかも。
ほっこりするなぁ。
「どうです?我が庭園は?お気に召していただけましたかね」
「ん?あぁ。そうだな。うん。気に入った」
「それは良かった」
……。
…………。
………………。
って、違ーーーーーーーーーーう!
ちょっとまて!
この状況はなんだ!?
えっと、たしかいきなりこの空間に飛ばされて……。
「まぁまぁ、そう殺気立たずに。どうです?一つお茶でも」
……あぁ。そうだ。
お茶に誘われたんだ。
まぁ、俺には毒は効かないみたいだし、薬剤にも耐性があるみたいだし。
俺は縁側から投げ出した足元に目を向ける。
足元には小川、と思いきや程よく温かいお湯が流れている。
勿論、俺は裾をまくり、そのお湯に足を付けていた。
これ足湯じゃねぇか!
「あ、お茶菓子もありますよ」
セイメイから何かが提供される。
あ、これ饅頭か。
うん。うまい。
「えぇ、時代が下ってから、これがお気に入りでして」
さいですか。
いや、まぁいいんだけどね。
美味しいから。
って!何だこの快適空間は!
「なぁ、セイメイ。お前、一応俺たち戦争中だろ?こんなことしてていいのか?」
いや、俺も敵のお茶に誘われてこうしてほっこりしてるのはどうかと思うんだが。
「あぁ、その件ですか。もう勝ち目もないでしょうし、向こう側が気になるならこうすることもできますよ」
セイメイが手を宙にかざす。
「鬼門開闢、六の型。水鏡六陣」
そう口にすると、俺たちの前に小川から水が集まってくる。
水はやがて平面の皿のような円の形を取り、光りはじめた。
なんだいったい?
すると、中心部分から、だんだんと何かの風景が見え始めた。
なんだこれは。俺の影魔法みたいなもんか?
「水鏡六陣は式の視界を通して外の様子を見るための術式でして。まぁ、私のような陰険なインチキ占い師にはお似合いの術なのですよ。まぁ、現代ではここまでの術を使えるものもいなくなってしまったようですが」
「へぇ。すごい術が使えるんだな」
「いえいえ、貴方の術に比べたら私などまだまだですよ。それに、陰陽術とは本来、魔法適性の無い人間が魔法の真似事をするために私が編み出した術。本物の魔法に比べれば効果は雲泥の差ですから」
そう、セイメイが笑って見せる。
この世界の陰陽術ってセイメイが作ったのか。
たしか、俺たちの世界では古代中国の占いから派生した日本独自の占い。だったかな?
詳細は違うかもしれんが、確かそんな感じだったと思う。
「って、待った!え、これ魔法じゃないの?魔力はどうしてるんだ?」
「魔力は外気から取り込んだものを式に含ませてそのまま流用しているので、私自身はほとんど使っていませんよ。なので魔法といえば魔法ですが、厳密には魔法ではない、という回答が正しいですね」
なんじゃそりゃ。わけわからん。
「まぁ、分からなくても仕方ありませんよ。なにせ正直な話、私でもよくわかっていないのですから」
うぉい!益々なんじゃそりゃ。
「四十の頃に天啓を受けまして。名も知らぬ女神ではありましたが。言語化し体系化するのに苦労しました」
名も知らぬ女神……。
まさか、あの女神じゃないだろうな。
「キュルン!私が授けました!すごいでしょ!私!」
そんな感じで女神が喜んでいる姿が目に浮かんだ。
何だろうな。この微妙に残念な感じ。
あくまで俺の想像の中の姿なんだけど。
ピコンッ!
え?
久々に俺の視界の中に例のUIのような表示が現れた。
そして勝手にメール的な画面が開かれた。
いや、ほんと久々だなこの画面。
テキストの方はちょこちょこ出て来てたけど。
俺はなんとなく、メール画面を目で追った。
キュルン!私が授けました!すごいでしょ!私!
やかましいわ。
俺の想像通りの反応してんじゃねぇよ。
「どうかしましたか?」
一人、心の中でツッコミを入れてた俺を不審に思ったのかセイメイが話しかけてきた。
「いや、なんでも……。ちょっと知り合いの愚行に頭を悩ませていた」
こめかみが痛い。
ついつい押さえてしまった。
なんだろう。
超頭が痛い。
絶対アイツ、軽いノリでやったよなぁ。
その方が楽しそう!とかそんな軽い感じで。
「で、本題だけど、なんで東方出身のお前がこんなところで兵の指揮を執ってたんだ?」
「あぁ、そのことですか。まぁ、指揮を取っていたのはただの流れというやつなのですが。我々が傭兵の中で一番強かったというだけの話で」
「傭兵、って。あぁ、お前ら国に仕えてたわけじゃなくて金で雇われた傭兵だったのか」
「私だけではなくて私と共に来た、あぁちょうど映っていますね。あそこの騎士と対峙している男。それに覇王と対峙している女性。それに東側の戦場で……あぁ、相打ちになってしまったようですね」
セイメイが指さした方の水鏡を見てみると相打ちになったのかヴィゴーレとあの魔剣を持った男が倒れていた。
見た感じ、まだ息があるようだ。
よかった。
にしても、大陸西部最強の冒険者のヴィゴーレと相打ちとか。
どんだけ強いんだよ。あいつ。
東側の戦場も楽勝ムードが出てるみたいだし。
こうなると北側や氷室さん達を残してきた本陣が気になるが。
まぁ、この感じなら問題ないだろ。
「いやはや。王国軍はもう少し鍛えなおした方がよろしいのでは?傭兵の方が圧倒的に戦力になってますよ」
そう言ってやるなよ。あいつらだって頑張ってるんだよ。
……なんで俺は敵の兵士の養護をしているんだろうか。
「まぁ、そのような些事はさておき。実際、私が王国に気に入られたのはおそらく、この占いの力があったおかげでしょうね」
些事って……まぁ、確かに、俺たちにとっては些末なことではあるけどさ。
「私はこれでも、生前は宮廷まじない師として生計を立てていましてね。星を詠み、火を焚き、黄泉と現世を繋いで未来を見通しておりました。しかしある時、その未来が、一定の時間から視えなくなってしまいました」
「視えなくなった?」
「星の並びが大きく変わり、動きが乱れました。あぁ、一応申してきますが、実際に星の位置が変わったわけではありませんよ?霊脈の流れとか、魔力の波動とか、そういったもの流れを含めて、星詠みの技術としているのですが」
「いや、そんなこと言われても。俺には分からないし」
「……失礼、そうでした。ともかく、星を詠めなくなった私は原因を探りました。そして、この時代、この場所にたどり着いたのです」
原因?
あ、いや。
ちょっと待てよ?それ以前に。
「ちょっと待った!その辺りを確認する前にはっきりしておきたいことがある」
「はい。なんでしょう」
「お前は、ノブナガ達と同じ幽霊か?」
「えぇ。同じ幽霊。そして同じ秘術を行使した同類ですよ」
あっさりと認めたか。
ってことは、こいつには今本当に敵意がないって事か。
敵に本当のことを喋ったりしないだろうし。
実際問題として、こいつが本当の事を喋ったかどうかなんて、普通は分からない。
しかし、俺には『鑑定の魔眼』がある。
こいつの種族の欄を見るだけで今言ったことが本当かどうか答え合わせができるのだ。
そして、『鑑定の魔眼』での確認は既に終わっている。
『アンデッド・セーマン(魔族ヴォルフロスト族)』
それがこいつの現在の種族名。
つまり、こいつは間違いなく、ノブナガと同じ亡霊。というか幽霊という事だ。
「続けてよろしいですか?」
「あぁ」
まぁ、その辺りが答え合わせ出来たところでどうという事もないのだが。
「こほん。ともかく、星の並びが変わったのはこの時代、この国ということが分かって以降は早かったですよ。この時代に甦ることができるよう術式を構成し、手駒を増やし。まぁ、影でこそこそ動いていたんですよ」
いや、こそこそって。
まぁ、確かにそうなんだろうけど。
「そして、おそらく、……いえ、ようやく釣りあげられたようですよ」
「……釣れた?」
セイメイは指を水鏡に向けた。
俺はつられて、水鏡に目を向ける。
そこには……。
黄色いローブを身に纏った、白い仮面の長身の男が戦場に、ロウフィスとヨシナカが戦う船の空の上に現れたところだった。
2/24 トワイライトリッチー(ウィンディア)→アンデッド・セーマン魔族ヴォルフロスト族
すみません。長い間間違えていました。




