13-15.雷雲と春風
「「汝抱くは開闢の剣。汝抱くは破滅の槍。汝抱くは至宝の錫杖」」
「「闇夜を切り裂き、空を轟き、大地を穿つ白色の裁き」」
「「その鮮烈なる輝きと轟音を持って顕現せよ!」」
「「雷神招来!神の雷よ!トールハンマー!」」
私と師匠の魔法がぶつかる。
私は全力だが、師匠は……。
「はははっ!随分と出力が上がったじゃないか!馬鹿弟子!」
かなり余裕があるみたい。
こっちは結構な出力なんだけど。
トールハンマーの魔法は上方から下方に向かって雷属性の塊を放つ魔法だ。
その特性上、下方に向かう方が威力が高まる。
この位置関係なら、私の方が上方から放てていた。
にもかかわらず、私の放ったトールハンマーの魔法は、師匠のトールハンマーの魔法に拮抗……いや、押し負けていた。
「くっ!さすが師匠。なんて強い魔法」
「はははっ!いやいや、なかなか馬鹿弟子も強くなったじゃないか!」
なんて楽しそうな顔をするのかしら。
本当に、相変わらず化け物ね。
「汝抱くは鮮烈なる剣。業火を切り裂く閃光の衝動。雷撃到来!ライトニングボルト!」
くっ!
ライトニングボルトが来る!
私は体を低くして横向きに跳躍した。
ライトニングボルトの魔法は直線方向に進む雷の魔法だ。
直線攻撃に特化したその魔法は師匠の魔法の中でも最大の貫通力を持つ。
そして、雷の魔法にはすべからく、感電の危険がある。
流石に当たるわけにはいかない。
「甘いよ!」
そういいながら師匠が腕を振る。
するとどうだろう。直線であったはずの魔法がムチのようにしなり、私を襲った。
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
痛い。
さすがの威力だ。
私は魔法の直撃を受けて、地面に転がった。
「はははっ!可愛い悲鳴だね!教えたろ!痛くても弱みを見せるなってね!」
師匠はその隙を逃さず、私に再び魔法を向けてきた。
「汝抱くは鋭巡なる剣。外皮を穿つ雷撃の槍。白雷降雷!サンダーバレット!」
っ!不味い!あの魔法は!
私の周囲にいくつもの雷撃の槍が形成される。
しまった!体勢が!
「喰らいな!」
そう師匠が叫ぶと、雷の槍から何本もの小さな槍が生まれ、私にめがけて殺到してきた。
くっ!!
私は、向かってくる雷の槍を地面を転がって避ける。
しかし、槍は1本ではない。
大小さまざまな大きさの物が数10、いや100は越えていそうな雷の槍をすべてよけきるのは不可能……。
なら!
私はその中から比較的ダメージが大きそうなものを探す。
それだけ避けられればいい。
後方に23、前方14、左右に8本ずつ。
……だめだ、避けきれる自信がない。
でもやるしかない!
「汝抱くは雷霆の羽衣」
私は地面を側転の要領で避けながら、呪文を詠唱する。
これは、師匠達の魔法を参考に、考えた私のオリジナル魔法だ。
ちょっと詠唱効率は悪いんだけど、その分強い力を与えてくれる。
「汝抱くは双翼の戴き」
師匠のサンダーバレットはいくつかの親と呼ぶべき雷の槍を敵を中心に展開して、その槍から無数の槍を生み出し、包囲殲滅する魔法だ。
その数は最大で500本くらいになるとか。
単体相手であれば包囲を。複数相手であれば殲滅を行える、対少数・対軍団、どちらにも使える魔法。
本数を増やせば当然、その威力は分散し、威力が下がる。
しかも詠唱……というか、魔力の練りは早い。それに対抗するには。
「お?」
「我が名は閃光、我が名は旋風。吹き抜ける風なり。ライトニングブースト!」
「なんだい?その魔法。この私に見せて見な!縮小!」
そういうと師匠が虚空を掴むような動作をする。
するとサンダーバレットで生まれた槍達が私に向かって包囲を縮めてくる。
ここだ!
私は師匠に向かって駆けだす。
今の私の側は魔法のサポートもあってかなりの速度になっているはずだ。
「!?」
師匠もさすがに驚いているみたい。今が勝機!
ライトニングブーストの魔法は私の考えた、私のオリジナル。戦闘で使うのは今回が初めてだけど。
ディベアの一件で私も新しい戦い方の研究が必要になった。
私の戦い方は、細剣と雷魔法による速度重視の戦闘スタイル。
その力を十全に発揮するには肉体の強化を速度に極振りしてやる必要がある。
雷による肉体強化、風による速さの強化。それを両立した魔法だ。
「はははっ!すごいじゃないか!彩音!さすが、私が見込んだだけの事はあるよ」
「取った!」
私は剣を突き出す。
この速度なら、師匠と言えども避けられないはず!
「……だけど、甘いよ」
そういうと、師匠が腕を振り上げた。
次の瞬間。
私の腹に衝撃が走った。
「がはっ!?」
私はその衝撃を受け宙を舞う。
何が……、そう思って地面を確認すると、そこには地面から反り立った石柱、いや土の柱があった。
……土魔法?
「ライトニングロッド」
師匠が、土魔法?そんな馬鹿な。
「成長しているのはあんただけじゃないって事さ。ま、苦手な属性だからまともに攻撃には使えなんだけど、道具と魔法は使い方次第ってね」
くっ!
私は強化した体で何とか勢いを殺して地面に着地する。
「師匠、いつから土魔法を?」
「そりゃ、私の魔法は感電の危険があるからね。自分に害が出ない様に、対策も用意はするさ」
……なるほど、つまりこれは避雷針。
確かにあんなに細い柱じゃ攻撃には使えないだろうけど、勢いのついた私を少し押し上げるくらいはできるか。
やられたわね。
さすが師匠。
「さぁ、仕切り直しましょうか。彩音!」
……正直、勝てる気がしないんですけど。
いやはや、どうしたもんかね。この爺さん。
太刀筋は鋭く、速い。
しかも正確にこちらの急所を突いてくる。
「ふむ。二人とも、なかなかの使い手だ。腕が鳴る」
ついでに余裕もあると来たもんだ。
倉庫にあった武器を持っては来たが……。
こりゃ、ちょっときついかもな。
嬢ちゃんの方は……。流石に苦戦しているか。
「浪漫さん、どうですか?まだ、余裕ありますか?」
そう、遠藤君が俺に聞いてくる。
「余裕余裕。まだまだ、やれるよ」
そう返すが、実際そこまでの余裕はない。
的確かつ、速い攻撃は先ほどからこちら移動と行動を制限してくる。
非常にやり辛い。
俺は再び襲ってきた細剣による突き攻撃を避ける。
すると、避けた先からちょうど向かい風になる形で突風が吹き、土埃を巻き上げて俺の視界を奪う。
「くそっ!またか!」
さっきから何なんだこの風は!
明らかに俺たちに不利になるように吹き付けてきやがる。
……これが魔法って奴か。
魔物退治で見たことはあるが、自分に使われるは初めてだな。
だけど。
流石に、2人相手だからか、少し注意力が散漫だな。
俺は相手から吹き付ける風の合間を縫ってなんとか爺さんの背後に接近する。
「遠藤君!正面は任せるよ!」
「はっ?ちょ、浪漫さん!?えぇい!」
爺さんの正面から遠藤君が拳を突き出す。
俺は裏から2本の剣を交差させるように振り抜く。
これなら!
「なんと!見事である!御二方!」
そういいながら、爺さんは余裕のある表情を浮かべた。
しまった!これは誘いか!
爺さんは俺の剣を細剣ではじく。
くそっ!
その勢いで、遠藤君の大上段から剣を振り下ろした。
遠藤君は金属鎧を装備した左腕でその剣を受け止める。
そして、右手を爺さんに向けて突き出した。
そうすると、遠藤君の鎧から刃が飛び出した。
微妙に届かなかった、距離を刃で埋めた。
しかしその刃は爺さんを貫くことはなかった。
むしろ、その刃を避けた勢いを使って屈み、足を払ってきた。
「わっ!?ちょっ!!」
……戦い慣れている。
流石だな、この爺さん。
「顕現せよ。汝の名は暴風」
!?
な、なんだ?
もしかして、魔法の詠唱か!?
「すべてを飲み込む剣なり!サイクロンエッジ!」
そういうと、爺さんを中心に風が吹き荒れる。
「なんかやべぇ!遠藤君!離れるぞ!」
「ちょ、ちょっとまって!」
駆けだす俺と遠藤君、ちらりと後ろを見ると、爺さんを中心として竜巻のような風が吹き荒れていた。
「シュート!」
爺さんが剣を振るうと俺たちの背後から数本の風の刃が襲い掛かる。
「やべぇ!やべぇ!やべぇ!やべぇ!なんなんだよあの爺さん!」
こりゃ、ちょっとどころじゃなく、苦戦しそうだな。
予定では1話分で終わるはずだったんですが。