2-10.大輪の魔女
突然ではあるが、日本で有名なアメリカの童謡に森で熊にあうという童謡がある。
日本語訳の童謡の中ではコミカルな感じだが、実際にアメリカの歌詞を見てみると、逃げろと言われて熊から逃げる歌詞になってたか。
今まさに、そんな状況だ。
俺の隣にはスケルトンの姿をしたバロン。
なぜあるのか森の中にある花畑。
目の前にはご機嫌斜めなのか、お腹がすいているのか。とてつもなく威嚇してくる熊がいる。
顔が怖い。
四本足で立っているにも拘わらず、3mはあろうかという巨体、なんでも砕いてしまいそうな四肢に鋭い爪。
要約、超怖い。
正直ちびりそうです。
熊がとびかかろうとしたその時。
「やめなさい!ローゼシュヴァイン!」
澄んだ声が熊を止めてくれた。
熊の後ろから現れた人物が、熊の頭をなでる。
甘えるように首を下げた熊の頭をちょっと背伸びして撫でている姿を見るとこの熊の飼い主なのか?
格好は……、普通の村娘って感じの地味な色合いの茶色を基調としたワンピース。
ただ、明らかに一か所、普通の人と違うところといえば、大きな三角帽子か。
大きすぎて中ほどからくたっとなってるけど。
「ごめんなさい。知らない動物の匂いで興奮してたみたいで」
その女性が、ひざを曲げて俺を抱えてくれる。
「まったく、バロンがいたのになんでこの子はこんなに興奮しちゃったのかしら」
女性は俺を抱えたまま、歩き出しすぐに手を掲げた。
すると彼女を中心に、空間が波打ち、次第に小さな家が現れた。
(すまんな。いつもは彼もおとなしいんだが、どうも何かに興奮してたみたいだ。)
「いや、いいっすよ。ちょっとビビりましたけど」
とバロンが謝罪してきたので、答えておいた。
そして、答えてから思ったのだが、俺やバロンの声は彼女には聞こえないのだろうか。
どうも、何も反応している様子がない。
「彼女に俺らの声は聞こえないんですか?」
(あぁ、俺も彼女にはテレパシーを流してなくてな。まぁ、しゃべれない骸骨と思われていたほうが色々都合がよくてな。申し訳ないがここは合わせてくれ)
「あぁ、それはもちろん」
俺は彼女の顔を見上げて、にゃーんと一鳴き。
彼女の頬が若干ゆるんだ。
「しかし、それにしても……」
俺は小さな家の周りを眺める。
そこは鬱蒼とした森の中とは思えないほど、花が咲き誇っており、柵と小さな畑がある。
小さな家のそばには小さな湖とそれから伸びる小川があり、鳥の声と潺がいい感じのBGMになって若干眠気を誘う。
「のどかでいい感じの家ですねぇ。とても隣に城があるとは思えない」
(そうか?そういわれると頑張った甲斐があるな)
「えっ。この家、バロンが作ったのか?」
(あぁ、彼女との新居用にな。まぁ、作ったのはスケルトンになってからだが。あぁ、畑と花を整えたのは彼女だからな。俺にはこのセンスはない)
まじか。戦闘もできて建築もできる。きっとほかにもいろいろできるんだろうな。
うらやましいスペックだ。
スケルトンでさえなければ、万能天才ハイスペックイケメンとして生きていたのかもしれない。
……イケメンかどうかはわからんが。骨だし。
そこで、ふとバロンの一言が気になった。
「彼女との新居?」
(ん?あぁ、彼女は俺の嫁だ)
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
今日はもう、驚き疲れたよ。
俺を抱いた女性が家の中に入る。
家の中は暖炉やロッキングチェア、それと毛糸の塊?
うーん。印象としては山の中のログハウスとか田舎のおばあちゃんの家。
目立つのは窓のそばにおいてある大きなツボとその横の中くらいのツボ。さらにその横に小さなツボが3つほど。すべてのツボの下には石と薪で作られた簡易的なコンロがある。
帽子のあたりからなんとなく察してはいたが、もしかして所謂魔女ってやつか?
女性の腕から解放された俺はバロンに断って普通のコンロ(というか竈)の上に乗る。
そこからならツボの中身が見えるからだ。
一番大きなツボには紫色の液体。
中くらいのツボには緑の液体。
小さなツボには赤と青と白濁の液体があった。
やっぱり魔女っぽいかんじ。
「バロン、この家魔女っぽい感じなんだけど、やっぱり彼女って魔女なの?」
(あぁ、まぁ、悪い魔女じゃないから安心してくれ)
「ふーん。そうなんだ。で、俺に手伝ってほしいことって?」
会話をしているうちにすでに彼女は編み物を始めている。
横に熊とスケルトンがいるのが微妙にシュールだ。
(そうだった。実は彼女……、エフィーリアが大切にしている指輪がなくなってしまってな。おそらくこの家の中にあるとは思うんだが……、いかんせん家自体が古くてな。あちこちガタが来ている。床下とかに潜り込んでいたら俺たちとかだと探せなくてな)
「なるほど、だから体の小さい俺か」
(そういうことだ)
なんとなく、呼ばれた理由を察した。
確かにスケルトンやこの大きな熊では床下や屋根裏は確認するのがつらいだろう。
「まぁ、やるだけやってみるけど、期待はするなよ?」
(承知の上だ)
さて、とは言われたもののどうしたものか。
俺は何か有用なものがないかスキル欄を探す。
あった。
その名も「探索」。「分析」も使えるかもしれない。
とりあえず、「探索」を意識してみる。
ん?特に反応なし?なんでだ?
あぁ、大切なことを忘れてた。
「バロン、その指輪の見た目とかわかるか?」
(そうだった。銀のリングに三つの緑の宝石のついた指輪だ)
「了解。ちょっとまってな」
指輪の外見を意識し、スキルをもう一度使う。
一発でヒットした。
視界にココと言わんばかりの矢印が表示されている。
問題は場所だ。本棚の裏。
なんでそんなところに潜り込んだのか。
これは本棚を動かさないと無理だろう。
が、俺には秘策があった。
そう、「影魔法」だ。
時計塔でやったように、影に入り込ませればいい。
早速使ってみよう。
俺の足元にくだんの指輪が姿を現した。
それを咥えて、バロンの足元転がす。
「これで間違いないか?」
(えっ!?ってかどこにあったんだ!?)
「本棚の裏。影魔法でちょちょいと引っ張り出してきた」
(あ、そう……)
「とりあえず、このまま渡したらいい?」
俺はもう一度指輪を咥えて女性の前に転がした。
女性が目を丸くして指輪と俺を見比べる。
視線が一瞬後ろへと流れる。
なんだろうと思ってそちらを見ると、バロンが手に持った小さめの黒板にチョークで「指輪 探させた 試験 合格」と書いていた。
なるほど、君ら、普段はそうやって意思疎通しているのか。
そういえば、さっきバロンは普段は飼い主とはテレパシーで会話もしてないって言ってたっけ。
黒板の文字を確認した彼女は俺に視線を向け、頭をなでながら話しかけてくれる。
「まぁ。これを見つけてくれたのね。ありがとう」
それだけ言うと、彼女は再び編み物へと集中してしまった。
いや、もっとコミュニケーション取ろうぜ。
(すまんな。彼女は重度の口下手でな。俺意外とはなかなか会話が長くならんのだ)
「いや、全然大丈夫ですけど…。あの協力は?」
俺の問いかけにバロンは無い目をそらしながら答えてくる。
(あぁ……、うん。大丈夫。彼女……、エフィーリアはこういうことにはちゃんと義理堅く答えてくれるから)
おい、ちゃんとこっち見ろや。
しかし、俺としては協力を得られそうだということで良しとしよう。
これで世界間通信とやらと魔女の知識で少しでもこの世界の知識を手に入れられたら万々歳だ。
魔女の知識に期待するとしよう。
などとしていると家の外から大きな音が響き、家全体をビリビリと揺らした。
「何事!?」
(む……、これはいったい)
二人と二匹で慌てて外へ出る。
すると、木々の間からうっすらと赤い光が確認できた。
耳をよく凝らしてみると、金属のぶつかり合うような音と共に、叫び声のような声も聞こえる。
(これは……、何者かが王城に攻め入って応戦しているのか?)
「は?攻め込まれたのか?」
(わからん。だがこれは明らかに戦いによる音だ)
そうか。俺にはよくわからんが、やはり何者かに攻め込まれているらしい。
猫である俺にはあまり関係ないことだろう。関係ないことなのだが……。
胸の奥からなにか、沸々と湧き上がってくるものを感じる。
地下室で会ったあの男を思い出す。
もしも、皇国軍が負けたら、姫さんたちやよくしてくれたメイドの子たちが捕まったらどうなるか。それを考えただけでムカついて来る。
「悪い、バロン。姫さんたちが心配だから俺も王城に戻るわ」
(あぁ、それがいいだろう。俺たちはここを離れられんが、全部終わったらまたくるといい)
「ありがとう。それじゃ!」
俺は翼のある姿に再度体を変更し、森の木々を避け、上空へと飛び上がった。
遅くなり申し訳ございません。季節の変わり目でひどい風邪をひいてしまいました。
次回はまた少し空くかと思います。
読み返しで今後出るキャラクターと設定の矛盾を見つけてしまったのでそれを解決するため設定を組みなおさなければ……。