13-5.猫将軍
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スクワート・サーヴィク → ナイジェル・サーヴィク 来たのは次男の方です。
あと、名乗りを少し修正しました。
「うーん。やっぱり変じゃないかな?この姿」
「いや、……くくっ、い、良いと思うぞ。ぷっ、兵士どころか、市民たちの士気も高い、ぷぷぷっ」
「いや、笑うなよ!」
くそっ、ちょいちょい会話中に笑いやがってヴィゴーレめ。
今、俺は皇国軍の駐屯地になっているガラスバンドという町の郊外に来ている。
郊外といっても、そこそこ大きい川を挟んでの郊外なのだが。
ここは、皇国の東側と南側に通じる街道が交差する位置にほど近い。
街道が使えるので東にも南にも行ける立地だ。
各戦場の本陣ってわけじゃないけど、補給部隊と伝令を一挙にまとめる重要な拠点だ。
騎士団長や氷室さん達、後詰メンバーの待機所でもある。
そんな拠点で俺が何をしているかというと。
「皆の士気向上のため、少しの間、こちらに待機していただきそのお姿をお見せいただければ」
と言われたので、いるわけだが。
「人の姿より、神獣様の姿の方が良いのでは?」
などと遠藤さんが言ったので俺が猫になることになってしまった。
まぁ、ヴォルガモアや九尾の猫でもいいんだろうけど、せっかくなので別の姿になることにした。
『光陰の猫将軍』
いかにも統率に特化していそうな名前の魔物だ。
ちなみにランクとしては九尾の猫や冥界の番人、深紅の魔猫と同じSランク。
つまり魔王と呼ばれる魔物。
さぞかっこいい姿なのだろうと思った俺が間違えだった。
『カリスマ』『完全支配者』『最終戦争』『完全戦術』『戦場の支配者』。
以下の称号を獲得。
『支配者』『戦を熾すもの』。
……うん。
なんだかヤバそうなスキルが並んでいる。
あと称号。
なんだよこれ。戦争なんて熾したくねぇよ。
で問題はその姿だ。
二本足で立った巨大な猫を想像してほしい。
その猫が、鎧と兜、そして全身が隠れるほどの盾、いわゆるタワーシールド、そして巨大なサーベルを装備している。
この装備はいったいどこから出て来たんだ!!
いやまぁ。
いいんだけどさ。
お金かからなくて!!
ってちげぇよ!
そう自分自身にツッコミを入れてみる。ただのノリツッコミだ。
いや、ぶっちゃけさ。魔物が武器を持ってるって、ゲームとか漫画じゃよくあるけど、実際にこうしてセットで出てくると、お前どっから出て来たんだよって突っ込みたくなるよ。
ちなみにだが、試しに盾とサーベルを手放して離れてみると、しばらくして盾は腕にベルトで固定されていたし、刀は鎧の腰部分にぶら下がっていた。
いったいどういう仕組みになっているのか。
多分これも魔法だよな?
何より、この姿になって問題だったのは知り合いの大半が笑いを我慢しながら並んでいたことだ。
この姿になって演説を、とか言われたのだが。
「えーと。この軍の人間なら知ってると思うけど、一応、アレクシスです。皆さんけがの無いように頑張りましょう」
……わかってる。戦争に送り出す人間のセリフじゃない。
まぁ、防御さえ固めてもらえれば、ノブナガやフェニクス達魔王の力でどうとでもなるはずだが。
ただ、あいつらは暴れたいだけだろうからなぁ。
両軍、被害が出来るだけ少なく済めば一番いいはずだ。
しっかし、お前ら笑いすぎだろ。
特にそこ!
ヴィゴーレとかガラハド周りの奴ら!
ぶっちゃけ、この辺りは奴らの冒険者のお仲間だ。
なにせドミニオ公爵領では未だ部隊の再編が進んでいない。
帝国との境の防衛は皇都から国軍を派遣して賄っている。
ガルアーノ公爵領、グレイスノース公爵領も同様だが、こちらは兵士の被害はドミニオ公爵領に比べて少なかったため、こちらから派遣は少数で済んだらしい。
まぁ、今回の廃村の焼き討ちはその交代の間隙を突かれたわけだが。
そんな事情もあり、ヴィゴーレとガラハドは随伴の兵士が少ない。
代わりに、彼らを慕う冒険者が100名ほど、勝手についてきたわけだ。
まぁ、戦争に冒険者が駆り出されることもたまにはあるらしいし。
傭兵と違って対人戦闘がメインではない彼らが戦争で役に立つかと言われれば……。
「こんな奴らでも、いないよりはましだろう」
と、いう事らしい。
功を焦って怪我したなんてことが無いようにだけしてもらいたい。
そういえば各公爵領は、黒鉄騎兵、ペガサス騎兵、神聖騎士隊という精鋭部隊を有していたが、今回の戦いでペガサス騎兵以外はほぼ壊滅している。
重装かつ回復魔法を使え、継戦能力に優れた歩兵の神聖騎士隊が敵の突撃や魔法を押しとどめ、重装の黒鉄騎兵で相手騎兵の蹴破って背後を取り、挟撃。本陣や後方へはペガサス騎兵で奇襲を繰り返す。というのがドリス皇国本来の戦術らしい。
最も、壊滅しているため今回は使えないが。
はい。私のせいでございます。
え?ドリス公爵の保有軍?
いや、話は聞かなかったけど。
多分、近衛兵とか騎士兵団辺りが対応してるんじゃないかな。
実際、重装や特殊な兵科が無いだけで、数もそれなりに多いし、種族や兵科のバランスもいい。
何か歴史的にあるのかもしれないが、そこまで知る機会はなかったし。
後、大切なことがもう一つ。
「今、世界各地で人型の魔獣……、俺は勝手にゴブリンとかオークとかって呼んでるけど、とにかくそいつらとか、だいたらぼっち……、ニヤァーベの里に現れた正体不明の魔獣。それに『管理者』を名乗る奴らが現れたらすぐに俺に報告するように。俺が対処する。以上!」
容姿や外見の特徴を求められても困る。
なので彼らの隊長や重要な役割を持ちそうな人物にこっそりと影魔法を仕込ませてもらった。
これなら報告より先に動けるだろう。
流石に、あいつらの相手は人間にはつらいだろうし。
なんせフェニクスが引き分け……まぁ、負けだな。負けた相手だ。普通の人間なら太刀打ちはできないだろう。
できるだけ、リスクは排除しておきたい。
「失礼いたします。聖上」
拠点のテントで猫の姿に戻った俺の元に、白薔薇騎士団のクルクス団長が来た。
ん?
え?なに?
このタイミングでなにか用事?
せっかく、猫の姿でリラックスしてたのに。
「実は、お客様がお二組程。かなり重要なお客様のようですので先ずは聖上にと」
重要な客?
誰だ、一体?
まさか女神とかじゃないよな?
少しして、人の姿に戻った俺を訪ねてきたのは2組、4人の男女。
一組は西洋風の出立。
一組は……ちょっとこの国では見たことない格好をしている。
あえて言うなら長袖のローブを着た姿の褐色の美男美女って感じか。
「えっと、なにか用事があるって聞いたんだけど。取り敢えず、先ずはそっちの2人から聞こうか?」
俺は西洋風の2人を指名した。
「はっ。俺はアルトランド王国の男爵、サーヴィク男爵へカルド・サーヴィクが次男。ナイジェル・サーヴィクという。こっちは妹のクラリス・サーヴィク。今回は父の名代で罷り越した」
アルトランド王国?サーヴィク男爵って誰だ?
「聖上、サーヴィク男爵はアルトランド王国と我が国の国境に位置する男爵領の領主です」
へぇ。国境沿いの領土の領主。
「で、その領主の息子と娘がなんのようだ?まさか宣戦布告の親書とかか?」
「いえ、実は……」
ナイジェルは一度言葉に詰まり、そして意を決したかのように喋り始めた。
「弟が仕出かしたことの賠償に来た。しかし、我が領にはまともに賠償を払える金銭がない。なので俺達が来た」
「ちょ、ちょっと待て?賠償?何のことだ?」
「セレーノ伯爵の暗殺未遂の件で」
暗殺未遂!?
何じゃそりゃ!?
セレーノ伯爵ってことはグレイの事か?
そんなこと全然聞いてないけど?
「ちょ、ドラディオ!悪いけどグレイを呼んできて!事実確認がしたい!」
少ししてグレイが来た。そこで語ったことは彼らが暗殺未遂を犯したのは事実と言う事だった。
つい先日のことだが、元神殿の倉庫で襲われたそうだ。
そういうことはちゃんと報告しろよ!
まぁ、報告されても困るが。
「と、いう感じで、うちの弟がしでかしたことの賠償へは俺と妹がこちらに来ることで充てさせてもらいたい」
こちらに来る?
ドリス皇国に?
あぁ、人質ってことか?
「グレイ」
「はっ、はいっ!」
「2人の処遇は任せる。好きにしろ」
「はいっ!って、えぇ~!?」
うっさい!
報連相をちゃんとしなかった罰だ!罰!
実はこっそりと影をいれているから、分からなくはなかったはずだけど、時期的に帝国とやり取りしてた時期やエミリーさんの妊娠が発覚した時期と被るからだぶん忙しくて確認してなかったんだ。うん。知らなかったことにしよう。そうすれば俺に責任はない。
「パワハラ上司……」
ボソッと、日本語で呟いたグレイの言葉は聞こえなかったことにした。
で、次だ。
「えっと、君らはどこのどちら様?」
改めて見てみると二人とも褐色に銀髪ロングヘア。
顔が似てるから兄弟かな?
「はっ。陛下、私たちは遥か東の果て、カムイ神国……の、属領であるツーナス騎馬民族領といわれるところから参りました。アルスラン・ツェールと申します。こちらは妹の……」
「シエチャチャ・ツェールと申します。陛下」
はぁ。
「で、そのツーナス騎馬民族領とかからなんでこんなところに?」
「はい。わが民族は古来より、愛馬と共に過ごし、世界を旅することを是としております」
はぁ。
だから何?
「そして、我々の目的は……」
「御兄さま」
女性の、妹の方、シエチャチャと呼ばれた少女の方が兄の袖をクイクイと引っ張る。
「こちらの方が私の旦那様になるお方ですか?」
トンデモナイこと言い始めた。
いや、もう。
これ以上は無理。
勘弁してくれよ。