13-4.シャルロッテとマリアゲルテのコース料理
「おい、神獣様。責任取れよ」
「んな無茶な。どうすりゃいいんだよこんなの」
ヴィゴーレからそう言われて、俺はあせだらっだらに成りながら答えた。
結論から言おう。
完全に油断していた。
シャルロッテさんが用意した料理はコース料理。
料理が次々と出てくるタイプの料理だが、この世界でもそれは変わらないようだ。
ちなみに、この世界、というかこの国のコース料理の順番は次の通りだ。
1.前菜
2.サラダ
3.スープ
4.魚料理
5.煮込み料理
6.口直し
7.肉料理
8.デザート
9.カフェ
具体的には、サラダ、スープ、前菜はまとめて先にテーブルに用意されていた。
それが普通に美味しい料理だったもので完全に油断していた。
サラダは新鮮で、スープはよくにこまれていて、前菜は薄味で工夫された、素材の味を生かす味だった。
問題はここから。
今、俺たちの前に出された料理だ。
つまり魚料理と煮込み料理。
魚料理は何とか見た目は普通。
セーフだ。セーフ。セーフだと思いたい。
ただ、明らかに調理された魚の見た目がグロテスク。
俺の知っている魚だとデメニギスという深海魚が近い。
頭から背びれくらいまでが透明なゼリー状の何かで作られた魚を干物にして料理したって感じだ。
他の人間の反応を見ていると、多分これは普段食されていない魚なのだろう。
「透明殺人魚の干物をハーブソースで」
なんて食材を選ぶんだ。シャルロッテさん。
そして煮込み料理。
こっちはヤバい。
真っ赤に染まった汁。
明らかに動物のそれとは違う五本指のトカゲのような手の平。
なんでそうなった。
「こっちは私の作品よ!目一杯食べてね!あ、その手は近くの森で獲れた……なんかよく分からない魔物の肉よ!」
なんてものを喰わすんだ。マリアゲルテさん。
しかし、マリアゲルテさんとシャルロッテさんの期待したような目。
おまけにメイドたちの「ちゃんと食えよ?」と言わんばかりの視線。
喰わないわけにはいかない。
「か、覚悟を決めるか……」
俺は意を決して、煮込み料理にスプーンを入れ、口元に運んだ。
うぅ、とんでもない匂いが……。しないな?
なんだこれ?代わりに甘い匂いがするんだが……。
しかし、そう甘くはいかなかった。
口に入れた瞬間に広がる、べったりとした甘さ。
トマトと砂糖と蜂蜜をぶち込んで煮込みました、と言わんばかりの酸味と甘み。
この赤いのはトマトだったのか。そういえばミリアさんが改良してたっけ。
いや、しっかし甘い。
「さぁ!次は口直しです!」
「これは自信作よ!みんな!テーブルを開けて!」
なんとかテーブルに並べられたものをみんなで頑張って平らげるとシャルロッテさんとマリアゲルテさんが何やら怪しいものを持ってきた。
ドンッ!っとテーブルに置かれたそれは、俺の知識の中のものに例えるなら、コンロ。
1mほどの大きさのそれは、テーブルを大きくに占領し、俺たちの前に並べられた。
その数、4つ。
そしてそれに魔力を通すシャルロッテさん。
すると、そのコンロのような物体から火が出た。
思った通り、コンロだったようだ。
「アレはうちの新製品になる予定の魔導コンロだ。まだまだ小型化されてないから運びがってが悪いが。昨日のうちに色々試作してみた」
そうか、浪漫。お前の仕業か。
それはまた便利そうなものを考え付いたものだ。
けど、ごめん!この場では多分余計なことをしてくれた。と言わざる負えない。
「では、少し時間がかかりますので、皆さんはゆっくりと休んでいてください」
そういいながら、シャルロッテさんは手に持ったかごをコンロの上に持ってきた。
それをみて、ヴィゴーレが汗を流しながら答えた。
「お、おい。まて、シャル。そ、それをどうする気だ……」
「もちろん!今から調理します」
その籠に入っていたものは、栗。
それが火の中に投入されればどうなるかくらい、俺でも知っている。
「春栗の直火焼きです」
躊躇なく、シャルロッテさんの手にあった籠がひっくり返された。
栗が、火の中に投入される。
「ば、おま!?春栗なんて直接火にかけるもんじゃ!?」
その瞬間、その予想は現実のものとなった。
春栗とはその名の通り、春から初夏にかけて取れる栗の事だ。
ラーベルガー砦の周囲では春の初めから初夏の貴重な食料として、また柔軟性に富んだ建材として栽培が盛んらしい。
冬の寒さを越すためにその殻は硬く、けれども春にいち早く成長するために熱をよく通す。
この世界でも栗といえば秋の味覚らしいのだが、この栗はそんな植物たちの中でも異色。
春の遅い頃に実を落とし、少しでもその後の成長の有利に立とうと進化した植物らしい。
火が通りやすいのですぐに食卓に出すことができる庶民から貴族まで初夏の定番食材らしい。
もちろん、普通は茹でて殻をむき、または殻に切れ目を入れて、というのが定番の調理の仕方。
当然、その調理法には理由がある。
俺達でもわかる、その理由は。
パァンッ!
「うぉ!?ば、馬鹿!シャル!さっさと火からおろ……」
パァンッ!
「げふっ!?」
グレイの顔に直撃した。
パパパパパパパパパパパパパパパパァン!!
「きゃぁ!?」
「うぉ!?あぶな!?」
地獄絵図であった。
「……何をやっているんだ。お前たちは」
その後、フェニクスがコンロの火をもろともせず、栗を火の中から拾ってくれたおかげでそれ以上の犠牲が出ずに済んだ。
まさに、火中の栗を拾う活躍。
これだけでも褒めてやりたい。
ちなみに、火中の栗を拾う。元はイソップ物語に由来する、『猫に栗を拾わせる』。他人に利用されるな、という戒めだが、日本では他人の利益のために自ら危険を冒す人、という諺となった言葉だ。
いや、やらせるなよ。猫に。
火の鳥の方が適任だよ。
なお、余談ではあるが。
肉料理、デザート、カフェはとても普通の料理であった。
なんでこう、当たり外れが大きいのか。
そう思っていたら、リリアーノさんがこっそり教えてくれた。
「サラダ、スープ、デザートは作り置きですから。それにカフェは私共が用意しました。魚、肉、煮込みは私共は何も手を出しておりません」
そうか。
できれば、出してくる前に注意してほしかったよ。
「姫様が皆様の為に調理なされるというのに、私たちが手を出すわけにはまいりません」
……さいでっか。
そして。
この日から2週間後。
ついに戦いの火蓋は切って落とされることになる。
攻め手は国軍と傭兵で構成されたアルトランド王国軍5万。
対するはドリス皇国、またの名を神獣率いる魔王軍3万。
そして影で暗躍する3人。
アベノセイメイ、ジェイムス、そして謎の男。
うん。まぁ。
みんな、けがの無いように。といても無理だよなぁ。
なるべく、死者が出ない様に頑張りたい。