13-3.軍団編成
「国境付近の村が焼き討ちにあった?」
前回のエミリーさんの妊娠報告から数日後。
ミツヒデから報告を受けた。
情報源はエルフ族の鳥便。
そういや、こいつもエルフだったな。
たまたま近くにエルフがいたから連絡をくれたらしい。
早馬より、ずいぶん早い。ただただ便利だ。
「はい。しかし、あそこの村は旧関所と共に一度焼き討ちに合っておりましたので破棄した村です。しかも狭小である壁の門を越えてまで、王国はなぜあのような場所を再び……」
「なんじゃ、ミツヒデ。わからんのか?」
「御屋形様……」
ノブナガが口を挟んだ。
元上司(今でも立場的には上司になっているが)からのアドバイスか?
「恐らくじゃが、ゲリラ戦術じゃろうて。はなから奴らは戦勝の後、この地を治める気などないのじゃろう。じゃから、目についた村を焼き討ちしたのじゃろう。位置的には一番先に目に着く村じゃろうからな。ガルアーノ公爵領は森林も多い。奇襲攻撃するにしても、兵を隠すにしても、絶好の地形じゃろう」
「なるほど?というかそれ、戦勝時にいいことあるのですか?仮に領土を割譲……というか手に入れられたとしても、各方面から恨みを買いそうな……」
「恐らく、戦い自体が手段ではなく目的になっておるからじゃろ。かの国は豊富な鉄器と傭兵で発展してきた国と聞く。おい、カズマス」
「へーい。取り合えず、自分は東方面でいいっすか?殿?」
「頼むぞ」
「へいへい。承知いたしました。じゃ、ちょっと行ってくるっす」
そういうと、カズマスはどこかへ消えてしまった。
今のは影魔法か?
なんか実体っぽくなかった気がする。
にしてもカズマスはどこへ行った?東方面ってことは、ラーベルガー砦の方か?
「あ奴はノブナガ軍の中でもそういった奇襲攻撃やらなにやらに長けておってな。まぁ、南からも来ておるんじゃ。東からも来ると考えるのが普通じゃろう」
あぁ、そうか。確かにバロンと行ったときも南と東側両方から来ていたな。
「北方面は、カツイエを行かせるか」
「それがよろしいかと。カツイエ殿は山岳地形での戦闘に慣れていますから。念のため、手配しておきましょう」
北方面?でも、アルトランドとの国境は……。
「神聖トリポリタニア公国は今は皇国の領土じゃろ。併合したわけじゃし」
……って、そうか。すっかり忘れてた。
教皇に後処理任せてたから、すっかり忘れてたわ。
「で、儂の提案じゃが」
うん?
「こちらの戦力を国内外に開く喧伝するため、可能な限りの戦力を投入するべきじゃろう」
そういって、ノブナガはニヤリと笑ってみせた。
「と、言うわけで国境近隣の村々の住民には家財を持って近くの砦や町に避難を始めさせています。各男爵、伯爵には既に鳥便で通達を行っておりますので直に避難は始まるでしょう。……たっぷりと不安を煽るような文面にしてありますので」
俺はドラディオの言葉を聞きながら、会議室に集まった面々を順番に眺めた。
ノブナガを始めとしたノブナガ隊の面々、ゴルディ、フェニクス、ヘリオンの魔王組。(ただし、カツイエとカズマスは既にここにはいない)
ヴィゴーレ、ガラハド、ロウフィス、アマンダさん、ヘンリー、おまけでグレイの公爵組。(ひとりは次期伯爵だが)
エフィーリア、バロン、ローゼシュヴァイン、アントニオ、エリザベス、ミリアさん、ユキ、ホワイト、ロレンツォ、シャルマーニュの魔物組。(正確には魔物じゃない人もいるが、便宜上)
シュバルトディーゲル、シロの獣人組。
クルクス、バートランドを始めとした数名の武官組。
そして、客将として氷室さん、遠藤氏、浪漫の冒険者組とガブリエル、戦乙女、ドラゴンの超越者組。
……会議室が狭い。
「戦力過剰じゃないか?」
「これだけ見ると負ける気がしませんよね。相手が可哀想に思えてきます」
「コレでも絞ってあるほうだぞ。うちのメンバーやガラハドの仲間には声をかけてないからな」
そういうのは順番にガラハド、ロウフィス、ヴィゴーレ。
たしかに、ノブナガ達魔王はもとより、ヴィゴーレも大陸西側最強の冒険者と呼ばれているらしいし、他の面々にしてもすごい人物が揃っている。
「ひとつ提案じゃが。ここはドリス皇国組と神獣……アレクシスに従う組を分けるべきじゃろう」
うん?どういうことだ?
「役割を明確に分担する、ということじゃ」
意味が分か……って、あぁそうか。
つまりあれだ。
ノブナガやフェニクスは国に仕えているわけではなく俺の配下という事だ。
極端な話、俺がこの国を離れ、仮にドリス皇国と敵対するようなことがあれば彼らは俺に付く。
そういう意味の発言だろう。
勿論、すぐにどうこうという意味ではない。
あくまで仮定の話だ。
だから編成にもそれを考慮した編成を行え、という事だろう。
「じゃぁ、まずドリス皇国に仕える組から編成して、それから魔物組を編成するか?」
「ふむ。それがよかろう」
「まて」
うん?急にフェニクスが声をあげた。
「今回は戦争……つまり大量の人間をころ……倒していいのだろう?ならば俺も出たいぞ。同僚たちも暴れたいらしいしな」
フェニクスの肩でピィピィとキキーモラとルサールカが囀る。
あ、君らもいたのね。
っていうか暴れたいって。
魔物は魔物か。
「そういう事なら我も暴れたいでちゅ。最近は警備ばかりで体が固まりそうでちゅ」
ゴーレムが身体か固まりそうとか。
ギャグか何かか?
というかこいつらも暴れたいのかよ。
やべぇ。
魔王組は何でこんなに好戦的なんだよ。
ゴルディも、魔獣相手だけどダンジョンでは好戦的だったし。
「私は、人間相手はちょっと……、魔獣……いやネズミ相手なら殲滅してやるのだが」
やっぱり、好戦的だろ。魔王組。
皆若干引いてるじゃないか。
「と、とにかく。先ずは軍の配置だ。国の戦力は?」
「直に動かせるのは国軍で三万。公爵や伯爵の私兵を含めると、五万と少しといったところでしょうか」
「南側と東側が中心で良いんだよな?じゃあ、後詰めに1万、南と東に2万ずつでいいんじゃないか?北と山脈は気にしなくて良いんだろ?」
「そうですね……北はカツイエ殿がいるので問題ないかと。東はカズマス殿が行きましたから彼の力に期待して後詰一万、南二万、東一万五千、北五千といったところではないでしょうか」
「まて、皇国軍には二万を渡河させられる軍艦はない。南は遠距離部隊を中心にするべきだろう」
そうか、そういえばデカい川があるんだったな。
「なら、南は俺だな。ゴーレムには遠距離攻撃は難しいだろう?」
「ムムム、たしかにそうでちゅが」
「なら決まりだな。俺達は南に参加だ。国軍はどうする?」
「俺達は騎兵を使って東だ。ロウフィス達は重歩兵を使って南。ヘンリーも南、と言いたい所だが、お前はは北に行け。初陣には丁度いいだろう」
「は、はい」
「バートランドとクルクスの騎士団には後詰めで本陣を守ってもらう。異論は?」
「ありませんな」
「ですね。皇族を守ることこそ、我等の誉れでありますから」
「決まりだ」
そんな感じで話し合いが行われ、配置が決まっていく。
南にはロウフィス、アマンダさん、グレイ、ノブナガ、フェニクス、ユキ、ホワイト、ロレンツォ、シャルマーニュ、シュバルトディーゲル、シロ。
東にヴィゴーレ、ガラハド、バロン、エフィーリアさん、ローゼ、ミリアさん、ミツヒデ。
北にヘンリー、ガブリエル、戦乙女達。
後詰に両騎士団長、遠藤氏、浪漫、氷室さん、ドラゴン達。
彼等には物資輸送や酒保商人として働いてもらおうと思っている。
遠藤氏は元々行商人だし、浪漫も商売の経験があるそうなのでここに落ち着いたのだ。
氷室さんには彼等の護衛を冒険者ギルドを通じてお願いした。
ドラゴンには購入品を各部隊に送る運び屋だ。
このくらいの距離ならひとっ飛びだそうなので、そこまで負担はないとのことだった。
ちなみに、この場にいないシャルロッテさん、マリアゲルテさん、リヴィアーデさんは自動的に皇都でお留守番だ。
ちなみに、メイドたちやドラディオ、ドミニク達もお留守番組。
じぃやさんがいればもう少しいい案も出してくれたかもしれないけど、無いものねだりをしても仕方ない。
流石に戦争となれば彼女たちを連れて行くことはできない。
なんせ、皇女、皇女の妹、つい最近戻って来たリヴィアーデさんだからな。
まぁ、リヴィアーデさんは冒険者の資格も持っているらしいし。
何だったかな『孤高の侍』リヴィアーデだっけ。確か戦争級って言ってたな。
で、肝心なところなんだが。
「俺はどこに居れば良いんだ?」
その言葉に全員がしんっ……となる。
えっ?何この反応?
「……普通なら、皇都か本陣で待機ですが……」
「戦力を見せるという意味では前線にいた方が良い。良いんだが……」
「神獣様が大人しくしているビジョンが見えませんよねぇ」
「それどころか、此奴のことじゃ。魔法一発で地形ごと全部吹き飛ばしかねんぞ」
そういうのはそれぞれナガヒデ、ヴィゴーレ、グレイ、ノブナガだ。
失礼な。俺だって人間相手には……、前科があったわ。
「だ、大丈夫だし。自重するし」
「「「「「信用できねぇ……」」」」」
そ、そんなにいう事ないじゃないか。
くすん。
「皆さん、お話は終わりましたか?」
暫くするとシャルロッテさんが入室してきた。
マリアゲルテさんも一緒だ。
「今回、国を守っていただける皆さんに少しなりとも、労いをと思いまして」
「ねぇ様と私のお手製!みんな、お腹いっぱい食べて行ってね!」
食事のお誘いらしい。
「それは助かる。なぁ、みんな」
ありがたいことだ。
ここにいる奴らの士気も……いや、士気どころかヤル気満々だったわこいつら。
ともかく、みんなのヤル気もうなぎ上りだろう。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
「ひ、姫様が僕たちに食事を作って。こ、これはすごいことですよ!」
「これは……光栄の極み」
「末代まで語れる、よい土産話となりそうです」
うん?
なんか反応が2分しているな?
「なぁ、氷室さん。この状況はどういうことかわかるか?」
「そうね……」
氷室さんは顎に手を当てて考え込む。
「城、というか皇家に元々使えてる人たちにとっては栄光。他のメンバーにとっては……」
顎から手を放し、俺の方をまっすぐ見る。
「今まで何不自由なく、城で料理人が料理を出してくれていた箱入りの姫様が料理できるのかって不安だと思うわ」
それがあったかぁ……。
ヤバい。
助かるとか言っちゃったよ。
うわー。2人ともめっちゃ嬉しそう。
今更、不安になってきちゃった。
仕事が忙しくなってきたので次回か次々回は少し時間が空く可能性があります。
ご了承ください。