13-2.報告
「「大変、申し訳ありません!」」
ドラディオとエミリーさんが2人して頭を下げる。
「ふ、二人とも。頭をあげてください」
「別に謝ることじゃないわ。おめでたいことじゃない。ねぇ、姉さま」
その通り。
別に二人が頭を下げるようなことではない。
めでたい話だ。
「それで、どうしてお二人が……」
「姫様。私が説明いたします」
シャルロッテさんの言葉に、エミリーさんが一歩前に出て答えた。
彼女の話を統合するとこうだ。
彼女は昔から、ドラディオの事を一途に思い続けていたらしい。
その想いを胸の内に秘めて、誰にも知られぬように。
なぜなら、自分は王女殿下のお付きメイド。それも裏の仕事を行う表に出にくい立場の人間。
裏の仕事というと暗殺や策謀のイメージがあるがそれだけではない。
情報収集や事前交渉、人脈形成や各国外務官との秘密裏の交渉など、やっていることは山のようにある。
実際問題彼女に何かあったときに代役と成れる人物はそうそういないらしい。
そんな各所に飛び回らなければならない自分が、今や表の顔となった、ドラディオと結ばれるなど、夢の話だと。
そう思っていたらしい。
この謝罪も、妊娠発覚により、この役目が果たせなく、少なくとも休止しなければならないことによる謝罪だった。
ところが彼女の心境に変化が訪れる出来事があった。
シャルロッテさんの妊娠だ。
このことは、少なからず様々な人間に影響を与えた。
彼女もその中の1人。
今まで押し殺していた想いが一気に爆発した。
彼女はその想いを伝えるべく、ドラディオの部屋を訪れ……。
ドラディオも彼女の想いに応えたと。
いい話じゃないか。
「ふぅ、事情は分かりました。何はともあれ、おめでとう。エミリー」
「おめでとう!」
シャルロッテさんが椅子に座りなおし、マリアゲルテさんはエミリーさんに抱き着いた。
俺はちょっと手持無沙汰。
まぁ、正直。他人の惚れた張れたにはあまり興味がない。
自分の事で精一杯というのが正直な話だ。
「あ、ありがとうございます」
エミリーさんも少し照れ臭そうに返事をする。
「わかりました。では次期皇王として二人の婚姻を正式に認めます。これからも忠義に励んでください」
シャルロッテさんが婚姻の商人となる発言をすると、エミリーさんとドラディオが驚いたような表情を見せた。
「ただし、基本的には自分の身体を優先すること!いいですか。これは命令です」
「し、しかし」
「め・い・れ・い、です」
「はい。かしこまりました」
「よろしい。では、女同士でちょっと話したいことがあるので、貴方達は外で……いえ、仕事に戻ってください」
「「はい」」
シャルロッテさんの矛先が俺達へ向いた。
俺とドラディオはいそいそと席を後にして、廊下へ出る。
「ドラディオ、大切にしてやるんだぞ」
「はい。ありがとうございます」
ドラディオに声をかけるとそんな返事が帰ってきた。
いやほんと、めでたいことだらけだ。
そんな事があった翌日。
俺は執務室でミツヒデとナガヒデから報告を受けていた。
案件はそれぞれ1つずつで2つ。
かなり重要な案件だ。
1つ目はナガヒデから。
「聖上。聖上が仰っておりました、下層の町の件ですが、素案がまとまりました」
え?もう?
優秀すぎないかこの人ら。
「まず、天空城がここから移動することが前提ですが、町の区画整理と道路の配置図になります」
新しく作る町なんだから初期の区画整理はは重要だろう。
「偽の城に程近い場所に行政区画、更に大通りを挟んでギルドなどの重要施設区画整理を作ります。そしてギルド側に商業区画と倉庫区画、行政区画側に宿泊区画、職人区画を設定してあります。住民区画はその周りに。そして、重要なことですが、中央市場区画を新設します。その上で、各住宅区画に小型の商業区画を設定します。そこに通るように大きめの通りを設定します。これにより、各商業区画への搬入をよりスムーズにする狙いがあります。勿論、楽市令も発布して住民が住宅で商売をすることも許可しましょう。城壁は三重構造を採用します。第一城壁には対魔獣対軍隊装備を第二城壁には対空装備を第三城壁は対軍隊装備にしましょう」
おぉう……。一気に情報が流れ込んできた。とんでもない情報量で頭痛がしてくる。
「まぁ、これはあくまで草案ですので細かいところは追々考えていけばいいでしょう」
「そうしてくれると助かる……」
ちょっと頭を抱えてしまった。
これ、俺が今から作らなきゃいけない範囲かよ……。
何年越しになるんだこれ……。
「そこは、聖上が魔法でパパっと」
無茶振りが過ぎる!?
「続きましてアルトランド王国への対処ですが、現在アルトランドとの国境付近、アルトランド側に南側に約一万、東側に約五千の兵が集結しつつあります。当地のエルフ達やオウガ族から送られてきた情報は正しいようです」
なるほどな。
オウガ族たちにはあるお願いをしていた。
オウガ族は俺たちの下についているオウガ族に連絡を送ってもらった後、ある仕事をしてもらっていた。
オウガ族たちは俺たちに女性や子供を託した後、彼らがキャンプを発つ原因となったモンスターの大量発生の原因を探ってもらっていた。
その結論が、先日もたらされた。
結論、魔物たちはアルトランド王国の軍による魔物狩りによってかなりの範囲から逃げて来たのではないか、というものだった。
つまり、大量発生したわけではなく、元々いた奴らが集まって来た、というわけだ。
更に、もう一つ。
各所で『魔香石』と呼ばれる石がばらまかれていること。
この『魔香石』、魔獣や魔物の好む魔力を周囲に振りまくらしい。
生成方法は不明。
いろんな場所で産出されるが、ダンジョンではよく見るものらしい。
まぁ、そこまでわかっていればこの大量発生が自然発生ではなく人為的な発生であるという事がわかる。
で、その土地で活動できるのは誰か。
最も候補になるのはやはりアルトランド王国だろう。
なのでオウガ族やミツヒデたちはアルトランド王国の魔物狩りの一環と判断したわけだ。
では次の問題はなぜそんなことをしているかという事。
最も可能性があるのは食料調達。
ではなぜ食料が必要なのかという問題に当たる。
そこで、色々な状況を鑑みるとアルトランド王国のしたいことというのが見えてくる。
というのがミツヒデの言。
戦争準備だ。
なにせ、彼らには前科がある。
ドリス皇国に攻め込んできたその前科が。
まぁ、最も戦争準備にはもう少し時間がかかるというのがミツヒデや他の文官たちの意見だった。
普通なら数年をかけて準備するものだそうだ。
人員の移動や物資の調達など、時間のかかることは山のようにある。
それをすぐに手配できるかというと無理があるだろう。
あれ?
でも帝国……というかシラクサ辺境伯は?
「あれは、人員移動や物資調達の面では廃人化した傀儡を使っていたみたいですからね。調査ではここまでの道中にある公爵領の村での物資の徴発も確認されていますから」
なるほど。
人の移動の最も厄介なところは疲労すること。
あの進軍速度は疲労をしても傀儡なら強制的に進ませることができた、という事か。
「ともかく、しばらくは東と南に重点を置いて調査しよう」
「畏まりました。すぐに手配いたします。また、念のため各砦に兵士を準備させておきます」
「よろしく」
あーもう。疲れるなぁ。
できれば戦争なんてない方が良いに決まっているけど、攻め込んでくる相手に無抵抗でサンドバッグになる気もない。
精々、抵抗はさせてもらうさ。
この後、数日後。ミツヒデや俺達の予想に反してドリス皇国とアルトランド王国は戦争状態に入ることとなる。
戦場は国境に流れる赤き大河、コロネア大河。
後に『赤い河の戦争』と呼ばれドリス皇国の戦力を世界に知らしめる戦争の幕開けであり、俺の異世界生活のある意味での転機となる出来事の始まりでもあった。