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12-5.安田浦さんと現代の異変

「いや、すまないね。大宮君。この年になるとやっぱりあちこちにガタが来てね」

「別に、このくらいならいつでも使ってくれて構いませんわ」

 安田浦さんを俺の隣に乗せて、俺たちを乗せた車は環状線の高架沿いに進んでいく。

 ここをもう少し進むと、世田谷を通って多摩川河川敷に着く。

 その手前くらいに徳川福田駅という駅があって、その近くに俺は住んでいた。

 西東京環状線。

 新宿、世田谷、多摩、府中、西東京、練馬、豊島を結ぶかなり最近に作られた環状線だ。

 懐かしいなぁ。

 そんなに前の話じゃないはずなんだけど、もうずいぶん昔の話のように感じる。

 窓に流れる世田谷の街並みを眺めながら俺は感慨にふける。

 もう少し進めば駒沢、それを超えれば徳川福田だ。

 あれ?そういえばなんで徳川福田署の刑事が新宿まで来てたんだ?

「なぁ、安田浦さん」

「ぅん?」

「なんで徳川福田署の刑事が新宿まで出張ってたんだ?」

 俺は素直に聞いてみた。

「それは……」

「それは私が説明しますわ」

 安田浦さんの言葉をさえぎって、加凜さんが答えた。

「そもそも、特別機動隊は徳川福田署にしかないのですわ。その原因は数十年前の魔力の異常暴走。当時、機械の恐竜や未知の組織が暴れたことから始まりますわ」

 へぇ?って。

「機械の恐竜?未知の組織?」

「えぇ。ですが、両方とも数ヶ月暴れた跡、忽然と姿を消しましたわ。しかし、その後に魔力の異常暴走が確認されたのです。その魔力の暴走の中心が……」

「徳川福田地域にあった?」

「その通りですわ」

「それで、その地域の中心に設立されたのが徳川福田署、つまり私たちの居る所だったわけだ」

「それ以来、主に東京の……主に青山から西側を調査、そして魔力により力を手にして暴走した人間を捕らえるのは徳川福田署の役割なのですわ」

 ふーん。あそこの署ってそんな役割があったんだ。

「って、西側?てことは東側も似たような組織があるのか?」

「えぇ。葛飾にありますわ。そこだけではなく、全国各地にありますわ。札幌、仙台、前橋、金沢、名古屋、京都、大阪、高知、山口、福岡、宮崎、沖縄。全部で14か所。特別機動隊は存在しているのですわ」

 なるほど。

 いや、しかし。

 恐らくだが、それだけ魔力の暴走が各地で起きているという事なのだろう。

 俺の居た世界。意外にもやばそうなところだった。

 しかし、そんな暴走とか、機械の恐竜とかのヤバそうな連中の話は俺が生きていて聞いたことない気がするが。

「まぁ、一般人には知られぬよう情報統制がされているでござるからな。多夢和殿は知る由もないでござるよ」

 なんだ、エロ侍。生きていたのか。

 助手席でずっとよだれを垂らしていたからてっきり死んでいるかと思ったぞ。

「うん?多夢和?」

 安田浦さんが俺の名前に反応した。

 あれ?もしかして俺の名前、憶えてるの?

「あぁ、いや。すまないね。ちょっと知り合いの名前と似ていたものでね。いや、なつかしい」

 多分それ、俺本人ですね。


 俺と安田浦さんの出会いは、そこまで特別と言うほどの事でもない。

 たまたま俺が町を歩いていた時にひったくりにあった。

 その時担当してくれた刑事がこの人なのだ。

 本来、三課が担当すべきその事件を一課のこの人が担当したのはその犯人が殺人犯とつながっていたから。

 まぁ、よくある偶然ってやつだ。

 しかし、そのあとよくしてもらっていたので、自然と近所の気の良いおっちゃんくらいの感覚になっていた。

 実際、結構おすそ分けとかもらったしな。

 やっぱり、すこし懐かしい。




 あれ?

 この匂いは……。

「なぁ、安田浦さん、加凜さん」

「うん?」

「どうしましたの?」

「2km……いや、もう少し先で焦げた匂いと鉄の匂い。それになんか爆発音が聞こえるんだけど」

「匂い?音?いやそれよりも、2km先ってそんな先がわかるのかい?」

「ちょっと待ってくださいまし、確認しますわ」

 加凜さんが運転席でスマホを取り出しどこかに電話をかけた。

 おいおい、警察。

 アカンでしょ。それは。

「私ですわ。今、私たちがいるところから2km……いえ、念のため4km。案件はありますの?えぇ。そうですわ。大至急で」

 そう電話すると加凜さんはスマホを切り運転に集中し始めた。

「貴美子がすぐ調べてくれるそうですわ」

「加凜殿、運転中の携帯電話は……」

「あら?緊急事態だから仕方ありませんわ。それに、私たちは検挙する側ですわよ?問題ありませんわ」

 いや、ダメでしょ。

 法律的に。

 そういうやり取りをしていると、すぐにアスティベーラのスマホが鳴り始める。

「はい。勝成……っ!?」

 電話に出たアスティベーラが耳を放した。

 よほどでかい声で怒鳴られたのかな?

 あれ、痛いよね。

「わかった!わかったでござるから!して、結果は?ふむ。ふむ。承知したでござる。かたじけない伊達殿」

 アスティベーラがスマホを切って助手席のグローブボックスの下へ手を伸ばし、パトランプを取り出して窓を開ける。

「加凜殿!旧二子多摩川でござる!公園南東付近!河川敷でござる!」

「っち!うちの目と鼻の先じゃねぇか!何やってたんだ、ポンコツどもめ!勝成!安田浦さん!飛ばすぞ!」

 え゛っ!?

 そういうやいなや、加凜さんはアクセルを踏み込んだ。

「ほどほどにね」

 いつの間にか安田浦さんはアシストグリップを持って対ショック体勢といった感じだ。

「ちょ、加凜殿少し待っ……ぬぉ!?」

 アスティベーラは間に合わなかったようだ。

 急な加速で後ろ方向に衝撃をがあったようだ。

 かく言う俺も、間に合わず思いっきり後ろ方向の衝撃を受けてしまった。

 いや何キロ出てんだよ、コレ。

 おそろしや。


 数分して、俺たちは多摩川の河川敷にやって来た。

 やってきたのだが。

「なんじゃこりゃあ!?」

 そこには見慣れた河川敷。

 それと見慣れない物体が存在していた。

 機械の恐竜。

 まさにその通りの風体。

 アレは……。なんだろう。

 ブラキオサウルス?


「でかいでござるな」

「アレは大きいねぇ」

「さっさとぶっ飛ばしますわよ」

 反応は三者三様。

 アスティベーラは呆れ気味。

 安田浦さんはニコニコと。

 加凜さんは指を鳴らしながら、怖い顔をしている。

 よほどストレスたまってるんだな。

 けれど。


「ひゃぁっはぁぁぁぁ!こいつと俺の力があれば無敵だぁ!」

 ブラキオサウルスの頭に、人が乗っていた。

 なんだあいつ。

 鑑定の魔眼を発動……ってあれ?

 名前しか出ない。

 うーん。世界が違うからか?

「あの頭に乗ってるのは誰でござる?」

「さぁ?でもあれではなくて?あいつが元凶って奴じゃないですこと?」

「あぁ、あれはいけないねぇ。力を持ってすこしやんちゃしてる感じだ」


「ぶっ殺す!俺を首にした奴も!俺を騙して金を奪ったやつも!全部、全部!」

 あぁ。

 なんか失敗したんだな。

 そんで会社を首になった挙句、なんか詐欺にでも引っかかったと。

 まぁ、仕方ないな。

 世の中良いことばかりじゃないし。

 悪いこともいいことも、全部ひっくるめて人生なんだって。

 その瞬間の状況を楽しめないと、損しかしないって。

 誰かさんも言っていたしな。

 俺は、安田浦さんを見た。

 相変わらず、この人は笑顔を浮かべて佇んでいる。

 ……。


 よし。


「ランクCといったところでござるな。どっちが行くでござる?」

「私が行くに決まってま……」

「俺が行く」

 2人の会話に割り込んでみた。

 2人の顔が驚愕に染まる。

「行くって、分かっていますの?」

「多夢和殿、気持ちはありがたいが……ってそうでござったな。多夢和殿なら大丈夫であろう」

 思い出したみたいだな。

「ちょっと!勝成!正気ですの!?」

「多夢和殿なら心配ござらん。まぁ、見ておれ加凜どのぉぉぉぉぉぉ!」

 かっこよく言ったアスティベーラが吹っ飛ばされていった。

 加凜さんが殴ったようだ。

「じゃ!そういうことで、お先に!」

 俺はそれを確認するとすぐに飛び立つ。

「あっ!待ちなさい!」




 いやぁ、こっちでも飛べてよかった。

 飛び出して実は使えませんでした。とか洒落にならん。

 さてと。

 上空から見た感じだと、やっぱりでかいな。

 でかいけど……。


「なんだ!お前は!?」

 流石に気付いたか。

 男が、パチンと指を鳴らす。

 すると、男の周りに風の流れができる。

 その動きに合わせてブラキオサウルスが吠える。

 ブラキオサウルスからは雷の玉のようなものができる。

「風裂弾!」

「Braaaaaaaaaaaaaaaa!」

 風の魔法?は俺をその力で引き裂かんと迫ってくる!

 ほぼ同時にブラキオサウルスの放った雷の弾丸が俺を襲ってくる。

 しかし。

 俺は風魔法で上昇気流をイメージし、結界を作る。

 男の風魔法はこれで対処。

 あとは雷の弾丸だが。

 雷は俺の結界にあたると、突き抜けることなく、爆発して土煙を起す。

 土煙が俺の視界を遮る。

 うん?

 目を凝らそうとする俺の目の前に煙をかき分けてブラキオサウルスの口が迫る。

 あぶなっ!?

 俺は寸でのところでそれを避ける。

 避けた俺に、男が風魔法を向ける。

 俺の頬を、男の風魔法が掠めた。

 威力は……たいしたことはない。

 けど、なかなか使い慣れている。

 油断してると危ないかもな。

 ……なら。

 俺は地面に降りてブラキオサウルスの足へと向かう。

 見えた!

 いけるかな?

 俺は大樹のような太さを持つブラキオサウルスの足を蹴り飛ばす。

 すると、ブラキオサウルスがバランスを崩して崩れ落ちる。

「ば、馬鹿な!?」

 正直、風魔法が使えるようになった程度の機械の塊に負ける気はしないな。

 とりあえず、これ以上暴れない様に拘束しておこう。

 俺は土魔法を発動し、ブラキオサウルスの足元から土の塊を出現させる。

 それを固めて動きを止めた。


 よっし、これで十分だろ。

 後は、植物魔法で蔦を生やして、上に乗った男とブラキオサウルスの首をまとめて蔦で縛る。

「っ!?」

 はい。これで終了。他愛ない。

 だいたらぼっちやフェニックスに比べればただ風魔法が使えるだけの男や、大きいだけの鉄の塊なんて大したことはない。

「な、なんなんだよ!!お前!」

 地面に転がった男が俺に叫ぶ。

「なんだって言われてもな。一般人?」

「ふ、ふざけるな!!一般人が俺の力を圧倒するなんてあるわけないだろ!!」

「そんなこと言われても。出来ちゃったとしか」

「なっ!?」

 ぶっちゃけ防御と飛行以外は魔法やスキルなんて使ってないしな。

 申し訳ないけど、向こうのあいつらに比べたらずいぶん楽だ。

 アスティベーラや加凜さんもさっきの会話を聞く限り、一人でやろうとしてたみたいだし。

 俺は油断なく、魔法剣を発動した。

 土でできた剣がサクッと出来た。

 その剣を突きつけて問いかける。

「どうする?素直に逮捕されるなら、このまま何もしないけど、抵抗するなら……」

「くそっ!誰がお前みたいなコスプレ野郎の言葉なんか!」

 ……コスプレ?

 あぁ、言われれば猫耳に貴族の衣装なんてコスプレか。

 まぁ、いいや。

 じゃぁ、遠慮する必要はないな。




 俺は剣を振り上げ、そして……。















「まったく、やり過ぎでござるよ」

 アスティベーラが男に手錠をかけながら俺に叱ってくる。

「一応手加減はしたぞ?誰もケガしてないんだしいいじゃん」

「そういう問題ではござらんよ。あれ、どうするでござるか?」

「あー、そうだなぁ……」


 俺の振り降ろした剣は衝撃波を発生させた。

 まぁ、脅すつもりでやっていたから、外す予定だったんだけど。

 ちょっと角度が悪くての道路橋に衝撃波が当たってしまったのだ。

 失敗失敗。

 幸いにも通行の車も少なかったから被害も少なかったようだ。

 いやはや。力の制御って難しいね。


「ちょっと!あなた!アレどうする気ですの!?」

「いや、それを今考えているでござるよ。加凜殿」

「いやこれは仕方ないよね。どうだろう?高橋君にお願いするのは?」

「それしかないですわね。少しお待ちになってくださいまし。……もしもし、私ですわ。至急、高橋を。えぇ、よろしくお願いしますわ。……手配いたしましたわ。3分でたどり着くそうです」

「いや、すまないね。大宮君」

 なんか後処理の人でも呼んだのかな?

「勝成、後を頼みますわ」

 ん?加凜さんどうかしたのか?

 加凜さんが俺の手をガシッと掴む。

 そのまま引っ張られた。

「加凜殿?それは構わぬが……って何処に?」

「決まってますわ。いつものです。ちょうどここに、よさそうな人材もいますし」

 アスティベーラが返事の代わりに少し呆れたような表情をした。

「あー、ほどほどにするでござるよ……」

「頑張ってね。大宮君、猫耳の君」

 何を頑張るというのか。

 うーん。嫌な予感。

 俺は加凜さんに引っ張られるまま、車へと乗り込んだのであった。

 一体どこに連れて行く気なのだろうか。

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