2-8.ねこぱんち(恐
「どういうことだよ!」
ガラハドがギルドの受付を大きくたたき抗議する。
「討伐部位の提供、ほかの素材の売却、調査情報の提供で銀貨5枚だったはずだろ!なんで報酬が銀貨3枚まで落ちてるんだ!?」
ガラハドがギルドの受付をしている間、ほかの三人は少し離れたテーブルで待っていた。
俺は「気配寸断」を解除し、そのテーブルにひょいと飛び乗り、シノンに撫でてもらっている。コルナも興味津々で撫でてくれるため、ちょっと触られる範囲が大きいが、まぁ女の子二人に触られるのは悪くない。
「なんで、もめてるんでしょう?」
「聞こえてくる声からすると、報奨金を下げられたっぽい」
シノンが腰のポーチに手を入れてごそごそと動かしながら答えた。
「そんなこと~、ありえるのですか~?」
「普通はあり得ない。まぁ、ありえないからこそ、私たちに依頼があった。よっと」
シノンが目的のものを取り出したようだ。
おい、ちょっとまて!なんだそれは!
いや、物自体は知っている。……まさかそれを俺に!?
くそ!さっき帰ってくる途中で探してたのはこれだったか!
「依頼って~、なんですか~?」
シノンが取り出したものを、俺に突き出しながらコルナの質問に答えた。
それを左右に振って俺の注意を引くように素早く動かす。
誘惑に負けてたまるか!耐えるんだ!俺!
「……二人とも、ちょっとこっちに寄って。ほかの職員に聞かれたくない」
「はい」
「はい~」
三人が顔を近づける。
シノンは例の物を左右に振りながら、コルナは俺をなでながらなので若干窮屈。
「……私たちはもともと、ドミニオ公爵領で冒険者をしていた。そこで、ある依頼を受けた。この依頼はギルドの沽券にかかわる依頼」
「沽券にかかわる?いったいどんな…?」
「……絶対、この内容、口にしないでね。最悪、他言したら首が飛ぶ」
「そんな内容…、しゃべっていいんですか?」
「貴方達は私たちのパーティーメンバー。だから大丈夫」
そんな真面目な会話をしているが、俺の体はすでにシノンの持っている物に興味津々。我慢するのが大変なんだ。
「私たちは、このギルドの不正の証拠の捜索を依頼されてきた」
「ふせ…!?」
コルナがヒュードの頭を押さえテーブルに叩きつけて、それ以上喋るのを止めた。
「声が~大きいですよ~」
可哀そうに、ぴくぴく動いてる。
と、突然シノンが顔を放し、手に持ったそれを上下に動かし始める。
もう辛抱たまらん!!
俺は本能のままにそれに飛びついた!
くっそ!こいつ、ちょこまかと!
「あの、さっきから気になってたんですけど、ソレなんです?」
さっきから触れそうになるとシノンが動かして離れてしまう。
「これ?さっき見つけたモコモコの実。タイガー種とかレオ種の子供が大好き。この辺だと川が多くて湿気が多いから、山のほうに行かないと自然生息はしてないけど」
ここまで来ればお分かりだろうか。
モコモコの実とはつまり「エノコログサ」によく似た雑草。俗にいう「猫じゃらし」である。
要は俺は今、シノンの操る猫じゃらしを懸命に追いかけているのである!
……これはもう、人間としてはダメかも知らん。
ちなみに「エノコログサ」とは、五穀の一つに数えられる粟の原種とされており、実は食用可能。しかも粟と簡単に交配するため、近代以前は飢饉の際に食用にされていたとかなんとか。昔友人と作ろうとしたサバイバルゲームの設定のために勉強したっけなぁこの辺。たしか、「エノコログサ」を五つ集めて、初期配置のドリアードに渡すと「粟」の種をもらえるように設定してたんだよ。
思い出してたら懐かしくなってきた。
……あいつ、元気かな。
「ちなみにアレはわざと大きな声を出して周りの注目を集めてる最中」
「へぇ~、そうなんですか~」
「こうすれば嫌でも目撃者ができるし、私たち以外にもこの依頼を受けた冒険者はいる。その人たちへの合図」
「へ、へぇ」
「あそこの一角、見てみて」
そこには鬼のような形相でバーベルのようなものを持ち上げている、大男というか筋肉がいた。
こわっ!?
「ふぅー」
その男がガラハドのいるカウンターへと向かって歩いていく。
後ろには槍を背負った男が一人、弓を持った女が一人、ローブを着た女が一人。
全員顔が怖い。
シノンがこっそりと教えてくれる。
「あれが天災級パーティ「黒鉄の騎士」のメインメンバー。戦闘の男がリーダーで『黒剣』ヴィゴーレ・ドミニオ。槍を持ったのが『黒槍』フィリオ。弓を持ったのが『黒狩』ロティ。最後の一人が『黒炎』テルミス。ほかにも何人かいるはずだけど…、今日は来てないみたい」
「すげぇ。「黒鉄の騎士」なんてめったに見れないよ。コルナ」
「すごいですね~。でも~、私以外に目線を釘付けにするのは~。どうなんですか~?」
「あ、いや、その。すみません」
コルナは意外と独占欲が強いのか。がんばれ。ヒュード。
「おい、そこのお前」
そういうとカウンターの前に来たヴィゴーレが、突然受付の胸ぐらをつかんだ。
「あまり冒険者を舐めてると痛い目見るぞ」
そのまま顔を近づけて脅しにかかる。
「い、いえ。あくまで我々の査定の結果で…」
「ほぉ、ではあくまでもギルドの見解だと?」
受付の男はめっちゃ焦ってる。
「そ、そうです!それに「黒鉄の騎士」ともあろうお方が、このようなことをしてただで済むと…」
そこまで聞くとヴィゴーレが受付を後ろ……、つまり俺たちのいる待機場のほうに放り投げた。
ギルドの受付が四つん這い状態で顔だけをヴィゴーレへ向ける。
そこへヴィゴーレがある紙?というか羊皮紙か。それをヴィゴーレの前に突き出した。
「西アレイシア地方冒険者相互協力組合所属、一等受付職ナーデ・ヤーネン。冒険者相互協力組合の依頼により、貴様の調査を行うこととなっている。調査内容は横領および搾取。貴様を拘束し、数日後に公都にある冒険者相互協力組合に引き渡すこととなっている。今日から自宅待機、監禁になる。身辺整理をしておけ」
「何を根拠に…」
ヴィゴーレはそれを聞く前にもう一枚、羊皮紙を目の前に出した。
「魔法痕があるこの契約用紙だけで十分な証拠になる。言い逃れはできない」
「…くそっ」
受付の男は急に立ち上がり、扉のほうに逃げようとした。
「ちっ。おい、ロティ」
「わかってる」
ロティが弓を構えた。さすがに犯罪を犯しているとはいえ、武器を使うのはかわいそうだと思う。幸い、受付の男より、俺たちのほうが扉に近い。そして、俺たちの横を通らないと扉へ歯向かえない。彼が足を止め、逃げるのをやめればおそらく弓を射かけられることはないだろう。彼を助けるためにもここは素直に拘束されてもらうのも一つの手だと思う。
動きを止めれそうなスキルは二つ。
「威圧」と「恐怖攻撃」だ。
「威圧」を使ってもいいのだが、先ほどのように他の人たちに警戒されてしまう可能性もある。そうなると「恐怖攻撃」だが……。使い方がなぁ……。
ものはためしだ。やってみるか。
俺は横を通り過ぎる彼の足に触れる。
彼らの動きは今の俺にはとてもスローに感じる。
やはりこの辺はステータス差なんだろうな。
さて、「恐怖攻撃」発動っと。
とたん、彼は膝から崩れ落ち、頭を抱えてガタガタと震え、わけのわからない言葉を叫び始めた始めた。
え?まじかこれ?こっわ。
その後、数分すると今度は体を痙攣させ始めた。
さすがにまずいと思ったのか、周りの職員や冒険者が彼を介護しはじめた。
これやっぱスキルの練習しないと、大惨事になるかもしれん。
「すまねぇ、兄貴。助かったぜ」
「世辞は不要だ。あくまで役割分担だからな」
「あぁ、わかってる。しっかし、もうちょっとボロを出してもらう予定だったんだがな」
「それはすまなかった。が、あまり結果は変わらんだろう。おそらくこれから尋問で吐かされる」
「まぁ、これでとりあえず、依頼は完遂か。兄貴、一杯やってくか?」
「いや、いい。それより例の件、近々らしい。お前は自分がどうするかよく考えておけ」
「あぁ、わかってる」
9/24 修正
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