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1-2.我輩は…※

 はっ!?

 どうやら、無事転移できたみたいだ。

 あのクソ女神、「よろしく」とか言って問答無用で俺を投げ飛ばしやがった!

 どう考えても人に物を頼む態度じゃないだろ!

 理不尽!圧倒的理不尽!

 どのぐらい理不尽かというと、パソコンのモニターを見ながら、出来上がった印刷物を見て「色が違う!」と電話をかけてくる顧客ぐらい理不尽!

 うん。やめよう虚しくなる…


 ここはちょっと考え方を変えてみよう。

 そう、これは俺という英雄がこの地に誕生した瞬間だ!

 俺、大地に立つ!

 いや違うな…。

 俺、参上!

 こっちの方がヒーローっぽいか?


 一人称も変えてみよう。

 知的に「私」はどうだろう。なんか違うな。

 ちょっと偉そうに「我」。ダメだ、言うたびに恥ずかしくなりそうだ。

 初心に戻って「僕」。厳しいな。いつか絶対笑ってしまう。元の世界の知り合いには絶対聞かれたくない。

 ちょっと奇をてらって「我輩」はどうだ?悪魔閣下になってしまいそうだが、ロールプレイだと思えば悪くないかもしれない。




 …正直、あとになって冷静に考えると、このときの俺はどうかしてたんだと思う。捨てたはずの中二心がうずく。

 …うん、ごめん。まだ混乱してるわ。








 そんな現実逃避を繰り返し、俺はふと辺りを見回し絶句した。

 そこには、巨大な赤レンガでできた俺の身長をゆうに越す壁、その上にある巨大な生垣のような植物や花達。あの三角の形状は屋根だろうか。木造や石造りなど様々だが、10階建てのビルくらいありそうだ。外から建物のつくりを見る限り、2階建てか3階建てくらいだと思う。近くに降り立った鳥ですら、俺の身長の半分くらいある。空は高く、地面に敷かれている石畳は、一つ一つがかなり大きい。まるで巨人の世界に紛れ込んでしまったようだ。

 …いや、しまったようではない。ここは巨人の町のようだ。

 その証拠に、今、俺の横を駆け抜けて行った人間はあの女神のような大きさだ。

 ということは、あのレンガの壁は花壇か?

 この見えている町並みは巨人サイズの家や道なのだろう。

 しかし、俺と交換で召還されたエルフは俺と同じくらいの大きさだったはずだ。

 ということはこの世界には普通の人間もいるということだと思う。


 そんな時、巨大な…といっても子供だと思うが…足が俺の胴体を捉えそうになる。…危ないな。ちょっと人を避ける場所が要るだろう。

 花壇?の切れ目を見つけそこに入る。

 まるで東京で見かけた路地裏みたいだな。

 周りの建物や花壇が影を作るため、ちょっと薄暗い。奥行きもそこまでないけど、この人ごみでけられないようにするには十分だと思う。あんなのに蹴られたら怪我じゃすまない。

 あの女神目適当なことしやがって。

 せめて人間の町に降ろしてくれよ。異世界生活の始まりって言ったら、始まりの村とか町とかだろ。巨人はだいたい6個目の町とかからだろ。

 昔、携帯ゲーム機でやった名作ゲームの第二作ではそんな感じだったぞ。

 しかし、あのゲームと違ってチュートリアルに先生とかはいないんだし今更か。

 さて、これからどうしようか考えていると、巨大な車輪が俺の目の前を通り過ぎた。馬車だ。

 改めてみてみると、建物や巨人だけでなく、鳥や馬車につながれた馬。植物なんかもかなり大きい。

 これは…、もしかして巨人に合わせて全部大きくなってるのか。

 すごいな。ファンタジー世界。

 そう、ファンタジー世界。

 説明によるとあのエルフは剣と魔法の世界から来たらしい。

 何だったかな。そう、アレイシア大陸。エリンディオのアレイシア大陸に飛ばすとか言ってたな。魔法かぁ…、人生で一度は使ってみたいなぁ…


 そうこうしてる内に、目の前を通っていた馬車が止まり、一人の巨人が降りてきた。青と白をベースにしたドレスに緑色のアクセントが映えている。きれいな長い金髪は彼女の可憐さをさらに際立たせているようだ。

 まるでゲームのお姫様のような存在だ。

 いいね。ボタン押したい。

 まぁ、俺には関係ないんですけどね。

 彼女は俺の隣の建物に入っていった。

 そうか、相手がこの大きさじゃRPGの情報収集の常套手段、酒場に入って情報収集もできないのか。扉じゃなくてスイングドア、いやウェスタンドアって名前だっけ?あれであってほしい。あれなら何とか入れるだろう。ゲーム的に考えるなら酒が入った人間はよくしゃべる。こっちが何か言わなくても勝手に情報は集まってくるだろう。

 はぁ、なんだか考えるのがめんどくさくなってきた。

 あぁ、ここは影なのになんていい陽気なんだ。

 なんか…、だんだ…ん、眠く……





 おやすみなさい。ぐぅ…











 目を開けたとき、俺の目の前には先ほどのお姫さまっぽい彼女がいた。

 いや、いたというかガン見されてる。

 間近で見るとかわいいな。うん。きれいって言うかかわいいって表現が正しいと思う。

「まぁ、なんて珍しい。あなた、お名前はなんていうの?」

 珍しい?普通の人間がここに来るのは珍しいのか。

「?」

 まぁ、なんにせよ、話の通じそうな人が来た。

 えっと…、一人称は何にするんだったっけか。

 そうだ、我輩にするんだった。えー、こほん。


「あー、すみません。我輩、いきなりこの世界に来て困っていまして。よければちょっとこの世界について情報などぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「か、かわいい!かわいすぎます!」


 突然、脇から抱きかかえられ、困惑する。

 そして、ぎゅぅぅぅーっとされる。

 おい、やめろ。子供みたいな抱き方するんじゃない。

 くっそ、女性の体だって何でこんなに柔らかいんだ。

 スベスベの肌に程よい触感の上品な服。くっ、色仕掛けなんかには屈しないぞ!

 ぬおぉぉぉぉぉぉぉ!?

 やめろ、胸に抱きこむな!

 胸の感触がぁぁぁぁぁぁ!?やわらけぇぇぇぇぇぇぇ!?

 彼女と別れてここ一年くらいはご無沙汰だったから。余計にやわらかく感じるぞ畜生!!

 あと、さっきから近くに猫がいるのか、ニャンニャンニャンニャン猫の声がうるせぇ!?

 くそ、俺の体は自由にいできても心までは…、じゃないこれは堕ちるやつの台詞だ!?

「そうだ、つれて帰ってお父様に相談してみましょう」

 くぅ。俺を連れて帰る気か。しかし、腕の中から抜け出せないぃぃぃ!!



 結局、俺のささやかな抵抗むなしく、俺は彼女に抱かれたまま馬車に連れ込まれていった。





 うおぉぉい!抵抗虚しくじゃねぇ。何とかしなければ。

「ちょっとちょっと、俺の話を聞いてください!」

「あら?一体どうしたの?大丈夫よ。馬車は怖くないから」

「違う。怖い怖くないの問題じゃない。ちゃんと話を聞いて」

「うーん…、どうしたのかしら?あ、そうだわ」

 彼女はイスのサイドボックスからブラシのようなものを取り出し、俺の頭から背中にむけてスライドさせていく。

 うぉ!?何だこれ!?めちゃくちゃ気持ちいい。

 そういえば、頭部は気持ちよく感じるつぼが集中してるとか聞いたことあるような?人になでられたり、ブラシ通してもらったり、耳かきしてもらうと気持ちよく感じるのはそのためだとか聞いた気がする。…あくまで気がする、だが。

「ふふふ…気持ちよさそうにしちゃって。それにしても、あなたはなんていうお名前なのかしら?」

 うおぉぉぉぉぉ。やばい、その指を立てて撫でるなで方やばい。

 ちょっと力加減ができてないのか、若干、痛痒いときもあるが、それはそれで心地良い。

 あ、そこそこ。もうちょい上、上。あぁ、そうそう。

 やばい、すっげー気持ちいい…

 彼女のひざの上でうとうとしていると、ふとイスの隣のボックスが気になった。

 さっきブラシをとったからか、ちょっと天板の部分が開いている。

 このボックスは天板部分がスライドして開くようになっているらしく、中にはさまざまな大きさの箱や羽、本…というか手帳が入っていた。

 さらに化粧道具っぽいものも入っており、女の子の机の中って感じがする。

 お?あの取っ手は手鏡かな?うん、女の子らしい。

「さぁ、きれいになりましたよ」

 彼女の気も満足したらしい。

 そこで俺は改めて彼女を見る。今ならちゃんと話を聞いてもらえるチャンスだろう。


「申し訳ない。我輩の話を聞いてほしい。我輩は…」

「あらあら。ふふふ…、そうですよね。ちょっと待ってくださいね」


 そういって彼女は再度ボックスに手を伸ばした。

 何をしているのかと疑問に思っていると、中から手鏡を取り出し俺に向けてきた。

「ふふふ。どうですか?きれいになったでしょう?」

 そう彼女がいうが、俺は、それに答えられないほどの衝撃を受けていた。


 そう、俺は今、鏡に映った自分の姿を見て絶句している。

 その姿は…








「猫じゃねぇぇぇぇぇぇかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」















 ここで初めて、俺は自身の姿が猫であると自覚したのであった。


 そう、我輩が猫であった…


挿絵(By みてみん)

多夢和君、やっと自分が猫の姿であることに気づく…

次の話は書け次第ということで…


9/1 改稿

一段下げの機能を教えていただいたので、全文改稿いたしました。ありがとうございます。


9/24 挿絵

以前から交流のあったマヲしろんさんに挿絵を描いていただきました。ありがとうございます。

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