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12-4EX.次期伯爵グレイ 家臣団

「はぁ、どうしたもんかな。コレ」

 僕は皇都に設けられたセレーノ伯の屋敷の自室に届けられた書類の山に頭を悩ませていた。

 この屋敷はセレーノ伯のものなのでまだ僕の家というわけではない。

 しかしながら、次期伯爵という立場上、ここに執務室を設けていた。

 はぁ。早く家に帰りたい……。

 正直、ここそれなりに宝飾が多くて落ち着かないんだよなぁ。


 目の前に並ぶ書類は、冒険者や貴族の子弟から届けられた所謂履歴書だ。

 もうなんなのほんと。この量。

 馬鹿じゃないの?

「お、やってるな。次期伯爵様」

 僕の部屋に入ってくるものがいた。

 両手に、コップを持っている。

 この匂い、お茶かな?

 彼は1つを机に置くと、書類の山の中から1つを取り出した。

「すげぇな。この量。これだけでもちょっとした軍団だぜ」

「そう思うなら少しは手伝ってよ。オットマン」

「いやいや、こういう時は次期伯爵閣下自らお考えになられるべきかと」

 本当。よく言うよ。

 お調子者なんだから。


「にしても、ほんとすげぇ量だな。コレ、一枚一枚捌いてるのか?」

 オットマンの持ってきてくれたお茶を啜りながら、僕は一つ一つ目を通す。

「こっちは近くの村の名士の息子、こっちは皇都の大店の四男坊。げっ!?こっちは男爵の次男かよ?しかもタクラマクトの闘技会の騎兵部門の準優勝者とか書いてあるし」

「あぁ、そっちの人たちは全部無理。僕にはもったいないから、聖上に紹介しておこうかなって」

 正直そんな人たち、僕の配下になっても実力を発揮しきれないだろう。

 僕よりも聖上や皇王に近しい人の配下になった方が良いだろう。

「かあぁ!勿体ねぇ。せっかく送ってきてくれてるなら、全部取っちまえばいいのに」

「そんな人ばっかり雇ったって人間関係とか、給料とか大変なんだよ?下手なことすればティナさんに大目玉喰らっちゃうよ」

 最近色々大変なんだから、出来るだけ彼女とのトラブルは避けたい。

 やっと5人での屋敷の生活にも慣れてきたところだし。

 僕はできるだけ、のんびりと生きていきたいのだ。

 使命の事は聖上……神獣様が何とかしてくれるだろうし。

 僕みたいにレベルの低い人間がどうこうするよりも、あの人に任せておいた方が確実にいい方向に進むと思う。


 僕は、僕の手の届く範囲だけ守れるようになりたい。



「そういえば、オットマン。何か用事があったんじゃないの?」

 僕の質問にオットマンは上を見上げて頬を掻く。

「あぁ、いやなんというか。最近一気に俺らの立ち場って上がったじゃん?」

「うん?」

 まぁ、そうだね。

 オットマンも一介の試験から上がってきた兵士から今じゃ神獣付き、そして次期伯爵の筆頭家臣だしね。

 僕も人のこと言えないけど。

「町にいるとちょっと落ち着かなくてよ」

「あぁ、家臣団の申し込み?」

「あぁ。そりゃもう恐ろしいくらいに」

 そ、そんなに?

 そういえば、僕が街を歩いてる時も結構な量の視線を感じたな。

 うーん。

 いい加減どうにかしないと、趣味の釣りもまともにできなくなるな。

 というか実際、結構支障が出始めてる。

 周りの気配で魚が逃げるんだよね。

 出来るだけ早く決めてこの騒動を収めてしまわないと。


 とはいえはなぁ。

 この履歴書の束はなぁ。

 ってあれ?

「ねぇ。オットマン。この履歴書」

 僕は1枚の履歴書を取り出してオットマンに見せた。

「ん?なんだ?」

 オットマンはそれを見て顔をしかめさせた。

「リリー・カインズ?騎士爵令嬢って書いてあるが……隊長級の冒険者でもあるのか。これがどうかしたか?」

「いや、そっちじゃなくてその下」

「下?」

 そこには恐らく親が追加したであろう文言が。

 未婚かつ、婚活中と。

「何だこりゃ?寿退職宣言か?これがなにか?」

「いや、君ら4人の婚約相手候補としてどうかなって。君等も騎士爵を叙勲するわけだし」

「……なんでそんな話になるんだ?」

「なんか僕の就任前に4人の婚約相手は決めてしまいたいらしいよ」

 僕には理由はよくわからないが、ティナさんから聞いた情報ではそういうことらしい。

 うーん。

 さすが異世界。

 僕の知らない常識は多い。

「つまりこれはお見合いの売り込みも含んでいると」

「そうみたい」

 僕らは2人して執務室で大きなため息をつくのであった。


「うーん!そろそろ休憩しようかな」

「おつかれさん。ほい、追加の茶だ」

「あぁ、ありがとう。オットマン」

 オットマンはこういうところにはよく気が利く。

 羨ましいなプレイボーイは。

 書類を保留と不採用に分けるだけの仕事なんだけど、こう量が多いと……。

 因みに両者の基準は僕の直感。

 ティナさんやセレーノ伯にはそれでいいと言われているし。

 そもそも家臣団と言ってもオットマン達を除けばセレーノ伯昔からの家臣もいるわけだし。

 セレーノ伯が引退時に2人ほど残して残りを今建てている別邸に自分達と共に移動させるなんて宣言をしていなければ、こんな苦労することはないんだけどなぁ。

 セレーノ伯の家臣は比較的少ない方とはいえ、結構な数の執事やメイド、武官もいる。

 セレーノ伯に昔から従っている方たちなので結構な高齢の方達だけど、セレーノ伯は彼らと陰遁することを既に宣言しているので殆ど刷新に近い状態なのではないだろうか?

 ……やめた。今、考えても仕方ない。

 なるようになるだろう。

「オットマン。少し出てくるよ」

「おやおや、どちらへ?次期伯爵様?」

「気分転換」

 残念ながらお前の期待しているような事はない。


 執務室を出て貴族街を抜けて職人街へ。

 住宅エリアに比べるとこの職人街の入口は活気がある。

 この辺りに商店が多いのもその要因だろうけど。

 ふと人混みに目を向けると、パロミデスが商店の前で何やら立っているを見かけた。

 彼の格好は目立つからな。

 本人と知らなければ、山賊や盗賊の頭と勘違いされてもおかしくない。

 よく見ると、パロミデスの後にはウィンディアの親子が。

「んだテメェは!邪魔すんじゃねぇ!」

 あぁ、そんな言い方すると、パロミデスは……。

「ガハハハ!雑魚ほどよく吠えやがる!良いからかかってきやがれ!雑魚ナメクジ共!」

「この野郎!ぶっ殺してやる!」

 あぁ、ほら。始まっちゃった……。

 パロミデスは見た目もそうだが性格も結構、癖があるから。

 そのせいで、お酒の席では結構やらかしているし、シラフでもケンカしていることも多い。

 いつも止めるのは僕やフィンの役目だ。

 フィンは……今近くにいないから、僕が行くしかないよなぁ。

 はぁ。あの男に殴られたらきっと痛いよなぁ。

 でも仕方ないか。

「おい!そこの2人!」

「「あぁん?」」

 こっわ!顔こっわ!

 山賊が2人いるよ。

「誰だテメェ!文句あんのか!?」

「グレイ……様」

 あ、パロミデスは僕に気づいたみたいだ。

 一気にクールダウンしたみたいだね。

「ガキが生意気にもオレに口出ししてくるんじゃねぇよ」

 こっちは気づかないか。

 まぁ仕方ないよね。

「こんな往来で殴り合いそうなケンカしてるんだから止めるのは当然だろ。何を怒っているか分からないけど、少し冷静に……」

「うるせぇ!」

 ヤバい殴られる!

 けどここは甘んじて受ける。

 それなら僕が痛いだけですむ。

 パロミデスが民間人と喧嘩したとか、その後に控えているウィンディアの親子が痛い思いをするよりは随分マシだ。


 思わず目を瞑ったが、中々打撃が来ない。

 えっ?なんで?

 恐る恐る目を開けて状況を確かめてみる。

 そこには、僕に向けられた拳を受け止める2人の青年の姿があった。

 1人は如何にも純朴そうな、駆け出し冒険者といった風体の男。

 1人は如何にも貴族ですと言わんばかりの豪華な服を身に着けた男。

 2人で僕に向けられた拳を受け止めてくれたようだ。

「な、何だテメェら!」

 その言葉を聞いて、割り込んだ2人が答えた。

「貴方方如き俗物に!」

「名乗るななど持ち合わせてはおらぬが!」

「「聞きたいというなら教えてやろう!」」

 え、なにこの人たち。

「「我ら、冒険者パーティー『双極の翼』!」」

「弱きを助け!」

「悪事を砕く!」

「「未来の皇都を背負い立つ勇士!ここにけんざ……ぶべらっ!?」」


 え、えぇぇぇぇぇぇ!?


 まさかの口上中にぶっ飛ばされた!?

 うそん!?

 君らあれじゃないの?

 絡まれてるところにさっそうと助けに入る正義の味方的な存在じゃないの?

 まさかこんなに一方的にぶっ飛ばされるなんて。


「はっ!口ほどにもねぇ!次はテメェだ!覚悟しやがれ!」


 男が再び拳を振りかぶる。

 今度こそ、殴られるか!


「おぉ!これはこれは!グレイ様ではありませんか!」

 殴られる直前の僕に声をかける人がいた。

 風体は商人。

 大きなリュックを背負っていた。

 え?この人は……。

「いやはや!こんなところでお会いできるとは!商人冥利に尽きるというものです」

「えっと……たしか、ロロンドさん?」

 僕の言葉に、ロロンドさんは大げさに反応する。

「そうです!えぇ。商業ギルドサブマスターの、ロロンドでございます」

 かなり大げさに商業ギルドサブマスターというセリフを言ってのける。

「しょ、商業ギルドのサブマスター?」

 サブマスターというセリフに驚いたのか、僕を殴りかかろうとしていた男は一歩後ずさる。

「いやはや、流石!弱き市民を助けようとするその心意気。まっこと感服いたしました!次期セレーノ伯爵様」

「!?!?!?」

 今度はわざとらしく次期伯爵という事を大声で言ってのける。

 その声を聴いて男がみるみる青ざめていく。

 なるほど。そういう事か。

「いやいや、僕なんて……てぇ!?」

 いきなり先ほどまで殴りかかろうとしていた男がメジャーリーガーもかくやという勢いでダイビング土下座をしてきた。

「誠に申し訳ありませんでしたぁ!どうか命ばかりはお助けを!」

 うわ。マジの土下座じゃん。

 ちょっとひくわぁ……。

「と、とりあえず、今日のところは許します。けど、今後は喧嘩は気を付けてくださいね」

「ははっ!寛大なお心、感謝いたします!」

 疲れるなぁ。全く。




 男が逃げていくのを見送ると、ロロンドさんが話しかけてきた。

「流石です。グレイ様。このように丸く収めてしまうとは」

「いえ。ロロンドさんの助けがあってこそです。御助力ありがとうございました」

「ははは。なんのなんの。お役に立てたようなら幸いでございます」

 そうあいさつを交わすと、僕はパロミデスの方を見た。

「……すまない。グレイ。助かった」

「そう思うなら、少しだけ、その短気なところを直してね。あんまりこういうやり方は好きじゃないんだから」

「あぁ。わかってる」

 ちょっと、というか、パロミデスはかなり反省しているようだ。

 これ以上、攻めるのはよしておこう。

「そういえばパロミデス。そちらのお2人は?」

「あぁ、彼女たちは……」

「お初にお目にかかります。次期伯爵様。私はヒルデ。こちらは娘のマノンと申します。しがない薪売りでございます。危ないところを助けていただき、感謝いたします」

 そう、丁寧にあいさつされたので思わずお辞儀をしてしまった。

「あ、はい。よろしくお願いします。それで、いったいどうしてこんなことに?」

「それは……」

 そう言いかけたヒルデさんの後ろから、マノンちゃんが飛び出しパロミデスに抱き着いた。

「パパ!かっこよかったの!」






 は?

 パパ?


 え?えぇぇぇぇぇぇ!?

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