12-3.登場、エルフ侍
ちょっと短いです。
勢いで現代に飛ばしたけどどうすりゃいいのこれ。
「ふははは!身の程を知らぬ虫けらめ!さぁ!抗えぬ力に恐れおののくがいい!」
そう誰もが思った経験はないだろうか。
中二病真っ盛りか、もっと幼いころに。
いや、誰もは言い過ぎか。
社交的かつ、虫も殺せないような優しい心の持ち主なら、そんなことしないかもしれない。
残念ながら、俺はやった。
蟻の巣に水を流し込んだり、机に這いあがってきた蟻をプチっと指でつぶしたり。
いや……、大人になっても殺虫剤や虫取りホイホイでやってるやつもいるかもしれない。
なぜそんなことを思ったかというと。
俺に突っ込んできた、暴走スポーツカーをプチっと踏みつぶしてしまったからだ。
いや、思わずやっちゃったけど、これ俺が悪いんだろうか?
うわっ。これ牡牛のマークじゃん。
車を持っていない俺でも名前くらいは知っている。
実際に実物を見たのは初めてだが。
一体幾らするものなのやら。
この状態だと確実に廃車だろうしなぁ。
咄嗟のこととはいえ、思いっきり踏みつけちゃったからな。
ボンネットが、というより車体がきれいにVの字になってしまった。
い、いや。踏み抜かなかった……じゃなかった、地面を抉らなかっただけ、俺も咄嗟の手加減がうまくなったと思うべきか?
なんか基準がおかしい気もするが。
運転していた人間は……よかった。無事だ。死んでない。
……車が折れ曲がって、エアバッグが起動しているせいで人間と車のオムレットみたいになってるが。
うん。無事だ。一応。多分意識はないと思うけど。
「警察でござる!そこの男、とまるでござる!」
……ござる?
なんだかいきなり場違いな言葉が……。
これは、もしかしてアイツか?
「いや!抵抗するべきですわ。抵抗しなければ撃ちますわ。抵抗しても撃ちますわ」
アイツかな、って思って向いた先からとんでもない言葉が聞こえた。
いやいやいや。どっちにしろ撃つんかい。
流石に撃たれたら抵抗するぞ?
「ちょ!加凜殿!自重するでござるよ!?」
「おだまりなさい!勝成!せっかくのぶっ放す機会ですわよ?」
「「いや、だから。ぶっ放すな(でござるよ)よ!?」」
思わずツッコんでしまった。
なんだよ。いったいこの女は。
「で、お主は何者でござるか?」
数分後、救急車や消防車、パトカーが大挙して押し寄せる中、エルフ侍、アスティベーラが俺に問うた。
あれ?
こいつもしかして俺だってわかってないのか?
って、そうか。
よくよく考えたらこいつと顔を合わせたのは一番最初の白い部屋以来。
俺はその後この姿になってるから知るわけはないか。
まぁ、事情を説明しろと言われても俺にもよくわかってないんだが。
「えっと、俺はだな……」
「勝成!なにをぼさっとしてるのですか!逮捕ですわよ逮捕!器物破損の現行犯ですわ!」
俺とアスティベーラが話をしている最中、女性警官……刑事?が横から逮捕逮捕と騒ぎ始めた。
いや、逮捕は困るんだが。
さっきもぶっ放すとか言ってたからこの女は危険人物だな。
「いや、だから!むしろこの人は被害者でござろう。加害者はあっちのオムレットの具材になってる方でござるよ」
意外とアスティベーラが冷静で助かった。
女神のパンツ覗いて興奮したり、アニメの時間だからと通信を切るような奴だったからな。
正直、意外だった。
「連れがすまないでござる。こやつは少々……というか、だいぶぶっ飛んでいる故。許してほしい。こうは言っているが、少々気が立っておってな、害はないでござる。拙者、徳川福田署の特別機動隊の山科勝成と申す。すまぬが名前を確認しても良いでござるか?身分証になる者は今持っておるか?」
あー、身分証。身分証ねぇ。ないな。
どうしようか……。
そうだ!俺とアスティベーラしか知らないことを話せば俺の事をわかってくれるかもしれない。
俺はアスティベーラに近づき、アスティベーラにしか聞こえない声で話した。
「元気そうだな。エルフ侍」
「む?」
「あのときはホームレスの危機だったのに、今は警官か。お互い、だいぶ状況が変わったよな」
「お主、もしかして……」
察してくれたか。
話が早くて助かる。
「多夢和殿でござるか!?いつこちらに帰ってきたでござるか?」
「いや、まぁ。たった今なんだけど。なんか女神からもらったボーナスみたいなの使ったらこうなってな。こっちはどんな感じ?」
「こちらは……まぁ、あまり変化はないでござるよ。小さい事件はちょいちょい起きてるでござるが。このままで、本当に世界を破滅させるような問題が起きるのか少し分からなくなってきたでござる」
ふーん。まぁ平和ってことだろうか。
「さっきお主が起こした……高級車オムレット事件とでも言えばいいか、それも小さな事件の一つでござる」
あの歩道を走ってた輩が?
「アイツラはこちらで言うところの特殊能力を身に着けて強盗致傷を起こした容疑者でござる。拙者たちが見つけて追いかけてたでござるよ。まぁ、運悪くお主に出会ってしまったわけでござるが」
「特殊能力?」
「拙者たちからすると魔法がある故、さして珍しくもないのだが……こっちの人からすれば脅威でござるからな。拙者たちが対処してるでござる」
「へぇ。ちなみにあいつらってどんな特殊能力を?」
「火と風の力でござるな。それを使って強盗行為をしていたみたいでござる。まぁ、対した能力者ではなかったでござるな。ランクとしてはEってところでござるな」
こっちにもランクとかあるのか。
ってそういえば。
「そういや、夢は?確か似たようなことしてるんだよな?」
「ん?あぁ、夢殿か。夢殿は……」
アスティベーラが多少考え込むような仕草を見せる。
え?なんで考え込んでるの?
「なんといえばいいか。今はニューカレドニアに旅行中でござるよ」
え?あいつまたなんでそんなところに。
「あー、ある組織を潰しに」
あー、そうですか。
なんだか、アスティベーラから聞く夢の情報はそんなんばっかりな気がする。
なにやってるんだろうな。あいつは。
「ところで多夢和殿、こっちの世界にはいつまでいるでござるか?というかそもそも、どうやってこちに来たでござる?」
「あ、あぁ。なんか一日転移券とか言ってたから一日じゃないか?」
いやしかしなぁ。
あの女神のすることだしなぁ。
一日とか言って何日もいても俺は驚かないぞ。
って、そうだ。
「すまない、アスティベーラ。ちょっとだけお願いがあるんだけど……」
「?何でござるか?」
「……お金、貸してくれない?」
持ち合わせがない。
久々にそこの大手飲料メーカーの自販機でブラックコーヒーが飲みたい。
そんな気分なのだ。