12-1.新たな、鳥
「あ~。やることねぇな」
忙しいはずなんだけど、いや普段忙しいからこういう一日何もすることがないと暇に感じるのかもしれない。
女神の来訪の翌日。
俺は城の中で昨日と変わらず、一人で過ごしていた。
今日は国の重鎮、その中でもイドバルドやヴィゴーレやロウフィス、グレイなどのシャルロッテさんに近しい人物たちへの妊娠報告の日だ。
シャルロッテさんは今日までは忙しいだろうし、まだ調子は良くない。
人数を絞って会ってるくらいだしな。
俺は遠慮したのだ。
明日辺り、こっそり会わせてもらおう。
「そういや、昨日の女神の贈り物があったな」
いや、ゴムの方じゃなくて。
一日転移券とかいう意味不明なチケットの事だ。
ていうか、あの女神。獣人を作れとかいう割に、こういうの渡してくるのはどうなんだろう。
「だって、遊ぶことも必要ですよ。そうやって欲を育てていけばこちらから言わずとも、自主的にするようになるでしょうし。立場的に遊べない人とも遊び放題ですよ。人妻とか、姫様親子姉妹d……ぐへぇ!」
確かそんなこと言ってたな。
トンデモナイこと言おうとしてたから途中で殴ったけど。
流石にないわぁ。
俺はベッドで寝ころびながら、クシャクシャの方のチケットを手で弄ぶ。
まぁ、転移で別の世界に一日だけ行けるって言っても、別段何をするわけでもないしな。
両親や妹に会いたくないといえば嘘になるが、そこまで切羽詰まってるわけでもない。
まだこっちに来て三か月くらいだしな。
氷室さんやグレイ、遠藤氏を誘って……ってそういやグレイは時間軸が違うんだっけ?
その辺どうなんだろう。
過去の世界の自分と出会って対消滅とかしないだろうな?
いや2020年にはまだ生まれてないか。元の年齢がわからんが、高校生っていってたからギリギリくらいか?
ちょっと恐ろしくなってきたぞ。
ってあれ?なんだろう?
何か大切なことを忘れているような。
そういえば、前にもこんな感覚があったな。
なんだろう。この違和感というか。
何か大切なことを見落としている感覚。
絶対何かおかしなことがあるはずなのに、見つけられない感覚は。
間違い探しでもしている気分だ。
コンコン。
ん?
窓の方からガラスを叩く音が聞こえた。
見ると窓の外にルートバードが2体、くちばしでガラスをちょこちょこと叩いていた。
俺は窓に近づき、開けてやる。
するとルートバード達はこっちに入ってきた。
なんだなんだ?
遊んでほしいのか?
しかしそう思って手を伸ばすと、ルートバードは手を避けるように窓の縁へ移動する。
「おーい!」
ルートバードを追いかけて半身乗り出した俺を下から呼ぶ声がした。
アレは、フェニクスか。
ルートバード達は鳥の魔物だからフェニクスに頼まれたのかな?
一応、鳥系の魔物の魔王だって言ってたしな。
俺は飛び降りてフェニクスの前に降り立った。
「どうした?何か用か?」
「いやまぁ、用というほどじゃないんだが……」
フェニクスがそう言いながら後ろから何かを取り出した。
なんだそれ。
でっかいキウイフルーツ?
そう思っているとキウイフルーツから何か棒のようなものが出てきた。
「もしかしてこれ、鳥か?」
「あぁ、俺たちの島にはいなかったが、アプタリクスという種の鳥の魔物だ。よく鳥とわかったな?」
「あ、あぁなんとなくな」
地球でも似たような鳥がいたからな。
図鑑でしか見たことないが。
「こいつは土属性に特化した魔物でな。どうやら群れからはぐれたらしい。鳥系の魔物の中では割と珍しい部類に入る。ちなみにこいつはポレヴィークという個体だ」
いや、もう名前つけてるし。
キウイといえば、確か地球だと、ニュージーランドにしかいないニュージーランドの国鳥だっけか。
「で?その珍しい魔物がどうしたんだ?」
「飼いたい」
「は?」
「だから飼いたい。はぐれというのはよほどの能力がないといずれ朽ちるのがオチでな。我らの保護を与えたい。魔物としての珍しさもなんだが、こいつは無精卵を数日おきに複数個産んでな。人間にも有用な種だ。増やして家畜化も夢ではない」
「鳥が家畜化されることには抵抗ないのか?」
「ない。といえば嘘になるが、同種でなければ気にはせん」
お前の同種って、魔王がそうポンポン出てきてたまるか。
「こいつは一度に三つくらいは産む。これだけの数が居ればすぐに増やせるだろう」
ん?これだけの数?
そう聞こうとした俺の視界に、正確にはフェニクスの足下に20程のアプタリクスを確認できた。
いや、多いな。
「殆どがメスだ。昨日、下の森で拾った」
いや、拾ったって……。
「別にいいけど、どこで飼うんだ?俺にそんな権限ないぞ?」
「お前はこの国の王であろう?お前が黒といえば白いものも黒くなる。違うか?」
そんな絶対権限ないよ。
どんな暴君だ。
「まぁ、いいけど。ドラディオやバロンに相談しろよ。あと、聖域には虫型の魔物もいるから、間違えて食べないように言い聞かせてくれよ」
「わかった。良かったな、ポレヴィーク。では皆、行くぞ」
そういってフェニクスに赤い髪をなびかせて去っていった。
なんていうか、フェニクスは堂々としているから、俺なんかよりよっぽど魔王っぽい。
あいつ、なんで俺の配下扱いなんだろうな?
というか、その数ではぐれなのか?
群れをごっそり持ってきた感じの数がいるが?
ピィピィッ!
お?なんだ?ルートバード達?
ピュイピュイ!
ヤバい。全く何を言いたいか分からない。
大分前に彼らと会話ができた気がしたのはやっぱり気のせいだったか?
「お前ら、いったい何を……ってそうだ、こいつらにも名前つけてやるか」
いつまでもお前らじゃちょっとかわいそうだよな。
えっと、ポレヴィークって確かスラブ系の妖精の名前だっけ。
確か畑の妖精。
いっそそれと合わせてみるか。
ってスラブ系ほとんど知らないんだよな。
何があったっけ?
そう考えた俺の前をぴょんぴょんと数匹のスライムが通っていく。
え?何事?
脱走?脱走なのか?
って、そうだ。
「えっと、そっちのちょっと青い羽根が多いのがルサールカ、そっちのちょっと緑の羽根が多いのがキキーモラでどうだ?」
ピィ!ピィ!
お。気に入ったみたいだな。
2匹で小躍りしてる。
気に入ってくれたようで何よりだ。
ちなみに名前はRPGから落ち物パズルに転向した名作ゲームをスライムを見た時に思い出して、それっぽい名前とセットで覚えていた名前を使ってみた。
たしかあの作品だと掃除が得意な妖精メイドだったっけ。
何気に武士言葉の蜂とか好きだったなぁ。
ちなみにもう一つの方の名前は昔友人とサバイバルゲームを作ったときに、後から登場するキャラクターの名前からとった。
キキーモラが部屋の掃除、ルサールカが野外の掃除をしてくれるという設定だったと思う。
個体名、ルサールカ『ルートバード』に更新します。
個体名、キキーモラ『ルートバード』に更新します。
飛び去って行ってしまった。
よほど名前がもらえたことがうれしかったのか、空の上でも2匹で踊っていた。
アナスタシアを迎えに行くまではまだ3日もある。
さてと、今日はこれからどうしようか。
いろいろ悩みましたが、多夢和君は1日だけあるところに行ってもらうことにしました。
向こうの話も本当は書きたいんですが。




