2-7.冒険者の報酬
「で、このダンジョンに来たわけだが」
ダンジョン?(洞窟)の入り口を見上げながらガラハドがつぶやいた。
「……なに?この扉?」
ダンジョンの入り口には石製の馬鹿でかい扉が鎮座していた。
「ここのダンジョンって枯れた状態って聞いてたんですけど……」
ヒュードが質問をした。
「ダンジョンってすごいんですねぇ~」
ふわふわとした感じでコルナが付け加えた。
「いや!ねぇよ!ここにはなんべんも来てるけど、こんなの初めて見たよ!」
「……重たい。私に開けるのは無理」
「っていうか俺ですら開けれない扉なんかこんな管理されたダンジョンにあってたまるか!!どうなってやがる!!」
ガラハドが殴るが扉はびくともしない。
石殴ると手が痛くなるよ?
ほら、いわんこっちゃない。
「あ、レバーありますよ!レバー!」
ガチャリとレバーを引くヒュード。
おい!そんな簡単にレバー引くなよ!罠だったらどうするんだ!
そんなことを心配しているとボキリとレバーが根元から折れた。
「壊れちゃいましたね~。ヒュード君、力加減考えないから~」
「いやいや!なんでいきなり、そんなくそ怪しいレバー引いてるんだよ!馬鹿じゃねぇのか!そんなことしてると命がいくつあっても足りないぞ!」
「……この馬鹿、解体していい?」
「片手までなら~、いいですよ~」
「やめろ!新人だろ!?ってかコルナは何で乗り気なんだよ!?可哀そうだろ!止めてやれよ!」
「私~、依存されるのが~、好きなんですよ~」
「もういい!生々しいわ!」
コルナさん……、道中普通な人っぽい会話してたからまともな人かと思ったら、まともな人じゃなかった。
にしても、そんなに重いのか?この扉。
まぁ、石製だから重いか。あれ?簡単に開くじゃん。軽いっていうか抵抗が一切ない。
あ、そうか。俺のレベルが高いからか。
多分ステータスもほかの人より高いんだろうな。
さて、せっかく開いたので彼らに入ってもらいたいのだが。
でもここまで全く気付かれてないんだよなー俺。
「気配寸断」思った以上に恐ろしいスキルだ。
どうやって気づかせるかなぁ…。
あ~、さっきのスキル一覧に気づかせられそうなスキルは……。
ねぇな。っていうか字面的にやばそうなスキルが多いんだよなぁ……。
あ、これなんかどうだろう?
俺はあるスキルに目を付けた。
使うけど、出力を絞って……、『威圧』!!
突然、帰ろうとしていた四人が振り返る。
ちなみに俺は扉の影に隠れている。
だって四人の目が怖いんだもの。
「……なんだよ、いまの」
「わからない。でもこれは放っておけない。これを外に出すと大変なことになる」
「だな。おい、ヒュード、コルナ。パーティーは解消だ。お前らは帰れ」
「だ、だめです。僕らも冒険者です。僕たちがいたら邪魔になるかもしれませんけど…、これは何としてもここで食い止めないと……」
「はい、これは~。さすがに~、まずいと思います~。私も~、回復魔法が使えるので~、少しはお役に立てるかと思います~」
いや、大げさな。
かなり出力は絞ったぞ。
調整が上手くいってないのかな?
それともパッシブスキルとは使い勝手が違うのかな?
が、確かに「手加減」した感覚はあった。
その証拠に「手加減」というスキルが増えている。
なんでさっき木箱を引っ掻いた時は増えなかったんだろう?
よくわからんなぁ……。
スキルを使用したときと物理的な行動をした際で違うのかな?そういうことにしておこう。
おっと、四人はそろそろ進むようだ。
こっそりと遅れないようについていこう。
ダンジョンに入って数分ほどで、十字路に行き当たった。ガラハドは迷うことなく右の道を進んでいく。
「あの、ガラハドさん。迷わずこの通路に来てよかったんですか?」
「ああ、言ったろ?ここには何度も来たことあるって。左側は行き止まりでな。冒険者の休憩所として使われているんだが……。本来ならお前らを他のやつらに紹介したいところなんだが、今は時間が惜しい」
「扉も閉まってたし。それにあの気配。入り口にいた私たちまで感じられた。もし、中に冒険者がいるなら気付いて逃げるか移動するかしてるはず。行くだけ無駄」
「情報交換や他の冒険者については、また今度教えてやる。行くぞ」
「はい!」
「はい~」
仲良いな~。俺もせめて人間の姿になれればなぁ……。
ってあれ?俺そういえば転移って言われたよな?
なんで姿が違うんだ?
これどっちかって言うと転生じゃない?
てことは俺、もしかして死んでる?
おい!女神!どういうことだ!?説明しろ!
当然ながら返事はない。
くっそ!次の交信とやらの際は覚えとけよ!絶対問い詰めてやるからな!
十字路を右手に抜けた後、何度か分かれ道を経由し、大広間の様なところに出た。いかにもボスが居ますよと言わんばかりの造りだ。
「ここも久しぶりだな。シノン、気配は?」
「ない。他の通路にもそれらしい痕跡はなかった。蜘蛛型だったよね?本当にその情報あってるの?」
シノンによると、ここまで欠片も痕跡がないらしい。
確かにここまで蜘蛛の糸のようなものや足跡(蜘蛛の足跡がどんなものかはわからないが)なんかは見た記憶がない。それどころか動物を一匹も見ていなかった。虫やモグラは何匹か見たけど。
ハイ、思わず追いかけました。
しっかし、普通、ダンジョンってもっと魔物がいるんじゃないのか?
たけれども俺の嗅覚には一つ怪しい反応が引っ掛かっている。明らかに動くものの反応だ。
さっきから広間の奥の天井にじっとしているようだ。
これは……、位置的に不味いかな?向こうの部屋にいったとたんに天井から奇襲されそうだ。仕方ない。なにか使えそうなスキルはないかな……。
「森魔法」か「テリトリー」何てどうだろう?天井から落とせれば良いわけだから無理に魔法を使うことはないか……。「テリトリー」使ってみよう。
天井のやつが慌てて壁側に逃げたのが気配でわかった。これで、少なくとも奇襲されることはないだろう。
「今、なにか奥で動いた。大きい。例の魔獣かも」
「はい~、わたしにも~、わかりました~。奥の方に~、逃げていったみたいです~」
「なんだ、コルナ。気配探れるのか」
「はい~、家は狩人の一家だったので~。でも他にも変な気配がありましたよ~」
「変な気配か。シノン、なにかわかるか?」
「多分、新しい魔物かなにかが此処を縄張りにしようとしてるんだと思う。わからないけど帰りも注意した方がいい」
「了解した。ヒュード、俺が切り込むから後ろから見とけ。何があるかわからんからお前らは手は出すなよ?」
「わ、わかりました」
「よし。シノン、準備はいいか?」
「いつでも」
「じゃあ行くぞ!」
ガラハドが奥の通路へと突入していった。
結論から言うとあっさりと蜘蛛は討伐されてしまった。
今はガラハドとシノンが、色々解体についてヒュードとコルナに教えている。
「今回は虫型だから甲殻や足が高値で売れる。余裕のないときは高値で売れる部位だけ覚えとけ」
「あと、討伐部位は魔物によって違うから注意して」
ヒュードが短剣を蜘蛛の首の部分にあてがい、首を落とした。
「うへぇ……、なんか変な汁出てきた……」
「あぁ、そこは粘液袋だな。そのまま割ると素材の価値が激減するから気をつけな。首を落とすならしっかり切る場所は見極めろよ」
「こっちの~、足は~、みんな切り落としても~、大丈夫ですか~?」
「そこは気にせず落としちゃって問題ない。でも初めのうちは根元の肉から切り落とすようにして。一本丸々あったほうが価値が高い」
「お、ヒュード。そこに魔結石があるぞ。傷付けないように取り出せよ。あと余った部位はまとめて」
ざっくざっくと切り落とされていく蜘蛛の姿を見て、俺はちょっと気持ち悪くなってきた。四人は特に気にした様子はない。
すげぇな。異世界人。
この冒険者たちは討伐部位の口部分、蜘蛛型の足八本、討伐依頼の報酬を受け取れると言いながら、解体を進め、入口付近の木の皮と丈夫そうな草によって即席の入れ物を作って詰め込んで街への帰路への道を歩いて行った。もちろん俺も迷子にならないように後ろからついていった。
「にしても、この蜘蛛、手ごたえがまるでなかったな」
「あの気配からすると、多分まだ何かいると思う」
「あぁ、それは同感だ。だけどもこれ以上の深入りはまずいだろう。こっちは新人連れてんだ」
「だね。とりあえず依頼は達成した。ギルドに報告して今回は良しとしたほうがいい」
「あぁ、わかってる。……最悪、兄貴に頼ったほうがいいかもしれん」
「……ごめん」
「そんなこと言うな。別に気にしちゃいねぇよ」
ガラハドがポンとシノンの頭に手を置いてぶっきらぼうに答えた。
「……ありがとう」
出張は終わりましたが、ストックが切れました。
しばらくは1話ごとの頻度を落として改稿作業に充てたいと思います。
ほんとうに時間が足りない……