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11-5.初帝都

「まったく、少し考えればわかることでしょう?王配になられたのでしたら少し熟慮してくださいまし」

「おっしゃる通りでございます」

 俺は帝国貴族、アナスタシアからお説教を受けていた。

 まぁ、当然といえば当然。

 俺の確認が足らなかったのが原因だ。


 彼女の解放を決めてから既に5()()

 はい、3日後とか言ってましたが、そんなに簡単にできるものじゃないとめちゃくちゃ怒られました。

 ドラディオとかヴィゴーレとかロウフィスとかアマンダさんとかに。

 騎士団は黙認の方針。

 大臣たちは呆れ気味。

 ノブナガ隊に至っては、「お主、頭は大丈夫か?」。

 などと言ってきた。


 なんだよぅ。




 まぁ、捕虜を解放するってのは愚策なのはわからんでもない。

 ただ、他にも結構な数の捕虜(ほとんどは廃人だが)がいるし、仮にも臣下の言であれば帝国の皇帝も俺たちが言うよりは信用するだろう?

 そういうところも考えていたんだ。うん。

 決して行き当たりばったりじゃないぞ。


 ……はい。嘘です。

 行き当たりばったりです。

 あとは、前回迷惑をかけてしまったアナスタシアへのお詫びもある。

 はい。すみませんでした。




「とりあえず、一気に帝都に飛べるのでありましたら時間の問題はありませんわ」

 そんなことをアナスタシアが言う。

 残念ながら()()()()があるようだ。

「あぁ、うん。それなんだけどな」

 俺は彼女に、ある意味でかなり残酷なことを伝えた。


「い、嫌ですわ!ちょ、放し、放せこの野郎!」

 アナスタシアが人型の俺の背中で暴れる。

 俺は背負子に彼女を座った体勢で縛り付け、飛ぶ準備をしていた。

 ……彼女の大きな勘違い。

 それは俺の転移魔法の事だ。

 転移魔法は確かに願った場所に転移できる。

 ただしそれは『目視できる場所』『座標の分かる場所』『一度行ったことのある場所』なのだ。

 ダンジョンの時、上方に飛べたのはあくまで座標の分かる場所だったからだ。

 というか、仮に帝都の座標がわかったとしても周辺の様子が分からない場所では、転移した先にどんなことがあるか分からない。

 岩とか山の中、火山のマグマだまりとかに飛んでしまったら目も当てられない。

 なので、俺は今回、バロンを運んだ方法を取ることにした。

 多分だが、全力で飛べば昼には帝都に着くだろう。

 げふっ!

「ちょ、おい!暴れすぎだ!ちょっと落ち着け!」

「これが落ち着いていられますか!空を高速で飛んでいくなんて聞いてませんわよ!?」

「あー、はいはい!すみません!言ってませんでした!」

「誤ればいいってもんじゃねぇぞ!コラァ!」

 俺はある程度、アナスタシアを無視しつつ、見送りに来ていた人物たちに手をあげる。

「じゃ、とりあえず行ってくるから。お土産何か買ってくるから」

「アレクシス、帰ってきたら伝えたいことがあるから、私に連絡を寄こしてくれ」

 そんなことをゴルディが言ってきた。

 そういえば、そんなことを5日ほど前に聞いた気がする。

「わかった、帰ってきたら必ず寄るよ」

「うむ、頼んだぞ」

「ちょ、私を無視しないでくださいまし!降ろして!降ろして!」

「じゃぁ、行ってくる!」

 俺は飛ぶためにグッと体を沈め、一気に跳躍した。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 後ろが異常に五月蝿かった。









「もう、何も出ませんわ……」

 帝都への旅行の最中。

 小高い山の上で俺たちは休憩していた。

 近くに川もあってちょっとしたキャンプ場と言われても違和感ない場所だ。

 出るものが色々出てしまった彼女は恥ずかしそうにうつむいている。

 まぁ、こんなこともあろうかと俺の空間魔法の中には着替えを大量に入れてきたので問題はない。

「と、とりあえず、着替えなよ。風邪ひくから」

「うぅ…一度ならず二度までもこのような恥辱……。もう嫁にいけませんわ……」

「ごめんて」

 アナスタシアは手で顔を覆って伏せ泣いていた。

 流石に少し申し訳ない。

 とりあえず俺は空間魔法から女性用のドレスと下着を出した。

 ついでに着替え用のテントを出す。

 正直このテント、ただの長いひもを通した布で、空間魔法が使えない人にとってはただのかさばる布でしかない。

 冒険者たちは苦労しているそうだ。

 止まれるテントとなると骨となる部品が必要になるからさらにかさばるのだろう。

「……次はありませんわ」

 フラグ、乙。

 次もなにかあったときに漏らすビジョンが見えてしまった。

 アナスタシアは俺の張った天幕の中にいそいそと着替えを持って入っていった。

 空間魔法には彼女用の着替えをいくつか入れておいた方が良いかもしれない。





「そんなこんなでやってきました!帝都!ってかでっかいな!この町!」

「当然ですわ!なにせ西アレイシア地方最大の版図を持つ帝国の帝都ルマンシオですのよ。人口は二十五万人を優に超えていますのよ。そこらあたりの町と同じと思わないことですわね!」

 俺の言葉にアナスタシアが胸を張って答えた。

 自慢の縦ロールと立派な胸部が揺れて色々眼福……。

「とりあえず、入市税を払ってそこから城に行きましょう。私がいれば、問題なく入れますわ」

「え、入市税?俺、一応、敵国の代表なんだけど払わなきゃダメか?」

「当然です。というかあなたの敵はシラクサ辺境伯であって帝国ではありませんわ」

「帝国から紋入りの宣戦布告貰ったんだけど」

「アレはシラクサ辺境伯の偽装品ですわ!何度言わせるんですの!?」

 えぇ。いまさらそんな言い訳を。

 ってかこの列に並ぶの?

 まだ100人くらい並んでるんだけど。

 これもしかしたら入れる時には夕方になってるんじゃ……。

「おい!そこ!何をしている!」

 門の前で口論していた俺たちに気づき兵士が3名やってくる。

「下がりなさい!門兵!私は皇帝陛下直属の派遣官僚、アナスタシア・ドゥレモンク・ロックハート・カロリングですわ!シラクサ辺境伯の件で皇帝陛下に急報を届けに参りました!道を開けなさい!」

 アナスタシアの行き場のない怒りをぶつけられ、門兵たちが困惑している。

 まぁ、そんなこと言われてもすぐには通せないわな。

 男連れだし。

「し、失礼いたしました。少しお待ちを。確認を取ってまいります」

 兵士の一人が走って行った。

「あと、貴方方。こちらの御仁は丁重に扱う様に。拘束などもってのほか。帝都が灰燼に帰しても責任は持てませんわ」

 しれっとトンデモナイ言われようなんだが。

 え、なに?

 俺ってそんなに警戒されてるの?

「で、でしたら御二方とも、どうぞ詰所の方でお待ちください。汗臭い兵士の集う場所ですが、ここよりはましかと……」

 ん?まぁ、ここじゃ他の人の目もあるしな。


「待て!貴様ら!」

 ん?案内されている俺たちに話しかけてくる人物がいた。

 格好からすると貴族っぽいけど。

「貴様ら!こっちは一時間も並んでるんだ!後ろに並べ!門兵も、そいつらが何か知らないが特別扱いするな!私は栄光ある帝国の伯爵だぞ!」

 あぁ、貴族っぽいじゃなくて貴族なのか。

 まぁ、向こうが正論を言っているので反論もできない。

「なぁ、アナスタシア、門兵さん。あの人もこう言っているし、俺は別に後ろに並んでも……」

「馬鹿じゃありませんの!?向こうとこっちじゃ重要度が違いますわ。あんなのは無視するに限ります。さ、案内してくださいまし。門兵の方」

 アナスタシアが歯牙にもかけない、といった感じであしらう。

「なんだと!?貴様!」

 あぁ、貴族の男が激高しちゃった。

 そんな煽るような言い方をするから。

「そこに直れ!帝国貴族に逆らった貴様の罪ごと切り刻んでやる!」

「本当に、馬鹿ですわね。私が誰かも聞いてなかったのかしら?目と耳を付け替えられた方がよろしいんじゃなくて?」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 貴族の男がアナスタシアに剣を抜いてとびかかる。

 流石に、これは止めないと不味いな。

 俺は駆け出し、剣を素手で掴む。

 口でもできたんだ。

 このスローモーションの中、掴めないはずはない。

 ……あ、口でやったのってヴォルガモアの時だったっけ。

 まぁ、いいや。

「は?」

「秘儀、真剣白刃取りってかんじ?」

 俺の止めた剣に呆気にとられたのか、空中に飛び掛かったままの姿で間抜けな声を出した。

「あなた……。相変わらずの化け物っぷりですわね。普通、刃のついたものを素手で受け止めようなんて思いませんわよ」

「いや、だってこのくらいの武器じゃ俺、傷つかないし。せめてヴィゴーレクラスの武器と力を持ってこないと」

「いや、それ。大陸最強クラスの冒険者とその愛剣ですわよ。しかもそれが下限とか、どこまで化け物ですの?」

「な、なんだ貴様!?」

 飛び掛かった姿のまま静止している貴族が何か言うが。

 正直、その格好じゃ格好がつかない。

 正しいことを言っているのは向こうの方なんだけどな。一応。

 順番抜かしはいけません。

 皆は自分の国に喧嘩を売られて、ご近所さんを五千人ほど廃人にされたりしない限り、こんなことしちゃいけませんよ?


 まぁ、というかヴィゴーレ達に比べたら軽すぎだな。

 うちの猫でも完封できそうだ。

 現に俺が剣を支えているのは片手だし、この支えている手をどうにかしたら彼はどうする気なんだろう。

「貴様ら!何をしている!」

 お?門の方から兵士、いや騎士か?ともかく10人ほどの鎧姿の土埃をあげながら走ってきた。

 ん?土埃?

 風下はこっち……あ、やばっ。くしゃみ出る。


 ハァックショイ!!


「ぐはぁ!」

 くしゃみをしたせいで手首を捻ってしまった。

 そのせいで貴族が吹っ飛んでしまった。

 ちょっと先の地面にぶつかってアニメみたいに地面を抉って静止した。

 すこし……、というかかなり申し訳ない。

 彼は完全に今回の件では被害者だろう。

 正しいことを言ったはずなのに、理不尽な暴力でぶっ飛ばされたのだから。


「貴様ら!帝国貴族に無礼を働いて、ただで済むと……」

 駆けつけた騎士が俺たちに剣を向けてくるが、何か予想外な物でも見たのか、言い澱む。

 よく見れば、戦闘の騎士は女性だ。

「キジュエッタ隊長!お久しぶりですわ!」

「え?アナスタシア?どうして?死んだと思っていたのに……」

「あー、すまん。アナスタシア。ちょっと紹介してもらえないか?この混乱を収められそうな人なのか?」

 俺の言葉にアナスタシアが振り返って答えた。

「キジュエッタ隊長、旧交を温めるのはまた後で。アレクシス様、ご紹介いたしますわ。こちら、帝国で皇帝の近衛騎士である白銀騎士団の隊長を務める、キジュエッタ隊長」

 鳥を模したであろう鎧に身を包んだこの女性はキジュエッタというのか。

 ってかこれだけ広い帝国の近衛騎士の隊長ってかなり地位が高いんじゃ……。

「キジュエッタ隊長、気を確かにして聞いてくださいまし。こちらアレクシス様」

 キジュエッタの方にアナスタシアが向き直って答えた。

「ドリス皇国、次期皇王シャルロッテ様の王配にしてこの世の全てをおそらく単体で超越するお方。神から遣わされた神獣様です」



「え、えぇぇぇぇぇ!?」




 アナスタシア、その説明はちょっと……。

 いろいろと誤解を招きそうだ。

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