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11-4EX.転移者、大賀浪漫

時系列的には氷室彩音の転移した時間より少し前あたりです。

多夢和より3年程度前の時間に転移しています。

もう少しで合流の予定。

 俺の名前は……。

 まぁ、名前なんてどうでもいいか。

 どこにでもいるおっさんだとでも思ってくれればいい。


 俺は漫画やアニメでいうところの転移者、というやつらしい。

 しかしながら、この状況は俺にとって良い環境へと転移してもらったと思っている。


 元の世界での俺は冒険家。

 内なる情熱、世界の謎を探求する職だった。


 つまり、ロマンだ。





 俺はこちらの世界に来て、ドリス皇国という国のドミニオ公爵領の他国との国境付近、トラシオスという町に転移した。

 そこそこの人口がいる、この辺りの村の作物や出荷品を国内の他の街と交易するために取りまとめるために作られた町だ。

 そういう町の歴史もあり、情報や職人、商人の拠点や倉庫、宿屋を中心として発展し、比較的おおらかで落ち着いた人間の多い町となっているそうだ。

 暫くはこの落ち着いた町で情報を収集して、新しくロマンの香りがするものを見つけたら旅にでも出るとしよう。




 とは言ったものの。

 なんというか、色々足りない。

 まず金がない。

 現代もそうだったがロマンを求めるには金が要る。

 そして、金を手に入れる手段が俺にはない。

 いや、なんかあるだろ。流石に。

 アルバイトとか何でも屋とか。

 聞いた情報の中に町の南側にギルドとかいう組織があると聞いた。

 そこに行ってみるか。


 ぐぬぬぬ。

 なかなかに世知辛い。

 ギルドに登録するには登録料が必要なのだそうだ。

 登録料を稼ぐにも何かした方が良いな。

 こうなったら溝浚いでも屋根の修理でもやれることをやるしかない。


 全てはロマンの探究のために。




 そうしてしばらくして。

 俺は無事、ギルドに登録することができた。

 冒険者ギルドと商業ギルドの2つを登録したことにより、旅先で商業ギルド経由で商売をすることもできる。

 よし、とりあえず金は何とかなりそうだ。

 冒険者ギルドで草むしり……薬草採取でもしていればそのうち貯まるだろ。

 さて、そうなると……。

 次に必要になるのはキャンプ道具か。

 この世界の野営道具も野性味あふれる、いい意味でロマンあふれるものだったが。

 いかんせんかさばる。

 まずは折り畳み式の椅子と机、それに道具を運ぶ背負子かリュックが必要だな。

 仕方ない。作るか。


 これもすべてロマンのためだ。




 俺はそこから数週間、金をため続けた。

 そして少し無理をしてボロボロの家を買うことになった。

 トラシオスの東の端、関所に近いここはあまり人気のある立地ではない。

 たまたま便利屋としてここの管理人の家の屋根の修繕依頼を受けて、管理人の老夫婦に良くしてもらった関係で宿無しの俺の心配をして格安で売ってくれたのだ。

 老夫婦には感謝しかない。

 過去には工房だったそうで、家屋の隣にはそれなりに広い納屋と屋根つきの工場がある。

 ボロボロの家屋は修繕すればなんとかなるし、小さな畑もある。

 これでキャンプ道具や背負子の作成に場所を気にする必要もない。

 いやほんと、いい買い物だった。


「よう、便利屋。あいてるかい?」

 俺を訪ねに、町民の1人がやってきた。

 よく、俺に仕事を斡旋してくれる奴だ。

 名前はロベルト。

 普段はギルドの仕事をしていたと思うが。

「ロベルトか。どうした?なにか仕事か?」

「いや、今日は非番でな。実は個人的な頼みがあってきたんだよ。おーい。入ってこい」

 ロベルトが外にいた誰かを呼んだ。

「し、失礼します」

 ん?誰だ?

 見た目は子供のように……。

「あぁ、すまん。こいつは俺の姪っ子でフィルボルのラティアっていうんだ。こう見えてもう十六歳になる」

 16!?

 ってそうか。フィルボルは大人でも人間の子供のような体格だっけか。

 一部には人間と変わらない体格のものもいるようだが。

「ほら、自分で言わないと」

 ロベルトがラティアの背中を押すとラティアが一歩前に出てきた。

「あ、あの!ぜひ、こちらで働かせて下さい!」

 ラティアが思いっきり頭を下げた。

 何だこの状況。

「いや、すまん。実はこいつは職を探していてな。未婚の女だから溝浚いとかさせるのも気が引けて、フィルボルだから大工仕事なんかの力仕事にも向かなくてな。かと言ってどこかの商隊に放り込むわけにもいかん。で信頼できる人物として、お前を見込んで紹介したわけだ」

「なるほど……」

 確かフィルボルは身長は大人でも人間の中学生程度、力はないが手先器用で大地の神の恩恵で毒に強い種族、だったかな。

 って、姪?

「お前、フィルボルの兄弟がいるのか?」

「ん?あぁ、違う違う。フィルボルなのは義理の姉の方。俺の兄貴は人間だよ」

 なるほど。そういう事か。

「で、どうだ?確か一人でやっているから手が足りないとか言ってなかったか?」

「あぁ。願ったりだ。こっちも色々環境が整ってきたところで、手が足りなくなってきてたところだ」

「よし、決まりだな」

「後は契約面だが」

「細かいことは本人と話し合ってくれ」

「まった!その前に……」

 俺はロベルトに耳打ちする。

「お手伝いの相場っていくら位なんだ?言っておくががあまり多くは出せないぞ?俺は」

「んー?そうだな。この辺だと二日で大銅貨二、三枚って所じゃないか?」

 今まで自分の仕事は金銭的に頓着していなかったから女性の相場なんてわからなかった。

 えっと、月35日だから月に大銅貨53枚くらい。銀貨にして10枚とちょっとか?

 そんなもので雇えるとは。

 二月休み無しでやっと金貨に手が届くといったところか。

「まぁ、皇都まで行けばまた物価は変わってくるが独り身の専門教育も受けてない女性ならそんな感じになるとは思う。泊まり込みならもう少し安くてもいいくらいだ。あとな……」

 ロベルトが俺の方に手を回し身を屈める。

「俺たちが良いって言うまで手ぇ出すんじゃねぇぞ」

 物凄くドスの効いた声でそう言われた。

 手なんぞ出すか。

 俺はロリコンじゃない。



 それからまたしばらくして、俺は道具工房『ロマン』を立ち上げた。

 これで後は目玉商品を作れれば俺はこの苦行から解放……。もとい、ロマンの探究に専念できる。

 しかしなぁ。目玉商品はどうするか……。

 実は今日はこれで3徹目。

 いい加減、栄養ドリンクが欲しい。

 あぁ。意識が既に朦朧と……。


「旦那様っ!」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 ラティアに怒鳴られて、一気に目が覚めた。

「まぁた、徹夜なさったのですか!?いい加減にしてください!早死にしますよ!?」

「いや、すまん。つい、夢中になって……」

「そんな言い訳聞けません!もう何度も忠告しましたよね!?」

「……はい。すみません」

「それも聞き飽きました!まったく!いったい何度言ったら……」

 この時間を寝る時間に充てられれば一気にこの眠気も解決するんだが。

 ラティアのお説教は約1時間ほど続いた。

 いかん。まじで眠くなってきた。

 しかしまぁ、3徹のおかげか何とかモノになった。

 キャンプ道具。

 俺の世界では当たり前だった道具。

 持ち運びの可能な折りたたみ椅子に、折り畳みの机。それに簡易的なコンロセット。

 ふふふ。

 この道具で遺跡でキャンプ。これぞロマン。

 ってしまった。

 スキレットを用意するのを忘れていた。

 なるべく軽めに持ち運びしやすく……。


「旦那様!!聞いていますか!?」

「は、はい!?」


 思いっきり机で脚を打ってしまった。

 うおぉぉぉっ!?

 痛い!?痛すぎる!?



 暫く、説教を受けながら俺は悶絶するのであった。

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