11-4.帝国貴族の解放計画
あたーらしい、あっさがきた。
思わずそんなふうに歌いだしてしまいそうになる朝だ。
窓から吹き抜ける風は爽やかで。
小鳥の囀りと、木々の揺れる音が耳を撫でる。
惜しむらくは窓から見える景色は半分が壁なことか。
しかし、明り取りには十分で朝のさわやかな風と明かりを部屋に届けてくれている。
さて、現実逃避は終わった。
現実に戻ろう。
俺は振り返り、部屋の中を見た。
……いたしてしまった。
つい流されて、致してしまった。
しかも……。
俺はベッドの上をゆっくりと見渡す。
そこには聖女、戦乙女族の3人、そしてドラゴン族の2人。
冷汗が止まらない。
アカン。確実にアカン。
なんだこのハーレムは。
責任取れとか言われたらヤバい。
なんというか。困る。
行為の最中、ガブリエルが戦乙女の3人を連れて来て乱入。
その後、3人も聖女も疲れ果てたころ、ドラゴン族がたまたま食事を持ってきたところを襲ってしまった。
なんというか、本能に従った結果だ。
人間としてアウトです。
ごめんなさい。
俺はそっと後ろ手でドアを閉めて、退室した。
ドアを開けるとそこにはガブリエル。
結構な量の下着やら衣服を抱えていた。
「あら?主様。昨日はお楽しみだったようで」
「お前なぁ……」
少し呆れてしまう。
見事に一服盛ってくれた後に平然と現れたのだから。
「頼むから、こっそり盛るとかやめてくれよ向こうにも心の準備ってものがあるだろうに」
「あら?心の準備ならとっくにできていたと思いますよ?」
「……そうなの?」
「はい。いつ、美味しく召し上がられても良いように準備していたみたいですし」
その美味しく召し上がるって、多分物理的に食べるって意味じゃなかったのかな。
「取り敢えず、俺を騙した罰を執行してやる」
俺は手を見せつけるようにワキワキとする。
「やーん。それやらしいやつですかー」
グワシっ!
俺はガブリエルの頭の横を両サイドから掴む。
そのまま、力を込めた。
「い、痛い!痛い!主様、痛いです!」
ガブリエルが着替えを取り落としたところで放してやった。
「今回はこれで許す。次からはしないように」
ガブリエルが頭を擦りながら抗議の声を上げる。
「ひどいですよ。主様」
「この程度でゆるされたことを感謝するように」
「むぅ。まぁ、でも……」
ガブリエルが俺の首元に顔を寄せてくる。
そのまま、俺の腕を取り、胸を押し付けてくる。
「夜の方の罰でしたらいつでも。期待していますわ」
……とんでもないことを言ってきた。
エロいわ。
そんな姿を見せられたら、ちょっと本能に抗える自身がない。
着替えを拾い直したガブリエルを見送りながら、俺は自分の体の変化を呆然と見つめた。
はぁ。俺って意思が弱いのかなぁ。
階段を降りていく途中で、兵士に付き添われている女性と出合った。
えっと、確かアナスタシア・ドゥレモンク・ロックハート・カロリング。興奮すると少し口の悪くなる、帝国の縦ロール貴族の女性だ。
あれ?出歩いてる?
「あら?神獣様。ご機嫌よう」
うわっ。すごく貴族っぽい。
「あ、あぁ。これはどうもご丁寧にしかし、なんで出歩いてるんだ?」
俺は後ろの兵士に声を掛けた。
「はっ。それが、その……」
兵士が言いよどむ。
ん?なんだ?言いづらい事なのか?
「何でもありませんわ。ただ、昨日は五月蠅かったもので。別の部屋を用意来ていただいたに過ぎませんわ」
「五月蠅かった?」
「はい。その、昨日はどうも外の音が激しく。その、『特別室』にメイドを連れ添って避難されてました」
昨日?俺はそんなに音なんて気にならなかった……あっ!
「もしかして、昨日の声出てたとか?」
「その通りですわ。全く、所詮は獣。人の姿をしているのですから、もう少し理性的になさったらどうかしら?」
あー。確かに言われてみれば、昨日聖女はちょっと声が大きかったかな。
壁があるから安心していたけど、そういえば窓は開けっ放しだった。
そりゃ聞こえるか。
あれ?『特別室』?
「なぁ、『特別室』ってなんだ?」
「特別室は音が聞こえにくい部屋です。昔はその……捕虜に対する拷問などに使われていた部屋です。特に女性への」
うわぁ。
つまり致すための部屋と。
そんなところで昨日寝てたのかこの娘は。
正直、この国にそんなものがあるとは知らなかったが。
って。
「ん?なんでよりによってそんなところに行ったんだ?女性だろう。この人は」
「それはその、防音の優れた部屋をご希望でしたので……」
「デリカシーないな。お前」
「貴方が言うべきセリフではありませんわ」
うぅん。
アナスタシアからの評価が不当に低い気がするのだが。
「ところで、私の解放はいつですの?」
解放?
ってあぁ、そういう事か。
「よく知ってたな。話してたっけ?」
「ここに来たメイドが話してくれましたわ。流石に、いつまでもここに幽閉したままでは良心が咎めたようでしたから。あぁ、メイドを咎めないでくださいまし。彼女はただ、私の精神を心配してくださっていたようですので」
うん。まぁ、それはいいんだけど。
実をいうと、彼女の解放は結構早い段階から決まっていた。
ぶっちゃけ、俺が執務室に詰めた初日にはそれ用の書類が流れてきたくらいだ。
まぁ、解放といっても、完全な開放ではない。
教皇、……つまり公王と同じで目的は調停。
帝国とは公王のように伝手がないので苦肉の策だそうだ。
最悪、逃げられても領地の無い貴族。
確かに攻めてきた当人やその副官らしき男はしっかりと監禁しているわけだから、彼女の重要度はある意味では低い。
また、彼女の性格からいって、自分の部下を見捨てるようなことはしないだろう。
まぁ、地理的に近い教皇の方を優先したおかげで、今の今までのびのびになっていたわけだが。
うーん。よし。決めた。
「帝国派遣官僚、アナスタシア・ドゥレモンク・ロックハート・カロリング」
「は、はい……ですわ」
「貴方を帝国への調停官として解放する準備がこちらにはある」
「えぇ。承知していますわ」
「3日後、こちらの正式な要求を伝え、解放する。貴国の辺境伯爵であるシラクサ辺境伯は、既にこちらの手の中にある。こちらの返還の身代金等の交渉は、今回の戦争に関する賠償とは別に行う」
「かしこまりましたわ。では3日後旅立てるよう、準備を……」
「その心配は不要だ」
「は?どういうことですの?」
「俺が送る」
「おはよう」
「おはようございます。聖上」
執務室の扉をくぐり、ドラディオに挨拶をする。
「?なんだかお疲れのようですが?」
「あぁ、まぁ、色々あって。そんなことよりドラディオ、ちょっと頼みたいことがある」
「はい」
「アナスタシア……帝国の派遣官僚をそのまま3日後調停官として任命したい。準備をお願いできるか?」
「畏まりました。では赤百合騎士団に編成を……」
「いや、必要ない」
「必要ない、……と申しますと?」
「ちょっと帝国へ観光にでも行こうかと思って」
「……まさか!」
うん。まぁ。そのまさかだ。
ちょっと遠いし、公国みたいに近くはないからのんびり待つわけにはいかないしな。
日帰りでちょっとした観光だ!
次回はEXかも?
ちょっとどこに入れるか迷っている話があります。