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11-3.聖女ヨハンナ

 ふぃー。

 なんとか聖女を組み伏せることができた。

 まぁ、ステータス的には何の問題もないんだけど、ケガさせないように気を使うとどうしてもな。


 ……さて。

 俺は組み伏せられた聖女を見た。

 ビクッと一瞬、聖女が震えたように見えた。

 すぐに顔を横にそらして

 そんなに怖いかな?

 今の俺は人間の身体だからそこまで怖くも……、いや自分でいうのもなんだけど、今の身体は鏡を見る限りはそこそこのイケメンなはずだけど?

 正直、俺の能力的には拘束を外しても大して脅威にはならないんだけど、なんとなくこのまま放すのもなぁ。

「なんでいきなり襲って来たんだ?」

「……」

 そう聞いたのだが、聖女からは何の返事もない。

 いや、どうしたもんかなこれ。

 はたから見ると、俺、下着姿でシースルーの服を着た女性を襲ってるように見えないか?

 聖女の手首をつかんで組み伏せているので聖女の下着……というか下着をつけた胸がもろに見え……。

「……好きにしてください」

 俺の視線に気づいたのか、聖女そんな事を言ってきた。

「もとより、贄の身。この国にとって重要な貴方を襲うという犯罪を犯した時点で既に言い訳のできないほどの犯罪者。せめて最期に一矢と思いましたが、それも叶わぬ身。つきましては、せめて苦しみは少なくして頂きたいです」

「いや、一体どんな悪党と思ってるんだよ!?別に贄とか、求めてないから!?」

「えっ……」

「えっ、じゃなくて」

 はぁ。一体何吹き込みやがった。あの2人は。



 聖女をベッドに座らせて落ち着かせる。

 まぁ、落ち着かせると言っても特に俺からなにかするわけではなく。

「どうだ?少しは落ち着いたか?」

「は、はい。申し訳ありません。取り乱していたようです」

 冷静に見えたが、かなり混乱していたようだ。


「えっと、とりあえず……、聖女様って呼べばいいか?」

「よしてください。ヨハンナとお呼びください」

「あ、あぁ。じゃぁ、ヨハンナ。なんで襲って来たんだ?」

「それは……あの。まぁ、自棄になっていたといいますか……」


 ぽつりぽつりと、聖女は身の上を語り始めた。

 彼女は神聖トリポリタニア公国領内で農民、いわゆる農奴の子供として生まれた。

 聖女というのは、光の神の声を聞くことのできる特殊体質の持ち主で凡そ100年に1人くらいの割合でその能力を授かるらしい。

 農民貴族を問わず国内信者の人間であれば、誰にでも発現の可能性があり、その存在の捜索は公国内でも最重要事項。政策にも大きく関わっているらしい。

 彼女の両親は農奴の中でも裕福で、彼女が見いだされた1年後くらいには自由民に成れるくらいには金銭がたまっていたらしい。

 トリポリタニア領内では、農奴、自由民、それとこちらでいうところの貴族に当たる神殿関係者により形成されるが、かなり前から神殿関係者たちは農奴たちの税金を金銭で要求するようになった。

 それでなくても近年は神殿関係者は枢機卿たちを始め、ずいぶんと富を蓄え、腐敗していた状態だったらしい。

 いずれにしても農奴たちは作物を一度、ドリス皇国や現在の帝国領内の国々の商人たちに売り、金銭を得て納税していた。

 そうすると売った場所や商人によっては売る金額が変わってくる。

 結果金銭を蓄える農奴が出てきた。

 彼らは余った金銭で神殿関係者に賄賂や寄付を行うことで、農奴から自由民へと立場を変え、農業以外の仕事を自由に行えるようになった。

 その立場を変えられるくらいの、金銭を彼女の実家は持っていたらしい。

 彼女が5歳の頃、神殿関係者から聖女として認定され、彼女は神殿に引き取られ、代わりに両親は金銭を手にして公国を出たらしい。

 なんとなくだが、嫌な気がする。彼女の両親は生きているのだろうか。

 俺の読んだ作品だとこういう場合……、どこかに移動させられてそこで殺されるとかよくある話だけど。

 まぁ、そんな境遇の彼女が、今度は教皇から戦争の代償として共に皇国に行くように言われた。

 本人からしたら売られたと感じたそうだ。

 両親から離され、自分の力を政治に利用され、最後は売られた。

 ヤケになっても仕方がないとは思う。

 しかも売られた相手は神獣とかいう未知の獣。


「俺ってどんなふうに伝わってるんだ?一体」

「えっと……皇国に突如現れた圧倒的な力を持った未知の魔物で、皇国の姫を始め様々な女性を手籠めにした好色家。帝国ニ万の兵や王国数百人、更に自国の公爵の兵を一瞬で滅ぼす冷酷な獣で、その部下たちも少数で多数を蹂躙できる能力の持ち主だと……」

「風評被害がすぎる!?」

 帝国や公爵は勝手に攻め込んできたのを撃退しただけだ。

 しかも帝国に関してはやったのはノブナガだし。公爵の本隊はたしかに俺だがあれはじぃやさんの敵討ちだし、その先遣隊だってミツヒデの戦略がうまくハマった成果だ。

 好色家に関しては……うん。否定できない。それは完全に俺の行動のせいだ。

「因みに、俺って誰に手を出したことになってるの?」

「えっと……城の女性は既に神獣様の手籠めだと。あと城下の有名な冒険者の女性を数十人襲って城に飼っていると」

 尾ひれが付きすぎている!?

 誰だよ、そんなとんでもない噂流したの!?

「始めにわたくしがオーディナ神から神託を受けた際はそのように」

 あのやろぅ。

 それを訂正してなかったのが今回の原因か。

 次にあったら覚えとけ、こんちくしょう。

 いやまて、確かじぃやさんの敵討ちは神託訂正の後だったよな?

 てことは勘違いを訂正せず、新しい情報を流した事が今回の侵攻の主な原因……。

 ほうれん草しっかりしろよ。神。

「あ、今、新たな神託が……ごめんちゃい。だそうです」

 可愛く言っても誤魔化されないからな!?


「失礼致しますね」

 ん?

 あ、ガブリエルか。

 手には……、お盆に水?

「ガブリエル、お前聖女に名なに吹き込んでんだよ」

「あら、吹き込むとは人聞きの悪い。私は真実を話しただけですよ。まぁ、手っ取り早く神子をこさえていただこうと、伝える情報を制限はしましたが」

 うーん。この。

 ってか神子ってなに?

「神獣様と聖女の間に出来た子でしたら、神の代行としての資質は十分かと」

 何を考えてるんだかなぁ。

「あ、それはそうと。お二人とも。喉渇きましたよね?お水をお持ちしましたよ」

「あ、これはどうも、ありがとうございます。創世の天使様」

 聖女がガブリエルから水を受け取り、飲み干した。

 服のせいでただ水を飲むだけでもなんというかエ……もとい、目を引く。

 ともかく俺も一つ。

 視界の端にガブリエルの顔が映った。

 絵画に出てきそうな優しい微笑をたたえている。

 俺達のコップを受け取ってガブリエルが言った。

「さて、私は戦乙女たちを連れてきますので少々席を外しますね。……ごゆっくり」

 ……なんか、今、妙な間がなかったか?

 ガブリエルを見送って、振り返る。

 ん?

 なんだかヨハンナの顔が赤い気が……。

 それに、胸が苦しいのか心臓のあたりに手を置いている。

「ど、どうした?ずいぶん苦しそうだけど?持病か何かか?」

「い、いえ。なんだか急に……その、体が、熱く……」

 そういうと、ふとヨハンナが立ち上がり、俺にしだれかかってきた。

「すみません、こうしていると、少し落ち着くので……」

 うぅん?

 って、おい。この展開は見たことあるぞ。

 ガブリエル、まさかあいつ。




 一服盛りやがったな!?

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