2-6.冒険者と魔獣
冒険者ギルドと思われる場所で、俺はいくつもの紙が貼ってあるボードを眺めている。
文字が読めるって便利だなぁ。改めて思う。
ボードの横には職員が二人待機しており、冒険者と思われる人に説明を行っている。
文字が読めない人の対策だろうか。
両側のボードにそれぞれおり、どうも記入されている文字も違うようだ。
ようだ、というのは推測だからだが、例えば同じ「魔物」をあらわす単語でも記入された文字が違うからそう推測した。
それにどんな意味があるのかわからないが、わざわざ分けて書いてあるということは重要なことなのだろう。
にしても、首が痛い。
「なにか手ごろな獲物は…」
おっと、先ほどの少女がいつの間にか隣にいた。
後ろで手を組み、若干前かがみ。ボードを見上げている。
あざといポーズ!
マンガなんかではよく見かけるポーズだが、実際にやっているところを見るのは初めてだ。
あと、この位置からだと…、その、スカートの中身が見えてしまう。
ちょっと考えてほしい。
よく見ると彼女は軽装、RPGでいうところのシーフ系職業が着ているような服装だ。
短いスカートに、肩の出た服、その上から長袖のジャケットを羽織り、腰と足、腕にはツールベルトを装着している。
先ほどの男は、いかにも戦士!って感じの部分鎧を装着していたから、戦士とシーフ系のパーティーなのか。ほかにも仲間がいるのかな?
改めて、ボードを見上げる。
俺が見たい項目は「魔物」…、というか冒険者ランクについて。
それについての表記がないか探す。
ボードに貼られている紙には、依頼内容のほかに、「魔物ランク」と「推奨ランク」「期限」「報酬」というものが記入されていた。
魔物ランクには様々あり、ここでの最高は「戦争級」(これは説明している職員の言葉を盗み聞きした)
反対側のボードを見てみると、「銀級」だの「銅級」だの並んでいる。
ここは鑑定の魔眼さんの出番であろうか?
ちょっと怪しい部分もあるが使ってみよう。
俺は貼られている紙の「魔物ランク」を見てみた。
名称『戦争級』
ランク『C』
説明『Cランクの魔物の西アレイシア地方冒険者相互協力組合での俗称。ダンジョンや迷宮にいるボスクラスモンスターに付けられることが多い。討伐には、複数のパーティーで挑むことを推奨されている』
でた。
「鑑定の魔眼」さん、デレ期に入ってくれたか?
ん~。ランクは……、種族を選ぶときについてたランクかな?
Cランクで戦争級がどれくらいのものかわからないが……。
お?あっちのもわかる。ちょっと見てみよう。
名称『銀級』
ランク『C』
説明『Cランクの魔物の冒険者相互協力組合での俗称。ダンジョンや迷宮にいるボスクラスモンスターに付けられることが多い。討伐には、複数のパーティーで挑むことを推奨されている』
まったく同じ説明かい。
これはギルドの種類によって呼び方が違うのかな?
銀ってことは普通に考えたら、金の下。まだ上があるかはわからないが、Bランクで金ってことか?
Aになるとどうなるんだろう?
ゲームや漫画なら虹とか、白金とかかな?
そもそもあるのか?この辺は後々だな。
…………あれ?やっぱり俺、やばい奴じゃね?
そんなことを考えていると、後ろから抱え上げられた。
先ほどの少女だ。
いったいどうしたんだろう?
「じー」
え?なに?どうしたの?
そのまま俺をテーブルの上に転がし、脇腹(お腹の側面の前足から後ろ脚の間)をモフり始める。
「ふかふか、もふもふ」
おぅふ。ちょっとまって、そこめっちゃ敏感なところだから。
思わず身をよじる。やめてくれない。でも楽しい。
体を少し丸めて腕にしがみつく。でも力は抑えめにしたい。なんかスキルみたいに切り替える方法ないかなぁ。
「見たことないけど、フォレストタイガーの子供に近いのかな。遊び方も一緒」
しまった!完全に子猫の遊びじゃないか!
やっぱり本能が猫により始めている気がする。
「おい、シノン。……なにやってるんだ?」
「遊んでる。見てわからない?目、腐ったの?」
「唐突に辛辣なお言葉どうも……」
この男、尻に敷かれてるのかな……。
「なにかよさそうな依頼あった?」
「いまいちだなぁ。まぁ、この辺は魔獣の討伐依頼も少ないし、仕方ねぇっちゃ仕方ねぇんだが……、一つ、戦争級の公募準指名依頼があった」
男の言葉に少女が首をかしげて質問した。
「どんなの?」
「森にあるコーデリック男爵管理のダンジョンに蜘蛛型の魔獣が住み着いたらしい」
「もう魔獣判定されてるの?」
「たぶん間違いないとさ。家畜を襲ってこの間農民も襲われたらしい」
「それじゃ弱い。襲えそうな家畜や農民なら魔物や動物、ともすれば人族だって襲う」
「たしかになんか、裏がありそうな感じではあったがな。あの受付の男はどうも好かん。だが、どちらにしても見過ごせるものじゃねぇだろ」
「まぁ、それもそうか」
どうやら話し合いは終わったようだ。
その後の話を聞いた感じ、報酬は金と名誉的なものみたいだ。
男の話に出た受付の男のほうをちらっと見てみる。
ん~。笑い方がニヤニヤって感じでちょっと俺も苦手なタイプだ。
なんとなく気になって彼の見ていると、先ほどまで持っていた羊皮紙を畳んで懐に入れた。
やっぱりちょっとニヤついている。
しかも女性職員に近寄ってセクハラしてる。
あ、ビンタされた。ざまぁ。
「ん?」
男……、ガラハドと呼ばれた男が何かに気づいたみたいだ。
「どうしたの?」
少女……、シノンと呼ばれた少女が体を傾けてガラハドの視線の先を覗く。
「いや……、あいつら。新人か?」
「そうっぽい。でも服の下に皮か何かで装備は整えてるっぽいね」
そういったガラハドの視線の先をたどるといかにも新人冒険者ですといった感じの少年少女の姿があった。
その時、カランと少年のベルトから短めの剣が落ちた。
ベルトで剣を支えきれなかったようだ。
「あっちゃー。何やってんだ全く」
「女の子のほうもちょっと駄目だね。あれじゃポーチの中身とられちゃうよ」
そういった二人の言葉を聞いて再度観察してみると、確かにちょっと危うい感じだった。
少年のほうは「なんとか剣を持ってみました」って感じで、服やベルトがボロボロで完全に剣だけ浮いた感じだ。
少女のほうは「農民が短い杖を持ちました」って感じで、ポーチの口は開けっ放し、腰に下げた袋からはいいにおいがしている。
そんな恰好で人ごみに入ったらポーチの中身はとられるだろうし、山に入れば匂いを嗅ぎつけた獣が寄ってくるだろう。
少年が、まわりにめっちゃ謝っていた。
「あーあ。さすがに見てらんねぇよ」
ガラハドが少年のほうへ足を進めた。
「……やっぱり、面倒見だけはいいよね」
シノンがあきれたように言う。
「ほっとけ」
「おい、そこの若い二人組!」
男が若い二人組に声をかけた。もうちょっと優しく声をかけてあげれば良いのに。
ほら、可愛そうに、怯えちゃってるじゃん。
「あ、あの……。ぼくらのことでしょうか?」
「そうそう、お前らだ、お前ら」
「僕たちご覧の通り新人で……、お金になりそうなものはなにも……」
若い男はガラハドをいきなりカツアゲする人と認識したようだ。乱暴に声をかけるからそうなるんだぞ。
「ちげぇよ!別にとって喰おうって訳じゃねぇよ!」
ガラハドが怒鳴る。あぁ、更に怯えちゃったじゃないか。
「ひっ……」
「ガラハド、話が進まない。退いて」
シノンがガラハドの顔をもっておもいっきり横にずらす。というか突き飛ばす。
シノンが突き飛ばした際、若干つま先立ちで背伸びしていたのを俺は見逃さなかった。シノンさん、いちいち仕草がかわいい。
「私たちは別に貴方達からお金を取ろうとか考えてない。ただ、いかにも新人っぽい貴方達を、この歩く筋肉が気にしてるだけ」
「歩く筋肉!?」
歩く筋肉発言にガラハドが抗議しているが、完全無視している。
シノンさん辛らつだなぁ……。
「は、はぁ。それで、いったい僕たちに何の御用で……」
「そうだった。用事は割と単純。貴方達、パーティーメンバーは二人だけ?」
「あ、はい。そうです。僕らまだ村から出てきたばかりで」
「そう。冒険者学校には通った?」
「冒険者学校って?」
「冒険者学校は冒険者としての心得を教えてくれるところ。……その様子じゃ通ってないね」
「はい……。そんなところがあるなんて知りませんでした」
「しかたない。大々的に宣伝してるわけじゃないし、知っていたとしても通うには資金がいる」
「なるほど……」
どうやらガラハドとシノンは、新人たちが冒険者の基礎を学べていないから、パーティーを組んで基礎を学んでもらおうという算段のようだ。
それにしても、冒険者学校なんてあるのか。
今度、機会があればのぞかせてもらおう。
そうこうしているうちに、ガラハドたちは四人連れ立って冒険へ出ようとしているようだ。
ガラハドに肩を組まれている新人の少年がちょっと迷惑そうだ。
俺もちょっと気になるのでついていこうと思う。
まずは……、って俺、姿変えたままだった。いったん猫にしよう。
で「気配寸断」っと。
これでこっそりついていくことができる。
ちょっとシノンに抱きかかえられてついて行きたかったとか考えたけど、気づかなかったことにした。
ちょっと惜しいことをした……。
「じゃ、近いし歩いていくか」
ガラハドがそういうと彼らはギルドのドアへと向かっていった。
遅れないようについていかねば……。
彼らの後ろをついていく過程で、一つ思ったことがある。
おっせぇ!?
いや、俺の歩く速度が速いのか?
油断するとすぐ追い越してしまう。
結局、歩いて二時間ほどで彼らの目的地である「コーデリック男爵管理のダンジョン」にたどり着いた。
途中、ダイヤウルフとかいう狼っぽい魔獣に出会ったが、ガラハドが一瞬で片づけてしまった。もうちょっと取れ高ってものを考えてほしい。
森の道の茂みの影からガーって出てきたかと思うと、ガラハドが見向きもせず、左手の裏拳でふっ飛ばして木にぶつけてしまった。
その後、気づいたらシノンが解体を終えていた。
なんて早さだろうか。
想像してほしい、裏拳でぶっ飛ばしたと思ったら、次の瞬間には木の上に吊るされた毛皮と尻尾があったのだ。正直、ビビる。
ほら、新人君と新人ちゃんも完全に引いてるじゃん。
あと、何か喉元あたりから石のようなものを取り出してバッグにしまい込んでいた。
それなによ?と思ったけど、今度でいいや。ゆっくり理解していこう。
そうだ、この新人君と新人ちゃん、名前はヒュードとコルナというらしい。
どこかの小さなの村の生まれで、幼馴染同士で互いに三男、三女。家に居場所がないから上京してきたらしい。
え?もっとしっかり説明しろ?
いや、これには深い事情があってな。
そう、道端に現れたちょうちょに気を取られてしまって実はほとんど聞いてなかったんだ!
やっぱり、本能が猫に近づいているようだと感じる今日この頃……。
申し訳ありません。明日から数日、緊急の出張になりました。
できるだけ携帯から更新できるようにしたいと思いますが時間・チェックともに不規則になるかと思います。