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10-14.吸収合併

「次期皇后陛下、並びに次期王配殿下、御出座である!皆のもの、控えよ!」

 白薔薇騎士団のクルクス団長がそう宣言すると、謁見の間に居た全員が膝をつき礼を取る。


 おぉ。それっぽいそれっぽい。

 やっぱり、封建制度の国家なんだなぁ。

 俺は、シャルロッテさんと共に壇上に脇から上がる。

 ちょっとゴテゴテしい衣装だが、まぁ今回は仕方ないだろう。

 ちなみにノブナガ以下、魔王や魔物、獣人、精霊、天使の一団は壇上の脇に控えている。

 位置的には親衛隊の位置なのだそうだ。

 どうも俺の配下ってこの世界の常識とは外れているみたいだから、脅かさないためだ。

 もう少ししたら、堂々とみんなの前に出せるようになるかもしれない。

 今日はゲストも呼んだから驚き疲れないように配慮した。

 配慮になるかは知らんが。


 シャルロッテさんは昨日から少し微熱気味らしく、今日もあまり体調は良くなさそうだ。

 今日は完全に頷くだけの人形に徹すると先ほど自己申告があった。

 つまり、今日の発言の責任はすべて俺にある、という事だ。

 あぁ。胃が痛い。


 俺から見て会場の左手側には文官系、右手側には武官系の国の重鎮が並んでいる。

 後方は他の貴族や一般の兵士たち。

 この場合の一般兵は護衛兵を除けばすべて貴族出身なのだが。

 で、この度、公爵に就任した三人は、俺から見て左手側。

 国のお偉方に囲まれている。

 おぉ、3人とも居心地悪そうにしてるな。

 どっきり大成功、第2弾だ。

 正式にはまだまだ就任前だが、まぁ、もう国的には決定事項だし、そこにいても問題ない。

 徐々に慣れて行ってもらおう。

 ちなみに彼らの正式就任は俺たちと同じくらいか少し早いくらいの時期の予定だ。

 その間、公爵領はドリス公爵直轄領として仮編入される。

 就任と同時に、領土の割譲という形で渡す予定だ。


 で、おそらく、というか俺やドラディオ、シャルロッテさんの目論見ではこれを機に中央集権化を図り、国境付近の警備を強化するという目的がある。

 まぁ、これは極秘事項。

 その前に、新たな領土が編入されるのはある意味ではいいことらしい。

 正直、俺にはよくわからんが。



「ご苦労。みんな、楽にしてくれ」

 その言葉を合図に、全員が頭をあげ立ち上がる。

 まぁ、物理的に立ち上がれない面々もいる。

 元老院の面々だ。

 全部で13名いる元老院(宗教的には枢機卿)の面々は縄を打たれ、今回の件の責任を取ってもらう予定だ。

 こっちの被害は少ないとはいえ、最重要の重鎮の1人と公爵を1人失っているからな。

 その罪は重い。

 そして、ここにいないメンバー、元老院の子飼いで戦争に積極的参加していたメンバーは公国内で地下牢に閉じ込めているそうだ。

 それだけでは入りきらなかったらしく、一部の兵士は城外の平野に野ざらしだそうだ。

 そいつらを捕らえておけるほど、公王には自由に使える兵がいるのか?と思ったが、一部親衛隊を筆頭に、新たに領民から兵を募集したそうだ。

 それも、所謂スラム出身者や平民を中心に。

 重税による迫害や不当な罪状で捕らえられたものを中心に雇ったとのこと。

 つまり、元老院に恨みを持つ人間達だ。

 喜んで150名ほどが志願してくれたそうだ。

 ウィンディアやフィルボルが半数を占めているらしい。

 ここにいる元老院たちはまだ幸運なのかもしれない。

 なんせ今まで自分たちが迫害していた人間に今度は逆にとらえられ、生殺与奪の権利を握られたのだ。

 一応、殺さないように。と言明はしているものの、暴行までは止めていないそうだ。

 教義では暴力は最低限となっているそうだが。

 まぁ、今まで自分たちを迫害してきた人間に上位の立場で接した時、どういう感情が芽吹くかといえば……。

 彼らがこの話が決着するまで、果たして無事でいられるのだろうか。


「さて、今回の一件だが、皆も知っている通り、この度公爵家より反乱が起こされ、その全てを俺と配下が撃退した。当時の公爵達は捕らえられたり死亡したため、今、ドリス皇国の全権は俺が代行の代行をしている。ここまでは昨日のお披露目会からもわかってもらえると思うが、異議のあるものはいるか?」

 会場からは何も聞こえない。

 元老院達が反応しそうなものだが。あ、猿轡噛まされてるのね。納得。

「じゃあ、それを前提の上で。公王オーガスト・ロイマン。発言を許す。答えよ」

「はっ!王配殿下」

「昨日、貴君らに同行した赤百合騎士団から貴君からの戦後処理についての嘆願書を預かった。これは貴君が書いたものと内容に相違はないか?」

 ドラディオが公王のもとに歩み寄り、書簡を渡す。

 これは先日のそのままの内容だ。

 実は正式な書簡としては様式的に機能しないものだが、そこは、抜かりない。オーガストは自分が護衛中に暗殺されることも考慮して、事前に遺言という形でこのメモを書いたに過ぎない、書簡としても同一の内容のものを昨日受け取っている。つまり正式な訪問団と自分達の護衛に同じ内容の文書を渡したに過ぎないのだ。

 それを今ここで効力を発揮する正式な文章へと変化させようというわけだ。

 実際、2度護衛隊が襲撃を受けたそうだが騎士団によって反撃に成功。全員無事で戻ってきた。

 公王によると、彼らは元老院子飼いの部隊で有ることが確認されたそうだ。

 襲撃者の1人の若い兵士が殺されたり拷問されるよりはと吐いた。

 因みに、全員を撃退したわけではなく、正確には襲撃者の1人を取り逃がしている。

 2回以降、襲撃がなかったのはこのためだ。

 しかしそれはダミーの文章。

 残念ながら意味のない物だ。

 因みに文面はこう書いてあった。

『やっべ。戸締まりしたっけ?』

 今頃さぞ悔しい思いをしているだろう。

 せめてウィンディアがいれば追いかけることもできたろうに。

 彼らは目的の元老院達の開放ができぬと悟り、公文書だけでもと思ったのだろう。

 まあ、そうは問屋がおろさないわけだが。


「相違ありませぬ。確かに、私の書いた内容と同一でございます」

「ではこの宣言をもって、その文章は有効であると判断する。クルクス」

「はっ!」

 クルクス団長が公王から文章を受け取り、俺のそばまでくる。

 俺のいる壇上の下に立つ。

 そこで振り返り、みんなに聞こえるように紙の内容を話し始めた。

 内容は昨日バートランドと話した通り、全面降伏。

 ここにいるメンバーの責任を問うもの。

「……以上です」

「だ、そうだけど。公王、何か申し開きはあるか?」

「ありませぬ」

「そうか、では聖女、この文章に異論はあるか?」

 公王の隣にいた聖女、ベールで顔を隠されており、まったく顔は見えないが、彼女は首を横に振った。

 なんかこの聖女、こっちに来てから一言もしゃべってないみたいなんだよな。

 食事はしているみたいだけど。

 なんなんだろう、人見知り激しいのかな。

「わかった。じゃぁ、元老院を代表して……って元老院の代表者は誰だ?」

「彼ですな」

 公王が指し示した先には1人の中年の姿。

 いかにもといった感じの太っちょの男がいた。

「バートランド、轡を外してやれ」

「はっ」

 バートランドが彼の轡を外し、前に連れていく。

「さて、お前が神聖公国の元老院の代表者か。何か申し開きはあるか?」

 そう聞くと、彼は途端に叫び始めた。

「皇王陛下!これは罠でございます!そこの者たちは、責任をすべて私どもに押し付ける為、嘘のご報告をしているのでございます!!」

 何をいまさら。往生際が悪いな。

 少し呆れてしまう。

「そもそも、神聖公国とはその名の通り、教皇である公王を中心とした国!実権は公王本人にございます!我々いち貴族には何の実権もございません!」

 はぁ。ここまで他人に責任を押し付けられるとは。いっそすがすがしい。

「さぁ!皇王陛下!我々ではなく、公王と聖女に制裁を!」

 そこまで聞いて、俺は威圧スキルを発動した。

 勿論、気絶しない様に、力を押さえてだ。

「うっ!」

 それでも彼らには十分だったようだ。

「あのさぁ。ネタは上がってるんだよ?今更他人に責任を押し付けられるわけないだろ?公王に実権がないことも、聖女の神託を無視してお前らが偽聖女として聖女を拘束したことも、調べはついているんだ」

「それは、……この男の計略です!この男がすべて悪いのです!」

 縄を打たれた元老院の男が、叫ぶ。

 はぁ。

 話にならない。

「じゃぁ、ちょっと特別ゲストに来てもらおうか」

 そう俺が宣言すると、脇からガブリエルが出てくる。

 そして、その後ろから老人風の男が出てきた。

「神獣様、創世の天使ガブリエル、まかり越しました」

「ご苦労様。さて、一部の人間は知っているだろうが、光の神から遣わされた使徒、創世の天使ガブリエル殿だ。今回から、正式に俺の配下に加わってもらう」

 おぉ。と会場が沸き立つ。

「そ、創世の天使……だと?」

「皆様良しなに。さて、この度の一件、光の神の名において、公王と聖女には罪がないことを宣言いたします」

「なっ!?」

「また、自らの利のために、初めに神獣様を魔王と神託を下したこと、これを謝罪いたします」

「嘘だ!!」

 ガブリエルの言葉をさえぎって、太っちょが叫んだ。

 まぁ、そりゃ、自分たちの信仰する神に完全に見放されているわけだから叫びたくもなるだろう。

「貴様!さては天使の名を騙るものだな!正体を現せ!この冒涜者め!」

「はぁ、流石に冒涜者なんて言い方をされたのは初めてですね。神よ」

 ガブリエルが後ろにいた老人に話しかけた。

 すると老人がすっと前に出てきて、威圧に似たようなスキルを使用した。

 まぁ、俺が使うような強烈に相手を威圧するようなものではないが。

「騙るとはよくもまぁ、どの口が言うのやら」

「だ、誰だ!貴様!私を侮辱すると許さんぞ!」

「誰かと来たか」

 老人がフードを外す。


「控えよ。我こそがお前たちが信奉する、光の神オーディナである」


 そこには、神がいた。

 まぁ、俺しか会ったことないから、彼らがそれを知ることはないんだけど。

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