10-11.お迎えに来たよ
いやいやいやいや。
こいつら。何やってるんだ。
この特設会場を壊すつもりかよ。
まぁ、ちょっとやそっとじゃ壊れないと思うけど。
冷静に戦力を分析してみる。
シロはまだまだ経験不足だな。
うまいことあしらわれている。
というか、骨に反応するようじゃぁ、まだまだ動物だったころの癖は抜けてないな。
嵐山は……うん。なんか現代科学対ファンタジーみたいになってる。
善戦したがまぁ、これは仕方ないだろう。
うまいこと周りを利用したノブナガチームが強かっただけだ。
イーサンは……。パワー勝負の結果はカツイエが、戦闘としてはイーサンが勝った感じになってる。
川原で殴り合いでも始めそうな勢いだ。
あいつらは放っておいても問題ないだろう。
で、ノブナガは……。
あ、こいつやる気ねぇな。
なんだか、ノブナガに関しては酒飲むかだらけてる姿しか見てない気がする。
さて最後はシュバルトディーゲルとミツヒデだが……。って!おい!
俺が目を移すと、ちょうど互いに最後の、いや最高の一撃を叩きこむところだった。
別に、アレを叩きこまれたくらいでは会場は壊れないとは思うが。
無自覚だろうがシュバルトディーゲルの方は結構な魔力量が入っている。
対するミツヒデも、シュバルトディーゲル程ではないものの、より洗練されたというか、圧縮された魔力を纏っている。
アレがぶつかって放出がおきると爆発しそうな勢いだ。
安全のために止めた方が良いだろう。
俺は植物魔法を二人の間に展開した。
土魔法による強化も忘れずしておく。
2人の魔力と攻撃の勢いを受け止める。
「そこまで。君等ちょっと気合い入りすぎ」
あくまで試合なんだから。
トーナメント戦じゃないんだから。
勝っても負けても何もないんだ。
もっと気楽にやってほしい。
「おーい。神獣よ」
ノブナガが俺の方に声をかけてきた。
「客じゃ。ドリスの領内に入ったようじゃぞ。迎えに行ってやれ」
「客?」
一瞬、なんの事かと思った。
けどすぐに思い当たる節があって言い直す。
「って、あぁ、そうか。早かったな」
恐らく、神聖トリポリタニア公国の教皇と元老院、そして聖女の一団の事だろう。
捕縛が終わってるから、片道だけ赤百合騎士団の一部が護衛でついて行ったはずだ。
「しょうがない。今どのへんだ?」
「まだ国境に入ったくらいじゃな」
「わかった。ちょっと行ってくる。そんなわけでみんな、いったん試合は中止。壁には穴開けとくから後はドラゴンたちに乗って街に帰ってきてくれ」
俺は会場の中にいくつか穴をあけておく。
ドラゴンたちは意外にも聞き分けがいいから、彼らを頼めば連れて行ってくれるだろう。
俺は後の事をみんなに任せて飛び立った。
俺が飛び立つと、ものの数秒で国境付近までたどり着いた。
背中に他人を乗せていなければ、こんなものだ。
にしても。
もう夕方前か。
午前中にお披露目会、午後から三人の継承と試合。
相変わらず、一日の中にイベントが詰め込まれてるよな。
もし、イベントを管理しているものがいるとすれば、管理者に一言物申したい。
この世界で3か月弱、緩急が激しすぎる。
何もない時は本当に何もない。
忙しい時は朝昼晩とイベント目白押しだ。
いや、もしかしたら忙しい時に合わせてイベントを起している節すらある。
まぁ。退屈しなくていいんだけどね。
で、アレが神聖トリポリタニア公国の捕虜を連れた一団かな?
なんかもうキャンプの準備してるけど。
ってそうか。
近くに来たら転移魔法で送るって言ってなかったしな。
そりゃ、これだけの人数だとキャンプの準備にも時間がかかるだろう。
ひの、ふの、みの……。
大きい箱のバスのような馬車が4つ。
小さい箱の馬車が3つか。
あとは天井の無い馬車に物資が積んであるみたいだけど。
まぁ、とりあえず降りてみるか。
「おーい。お疲れさん」
「誰だ!?」
降りて行ったら赤百合騎士団の団員に槍を向けられた。
いったいなぜ!?
ってそうか。
こいつら、俺の人型知らないんだった。
なんせ正式なお披露目は今日の午前中の事だ。
彼らが出立したころはまだ俺の人間の状態を知る者はほんの僅かだったはずだ。
「怪しい奴め!」
「何事だ!!」
ちょっと偉そうな、というか実際偉いんだろう。ともかく、新しい騎士が出てきた。
えっと、あの紋章は確か見覚えが……。
あぁ。モルドヴィン侯爵家の出身か。
モルドヴィン侯爵はドリス公爵の配下の一派だ。
ドリス公爵領の北東に位置し、山脈の間にある洞窟を砦に改造したアフラ洞城を首都としている領地だ。
領主が歴代ドワーフなので住民もドワーフの割合が多く、山脈での鉱山を主な収入源としている。
……だったかな?
たしか、周囲にあるヴェイン侯爵領、ウェルマ侯爵領、ビビ侯爵領とは最近もめごとがあってちょっと互いに仲が悪いみたいな書類があった気がする。
ちょっと自信ないけど。
ちなみにヴェイン侯爵はエルフ、ウェルマ侯爵はウィンディア、ビビ侯爵はフィルボルの領主らしく、地図を見た感じだと、それらがドリス公爵領の北東に集められている感じだった気がするが。
「貴殿、その装い。国の、皇家の使者とお見受けする。名を名乗られよ」
俺の格好を見た騎士は俺にそう言った。
ってそうか。俺、お披露目会の格好のままだ。
俺の衣装はイドバルドとシナーデさん、そしてセレーノ伯爵が用意した特注品。
当然、その衣装には俺が関係者だとわかる刺繍がされていた。
具体的には片側に垂れ下がったマントのようなものに、皇家を表す紋章と、獅子を模したであろう意匠の入った盾の紋章が刺繍されていた。
これは将来、俺個人を表す紋章になるそうだ。
正直、ちょっと恥ずかしい。
とはいえ、こういうのは貴族の常識なのだそうだ。
そして、使者は紋章の入った旗や県などを持ち歩くことによって自分がどの勢力に属しているかを表すそうだ。
やっぱり、大きな名札を背負っているみたいで恥ずかしい気がする。
「あー、えっと。名前だよな。名前。うん」
これ、正直に言っていいのだろうか。
彼ら卒倒しないかな?
そう俺が迷っていると、馬車の方から見たことある顔が俺に声をかけてきた。
あの禿あたま……、もとい特徴的な背格好は。
「おや、アレクシス殿。御身自ら出迎えとは、感謝いたします」
「公王。何かご存じなのか?」
「何かといわれても……、お主等、知らぬのか?」
「あー、すまん。ちょっと、いろいろ事情があってな。オーガストって呼んでいいのかな?」
「呼び名など、お好きになさってくだされば結構です。それで、こちらの方ですが、そちらの国で神獣なる存在として崇めたてられているお方です」
一瞬、時間が止まったように感じた。
「「えっ」」
オーガスト、公王があきれたような声で言った。
「流石に、どうなんだ?これは」
「俺に言われてもな」
ほんと、どうしようか。これ。
~残された人々~
「そういえばジョージ。なぜ俺たちの『言語理解』を彼らに隠すように言ったんだ?別に話してしまっても良かったろう?実際、俺は少し話してしまったぞ?」
「それは小官も気になっていました」
「あぁ、アレは一応の対策だよ」
「対策?」
「一応、神が御膳立てをしてくれているとはいえ、俺たちの全く知らない世界だぞ?警戒して当たり前だ。俺は夢の世界とかいう訳の分からないところで何度も死にかけたことがある」
「ゆ、夢の世界?」
「貴方の世界にはそんな世界があったのですか?」
「あった。いずれにしても、俺たちはこの世界にとっては異物だ。出来るだけ目立たない様にしてくれ」
「「わかった」」
「うーわ。めっちゃ聞こえる」
「改めて、別格ね。アレクシスって」
「影魔法ってこんな使い方出来るんですね。まさか盗聴器みたいに使えるなんて」
「相手にばれてないことが不幸中の幸いね」
「一つ言っておくが、このくらいなら私でもできるぞ」
「ゴルディ様……」
「いずれにしてもジョージ。彼は頭が切れるようだ。少し警戒が必要かもしれない。アレクシスにも伝えておこう」
そうして、俺の知らないところで互いの思惑を抱えて、彼らは皇都へと続く、ドラゴン便を待っていた。
最後の盗聴器はアレクシスが転移者に仕込んだ影魔法をグレイや氷室に仕込んだ影の兵士を通じて盗聴器のように使っています。