10-9.斧対槍
遅くなりました。
また今回少し短いです。
次回はもう少し遅れそうです。
仕事が忙しくなってしまった……。
「わはははは!楽しいのぅ!」
楽しいものか。
なんという重い一撃だろう。
防ぐのがやっとだ。
「そぅら!」
大上段から遠心力と重量をたっぷりと乗せた一撃が放たれる。
アレを受けたら俺の腕でも真っ二つだろう。
ならば……。
「ここだ!」
俺は振り下ろされた斧目掛けて右腕から掌底を放つ。
俺の右腕は、パイルバンカーとして改造された鋼の腕だ。
右腕の外側に装備された杭状の装置には発射装置が付いている。
元々魔力で発射する装置だが。
慣れればこういう芸当もできる。
俺の右手は、斧の刃の部分を正確に打ち抜いた。
斧というのは刃を縦にした時の威力はすさまじいが、横方向の広い面への攻撃は意外にもろい。
俺のパイルバンカーは相手の斧を粉々に砕いた。
「むぅ。これは見事!」
「お褒めに預かり。で?どうする?続けるのか?」
できればこれで終わってほしいんだが。
「無論!」
だよな。そんな気はしていた。
「フンッ!」
相手の筋肉が一段と盛り上がった。
アレは……、自己強化の類か?
「大殿も聖上もご覧になられておる!無様な戦いはできん!」
相手が飛んだ。
それなりにある俺の身長よりはるかに高い。
「大震脚!賤ケ岳大振来!」
俺の遥か上段から、相手の踵が振り下ろされる。
容赦のない、俺を確実に殺すための威力の攻撃だ。
俺は後ろへ飛ぶ。
これを受けてはいけない!
俺の目の前を相手の踵が掠める。
するとその風圧だけで体が飛ばされてしまった。
その踵が地面に触れた瞬間、その足元が地面ごと抉れる。
「くっ!」
破片が飛び散り、俺の身体へ襲い来る。
思わず、腕で顔を守る。
なんという威力だ。
恐らくは俺のパイルバンカーと同じような理屈だろう。
魔力によって強化した体で魔力を体術と同時に放つ。
違うことは金属の杭を打ち出す俺のものとは違い、体自体をバレルのように使い魔力を通すことで、精度と威力を高めているのだろう。
魔力の力があるとはいえ、生身でよくやる。
失敗すれば手足が吹き飛んでもおかしくはない。
どうやらこの世界は俺の居た世界よりも魔力の使い方がうまいようだ。
「そんな危険な芸当、よくやるな」
「がははは!なに、儂は魔法を使わんからの。魔力はこういうことにしか使えん」
「なるほど。一芸に秀でた力というわけか」
「そういう事だ!がははは!」
俺も人の事は言えないしな、こいつには少し親近感がわく。
「どうした?槍の勇士。これでおしまいにするか?」
「いや、もう少しやろう。やっとこの魔力にも慣れてきたしな」
「ほぅ?」
俺は意識を集中する。
俺達3人がこの世界に飛ばされた際に、神から賜ったスキル。
それぞれに『言語理解』『空間収納』を得、更に個別スキルまで会得した。
嵐山という軍人の男は『無限弾薬』。名前からして弾薬を無限に供給さてくれるというものだろう。
ジョージという学者は『鬼道』。これは本人も良くわからないと言っていた。
そして俺は『瞬間質量変化』。
こっそりと試してみたが、どうやらこれは俺の身に着けているものの質量を一時的に増加させる能力のようだ。
つい先ほど、まちがえて服の重量をあげてしまったときは焦った。すぐに戻したので何とか取り繕うことができたが。
ちなみに階段を降りているときだった。
思わず足を踏み外した。幸いにも気づく者はいなかったが。
「さて、行くぞ。簡単に潰れてくれるなよ!」
「おぅ。かかってこい!」
俺は右手を振りかぶり跳ぶ。
そのまま右手をカツイエに向けて突き出す。
『瞬間質量変化』。パイルバンカーの弾の質量を10倍まで引き上げる。
身体が、右手の質量に従い、先に下に降りていく。
そして俺の右手がカツイエの腕に触れた。
「っ!」
「ぬぅ!?」
防いだ!?
しかしこれからだ。
これはあくまで重量で上空からの攻撃の威力を増しただけに過ぎない。
本命は質量の増した弾によるパイルバンカーの方だ。
「インパクトッ!」
俺の右手からパイルバンカーが放たれた。
その瞬間。
「ふんっ!」
カツイエが踏み込み、腕を上方へと少しずらした。
掴んでいた俺の腕もその勢いでずれてしまった。
当然、発射されたパイルバンカーの杭はカツイエの背後の木を打ち抜き、粉々に砕いてしまった。
しまった。
勢い余って射出モードにしてしまっていたか。
「ぬっ!射出の勢いで近接攻撃の威力を高めるだけかと思ったが、そのような芸当もできるとは」
「す、すまん。ちょっと勢い余ってしまった」
「ははは、よいよい。次は魔力なしの純粋な力比べでもしようぞ」
「あ、あぁ。……どうした?」
カツイエが左腕を押さえている。
「どうもこうも。先ほどの反動でどうやら腕を痛めたようでな。降参だわい」
「あ、あぁ。そういう事か。それなら、俺も降参だ。アレを凌がれた以上、お前に打撃は与えられないからな」
「「ははははは」」
なんとなく二人で笑い合った。
こういうのもたまにはいいものだろう。
前の世界ではこんなことはできなかったからな。