10-6.三勇士の継承
エミリーさんに連れられて、俺達8人は階段を降りていく。
何処に行くんだろう?
そうこうしているうちに俺たちはロビーホールまで降りてきてしまった。
ロビー?
こんなところに像なんて……。
「あちらです」
エミリーさんが少し上を指さす。
……そこには。
壁の上方に埋め込まれた四つの像。
……そんなところに像なんてあったのか。
気づかなかった。
あれ?なんで気づかなかったんだ?
こんなに目立つなら気づかないはずないんだけど。
ここって普通に装飾された壁だった気がするんだけど?
「収納魔法の一種だな。いや、ていうかあそこには対攻城兵器が収納されていたはずなんだが」
へぇ。収納魔法。
城に付け備えられていた方か。
っていうか対攻城兵器ってなんだよ。
「そりゃ、城を守る防衛機構は必要だからな。攻城兵器に対抗するために用意された兵器だ。対魔法結界、対物理障壁、侵入阻害、対認識障害結界を発生させる装置だ」
「うへぇ。そりゃ鉄壁だ」
魔法や物理はともかく、対認識障害結界に侵入阻害は俺の気配寸断でも無理かもしれない。
「そうでもないぞ。現にかの邪神の軍勢は対魔法結界に対抗していたし、当時の魔王の軍勢も対物理障壁を破るほどの精鋭ぞろいだった」
なんじゃそりゃ。
昔の軍ってそんなに強かったのか。
「サタニオの軍は個々人の精鋭さも軍としての統率も取れていたからな。少々、やり過ぎな部隊もあるにはあったが、そういった者たちはすべてサタニオの親衛隊に粛清されていたから、サタニオの親衛隊は当時最強と言っても過言ではなかったな」
うへぇ。おっかねぇ。
「しかしそれが治められていたところが、今や石像置き場とは。すまないがメイドの少女よ。ここにあった兵器がどこに行ったか知らないか?」
「兵器、ですか?」
「そうだな、塔のような見た目で、青いラインの溝が入っていて……」
「すみません。存じ上げません」
「そうか……まぁ、今の時代には不要なものかも知れないな。あの頃は戦乱でどこも酷い有様だったからな」
「へぇ。流石、この国の本家本元と生活していた奴だな。今度、時間があれば話を聞かせてくれよ」
「時間があればな」
うーん。クールだ。
英雄は多くを語らずってやつかな。
少し暗い顔をしているからもしかしたら思い出したくないような内容なのかもしれない。
あまり詮索しないでおこう。
「で、光ってるって言ってたけど……」
見た目はどう見てもただの石像。
4体いる石像は、そのどれもが見た目的には普通の石像だ。
一体は剣を、一体は槍を、一体は弓を、そして最後の一体は錫杖を携えている。
つてあれ?4体?
「エミリーさん4体あるように見えるんだが?」
「三勇士の像とアレクシス様の弟子であるルルエス様の像であります」
ルルエス?
って誰だっけ?
あぁ、初代とその仲間の弟子か。
確か、6人全員から様々な技術や知識を与えられて、超人的な活躍をしたとか。最期は行方不明だっけかな。
彼の名字であるナスティーユは今や侯爵領の爵位の名前にもなっているとか。
「で、この像が光っていることが確認されていたらしいが」
「この像は大理石に光石を埋め込み、作られておりましてこれまでも何度か弱く光る時はありましたが、今回は規格外に光ったと報告が」
「この像が光ったらなにかあるのか?」
「新たな三勇士が登場すると言われております。ルルエス様の像に関しても同様に」
ははん。成る程。
そんな言い伝えのあるものが光り輝いていたから焦ったと。
そういうことか。
そこまで考えていたときだ。
4つある像のうち、3つの石像が輝きを放ち始めた。
「えっ!?」
「こ、この光は!?」
「ぎゃあぁぁぁ!?目が!目がぁ!!」
グレイはモロに見てしまったようだ。
どんくさい奴め。
「「「汝を我が後継と認める」」」
光の中、3人の声が聞こえた。
今まで聞いたことのない声だ。
誰の声だ?
「もしかして、これが三勇士の声?ねぇ、アレクシス。三勇士ってなに?」
「いや、俺も3公爵の元になった人ってくらいしか」
少し怯えたような声をあげる氷室さんが体を寄せてくるので、手で引き寄せて落ち着かせる。
あの事件以来、氷室さんは若干情緒不安定なところがあるのであまり放ってはおけない。
「んっ」
少しの役得くらいは許してもらおう。
「「「我ら三勇士。ドリス皇国を護る者也。使命を継承せよ」」」
そう声がすると光がそれぞれの像に収束していく。
その光は小さな光の玉になると、それぞれの像から飛び出した。
飛び出した先は先程現れた3人の元へ。
「うおっ!?」
「むっ」
「なっ!?」
剣を携えた像からはジョージへ、槍を携えた像からはイーサンへ、弓を携えた像からはサイクロ……じゃなかった嵐山へ向かっていくと彼らの前で停滞。
スッと消えていった。
凄くファンタジー、というか漫画とかでありそうなシチュエーションだな。
パターン的には『力が欲しいか』案件だろこれ。
「これは一体……」
エミリーさんがそう呟く頃には光は完全に消滅し、辺りには静寂が戻った。
心なしか、石像が役目を果たしたように微笑んでいるように見えるのだが?
まさか、石像の表情が変わる訳はないしな。
「どうやら剣の勇士とやらに選ばれたそうだぞ。俺はただの学者なんだが」
ジョージがそう俺達の方を向いて言ってくる。
「小官も。弓の勇士らしいです。弓なんて扱ったことないのですが」
「俺もだ。槍の勇士らしい。俺も槍なんて扱ったことないぞ」
どういうことだろうか?
それぞれの名手的な人物が選ばれるとかなら分かるが……。
って、あぁ。もしかして漫画的な拡大解釈かな。
俺が昔やったゲームでもヒロインが主人公のレーザー銃を『光の剣』って勘違いして勇者にされた作品があったし、知らない人から見ればそういうものなのかもしれない。
そうなると、嵐山は銃を弓と勘違いされてる、イーサンは右手を槍と解釈されている、ジョージはわからんがなにか勘違いさせるようなものを持っているのかな?
考古学の教授なら鞭とか使ってそうなイメージ。
で、数々の遺跡の罠を潜り抜けて秘密組織を壊滅してそうなイメージ。
惜しむらくは本人がハンチング帽に普通のコートを着用していることか。
ブラウンのレザージャケットとフェドーラ帽を着てほしいな。
スキルでもこっそり覗いて見ようかな?
そこまで思ってふと気づいた。
そういえばコイツラに鑑定ってしてないよな?
はて?
なんでしてないんだっけ?
そう言えば俺はなんで無条件でコイツラのことを信用しているんだ?
いや、神から事前に教えられていたから全くゼロからではないんだが。
ん~まぁ、良いか。
気分が向いたときにまたやっておくか。
「すまない。不躾で申し訳ないんだが、この城に訓練所のような、頑丈で広い運動施設はないか?」
「訓練所?」
ジョージがいきなり訓練所を求めてきた。
一体どうしたんだ?
「あ、小官も少し試してみたいと思っておりました」
「俺もだ」
試す?
どういうことだ?
「あぁ。どうやら彼らに『力』を授かったようでな。神に与えられたこのスキルとか言う『力』も試してみたい」
あぁ。なるほど。
そういう事ね。
まぁ、力を手に入れたのなら使ってみたいという気持ちはわからないでもない。
嵐山も少しうずうずしているのか、ウォーミングアップを始めているし、イーサンも機械の右手を開いたり握ったりしている。
「はぁ。仕方ないな。エミリーさん、3人が少し腕試ししたいらしいんだけど、マリアゲルテさん達が使っている訓練所って今、空いてる?」
「えぇ、空いてはいますが、今はおやめになったほうがよろしいかと」
「え?なんで?」
「今、行けば確実にマリアゲルテ様がついていらっしゃいます。そうなると、シャルロッテ様のお耳にも入るでしょう」
あー、そういう事か。
「先ほど、かなり苛立っておられましたから……」
「うん。やめとこう。マリアゲルテさんが怒られる姿が目に浮かぶ」
しかし、そうなると。
あ、良いこと思いついた。
ついでだし、あいつらも呼ぶか。
「すっごい悪い顔してる」
「きっとまたとんでもないこと言いだしますよ。ギルドの時みたいに」
「巻き込まれる前に退散したほうが良いでしょうか」
「まて、流石に一人だけそれはズルい。私も連れて行ってくれ」
それぞれ、氷室さん、グレイ、遠藤氏、ゴルディの言葉だ。
失礼な奴らめ。
まぁ、いいや。
「エミリーさん、悪いけどちょっと頼まれごとしてくれない?」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「ドラディオに今から地上に行くから準備するように、って伝えてもらえる?」
「かしこまりました。出立はいつ頃でしょう?」
「なるべく早く。俺はちょっと聖域に行ってくるよ」
「聖域……ですか?いったい何を?」
「ちょっと、訓練相手を連れてくる」
あいつらなら訓練相手としては申し分ないだろう。
お互い、けがのないようにお願いしたい。
なぜ、多夢和が無条件に信頼してしまったのか。
それはジョージのスキルが関係しています。
ヒントとしては「コロコロ……成功」的なアレです。