10-3.3人の新たなる転移者
「おい、ちょっと待て!シャル……陛下!」
ヴィゴーレが抗議の声を上げる。
「陛下!あまりにも早計なお話に少々頭が付いてこないのですが!」
ロウフィスもすごく慌てている。
ちょっと慌て過ぎじゃないかな。こいつら。
そこまで慌てることなのだろうか。
そう思って、ヘンリーのほうを見てみる。
「公爵……僕が公爵……。これは嘘だ何かの間違いだ……」
頭を抱えてうずくまっていた。
あー、これいつぞやのグレイと同じような状態か。
そんなに嫌かな?
仮にも……じゃなかった。正式に貴族の息子たちだろう?お前ら。
「おい、神獣様。後で話を聞かせてもらうぞ」
ヴィゴーレに青筋立てて睨まれた。
おぉ、怖い怖い。
「そしてもう一つ、ガラハド、アマンダ、エフィーリア様。前へ」
そうシャルロッテさんが言うと呼ばれた3人が歩み出てきた。
ってエフィーリアさん居たんだ。
バロンもノブナガも居なかったからてっきり居ないものだと。
当然といえば当然だ。
彼らは人に近いとはいえ、アンデッドなどの魔物。
ここにいる貴族たちに見られたら何を言われるか分かったものではない。
まぁ、既にこの皇都に来る際にウィンディア以外が必ず乗る、ドラゴン便によって大分驚いているとは思うけど。
周囲の街では既に皇都への道にはドラゴン便があることが常識となりつつある。
セレーノ伯(グレイではなくグレイを後継者にした今のセレーノ伯の事だ)の知り合いがドリス公爵の名のもとにドラゴン便を商業化した。
とはいえ、ドラゴンはハグレオンとトラキスの2頭。
重いものを持ってなん往復もするのは酷だ。
他の仕事、というかぶっちゃけ俺のお世話という一切なにもされた記憶のない仕事をしているらしく、その合間にアルバイトしているみたいな扱いだ。
1日1頭往復2便。2頭で1日4便。
町の寄り合い所から台地下の寄り合い所まで往復してもらっている。
1回目は荷物の多い商人たちを中心に。
2回目は荷物の少ない人を中心に運んでもらっている。
これを朝はハグレオン、夕方はトラキスが担当している。
このためにセレーノ伯爵の紹介で大きな背負う台を作ってもらった。
机のような見た目のそれは、自立することが可能で、ハグレオンとトラキスが背負う前から荷物が積み込めるようにしたものだ。
流石に長時間の仕様には耐えられない特急工事らしいので今後の交通手段は少し考える必要がある。
商業化の影響で皇都の物価が少し上がりつつあるのも問題だ
それに2人になにかあったとき、変わるものがないからな。
早めになにか別の解決策を出した方がいい。
やはり以前言っていた、皇都の下に町を作るのがいいのではないだろうか。
皇都の移動はヘリオンとドラゴン達に何とか……。
あれ?
ステータスの高い俺がやればもう解決じゃ?
「……以上3名を、皇都で働く補佐官とします」
「ちょ、ちょっと待った!俺達もか!?てか補佐官ってなんだ!?」
「兄上は、まぁ仕方ないとして、私もですか?罪人である私に務まるでしょうか?」
「あら?私も?二人とは違って兄弟とかでもないのだけど」
そう驚くのは指名された3人。
3人以外の人たちも驚いている。
「皇都で働く補佐官とはなんだ?」
「新しい役職か?」
「というか、アマンダ殿はなぜあんな扇情的な格好をされているんだ?」
ん?
しまった。アマンダさん、ミニスカメイドのまま来てるじゃん。
そういえば普通に給仕してたわ。
最近の彼女は何か思うところでもあったのかちょいちょいあの姿になっている。
ちなみに朝食後の30分程度の短い期間だ。
何故か、普通のメイド姿ではなくてマリアゲルテさんが用意したメイド服なんだよな。
お披露目会とかいっても公務だったから午前中に設定したのがまずかったな。
その姿だと、猫の姿になったときにスカートの中が見えてしまって、ちょっと気まずくなることもちょいちょいある。
で、この3人が新しく任命される補佐官。
補佐官と言ってもその性質は他の補佐官と異なる。
建前上は皇王と各公爵の橋渡し。
本音はガラハドやアマンダさんだけに楽をさせないというところだ。
ヴィゴーレ、ガラハドの兄弟はおそらく根っからの冒険者なので、貴族職よりは冒険をしたいはずだ。
ロウフィスとアマンダさんの兄妹は真面目な性格なので訓練の方が好き。
ヘンリーは気弱な性格だからおそらく断るだろうと予想して、魔法の師匠であるエフィーリアさんを付けた。
どのみち、いずれ公爵を継ぐ面々だからそれが少し早まっただけの話だ。
それに、公爵と言っても、いつも領地にいるわけではない。
皇都へ着たり、他の領地のあいさつ回りをしたりと忙しいことだろう。
そんな彼らとコミュニケーションをとるために、作られた役職だ。
扱いとしてはドリス公爵配下の領地無し子爵扱い。
悪い役職ではないはずだ。
今回の反乱の件の一つの反省として、公爵たちときちんとコミュニケーションを取れなかったという点がある。
なのでそのコミュニケーションを円滑にするための補佐官という役職だ。
補佐官という役職自体は各貴族でありはするんだ。
なので役職の名前は『補佐官』となっているが、今後は変える予定だ。パッとは思いつかなかった。
その役職と差別化するために今までの外交官とは違う役職を今後、各貴族に普及させていく予定だ。
基本的には各貴族が推薦し、皇王が任命する形になることだろう。
その先鋒として公爵、そしてセレーノ伯爵が選ばれた。
因みにセレーノ伯爵からはグレイの婚約者である、ティナ嬢の妹が推薦された。
まだ学生らしいのですぐの任命は無理らしいが。
確かエリザベトさんだったかな?
というか学院か。
そういった施設もあるんだな。
暫くしたら見学に行くのも良いかもしれない。
「ともかく!これは決定事項です!次期皇王としての政策の一部と考えてください!この場にいる皆にも、この話を持ち帰ることを厳命します!」
抗議の声を上げていた3人や他の貴族たちを押し切ってシャルロッテさんから強権が発動された。
その言葉を聞いて、周りの人間は黙ってしまった。
シャルロッテさんは普段は大人しい性格だが怒ると怖い。
その怖さはマリアゲルテさんが一番良く知っているだろう。
その証拠に俺の少し後にいたマリアゲルテさんは少し震えていた。
ガラハド達もこの一月で嫌というほど実感していることだろう。
「おぃ、神獣様よぅ……」
ガラハドが情けない声で俺に声をかけてきた。
そんな情けない声出すなよ。
「まぁ、これも国を良くするためだと思って、勘弁してくれ」
「マジかよ……」
これにより、俺とグレイのお披露目会は成功で幕を閉じた。
勿論、この重大発表により俺の目論見通り、そのお披露目会で俺に声をかけるほどの余裕を持ったものはいなかった。
お披露目会は、恙無く終了。
……するはずだった。
さて、お披露目会も終わった所で解散、という雰囲気になったとき、そいつらは現れた。
会場がその登場にざわめき立つ。
会場のほぼ中心部、丁度現セレーノ伯爵のテーブルがある当たりから、なんの前触れもなく、3人の人間が現れた。
一人はパイロットのようなヘルメット姿の人物。
一人は右手を機械で包んだ男。
一人はハンチング帽と丸眼鏡、ロングコートが特徴的な中年の男。
ってヘルメット姿の人物!
その肩から下げてるのもしかしてアサルトライフルって奴か!?
よく見ると右手が機械の男の機械もなんかでかい釘みたいなの付いてるし!
ひょっとしてパイルバンカーって奴か?
2人に比べるとハンチング帽の中年が普通に見える。
普通過ぎて逆に怖いくらいだ。
「ここが異世界。小官たちの新たな戦場ですか」
「空気が澄んでいるな。大気汚染が進んでいない。やはり文明レベルの差か」
「まてまて、2人とも。早まるな。まずは周囲の状況を確認して情報を収集するところから始めるぞ」
後から知ったことだが、彼らこそは新たなる神の使徒。
その登場は、新たな波乱を予感させた。
公爵の息子たちの心の声を聴いてみよう。
ヴィゴーレ「弟に押し付ければいい」
ガラハド「兄貴に押し付ければいい」
ロウフィス「いずれは継ぐかもしれないけど、今は修行の日々」
アマンダ「罪を償わないといけないからあまり関係ありません」
ヘンリー「兄がまだ何人かいるし関係ない」