9-17EX.魔王の会合・神獣戦隊マオウファイブ
遅くなりました。
ふむ。
思いがけず、人間の体を手に入れてしまった。
あるきにくいことこの上ない。
しかし、随分と世界が色彩豊かに感じられる。
いや、色彩だけなら鳥の頃とあまり変わらないが、なんというか、鳥の頃に見えていたものが見えなくなって色彩がより豊かになったというか。
まぁ、それはいい。
俺は、ドリス皇国の皇都と呼ばれる場所に連れてこられた。
連れてきた張本人はあの魔物だ。
正直な話をすると、俺は魔王などと呼ばれ、調子に乗っていたのかもしれない。
あの邪法により強化された人間にしろ、あの仮面の男にしろ、この魔物にしろ、俺を脅かすには十分な強さを持っていた。
そして、今、目の前の男だ。
俺は男と小さな鉄の生命体に連れられ、この城の外れの森へとやってきた。
そこに居たのは三人の生物だ。
二体は骸骨とこれは、霊の類か?
何にせよ、アンデッドだろう。
あとの一体はエルフ……普通のエルフの女のようだが、邪法の気配を感じる。普通の人族ではないのだろう。
「バロン殿、エフィーリア殿、それにノブナガ殿。ご紹介しよう。魔王、フェニクス殿だ。故あって、暫くここに留まることになった」
「ほぅ、魔王とな?フェニクスといえば、あれか。フェリクス島の鳥の魔王か。え、鳥?どう見ても人間なんじゃけど。ミツヒデー!!」
「はい。こちらに」
また何か出てきた。
ってうわ。
こいつも強い。
間違いなく強い。
「大殿!買ってきたぞ!」
「いやー。結構いいもの揃ってますね。流石、首都っす」
「買い過ぎですよカズマス。少し自重するように」
げっ、後ろからも出てきた。
こいつらも例の類か。
前にアンデッド、後ろにアンデッド。
なんだココは!!
死者の巣窟か!?
ヤバいところに来ちゃった感じが半端ないんだが。
「ていうか、ニワさんもめっちゃ買ってたじゃないっすか?俺にだけ注意するとかひどくないっすか?」
「私は大殿……聖上から仕事を頼まれておりますので。その買い物のついでに付き合っただけですよ」
「え、ニワさんもしかして全部俺に押し付ける気じゃ」
何やら揉めているが、手にもつ瓶を見る限りは酒か何かか?
昔何度か見たことはあるが。
「て、誰っすか?この女性?」
おいバカ。俺に話題を振るな。
こんな所、一刻も早く抜け出したいんだ。
「俺は……」
「此奴は魔王だそうじゃぞ」
そう言いかけた俺のセリフを遮ってノブナガと言われた男がそういった。
「というか、カズマス。良くオナゴじゃと分かったな?」
「そりゃ、俺ってヴァンパイアですよ?血の匂いで大体分かりますって」
「カズマス殿、その言い方は少し……」
「少し危ない人みたいな言い方ですね」
「んな馬鹿な!?」
なんだか和気藹々とコントをしているが。
今のうちに逃げ出したほうが……。
「しかし、あやつも恐ろしいやつよな。まさか魔王を四人も従えるとは」
「四人?」
聞き捨てならない事を聞いた。
魔王を四人も配下に?
一体アイツは何者だというのか?
「ノブナガ殿、四人とは?」
俺をこの場に連れてきた男がそう言うと、ノブナガは顎のヒゲをさすりながら唸った。
「儂、ゴルディ殿、ここにはおらぬがヘリオン殿、そしてお主の事じゃ」
「待て、ノブナガ。お前やヘリオン、フェニクスはともかく、私は魔王になった記憶はないぞ?」
「何を言うておるか。素質は充分じゃろ」
素質?
どういうことだ?
「この世界の人間ではないその身体。おそらくゴーレムの類じゃろうが、つまりは魔物じゃ。力も十分。この城と一心同体と言うことはそこに住まう人間はある意味、お主の配下じゃろ。つまりは多数の配下を従える魔物、つまり魔王じゃ」
へぇ。
魔王ってそういう決まりがあるのか。
俺は島に閉じこもっていたらいつの間にか進化して魔王と呼ばれるようになっていたから知らなかったな。
人間の名付け方というのは面白いものだ。
「いっそ、儂ら四人で神獣四天王でも名乗るかの!わっはっはっ!」
いや、なんで俺も数に入ってるんだよ。
「お待ち下さい。お館様。それは早計にございます」
お、エルフが反論を唱えた。良いぞ。もっと言ってやれ。
「む?ミツヒデ。何か問題でもあるのか?」
「はい、それに決めてしまいますと、我らオダ四天王と被ります。お館様と同じ呼称など真っ平ごめ……、恐れ多いので、別の呼称に変更すべきかと」
後ろから来た奴らがウンウンと頷く。
「……今何かとんでもないことを言おうとしなかったか、お主」
「気のせいでございます」
何だこのコントは。
「うーむ、しかし、四天王がダメとなると……何か良い案はないか?ゴルディ殿」
「なぜ私に聞くのだ。というか私は了承していないのだが……、うぅむ」
小さな人がそう言い、顎に手を当てる。
何かを考えこんでいるようだ。
「……せめて、5人いれば新しい名称もあるのだが」
「ほぅ。なぜ5人なのじゃ?」
「おい、ナチュラルに俺を加えるな」
「昔、見た番組……もとい、知識の中に近いものがあった」
番組?番組ってなんだ?
知識と言い換えたという事は、書物や催しものの類か?
そういえば昔、一度島に訪れた吟遊詩人が何曲か披露して帰って行ったことがあったな。
あれは島にいた俺の配下も喜んでいたから、人間の考える娯楽というのはすごいと思う。
俺たちを喜ばせたことの褒美に生きて帰してやったが、今考えると惜しいことをしたな。
確か、代々吟遊詩人として活動していた一族だったか。
今度探してみるか。
「戦隊物、というらしいが何人かがチームとなって似たような恰好で戦うヒーローの物語だ」
「なんと!ヒーローとな!格好いいではないか!して、その名は」
そう食いついたノブナガにエルフの男……、ミツヒデがツッコミを入れる。
「いや、御屋形様。御屋形様は魔王なのですからむしろ人間にとっては悪なのでは?」
「細かいことを気にするでない!ミツヒデ!また皺と胃痛が増えるぞ!」
「誰のせいですか」
「そんなことより、名じゃ!早う申すのじゃ」
「とはいえ、結構数があったからなぁ。大体はテーマに合わせて付けるんだが。なんとかレンジャーとかなんとかファイブとか」
「なるほどのぅ。儂らじゃったらなんじゃろうかの?」
「……神獣戦隊マオウファイブとかそんな感じになるんじゃないか?」
「なるほど!じゃぁ、儂らは今後、神獣戦隊マオウファイブと名乗ることにしよう!」
ノブナガがすっかりその気になっている。
「おい、だから私にその気はないと……、名乗るなら別の者とだな……」
「俺にもその気はないぞ?」
「えぇ!いいじゃん!いいじゃん!名乗ろうぞ。儂ら四人で名乗ろうぞ!」
そう、ノブナガが転げまわり始めた。
砂遊びか!
アレはいいものだ!
身体に付いたノミなんかの虫や体の汚れを落としてくれる。
非常に衛生的で素晴らしい。
砂遊びをするノブナガを見ていると、背筋がゾクリとする感覚を覚えた。
なんだ?
「ノブナガ、交代の時間でちゅ」
俺達の後ろから現れたのは、白銀の身体を持つゴーレムだった。
強い。
それに、何か不気味な雰囲気が。
こいつが、先ほど話に出ていた四人目の魔王だろう。
「ん?もうそのような刻限か?」
「もう過ぎてるでちゅ。パロミデスが待っているでちゅよ」
「仕方ないのぅ。お主等、行くぞ」
……行ってしまった。
なんだったんだ、あいつは。
言いたい放題して、どこかに行ってしまった。
嵐のような奴だった。
「はぁ」
「はぁ」
ため息をつくと、ゴルディのため息と重なった。
なんとなくだが、こいつとは仲良くやれそうな気がする。
「何をしているんでちゅか?」
銀色のゴーレムはなんか変な口調だし。
あぁ。もう。
やっぱりついてくるんじゃなかったかなぁ……。
俺は空を見上げ、沈む夕日を眺めるのであった。