9-17EX.大空の魔王、フェニックスロード
俺の名前はフェニクス。
ここ八十年程度この北の島、フェリクス島で鳥たちの長をしている。
この名は六十年ほど前に、人間によってつけられた。
赤い島、という意味でフェリクス島と名付けられ、その島に住む魔王という意味でフェニックスという種族名、フェニクスという個体名が名付けられたという。
まぁ、関係ないが。
響きが気に入ったので俺はこの名前を使っている。
俺の眷属の鳥たちは、この島を守り生活している。
ロック鳥、フレアカナリー、サンドレイヴン、風孔雀、ウォータースパロー、サンダーホーク、シャドウオウル、白銀雷鳥、この島の鳥はすべて俺の眷属だ。その数は八百を数える。
この島は、鳥の楽園と呼ばれ、昔は活発な噴火をする火山とそれを冷ます海水と気候のおかげで良質な石材が取れたため、人間という種族により、たびたびの侵略を受けていた。
昔、一時期は人間族に支配されたが、この島の環境に人間は耐えられなかった。
環境としては火山と太陽の力が増し温かく安定する安定期と、火山の力が減少し気候の力が増す寒冷期を一年のうちに繰り返す。
その環境を神の怒りととらえ、人間は大きな神殿を火山の麓に建てたが、結局環境に耐えられず、この島を後にしたそうだ。
ちなみに、この神殿を俺は自らの巣としている。
山肌の洞窟に彫られたこの神殿は見た目と大きさだけは非常にミア絵がいい良い。
火山の影響で内部は非常に熱いし、とても人間が入れるような環境ではないが。
なんでこいつらはこんなところに神殿を掘ったのか。
流石に頭が弱すぎだろう。
俺が産まれたころはただのロック鳥であったが、火山の近くに巣を構えていたため、気づけばこのような姿になり、この島を代表する存在へとなった。
俺はその力で、今でもたびたび侵略してくる人間たちを撃退し、この島の鳥たちと共に島を守っていたのだ。
そんなある日のことだ。
今までとは全く違う人間たちが島に侵略してきたのだ。
奴らは島の南東に拠点を構え、百の数をそろえてきた。
人間の世界では、かなり強いと称される俺の眷属たちが次々と倒されていく様を見続けてきたのだ。
侵攻からすでに一週間。
倒された眷属は八十を数える。
その中には、俺の側近ともいえる魔物もいた。
その魔物に言われ、俺は手を出せずにいたのだ。
俺の怒りは島を根本から覆してしまう。
その気になれば島ごと破壊することもたやすいだろう。
しかし、それでは眷属たちが住処を失ってしまう。
それは避けねばならなかった。
侵略してきた人間達は何かおかしかった。
俺達を倒しても食料としなかったのだ。
と、いうか食事を必要としていない様にすら見えた。
奴らが食事を作った形跡が見られない。
人間では異常な話だ。
肉でも魚でも草でも木の実でも、すべて食い尽くしていくのが人間だったはずだ。
奴らから邪法の気配を感じる。
そのせいで食事が必要なくなっているのか?
しかし、この異常な力は一体……。
これも邪法の力なのだろうか。
「魔王様」
そう俺の巣の入り口で囁く者がいた。
俺の側近の一人、フレアカナリーの者だ。
「島を放棄し、移動するべきかと」
俺に逃げろと、その者は言うのだ。
「貴様、俺に逃げろというのか。人間ごときに対し背を向けろ、と」
「魔王様。彼奴らは人間ではなくで邪法により黄泉がえりし死者にございます。人間背を向けることにはなりません。彼奴らは他の魔王、もしくはより強力な者の傀儡と見るべきでございます」
そう、進言してくる。
致し方ないか。
「よい、島に残った者すべてに命ずる。この地を放棄する。大陸に渡り、俺の号令に備えよ。これ以上の犠牲は許さぬ。とく心得よ、と。俺の心配はいらぬ。せめて、奴らに一泡吹かせてやろうぞ」
「承知いたしました。ご武運を」
そういうと、フレアカナリーは飛び立った。
ロック鳥や白銀雷鳥の一部には好戦的な連中もいるが、俺の命だ。
奴らも納得するだろう。
さて、俺はこの世の魔王として、彼奴らへ目にもの見せてくれよう。
俺は島の南東部の拠点をすべて焼き尽くした。
あれだけやってしまえば、しばらくは活動できまい。
少しやり過ぎて島の木々が灰になり、川が蒸発してしまったが。
しかし、俺の方にも被害があった。
奴らは魔法の付与された弓矢や、道具を所持していた。
中でも俺を苦戦させたのは水属性や雷属性の付与された弓矢と大きな魔物の捕獲に使用される鎖のついた槍、それに魔法の銃という道具だ。
俺の魔力を吸い取ったり、羽根や足を狙ってきて鬱陶しかった。
特に銃は出鱈目に打ってもこちらを目指して飛んできて鬱陶しかった。
まぁ、すべて焼き尽くしてやったが。
結局俺は、傷ついた身体で飛び立ったのだ。
目指すは南東、そこにあるという強大な魔物が多く居る大きな島へ。と思ったが気分が変わって南西を目指した。
そこには、この世界最古の国があるという。
その国を支配してやるのも面白いかもしれない。
しかしまずはこの傷ついた身体を癒さなければ。
だいぶ南西にやってきた。
大きな山脈を三度越えた。
ここまでくれば人間では追いつけないだろう。
いくら戦闘面では人間離れしているとは言え、移動に関しては人間並みだろう。
まさか、翼が生えてたり空を飛んだりしないよな?
えっ?しないよね?
ちらりと後ろを振り返る。
ふっ。
流石に来てなかった。
ちょっとビビった。
暫く進んでいくと、いい感じの洞窟を見つけた。縦穴なので人間はすぐには入ってこれないだろう。
暫く、ここで休むことにしよう。
縦穴を降りきった先に、いい感じの台座があった。これは幸運だ。
俺は早速、そこに降り立ち、寝蔵とすることにした。
しかし何だここは?
この魔力の量、それに火山と同じく、火と土の魔力が満ちている。
これが人の言うダンジョンというやつか。
これはちょうどいい。
傷付いた身体を回復するにも魔力がいるのだ。
この傷なら一週間、いや二週間といったところか。
まったく彼奴等め、容赦なくやりおってからに。
あー、こことか痣になってるし。
それから一週間。
その間は特に問題はなかったが。
洞窟に数人。
そして、空に一人。
こっちがメインだな。
とうとう追いつかれたか。
俺は空を見上げるとそいつは空からゆっくりと洞窟の中に降りて来た。
ふん。一丁前に隠密スキルでも使っているのか姿は見えない。
しかし、纏っている魔力で簡単に場所がわかる。
もう少し引き付けてから一発ぶちかましてやるか。
ふふふ。
覚悟するがよい。
お前が降りてくるその時間は、地獄の階段を降りている最中と心得るがよい。
いや、なにこれ。
俺、魔王だよな?
その魔王を圧倒する二人って何よ。
え、なに。こいつら。
新しい魔王か何かか?
人間怖い。
超怖い。
見逃してくれないかなぁ。
ってやばい。
なんぞあの魔力。
氷系の魔法だと!?
と、とにかく防御しなければ!
しかし、これを耐えたところで、まだ次が……。
とはいえ、今は防御しなければ。
む?なんだこれは?
身体が何かおかしい。
関節が何か……。
魔力が満ちる。
ちらりと薄目を開けると、俺の目の前には人間がいる。
一瞬、その人間の背後に巨大な獣の姿が見えた。
漆黒の体毛に赤と黄色のラインの入った、強大な魔物。
うわー。
このあと、これとやり合わなきゃいけないのか。
見逃してくれないかなぁ……。