9-15.ガラハドの報酬
ちょっと急ぎ足ですが。
「で、無事に皇都に戻ってきたわけだが。……一つ聞いていいか?何だそれ?」
「む、小僧。なにか文句があるのか?というか先程から俺に対する態度に敬意が無いな。燃やすぞ?」
「こえぇよ!つか、敬意なんて持てるか!お前、人類的には敵だろ!」
人の背中でやかましいなぁ。
俺達はあの後、転移魔法で皇都に戻ってきた。
しかし、ここで一つ、問題が発覚した。
「ふぎゃ!あ、歩けぬ」
始めて人化したフェニクスが盛大にコケたのだ。
「歩き方が分からんのだ」
そりゃ、さっき迄、鳥だったからな。
「フェニックスの時はどうしてたんだよ?」
「そりゃ、こうピョンピョンと」
フェニクスがピョンピョン飛び跳ねて前進していた。
うん、なんかだめだわ。
絵面的に。
見た目美青年…女性だから美女か。がピョンピョンと移動している姿はなんか絵面的にだめだ。
仕方ないので先程、あるき方を教えたのだが。
なんだろう。
幼稚園のお遊戯会を見ている感じだ。
あぁ!ほら、また右手と右足が同時に出てる。
とまぁ、何時までもそうしていても仕方ないので、転移で一気に戻ってきたわけだ。
フェニクスは俺の背中におぶって行くことにした。
重くはない、重くはないが。
それなりに身長があるので目立つ。
悪目立ちしたくないのでさっさとギルドに報告して終わらせたい。
にゃー。
にゃー。
ん?なんだ?
足元に猫が数匹集まってきた。
っておいおい。こら。
纏わりつくな。
「な、なんじゃこいつらは?おい、お前、もっと高く持て!」
何を焦ってるんだ。
っていうか、もしかしてこれってアレか。
フェニクスって元が鳥だから猫の本能で追いかけてるとか?
「おい、おいって!」
「ん?あぁ、遊びたいだけみたいだから、遊んでやればいいんじゃないか?」
よいしょっと。
「あ、お前!俺は歩けないんだって!ちょ、お、おいまて!」
脚から手を放して少し屈んでフェニクスを地面に降ろしてやると、案の定、数匹の猫たちがフェニクスに群がった。
にゃー。
にゃー。
にゃー。
「わっぷ!ちょ、ちょっと待て!あ、まって待ってください」
フェニクスがバランスを崩して地面に倒れると顔や胸に猫が群がり、ペロペロされている。
はた目にはすごい猫に好かれる美女の図だが。
こいつら、魔王とボスクラスの魔物なんだよなぁ。
「ほら、撫でてやりなよ。遊びたいだけなんだよ」
「う、うぅ。とはいってもだな」
俺は足元から一匹抱えあげて腕の中で撫でてやる。
ん?コイツ……。
俺の腕にいながらも、ガラハドのことが気になるみたいだ。
ずっとそっちの方を眺めている。
コイツはフォレストキャット……じゃなくてウィッチキャットか。
「ガラハド。今回は助かったよ」
「出来れば、こんな事にはしばらくご遠慮願いたいがな。簡単な依頼かと思ったら予想外のことばかりだったしな。新たなエリアに変な仮面の男に、まさか魔王までなんてな。改めて、お前は規格外だな」
「まぁ、聖上だからな。今更であろう」
「わかる。放っておくと何をしでかすかわからない所はアレクシスと似ているし、唐突な行動をするところは正しく、あの二人の息子だな」
ガラハドが苦笑いをして答えるとイドバルドとゴルディがそう笑った。
何だその評価。
心外だな。まったく。
「で、俺からお前にプレゼントだ」
俺はそう言って手の中の子猫ほどの大きさの猫を差し出す。
「いいのか?」
「まぁ、こいつもお前が気になるみたいだし。大切にしろよ?生き物なんだから。躾も忘れずにな」
「お、おう」
ガラハドが手のひらだけでウィッチキャットを抱えると、にゃーと一鳴きする。
「よっしゃ!じゃあ、冒険者ギルドに報告に行くか!」
「まさか、こんな短時間で帰ってこられるとは。……それにしても。そちらの方は?」
ティナさんがフェニクスに視線を向ける。
「あー彼女はなんというか。取り敢えずこっちで引き取ることになった方です」
俺はフェニクスの事は暫く伏せることにした。余計なことを言わないよう、説得している。
……まぁ、破ったらさっきのように猫地獄が待っていると伝えたら素直に従ってくれた。
猫つぉい。
「鑑定の結果、依頼の品、確かに納品確認いたしました。こちらが今回の報酬です」
そう言って、ティナさんが銀貨を一枚出してくる。
おぉう!初報酬!
というか初めての金銭!
そういえば、氷室さんにハンバーガー代金返さないとな。
ってそうかこれをこの人数で割ったらいくらになるんだ?
「いや、俺はいいよ。今回の報酬はどっちかって言うとコレだしな」
「儂も要らんぞ。完全に皇家から抜けるとアレだが。取り敢えずコレはリハビリみたいなものだからな」
「私も不要だな。基本は使うこともないだろう」
三人が三人とも労働の対価を求めなかった。
えー、俺が受け取ると、がめつく映らない?コレ。
「いや、流石に渡さないのは規則的に色々とまずいですので……。取り敢えずパーティーでに対してお支払いさせてください。聖上、こちらにサインを」
ほら、ティナさんが困ってるだろ。
もう、しょうがないな。
とりあえず俺のサインを……。
そこではっと気づいたが俺、ドリス語ちゃんと書けるんだな。
『言語理解』って読みだけに適応されるものかと思っていたが。
「ほほぅ。これはまた達筆な」
イドバルドが覗き込んでそう言ってくる。
やめて!そんなジロジロ見ないで!
なんか恥ずかしい!
そんなこんなで俺達は手続きを終えたのだった。
「で、これからどうするんだ?特にそいつ」
ガラハドがギルドの飲食スペースで俺に問いかけてくる。
「どうするって言っても、取り敢えずシャルロッテさんに城に居れるよう交渉かなぁ。まぁ、今でも魔王2人居るわけだし、1人くらい増えても構わんだろ」
「ちょっとまて。魔王二人?一体何の話だ?」
あれ?ガラハド知らなかったっけ?
「ノブナガとヘリオン。因みに他にドラゴン2匹と精霊とバロン、あとノブナガの配下とか色々……」
「なんと、ノブナガ殿は魔王なのか?」
あれ?
イドバルドも知らなかったっけ?
「ハクアネンやルマノティオから聖上の配下となった旨はお聞きしましたが……、まさか魔王とは……」
あぁ、そうか。
確かに配下になったことしか言ってないや。
っていうか、魔王ってのもあいつの自称だし。
『魔王級』にもなってないしな。
今のあいつは『天災級』のアンデッドだし。
ちなみに、ハクアネンとルマノティオってのはイドバルド時代の大臣の名前だ。
正確には法務局大臣と皇室局副大臣。
まぁ、お偉いさんだ。
ちなみに2人とも若干頭皮の薄い……、いかにも苦労人って感じの人物だ。
2人はじぃやさんとも仲が良かったらしいし、イドバルドとも仲が良かったんだろう。
しっかり情報を伝えてくれてたわけだが……。
いかんせん、俺もその辺りは伝えてなかったしな。
知らなくて当然といえば当然だ。
「うーん。まさか知らぬうちに皇都がそんな魔境になっていたとは」
魔境って。
それはちょっと言い過ぎじゃない?
「まぁ、こいつのする事だしな」
「まぁ、聖上ですからな」
「まぁ、アレクシスだからな」
なんでそんな呆れ顔なのさ。君ら。
「お前、何か配下たちに呆れられてないか?」
フェニクスがそんなことを言ってきた。
うるせいやい。
ちなみに、そんな感じで呆れていたゴルディが、実はこの世界では分類的には魔王級の魔物だったという事が発覚するのはもう少し先の話であった。
ドタドタドタ!
「聖上はこちらにいらっしゃるか!」
唐突にギルドの扉を乱暴に開けて、兵士が入ってきた。
「おぉ!聖上!それに前皇陛下、ガラハド殿もいらっしゃったか!」
身なりのいい兵士だ。
貴族出身なのかな?
まったく覚えがないが。
「どうかしたのか?」
イドバルドが俺の代わりに答えた。
「はぁ、はぁ。そ、それが……」
ギルドに入ってきた兵士が息を整えながら俺たちにある意味でとんでもないことを伝えてきたのだ。
「皇城に突如として強大な魔力と共に二名の裸体の人物が出現。現在、戦乙女族の御三方が取り押さえておりますが、聖上の配下の者と名乗っております」
え、えぇ?
なんかまた起きたのか?
2人っていったい誰だよ。




